8話 かわいいは正義
お久しぶりです。遅れてしまい、すいませんでした。
魔法の、基礎をある程度知ったわけだが、何かを忘れている気がする・・・
そんなことを考えていると、近くの草むらからカサカサと音が聞こえてくる。
なんだ、と一瞬驚いてしまったがすぐに力が抜ける。
なぜなら、そこには可愛らしい尻尾があったからだ。
「琴葉!」
「クーン!」
抱き着いてくるのかと、期待していたのだが、雰囲気がおかしなことに気が付く。少し怒っているような雰囲気がある。
そして、琴葉の突進を受け止め・・・られるわけもなく後ろに倒れ込む。
いやだって、7歳児に体長50センチの狐受け止められる訳ないじゃん。と、内心で相手もいないのに言い訳をしている俺にさらに、尻尾でぺちぺちと叩いてくる。
「か、可愛い」
その姿があまりにも可愛らしく、思わず呟いてしまう。だが、その怒りが自分を置いていったことへの怒りだと察すると、愛おしさがこみ上げてきてつい抱きしめてしまう。最近まで野生だったとはとわ思えぬほど柔らかな毛並みに顔をうずめる。
すると、琴葉は甘えるように「クーン」と、鳴きながら頭をこすりつけてくる。
「ごめんってば、すごい気持ちよさそうに寝ていたから、寝かしておこうと思ったんだよ」
そのあと、存分にモフることにした。
まずは、頭からそっと撫でる。耳を撫でてやると目を細め気持ち良さそうにしていた。
最後には尻尾を撫でることにした。尻尾と言えば、最も柔らかくもふもふだと聞いているしな。あと、一番気持ち良いらしいしな。
いざ、参らん!
こ、これは!
以前、二〇リで触った高級布団とすら比べ物にもならないほどに柔らかい手触り。触れば沈み込んでしまうほどの柔らかさ。あぁ、これが至福か。
因みに、琴葉も蕩けそうな程表情が緩んでいる。
それはさておき、なぜ、こんなに懐いてくれたのだろうか?
ま、可愛いことには変わりないし問題ないよね。
可愛いは正義(断言)。異論は認めん。
「あっ、そうだ。琴葉、さっき俺が作った果物食べない?」
せっかく作った果物だ。琴葉に食べてもらいたいのは、当たり前というものだろう。
「クーン」
「食べてくれるのかい」
こくりと頷き、ハムリと可愛らしい小さな口で齧っている。
そして、少し微妙な表情になった。
うん、あんまり美味しくなかったんだね、そこまで表情豊かだと俺でもわかるわ。
「やっぱり母さんのの方が、美味しいよね…」
少しへこんでいると、頬に温かな感触があった。
横を見ると、慰めうようにぺろぺろと、自分の頬を舐める琴葉がいた。
こんな琴葉の様子を見ていると、自分の作った果物で、母さんのを超えたいという思いが、芽生えてくる。
「母さん、どうやったらおいしくなる?」
声を掛けると、温かな視線をこちらに向けていた母さんが、呆けた声を出す。
「へ?あ、あぁ、この果物は魔力が多く含まれているでしょ。それで、人が味をどう感じるのかが変わるのよ。だから、魔力の質とか、純度とかの微妙な違いで味が変わるのよ。あとは、イメージの違いね」
なるほど、魔力が肥料とか水みたいなものなのか。それで、イメージで環境を作っていくっていう感じかな?
「まあ、それなら母さんに負けるのもしょうがないかな。何しろ年季が違うもんね」
思わず、呟いてしまうとそこに夜叉が現れた。
「何かな、ヴェールー?」
地獄の底から聞こえてきたような、冷たい声が聞こえた。修行のときのアベルの方が幾分ましに思える。
そして、魔力を感じたと思ったら、足元からツタが生えたかと思うと、視認できないような速度で全身に巻き付き、宙づりにされてしまう。植物系の魔法ってこう使うんだなーと、逃避気味に考えていると、今度は透き通るような、澄んだ声が聞こえてくる。
「年季がどうしたって?」
「母さんは、若いのに魔法が習熟されていて、素晴らしいと思います」
「そうよねー。私は、若くてきれいなお母さんよね」
女性に、年齢の話はタブーなんだな。心のメモに一つ付け加えた。
こうして、俺は命の危機を乗り越えたのであった。
ていうか、アベルより怖いものとかあったんだね。
このとき、俺は噂をすれば影という言葉を忘れていたのだった。