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麦畑で捕まえて

作者: 守隆和楽

シンデレラシンドロームという言葉を知っていますか。

"いつか白馬に乗った王子様が私を幸せにしてくれる"そんな依存的願望を指す言葉だそうです。私はきっとその症状を持つ一人なのだと思います。


私は今の生活に不自由を感じていません。だから継母の執拗ないじめに耐えるシンデレラとは異なる境遇にいることに間違いありません。私の方がよっぽど恵まれた環境で、日々の仕事で得た給料を好きなことに使い、週に2日ある休日はすべて自身のために使います。

それでもなお私は、他者に依存した願望を持つのです。

それは私が弱いからでしょうか。それは私が貧しいからでしょうか。

もし私が強ければこの症状は治まるのでしょうか。もし私が富めばこの惨めさは拭えるのでしょうか。


この歳にもなって強くなれる気もしませんし、この生活を続ける限り裕福になれる可能性もありません。それなのに私はいつか幸せになれると信じている。明日は幸せになれると信じて、灯りを落とし暗くした部屋の中でただ明日を待つのです。

ときに、シンデレラシンドロームに酷似したこの症状を強く感じ入る夜があります。いつまでも強くなれない私はそれでもこの症状の裏にある拭いきれない惨めさをどうにかしたくなって。そして明日を迎えるのです。



私たちは今麦畑にいます。黄金色にたなびく穂が見えますか。鼻の奥を抜けて飛び立つ芳しさに自然と頬が上がるでしょう。大きく吸い込んだ息を確かめるようにゆっくりと吐き出してください。しつこく残り唾液と混じっても旨味を感じない苦味もきっと整えられた結果なのだろう、なんていつの間にかどうでも良くなって、そうしてそのまま閉じゆく世界に別れを告げるのです。



明日の幸せの一助にならないこの瞬間を人は無駄だと笑うでしょうか。いい加減大人になれと呆れられるかもしれませんね。

もしかすると本当は麦畑に行くことを望んでいないのかもしれません。でもそのときが来たらそのときは笑って、麦畑で捕まえて。


おわり


読んでいただきありがとうございました。

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