友人に好きな人が出来たらしいので応援したら大変なことになった件
小説を書き始めて右も左も分からぬ状態なのでとりあえず性癖を詰め込みました。
「好きです………」
ーーー私、雨宮 天華は聞いてしまった。朝比奈 紫乃が自室で頬を赤らめて、スマホに映る人物に告白の予行演習をしているところを。
私、雨宮天華は普通の女子高生である。学力が少し高くて、運動はまちまち、特にこれといった特技は無く、趣味は少女漫画を読むこと。友達は結構いるので性格に難は無いと思う。
ちょっとおかしなところと言えば全く成長しない容姿くらいで、高校二年にもなって135センチは流石に神に見放されているし、体つきは凹凸という概念を忘れている。きわめつけは、子供料金をあらゆる場所で通せるくらいの童顔。
結果、合法ロリやら飛び級ロリやら好き勝手言われているが、まあそれを差し引いても凡人である。
しかし、そんな凡人の幼馴染である朝比奈紫乃は間違いなく天才で、高嶺どころか天上の花といっても良い少女だ。
勉学では常に学年1位をキープしているし、運動神経も抜群。才色兼備で様々な分野で賞を獲得しており、家にお邪魔した時に飾られている賞状やトロフィーの数は数えるのも億劫なほど。
私と違って出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、制服の上からでも分かるほどの美しいボディライン。大きく開いた宝石のような瞳に、長く伸びた睫毛。すらっとした鼻梁に、鮮やかな唇が合わさり、男の心臓を貫くのに十分な完璧な容姿。
しかし、それを鼻にかけることなく誰とでも分け隔てなく接する性格の良さ。
完璧美少女はやっかみを受けるなんてこともあるだろうが、紫乃に限ってはそれも無い。
神は二物を与えないなんて言うが、それが嘘であることを体現してしまっているのが私の幼馴染。
そんな超絶天才美少女と、凡人ロリの私がつるんでいるのには違和感があるだろうが、これが幼馴染パワーである。
役得役得、素晴らしい席を獲得できたものだ。
しかし、遂にこの席を譲る時が来てしまったようである。
スマホを眺める紫乃の上気したどこか艶めかしい表情。女の私でもドキッと来るあの表情はいわゆる恋する乙女のそれ。
そして、「好きです」という告白ワード。間違いない、紫乃はーーー恋をしている。
「遂にっ、この時が……!」
私は一抹の寂しさと共に、歓喜に打ち震えた。
紫乃は完璧美少女だが、今まで恋人を作ったことが無かった。無数の告白やラブレターを受け取っているにも拘わらず、その全てを断っている。
前に理由を聞いた時、頬を赤らめながら「私は天華ちゃんといたいですから……」なんて言われたときは食ってしまおうかと思ったが、恐らく紫乃は彼氏を作ることで私が寂しい思いをしてしまうのではないかと心配しているのだろう。
まあつまり、これまで私は彼女の恋愛の足枷になってきたのだ。
好きな人がいるという話が欠片も無かったため許容していたが、遂に想い人が出来たとあらば話は別。
ここは、今まで足を引っ張ってきた分を取り返すといこうじゃないか!そんでもって、彼氏といちゃついて照れてる可愛い紫乃が見たい!
「ふふふ、紫乃、話は聞かせて貰ったよ!」
というわけで、こっそり覗いていたドアの隙間を掴んで思い切り開け放つ。ベッドに腰掛けていた紫乃はびくんと大きく反応した後に、私を見て声をうわずらせる。
「ててってて、天華!?いつの間にうちに!?」
「さっきちゃんと呼び鈴を鳴らしたでしょ?」
「ほ、本当ですか?すみません、お出迎え出来ず」
「ほんとだよ。それもこれも、誰かさんが何かに夢中になってたからだよねぇ?」
「さ、さあ?何の事でしょう?」
「好きです…っ、つって」
明後日の方向を向いてしらを切る紫乃に、私がスマホを取り出して画面を見ながらさっきの真似をすると、紫乃はみるみるうちに顔を赤く染め上げた。
「わああっ!やめてください!ち、違います。さっきのは違うんです、私はそういうつもりじゃなくて、ほんの出来心と言いますか………とにかく違うんです!」
「再生っと。『好きです……』」
「ぎにゃああああああぁああっ!?」
「ほれほれ、認めないとこれが電子の大海原にゴートゥーしちゃうよ?」
「認めます!好きな人がいるの認めますからやめてください!」
「あはは、そんなに恥ずかしがることないじゃん。思春期の女子に好きな人の一人や二人いてもおかしい事なんてないよ。初心よのう、初心よのう」
「二人は不純だと思いますけど……うう、分かっていても恥ずかしいものは恥ずかしいです…」
制服のスカートの裾をぎゅっと握って恥辱に耐える紫乃。うん、もうね、可愛いってレベルじゃない。
だからこそ気になる。この可愛い娘を手に入れてしまうであろう相手が誰なのか、非常に気になる。という訳で、とりあえず一度聞いてみる。
「で、誰なの?クラスのマドンナ朝比奈紫乃の想い人は」
「お、教えるわけありません!」
ま、だよね。知ってた。
「じゃあ勝手に見ちゃお」
「そ、それ、私のスマホ!?いつの間に!?」
こっそりくすねた紫乃のスマホ。私怪盗のセンスあるかも。
ロックはかかっておらず、電源を入れると先まで紫乃が見ていた写真がそのまま出てきた。
「これ、私と紫乃と大河のスリーショット?」
「あ、あう……」
「え、ていうことは、紫乃の好きな人って……」
「うう、もう知りません!そうですよ!私が好きなのはてん『大河だったんだね!』………って、え?」
宮本 大河。私と紫乃と昔から交流が深い三人目の幼馴染。バスケ部のキャプテンを務めていて運動神経抜群。頭が少し弱いけど、顔も性格も良い優良物件。
いやー、大河かぁ。意外だったなぁ。
何でって、私と紫乃と大河の三人組は今でも家族ぐるみでの交流が結構あるんだけど、その中で紫乃が大河が好きというのを全く悟らせてくれなかった。
紫乃はかなり態度に出やすいタイプだから、弄ったりすると直ぐに良い反応をしてくれる。
愛してるゲームやポッキーゲームをやった時は一瞬で顔を真っ赤にしてリタイアしたし、お遊びで「好きだよ」なんて言ったら十分くらいは身悶えていた。
なら、好きな人の前では大慌てになると思ったんだけど。的が外れてたかぁ。
「…ああ、いや、普通はそうですよね。私ったら何を慌てていたんでしょうか……」
「ん、何か言った?」
「い、いえ、何でもありませんよ」
「ふーん、まあ、良いや。しかし、紫乃にも遂に春が来るんだね!」
「……来ませんよ。私の想い人は、私を恋愛対象として見てないと思いますから」
紫乃はぱっちりと開いた瞳に影を宿す。どこか寂しそうな、絶対に届かないものを欲しがっているような。
「確かに大河は朴念仁だからねぇ、だからこそ私達と長く付き合ってこれた訳でもあるけど。確かに恋路にとっては最大の障壁だね」
「……まあ、そうです。私とその人には絶対的な障壁があるんです。告白しても…断られるのが目に見えています」
「そんなの分かんないよ!アプローチとかしてみたの?」
「私なりには。けど、全然気付いてくれなくて…」
「具体的にはどのくらいの?」
「積極的なボディタッチくらいですかね」
「えぇ!?それで気付かないの!?とんでもない馬鹿じゃん!」
「そうなんです。本当にその人鈍くて…」
私は途中からベッドの上に座る紫乃に抱き竦められながら、件の鈍チンについて語っていた。
たまに頭を撫でられて心地良い。完全にお人形扱いだけど、さっきの事があった分少しくらいはされるようにされてあげる。
しかし、いつもなら何だかんだと率先して行動を起こして、高いスペックで何でも解決する紫乃をここまで弱気にするとは。
どんな鈍感っぷりを発揮しているのか見てみたいものだ。
そんなことを考えながら、気落ちした紫乃にフォローを入れる。
「アプローチが気付かれなかったとしても、実際に告白すれば陥落すると思うけどなぁ。紫乃みたいな完璧美少女を振るやつなんていないでしょ」
「そうでしょうか…あ、もし、もしですよ?天華が男の子で私に告白されたらどうします?あり得ない仮定なんですけどね、一応です一応」
「そりゃ、即OKだよ!そんでもって結婚するまで手放さないね!紫乃以上の女の子なんて日本中探してもいないよ!」
「そ、そうですか……!にへへ……」
柔らかい笑顔を浮かべる紫乃。ああ、可愛い。紫乃と結婚するために男になりたいと思えるくらいには可愛い。
ううむ、やはりこの笑顔を絶やすわけにはいかない。何としてでも、大河には紫乃の告白を受け入れてもらわなければいけない。
ーーーそのためには
「よし、紫乃。私に任せて!あと、明日のお昼開けといて!」
「良いですけど。何をするんですか?」
「紫乃の恋愛のお手伝い。相手の心を射止めるにはまず、情報収集からだからね!」
「てな訳で、大河はどんな感じで告白されたらドキがムネムネしちゃう?」
「どういう訳なんだよ」
「民意調査ってやつ、時間は限られてるんだからパパッと話してよ」
「いつから俺は天華王国の住民になったんだ」
時間は昼。場所は学校の屋上。四限が終わった瞬間に、私は紫乃と一人の男をかっさらってきた。
宮本 大河。昔から交友のある幼馴染3号。大河を連れてきたのは他でもない、紫乃の告白成功のためである。
どんな告白のされ方が良いのか、そして紫乃についてどう思っているのかなど、大河に聞くのが一番早いのは間違いない。
大河の趣向等を知る事が出来れば、紫乃の告白に対する意識の向上に繋がることもうけあい。幼馴染であり気軽に話せるというアドバンテージを存分に活かさせてもらおう。
「目的はなんだ?また良からぬことを考えてるんじゃないだろうな。紫乃、お前なら話してくれるよな?」
「ええと、天華がとある方に恋愛相談をされたみたいで。それで、男の人の視点を知りたいという事らしいですよ」
「……まあ、一応納得は出来るか。このへっぽこチビ助に恋愛相談するようなやつなんて限られてる気がするけどな」
そう言ってジト目を向けてくる大河。
年寄り臭いやら、へっぽこチビやら言われて頬がひくつくが我慢だ。
まさか恋愛相談をしてきた人間がこの場にいて、しかもその人間の想い人なんてつゆにも思っていないだろう。
くくく、いざくっついたら存分に弄ってやる。恥辱にまみれながら私を罵ったことを後悔させてやるとしようじゃないか。
「ほら、さっさと答えたら答えた」
「……なんか怪しいが、まあ、普通に体育館裏とかに呼び出されて告白されたら嬉しいな」
「ふむふむ、シンプルイズベストって感じだね」
少しだけ華が無いけど、まあ文句は無いかな。何よりハードルが低い。シンプルな告白であればあるほど、紫乃みたいな美少女がやれば相応の威力を発揮するのは間違いない。
これは、ストレートに告白しちゃえば成功するんじゃないですかい?と紫乃へと目をやってみたのだが、変わらずの良いお顔。
しかし余りにも無反応すぎる。好きな人の趣向だよ?思うところは無いの?
「ええと、紫乃的には大河のやつをどう思う?」
「まあ、良いんじゃないですか?」
返事も適当だなおい。というか、なんか大河じゃなくて私の方ばっか見てる。しかもなんか妙に視線に熱がこもっているような。
ーーーーははん。なるほど、照れ隠しか。
恐らく大河を見ているとボロが出てしまいそうだから私の方を見ているのだろう。うぶだなあ紫乃は。
「お前はどうなんだよ天華」
「え、私?」
「き、聞きたい!聞きたいです!天華はどんな告白のされ方が好きなんですか?」
「き、急にぐいぐいくるね紫乃」
なんだどうした紫乃さんや。
いや、なるほど。多分これは、私も好きな人がいるなんていう思春期女子にとってはお恥ずかしな情報を私が手に入れてしまったから、今度は私の弱点を探ってトントンにしようという策だろう。
もしかしたら、私が他の人に口を割ってしまう可能性もある。しかし、紫乃側も私の恥ずかしい情報を得れば口留めとして使うことが出来る。ここにきて打算的じゃないか、やはり天才の名は伊達じゃないね。
まあ、ここで私が大河みたいにありきたりな答えを返せばノープロブレムなんだけど、それだと紫乃は好きな人をばらされる恐怖に怯え続けることになる。それで、告白に悪影響があってはいけない。
ならばとるべき行動は一つである。
「私は押し倒されたいかな!」
「おしっ……!?」
「そう、そのまま強引に衣服を脱がされて【俺のものになってよ】なんて言われたら一発よ!」
「い、一発なんですか!?」
「ええ、そうよ!一発!」
私は海のように寛大な心を持つ女!可愛い可愛い友人のためなら恥ずかしい嘘も厭わない!
長年読み貯めてきた少女漫画の知識を使うときが遂に来るなんて感慨深い。ここで「夢見がちの痛いロリ」という秘密をでっちあげ、紫乃に渡すのだ!
決して、決して私が少女漫画的展開に憧れている訳ではない!告白は夕方の観覧車の頂点で強引に迫られながらされたいと思っていないこともないが、私はめちゃくちゃ超現実主義者だ!
と、そこで授業開始十分前の予鈴が鳴る。
「あー、もう良いところだったのに。続きは明日ね」
「おう、なんていうかな。今ので状況は大体分かったわ」
意味深なことを言いつつ、大河が物凄く残念なものを見るような瞳で私を見ていた。
「お前、死ぬなよ…」
「さっきから何言ってんの?」
「さ、ささ、二人ともお開きですよ。教室に戻りましょう」
何を言っているんだこの約束されたリア充は、と思っていると、何やら慌てた様子の紫乃に引っ張られた。
そして、私はその言葉の意味を理解せぬまま紫乃と一緒に屋上から去る。隣に立つ美少女の眼光が、獣のそれに近いことになんて全く気付かぬまま。
翌日からも、紫乃の告白大作戦のための情報収集は続いた。同時に痛ロリの情報提供もかかさない。
「どんなシーンでキュンとする?」
「髪をかきあげた時とかだな。天華は?」
「壁ドンされて強引に唇を奪われたりしたらキュンとするんじゃないかな!」
「彼女にどんなことをされたい?」
「手料理とか作って貰いたいな。天華は?」
「この場合、彼氏に置き換えたら良いのかな。うーんと、ギュってされたい!動けなくなるくらい強く」
「どのくらいのペースでABCを進めていきたい?」
「相変わらず年寄りくせぇな。まあ、まちまちに、お互い無理なくって具合か」
「へたれるやつじゃん」
「うっせ、で、本命の雨宮は?」
「本命って何さ…もちろん、最初からFくらいまで突っ走りたいね!くんずほくれつって感じで」
そんな具合で、紫乃の告白大成功作戦は進んでいった。私に関しては痛いロリというより、淫乱ロリみたいになっていったがまあ、恥ずかしい情報を渡すためなので良しとしよう。
他にも様々な議題で討論し続け、そして、十日目。遂に紫乃がその言葉を口にした。
「決めました。私、明日想い人に告白しようと思います。もう限界です」
「おお、溢れ出る想いが止められなくなってきた?」
「はい、そうですね。流石にもう堪え切れそうにありませんから」
紫乃の瞳は、ちょっと鋭すぎる気もするけどやる気に満ち溢れていた。うん、上手く自信をつけてあげられたみたいだね。大河に関する情報をあれだけ得れば、あとは紫乃のスペックならどうとでもなるだろう。
これで紫乃と大河が結ばれたら、私は存分に二人をいじり倒せる。くふふ、楽しみで仕方ない!
そんな事を考えている時、隣で困ったような顔をした大河と優しい、けれどどこか不気味な笑みを浮かべた紫乃が話し合っていた。
「まあ、なんだ。その、手加減はしてやれよ」
「私は望まれた事をするだけですよ?」
「うん、自業自得だな。俺はもう知らね」
半ば投げやりな態度の大河。さっきから何だってんだろう。何かおかしいことでもあるのか?
「ふう、これで紫乃もリア充の仲間入りかぁ」
翌日のお昼。私は屋上ではなく教室でお弁当の風呂敷を開いていた。
何人かから昼食を一緒にするかと提案されたが、断った。なんだか、そういう気分じゃなかったのだ。
「思えば、ずっと一緒だったもんなぁ」
幼稚園の頃、人と話す事が苦手で浮いていた紫乃を私と大河が誘ったのが始まりだったか。そこから、家族ぐるみで付き合いだして、今日に至るまで何をするにしても隣には紫乃が居たような気がする。
それが、今日終わる。そう考えるとやはり寂しいものがある。
今生の別れという訳でもないし、紫乃との関わりはこれからも続いていく。しかし、紫乃の隣にいるのが私じゃないと考えるとーーー少しだけ、チクリと胸が痛んだ。
「はあ、ジュースでも買いに行くかな」
何だか陰鬱な気分になってきたので、お好みのいちごオレを求めて席を立つ。その時、ポケットに入れていたスマホがバイブ音を響かせた。
誰からだろうとホーム画面を開くと、そこには、いつもなら絵文字などをつける彼女にしては珍しい淡白な文章。
【屋上に来て下さい】
「あれ、紫乃から?」
突然の屋上への呼び出し。
決闘ーーーな訳ないし、流れ的に告白へと向けた最終確認といったところだろう。
心のもやは消えない。けど、紫乃に迷惑をかける訳にはいかない。私は両手で頬を叩いてから、思いっきり引き伸ばして笑顔を作り出す。
よし、最終任務だ。ここまで来たら、最後までやり遂げてやる。
万感の想いを胸に屋上へ向かい扉を開く。するとそこには、相変わらずの美少女がどこか緊張した、しかし何か嬉しそうな面持ちで待ち構えていた。
「どうしたの紫乃。告白の仕方の相談かな?紫乃なら問題なくやれると思うんだけど」
「いえ、やり方は決めてあります。今回は別の要件ですよ」
「ふむ、じゃあ告白の前に怖くなっちゃたから私に勇気付けて欲しいってことかな?大丈夫、紫乃なら絶対に成功するよ!頑張って!」
私の言葉に、紫乃はクスリと不気味に笑む。そして、すっと瞳を細くしてからゆっくりとこっちに歩み寄ってきてーーー
「じゃあ、頑張りますね?」
ドンっ!!
「ひゃあう!?」
一瞬理解が追いつかなかった。しかし、目の前にある紫乃の顔と、私の顔の横に突き立てられた腕から状況を理解した。
これは所謂、壁ドンというやつである。
「紫乃、何を〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
混乱しているなか、私の口へとぐっと何かが押し付けられた。同時に、紫乃の長い睫毛が目の前に現れ、口内が侵入物に蹂躙される。
あれ、わたし、きす、しちゃってる。
あ、だめ、しこう、まとまらな…あたま、とける……いき、できな……
意識が朦朧とし始めてようやく解放される。私と紫乃の口を唾液の橋が渡り、どことなく淫靡。
なんで?流石に予行演習にしても度が過ぎてる。しかも今の、割とエグい方のキスだったよね?しかもどこで学んできたんだってレベルで上手くて思わずもっとーーーってそんな場合じゃない!
「ど、どうして、紫乃……」
「だって、天華が望んだんじゃないですか。こんなことをされたいって」
「た、確かに言ったけど!何で実行してるの!?あれは私がもし告白されたりするならこういうのが良いっていう仮定のやつだよ!?」
「はあ、まだ気づかないんですか。流石に度が過ぎてます。そういうシチュエーションを期待してるのかと思ってしまいますよ」
はあ、と溜息をつく紫乃。そしてその後、まっすぐに私の瞳を見つめてから紫乃は想いを吐露した。
「好きです、天華。私と付き合ってください」
「はいいっ!?」
素っ頓狂な声が出た。
今、なんて?私の事が好き?ちょっと待って、訳が分からない。
「え、ええ!?紫乃の好きな人は大河でしょ!?」
「あんなのは恥ずかしいからついた嘘ですよ。大河は良き友でありますが、それ以上はありません」
「そ、そんな素振り全く無かったよね!?」
「だから言ったじゃないですか。私の想い人は【鈍感】なんですよ」
そこまで言われてはっとした。そして、私はようやく頭の中で色々と繋げることが出来た。
ボディタッチもそうだし、もし紫乃に告白されたら?なんて質問も、私が立てていた紫乃なら想い人の前で過剰反応するという仮定もそうだ。大河の言っていた意味深なワードもそうだし、【本命の】なんて言葉を使っていたからあいつも気付いていたのか。
じゃあ何!?私は紫乃の好きな人の事を詰るたびに自虐してたってこと!?挙句最後には自分に嫉妬してたの!?恥ずかしいってレベルじゃないよ!?
っていうか、だとしたらーーー!
「あ、あの、紫乃?私が言ってたあれ、嘘だからね?説明すると長くなるけど理由があってついた嘘だからね?」
淫乱ロリのくだり。
さっきの紫乃のエグいキスといい、間違いなく紫乃は私のあの嘘っぱちの趣向を再現しようとしているのだろう。
やけに紫乃が興奮しているのも納得だ。
だって、私が紫乃の好きな人なのだとしたら紫乃は十日に渡って想い人のやらしい妄想を聴き続けたのだから。そりゃあ、誰だって興奮する。
だとしたら、まずい。アレやらこれやらは流石に不味い。あんなのは本当に望んでる訳じゃないのだ。だから、あんなことされても絶対にときめく筈が無くてただ痛かったりするだけーーー
「そうなんですか?私にはそうは思えませんけど」
紫乃は悪戯な笑みと共に、一枚のオレンジ色のノートを取り出した。いや、待って、それは…
「ぎにゃああああああああああっ!?」
「ふふ、気付きました?天華の妄想ノートです。こっそりくすねちゃいました。私、怪盗のセンスあるかもしれませんね。ここにも沢山書いてありましたよ?強引に抵抗出来ないようにされて、めちゃくちゃにされたいって。オレサマケイ?とやらが好きなんですよね?」
「ち、違うから!違うから!」
「見てください、この動画。『押し倒されたいかなっ!』なんて楽しそうなんでしょう。性癖を暴露して気持ち良くなっちゃってますよね?」
「認める!認めるからやめてぇ……!!」
私の抵抗心はあっさりとへし折られた。とんでもない拷問だ。こんなこと出来るやつ人間じゃない。
「ああ、そうですよ!私は少女漫画の読み過ぎでちょっと拗らせてますよ悪いか!良いじゃんちょっとくらい夢に浸っても!」
「ここで逆ギレされても……ああ、でも、夢に浸るのは良いと思いますよ、なんせそれ、今から現実にしてあげますから」
「きゃっ!?」
紫乃は興奮から上気した表情で力付くで私を地面へと倒すと、跨ぐようにしてのしかかる。抵抗しようにも、私の非力さと紫乃のスペックの高さが相まってびくともしない。
「ねえ天華、私のモノになって下さい。いや、なれ」
「ひゃうん!」
いつもより数オクターブ低い声。紫乃の無駄に高い演技力も相まって、脈が暴れる。
「ふふ、初心な反応しちゃって。じゃあ、脱がしますね」
「だ、だめ…!ほんとにだめ!しんぞうこわれちゃうから!」
動機が止まらない。
相手は幼馴染なのに。
紫乃なのに。
女の子同士なのに。
胸のバクバクが止まらない。確信がある、このまま続けられたら私はーーー
「だ、だめ、ほんとにだめだから。ね?今ならまだ間に合うから………だから……」
最後の抵抗。しかし、それはどうやら紫乃のスイッチを入れただけみたいだった。
「駄目じゃねぇんですよ。天華は私のモノなんですから。私がどう扱おうが私の勝手、そうでしょう?」
「は、はひぃ…」
ああ、もう駄目だ。止められない。情報を与え過ぎた。
私はそのままーーー獣と化した、否、獣にしてしまった幼馴染に為すがままに美味しく食されたのであった。
*****
「で、見事に手篭めにされたと」
昼の休憩時間、恒例となってきた屋上。俺、宮本大河の目の前では、合法ロリが美少女の膝の上に乗せられて撫でられていた。
天華の顔は熟れたリンゴのように真っ赤で、先日までくんずほぐれつなんて言っていた奴のものとは思えない。
天華は真っ赤な顔のまま睨みつけてくる。背が低いせいで上目遣いにしか見えないが。
「なんで、なんで気付いてたのに教えてくれなかったの……」
「逆に何で気付かないんだよお前は。明らかにお前にだけ紫乃の好感度が飛びぬけてただろ。紫乃がやっかみを受けないのも、お前のこと好き過ぎるガチレズって有名だからだぞ」
「初めて聞いたわそんなのっ!!」
「そりゃあ、お前の耳に入らないように根回しされてたからな」
「ぐううう!私の馬鹿ぁ!いっぱいヒントはあったはずなのにぃ!!」
悲痛な叫びを上げる天華。それに対して、紫乃が少し不安げに、しかし蠱惑的に天華をそっと抱きしめる。そして、耳元で囁いた。
「私じゃ、ダメですか?」
「は、はひっ!だめじゃないれすっ!」
「私、天華のことが世界で一番好きですからね」
「わ、わたしもしののことしゅきでしゅ!」
「帰ったら……ふふ、また色々とシましょうね」
「は、はひ!よろしくおねがいしましゅ!」
「おう、末長く幸せにな」
即堕ちである。
最早抵抗の余地すらないレベルで紫乃に絡めとられた天華。これ以上は俺がいても邪魔だろう。というわけで、百合百合しい空気も気まずいし俺は屋上から抜け出した。
しかし、改めて思うが天華は本当に大馬鹿野郎だ。前々から抜けてるロリだと思っていたが、あんだけヒントあって気付かないのは流石に擁護出来ないレベル。
「ま、幸せそうだし良しって感じか」
終わってしまった事は仕方ない。俺はとりあえず、開いてしまった残りの昼休憩で何をしようかと考えて、少しばかり体を動かしたいと思った。
部室にシューズがあるから取りに行こうと考え、部室まで足を運ぶ。すると、中から情熱的な想いの吐露が聞こえてきた。
「好きだ……!」
「………おおう」
とんでもない場面に遭遇しちまった。
部室の中を覗くと、後輩がスマホの画面を見て恍惚としている。あれは…集合写真?ははん、あいつ、マネージャーの莉子ちゃんの事が好きなんだな?
ここは先輩として一肌脱いでやるべきだろう。失恋してバスケに影響が出てしまってもいけない。
俺はにたりと笑みを浮かべてから、可愛い後輩の願いを叶えるべく部室の中へ入っていった。
お読み頂いてありがとうございました!
次【男装百合】
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