4話 魔法を使ったら・・・
「ん?わかったわ。」
僅かに違和感を覚えたようだが、それについては気にしないことにしたようで素直に教えてくれた。
「まず、魔法の基礎から。魔力を感じてみましょう。体内の魔力を魔素と言い体内のを魔力というの。それで、魔力は自分の内側をのぞき込むイメージで感じるのよ」
「はーい」
この世界では、生活魔法など一般人でも魔法を使えるが、魔力という概念のない世界から来たヴェールにとっては、存外に難しいものだった。だが、数分もすれば体の中に違和感を感じそれをたどると、魔力というものを理解した。理解すると世界には魔素が溢れていた。というより、溢れすぎていた。何しろ今までなあった情報が前後左右高密度で、襲い掛かってくるのだ。
「気持ち・・・悪い」
「うーん、エルは魔素との親和性が高すぎるみたいね。だから、魔素を濃く感じすぎて、酔っちゃたみたいね」
「もしかして、魔法使うのに支障が出たりする?」
「多分大丈夫じゃないかしら。今までもそういう人もいたみたいだし、その人たちは普通に魔法を使っていたから、魔力を感じるのを浅くする練習をすれば問題ないと思わよ。」
その言葉に安堵し、胸をなでおろしたヴェールは、集中して魔力を意識の外に追い出していく。
「できた!」
「すごいじゃない。流石私の息子ね」
その言葉に、ヴェールは、自分はヴェールでも息子でもないと思い、は胸がやけるような罪悪感を感じながら、笑顔を作り、こう言った。
「ありがとう母さん」
「どういたしまして。次は起こしたい現象を想像して、それを魔力で現実に上書きするの。例えば、この種にに魔力注いで、芽が出て大きくなって、蕾ができて、花が咲く。その過程を、花の声に耳を傾けるようにイメージするといいかもしれないわね」
そう言ってさし出されたメアリの手には、きれいな青い花が包まれており種から花が芽生えていた。その花は淡く輝いていて、とても美しかった。
その花は、ドライアドが初めて魔法を練習するときに使われるものだった。魔力の伝導性が高い花である。
「うわー、きれい」
「クーン」
と、思わず零すヴェールに、琴葉も目お輝かせ琴のように美しい声で鳴く。その反応に気をよくしたメアリは、どや顔をしてウインクしながら、
「私が創った花なんだから当然だわ。魔法は使い手の心の状態や、精神性に影響されるからね。それに、あなたならすぐにこのくらいできるようになるわよ。なんたってあなたは私の息子なんだから。ほら、あなたもやってみなさい」
そう言われ、手渡された種子に、体内の魔力に意識を傾け、それを外に引きずり出すようなイメージで、魔力を注いでいく。すると、種子の存在が揺らぐような感覚がある。それが、魔法に干渉されようとしている状態なのだろう。そこから、成長の過程を想像し、現実に上書きしていく。一回目で成功した。そのこと自体は、異例の才能であり手放しで喜べるもののはずだった。だが、
「花は、僕の心を表すんだよね。なら、この花の色はの何を表しているの?」
そう震えた声で問いかけるヴェールの目には、少し淀みのある青紫の花が映っていた。その言葉に、メアリは若干上ずりながらも、笑顔を作った。そうして、言い訳のように、
「大丈夫よ、魔法を初めて使うんだから、少し色が淀むくらいよくあることよ」
「そう、だよね」
普段ならメアリの言葉が嘘だと分かっただろうが、そうだと信じたかったからこそ、ヴェールはその言葉を信じ、受け入れた。
「今日は、このくらいにして、また今度練習しましょう」
「わかった、もう寝るから。おやすみなさい」
「クーン」
慰めるような琴葉の鳴き声にヴェールは、応えることができなかった。
そして、半ば懇願に近いメアリの言葉だったが、今すぐ逃げ出したいような気分だったヴェールはそれに応じ駆け出した。
そして、床に就き今日の自分の魔法を思い出して身震いする。自分の心を映すという、その花を思い出して、恐怖する。そして、繰り返し幾度となく花を咲かせ続けた。だが、花が美しく咲くことはなかった。
翌日、どちらもそのことを話すことはなかった。そして、その代わりにメアリははこういった。
「明日はアベルが来る予定だから。前に剣をやってみたいって、言ってたわよね。アベルに教わりなさい。あれでも、昔は最強の冒険者なんて呼ばれてたんだから。だから、今日はゆっくり休むのよ」
そう言われ、気分を切り替え目を輝かせているように見せた。だが、それが地獄の始まりとはヴェールには、知る由もなかった。