十一話
「にしても、セシャリアが学園に興味あるなんてね。言ってくれたら良かったのに」
7人分の昼飯に加え、袋パンパンに詰め込んだお菓子が2つ。
持ち歩くには不便極まりなく、一度鍛錬場に帰り、出直すカタチを取る事になったが、それでもセシャリアは嬉しそうであった。
彼女らは、自分からはあまり求めない。
精々がご飯の催促程度で、何かして欲しい事があるかと聞けば
「だって、鍛錬の邪魔をするのは申し訳ないじゃない」
きまって誰もがみんな、こう答えてくる。
「別にちょっとくらいなら構わないのに」
半ば卑怯染みた契約だからこそ、このバカみたいな行為に付き合ってくれている人たちに恩返しをしたいという気持ちは多分にある。
だからこのせっかくのこの機会。
逃すわけにはいかなかった。
「貴方の場合、感情が分かりづらいから余計に難しいのよ」
「そう、かなあ」
「そうなの。少なくとも、いつもの連中の間ではそう共通認識が出来てるわ」
「えぇ……」
心外だった。
俺の行動理由なんて大体フィーネが絡んでるし、普通の人より分かりやすいだろうに。なんて思っていると
「世間一般とかけ離れた思考をしている時点で分かりやすいもクソも無いのよ」
そう諌められた。
やっぱり心外だ。
* * * *
「へぇ、大きいものね」
「なんといっても王立学園だからね。この学園はお偉い方の顕示欲の結晶だから自ずと、ね」
「貴族であれば通う事が義務。はじめて聞いた時は何なのそれ。って思ったけれど……、なるほどねえ。なんか妙に納得したわ。心底下らないって思うけど」
お昼時な事もあり、校門は解放されている。
もちろん、警備面は万全で数えるのが億劫になる程の警備員がそこら中を徘徊していた。
怪しい者。と言われては堪らないので多少のリスクはあるだろうが、セシャリアには外套を一時的に外して貰っている。
学園を観察するように辺りでぐるぐる歩いている2人組み。
少し怪しくもあるが、異国の人間が王立学園を注視する光景などは見慣れたもので、滅多な事をしなければ別段、声を掛けられたりする事はないだろう。
と、思っていると。
「こんにちは!」
背後から声を掛けられた。
歳相応な陽気な声。
辺りに他の人間は見受けられず、その声が俺たちに向けられたものなのだと判断するや否、立ち止まり、肩越しに俺は振り向いた。
「あの、学園に何かご用事でもありましたか?」
眼鏡をかけた文学少女。
そんな印象を受ける真面目そうな黒髪の少女。
「来年から学園に通う事になっているので、ちょっと下見にと思って覗かさせて頂いてます」
あまり慣れない丁寧な言葉遣いでぱっと思いついた当たり障りのない返事を返す。
セシャリアたちの前ではずっと素の口調だった事もあり、彼女には丁寧な言葉遣いは出来ないとでも思われていたのかもしれない。
少しだけ感心したような表情をしているのが何よりの証拠だ。
「なってる……って事は、貴族さまっ?!」
ギョッとした様子で目を剥いた少女は、ビクつくや否、電気でも走ったのか、身体を勢い良く跳ねさせる。
ビシッ。
そんな効果音が聞こえてくるんじゃないかと錯覚してしまうくらいの直立不動の姿勢を取り、鯉のように口をパクパクと震わせていた。
「そ、そうとは知らず申し訳ありません!!」
彼女の中で貴族とはどんな扱いなのか。
その過剰な反応故にほんの少しだけ気になったけれど、俺自身、貴族という立場に然程価値を感じておらず、気にするなとばかりに笑いかける事にした。
「あー、その。別に俺が偉い事をしたわけでもないし、だから畏まる必要が無いというか、畏まられると困るというか……。なので顔を上げて貰えると嬉しいです」
「わわっ、すみません……」
2回目の謝罪を口にし、彼女は漸く顔を上げた。
そんな彼女を眺めている最中。何故か従姉であるフィーネといつか話したある言葉が過った。
「あの、そういえば学園の一部って一般開放もされてました、よね?」
「えと、図書館はそうですね。身分証明出来るものを提出する必要はありますが一般開放されています」




