表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/88

幸田露伴「天うつ浪」(後篇)現代語勝手訳(133)

 其 百三十三


 気位が高いと言えば気位が高いと言える。憎らしいと言えば憎らしいとも言える。お彤は眉をも動かさず、澄まし返ってこの様に言い、まるで自分の言葉に無理はなく、そう思わないかと言わんばかりにお龍を(しずか)に見詰めるが、お龍は少し頭を垂れて独り物を思いながら、自分は自分なりに何事かを考えていた。

「お龍ちゃん、お前、何をそんなに考え込んでいるの?」 

 不愉快とまでは言わないまでも、言葉の優しさとは似ず、いささか面白くなさそうな顔つきでお彤は尋ねた。

「何って、何にも考えてやしませんけど、ただあんまりどうも……」

「あんまりどうも……って、世話になり過ぎるとでも思っておいでなの?」

「えぇ。だってどうも、何もかもあんまりご厄介ばかし掛けるんですもの!」

「じゃぁ、それが可厭(いや)だとでもお思いなの?」

「あら、とんでもない、そうじゃぁありませんけども、あんまり度々(たびたび)ですから、何だか姉さんに済まないような気がして仕方がないもんですから、それで茫然(ぼんやり)と考えていたんですよ」

()いじゃぁないかぇ、そんなことを考えなくったって。私が好きでする(こっ)たから、打擲(うっちゃ)って任してお置き! 何もお前に頼まれたからするって言うんじゃぁなし、私の道楽で勝手なことをしているんだと思っておいでな」

「でも、何だかあんまりなんですもの。あんな人にまで私の(せい)でもって……」

「宜いよ、そんな詰まらないことを。気におしでないというのに。ホホホ、お前は近頃(このごろ)、気が小さくおなりだネェ。構わないじゃぁないか。そんなことばかり言っておいでのようじゃぁ、お前にゃぁまだ私の気性も気持ちも()く解らないのだネェ、いやな人だネ!」

「いいえ、姉さんの気持ちだって気性だって、それぁ知っていますわ。いくら私が怜悧(りこう)じゃなくっても、それぁちゃんと知っていますよ」

「そう、それじゃぁ宜いじゃぁないか、そんなことを気にしなくっても。私ぁお龍ちゃんが前から知っている通りにネ、何にもこれという慾も願いもありゃぁしないけれども、ただ毎日々々を気持ち良く、不快(いや)なことや馬鹿なことや汚穢(きたな)いことに(かか)わらないで、それで日を過ごせれば好いと思ってるのだから」

「そりゃぁ、それはもう姉さんだけじゃぁありませんわ。私だって、誰だって」

「それご覧な。そんならあんな人に関わりあって()りあってなんぞいるより、些細(ぽっちり)ばかしの金銭(もの)で綺麗に(らち)を明けた方が、いくらすっきりするか知れやしないやネ。下らない人を相手にするくらい下らないことはありゃぁしないもの!」

「そりゃぁ、もうそうには()まってますけれども、その些細(ぽっちり)ばかしの物だって、ただで湧いて来やぁしませんから」

「ホホホ。そんな下らないみっともないことを二度と言っておくれじゃぁないよ。せっかくのお龍ちゃんの器量が下がってしまうよ。今が今、気持ちさえ好けりゃぁそれで()いんだもの、何も(おし)いものはなかろうじゃぁないか。私ぁ自分の身体だって(おし)んでいやしない身じゃぁないか。何でも()いから、私ぁ自分の周囲(まわり)にお前のような自分の好きな人たちを置いて、自分の好きなところに居て、自分の好きなことをして遊んでいりゃあそれで()いのだよ」


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ