第24話 閑話
生きてます
あれから一日、散々やらかしたからなどと言ってお菓子を作ることになった。
琴葉はともかく、アベルや母さんにそんな迷惑かけたつもりないんだけどな。
二人曰く「私はけんかの仲裁したわ」「俺は審判やっただろ?」とのことだ。
…まあ、その通りだな。
というわけで、どうせなら今まで作ったことのないお菓子を作ることにした。
「琴葉~、かあさ~んちょっと来て~~」
「どうしたの~」
「おはよう母さん。あれ、琴葉は」
「ああ、それならそこに…」
確実に聞こえているであろう距離に、琴葉の後姿が見える。
聞こえている証拠に、可愛らしい耳が可愛らしく動いている。結論可愛い。
「琴葉?」
「つーーん」
そっぽを向いてしまう。
ん?そういこと?
間違いだったら赤っ恥じゃすまないよ?
「つん、つーーーん」
言うしか…ないか。
「お、お姉ちゃん」
「なに!」
にこぱーーっと満面の笑みで琴葉が振り向く。
写真に撮って飾りたい。
「かあさん、カメラってないの?」
「うちにはないけど、そのうち買いに行きましょう。ええ行くしかないわね!」
母さんと思いが通じたようだ。
てか、この世界にもあるのな、カメラ。
「ん?」
琴葉が首をかしげる。
く、カメラがないのが本当に悔やまれる。だが、心のメモリーに深く刻み込んだぞ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。
こほん、ええ、では改めまして、皆さんようこそおいでくださいました。本日作るのはモンブランです!」
モンブランと一言に言っても、そう簡単な話ではない。
まず栗の用意が、
「急にどうしたの?」
琴葉が、呆れたようにそう聞いてくる。
普通に接してくれるのは嬉しいのだけど、この塩対応は少し心に来ます。
「まあ、料理教えるならこれかなって。
あ、言ってなかったけど、これからは母さんと琴葉に料理を覚えていただきたいと思います」
「ええ、これからもエルがやってくれるからいいよ」
「わ、私はそういうの向いてないから」
うーん、乗り気じゃない感じ?
「でも、俺が修行とか、普通に独り立ちするとかしたらどうするつもりなの?
レシピとか残していくにしても、基礎ができないんじゃどうしようもないと思うけど?」
「「は!!」」
うん、思った以上に愕然としてる。
「ね、覚えておいて損はないでしょ?」
「ええ、これからもエルがやってくれるからいいよ」
「わ、私はそういうの向いてないから」
一言一句違わず同じ言葉で返ってきた。
なかったことにしようとしてるよ。
「じゃあしょうがない、次善の策だな。あんまりやりたくなかったんだけど…
名付けて、『必要に駆られたら何とかなるんじゃないかなだいさくせ~ん』
簡単に説明すると、俺が料理をまったくやらなくなればきっと……ってはやっ!」
「何してるのエル?はやくしよ?」
「そうよ、もう準備はできてるわ」
俺が料理を、あたりからもう二人は動き出していた。
この変わり身に速さよ……。
「はあ、まあいいけど…」
今回の大まかな目的は、まず二人に料理に興味と親しみを持ってもらうこと。
そもそもやったことのないことだから、二人とも忌避感があるような気がするのだ。自分が好きなものを自分で作り自分で食べる楽しみを知ってほしいのだ。
そうすれば俺の負担も減ってもっと実験できるだろうしな。
余談だが、あまり料理をしない母さんだが、調理器具だけは家にたくさんある。
母さんが集めたものらしいが、現状使っているのは俺とアベルだけだったりする。
「では、まず常温に戻したバター(そこそこめんどくさかったけど、無塩バターは手作り)にグラニュー糖(これは普通にあった)を3回に分けて加え白っぽくなるまで混ぜます」
「こんな感じ?」
琴葉がボールを見せる。
「うん、そんな感じ」
「………………」
「母さん?」
「………こんな感じ…かしら?」
「うん、母さん白って言ったよね?真っ黒だよ?」
いや、待って?流石におかしいと思うんだ。
黒い煙をあげる悲惨なボールの姿を見て、現実を疑う。
「ち、違うのよ、ちょっと、ちょっと混ぜたらこうなってたのよ」
いや、これが少し…?
「ま、まあ失敗はあるものだよね。大丈夫、大丈夫?」
大丈夫だよな?
その後、アベルが返ってきて合流した後も順調に作業は続いた。
栗のペーストを作ればボールまでペースト?になるし(これ、家に調理器具だけはたくさんあった理由?)、タルト生地はなんか形容しがたいことになっていた。オーブン(魔力式)では家が全焼しかけた。
極めつけは…いや、言うべきではないだろう。
強いて感想をいうなら、植物魔法って極めれば家も建つんだなあ、ということぐらいだ。
まあ、総括すれば……
「母さん、諦めよっか?」
これに尽きる。
別に力加減ができないわけではなく(琴葉の訓練はできていた)、ただ料理に全意識を持っていかれると、力加減から意識がそがれるということらしい(本人談)。
………戦闘技術教えるより料理の方が難しいってどういうことだよ。
料理が苦手って次元じゃねえぜ。
だから、昔から素手でちぎった野菜とか、手刀で切った野菜、ミンチの肉とかしかなかったのか。
「そんな、じゃあ、私はエルを独り立ちさせてあげられないじゃない!!」
「お菓子をあきらめるという選択肢は!?」
「ないわ!!」
「ババン!」と効果音が付きそうな勢いで母さんが言う。
う~ん、母さんに料理はどう考えても無理。ここまで一切俺たちはケガしてないから、そこは心配していないが、被害が大きすぎる。そのうち、この森自体吹き飛ばしそうで怖い。というかそれを言ったら大人2人は遠い目をしてた。あー……。
「そんなに元気よく言うことかな?」
それから、この件は一時保留になり俺と琴葉のモンブランは完成した。
「完成!!」
最近、何かとお姉さんぶる琴葉も、子供らしく目を輝かせている。
はあ、尊い。
「食べていい?」
「もちろん」
俺が、そう返すのとほぼ同時に琴葉はフォークをモンブランに突き刺した。
「ん―――――――――――♡」
琴葉の過去一の笑顔をモンブランに奪われた。
あの感動の笑顔は何だったのだろうとか言ってはいけない。
でも、モンブランと変わりたいとは思う。
琴葉の笑顔は俺のものだ。
こんな笑顔を見れるのなら、ちょっと無理しても料理を続けるのも悪くないのではないか、そう感じさせられる一幕だった。




