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第十一話(大五郎さんが来たのかな)

就職してひと月。


会社が借り上げたアパートに入居してから家具が少しずつ揃い始めた頃。


入居したての頃は布団も目覚まし時計も何にも無く、高校入学の時に買ってもらった腕時計とスーツ一着のみを持っての上京だった。


今ならよくそんな装備だけで都内のアパートに入居する気になったな。という感じなのだが、その時は布団すら買い揃えていない状態だった。


流石に布団もない状態で寝るのはキツかったので、すぐに安い布団を買いに行った覚えがある。


そんな中、就職したての会社では1ヶ月の研修が始まり、ボロ市脇の世田谷アパートから御徒町までの通勤が始まった。


慣れない電車通勤で毎日疲弊していた田舎者。


でも最寄駅まで走っている世田谷線のチンチン電車が面白くて、痛勤にもそれなりに満足していたものだ。


伝え忘れたが、会社で借り上げていたアパートはレオパレスの二階建て。個室は六畳間でロフト付き。

玄関入ってすぐに小さなシンクと正面にユニットバスが付いていた。


部屋の南側に外に出られる窓があり、そこから外に洗濯機を備え付けられるようになった洗濯場に降りられる造りだった。


それまでは昭和造りのモダン(ボロ)アパートに住んでいた俺は、新築な上にロフトなる文明の暁光が集約されたデザインの部屋に充分満足していた。


そんな中、研修も1週間が過ぎようとしていた頃。


会社から帰宅して暫し。就寝の時間が来た。


住み始めて1週間近く経ってもまだまだ新鮮味のあるロフトに登り、布団に入った。


ロフトには南側に内開きの高さ10センチ、横幅1メートルくらいの窓があって、外気を入れる時はそこを開けられるようになっていた。もちろんハメゴロシの網戸付き。


その時は下にある洗濯機置き場の窓もロフトの窓も閉め切り、超文明の利器であるエアコンなるものを点けていた。


扇風機じゃなくてエアコン。


これがトウキョーだよ!(時代なのか貧乏なのか)


まぁそんな事は置いといてだ。


布団に横になっているとエアコンで調整された温度も心地よく、うつらうつらしてきた。

そしていつの間にか眠っていた。


ふと気がつくと、ロフトの内開き窓がパカっと開いた事に気がついた。

内側からしか開かない構造なのにだ。


寝ぼけた頭で、あれ?窓開いたな。などと考えていたら、布団が少しだけ捲られて脇の下に何かが入ってくる感覚があった。


どこか懐かしい感覚だった。


中学生だった頃に拾ってきた白猫、全身真っ白なのに、頭のてっぺんだけ初心者マークと同じ形に黒毛があり、目の色が左右で違ったヘテロクロミア(オッドアイ)猫の大五郎さん(メス)が、生きていた頃布団に潜り込んできた感覚と同じだった。


そして懐かしさのあまり潜り込んできた感覚を左腕で抱っこした。


あー、懐かしいな。


でも大五郎さんは俺が高校生の時、出産途中で親子共々死んでしまった。

俺が学校サボって看取ったんだから間違いない。

あの時は泣いたなー。可愛がっていた猫が目の前で死んでいくのに何もしてやれなくて辛かった。


でもまだ一緒に居てくれたのかな。


寝ぼけた頭でそう考えた後、つい潜り込んできたソレに声をかけてしまった。


「お前はもう死んじゃったんだから、こんなとこに来ちゃだめだぞ」


本心ではもっと抱っこしていたかった。


でもソレは素直だった。


フッと起き上がり布団をするすると抜けていくと、入ってきた窓からフワフワと空に消えていってしまった。


あぁー。行っちゃった。


この時もいい歳こいて泣けてしまった。


猫好きはこんな時辛い。


続くかも。

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