2話 目覚めた先には
(さて、どうしてこうなった)
今、彼は混乱の極致にいた。それはそうだろう。トラックにはねられて死んだと思っていたらなぜか目が覚めた。ここまでだったらまだ夢だったと納得できただろう。だがそれだけでわなかった。起きたら目の前には、
(どうして見知らぬ女性がいて、しかも抱きかかえられているんだよ!)
そう思わず突っ込んでしまうのも無理はない。その女性は、きらめくヒスイのような髪に、整った目鼻立ち、控えめに言ってモデルも裸足で逃げ出すレベルの美女だった。しかも、感覚から自分の体より70サンタ程も大きいように感じられる。ちなみにむnゲフンゲフン…も大きかったりする。
そして自分の体を見下ろしてみると、
(俺の体ってもう少し大きかったような、あともう少しごつごつとして焼けてたような気がする。)
既に高校生になっており、ある程度鍛えられていた(自称)体はみる影もなく、そこにあったのは白く柔らかそうなまるで、「幼児」のような体になっていた。
(というよりガキそのものじゃねぇか!)
そして彼は、自分が近頃読み漁っていたラノベのとあるジャンルを思い出していた。そう、それは…
(もしかしなくとも、転生だよね!)
半ば自棄になりテンションが若干おかしくなりながらも、現実を正しく認識していた。だが、このまま混乱しているわけにもいかず、状況を整理しようとした。
(まず、ここは俺の知らないどこかで、目の前の女性はこの体の関係者だろう。そして重要なのは、ここが日本いや、地球のどこかであるか、それとも「異世界」であるのかだな。)
異世界転移や異世界転生が大好きだった彼はこの状況でもある程度落ち着きを保っていた。そして、周りを観察してみるとおかしな光景が目に移ってきた。
(あれれ、おかしいぞへんなものが見える。こんなもの地球にいあったっけ?)
その光輝く小さな「たま」は明らかに地球にはないであろう状態で不可解に宙を舞っていた。それは、色とりどりの幻想的な光景だった。
(ここまで来たら認めるしかないか。ここは異世界そう仮定しよう。それに元の世界に返りたいとも今は思わないしな。あと一つ考えるべきはこの体、そして「記憶」の持ち主がどうなっているかだな。)
そう、先ほどから記憶のない「記憶」が頭の中をかき回してくるのだ。これは、彼が来るまでのこの体の持ち主のものなのだろうと本能的に悟っていた。暫くはこの記憶と、状況の整理をすることにした。
***
ここ数日で色々なことが分かった。
(まず、一番大事なことから・・・この世界には魔法がある!!母親のメアリがどや顔で幾度となく自慢してきたから間違い無い。あとついでに俺はドライアドのヴェールという7歳くらいの子供に転生したらしい。)
と、割と大切なことを平然と流していく「ヴェール」だった。ちなみに顔は、ヴェールの前世の幼いころの顔とそっくりだった。違いといえば髪がヒスイ色で瞳が青と緑のオッドアイであるというくらいだ。
中性的で可愛らしい顔立ちだと言えるだろう。
(ふっふっふ、そしてこの色は魔法の属性を表すらしい。この世界には大きく分けて7つの属性がある。水、火、土、雷、光、闇、無、と色々な属性があるが、この中で俺が持つのは水属性らしい。水魔法は、文字道理水を生成したり操ったりできる。
え、緑の髪と目はどうしたって?よくぞ聞いてくれた!これらの属性以外にも魔法は存在している。それが種族特性であり種族ごとに持つ魔法だ。俺の魔法はドライアドの魔法植物系魔法を色濃く受け継いでいるようだ。母さん曰く植物をあっという間に育てたり強化したりできるらしい。育てるほうは、種から実をつけるまで数秒もかからず行える。そして、強化は細胞を強化し頑丈にしたり、薬草や毒の効果を強めたりできる。今はまだ、ほとんど使えないがいずれは母さんを超えたいと思う。植物の生成は異常に難しい。というより不可能に限りなく近い。なぜなら、植物は立派な生物だ。それを作り出すのなんて、そうできるものであって良いわけがない。ちなみに以前見た光は精霊だったらしい。この森は精霊が多いらしい。土地の魔力の量が多いところは、精霊も多くなるそうだ)
ここでの暮らしは、ヴェールとメアリそして、沢山の動物(魔獣も混じっている)と森の小屋で暮らしている。ちなみにメアリは動物たちに餌を与えている為今いない。また、父親については不明である。いるのかどうかすらわからない。
(いつかは、精霊魔法とかも使えるようになりたい。精霊魔法はおいおい調べていきたいと思う。あるのか知らんけど)
そんなことを考えていると、メアリが返ってきた。
「ただいま~、ベル。愛しの母さんが返ってきたよ」
「はは、お帰り母さん」
と、苦笑しつつ返すヴェールにメアリは不服気に、
「なんだ、反応が悪いぞ息子よ」
と、返した。
「はは、ごめん母さん。じゃあこの後何する?」
「夕飯にしましょうか」
こうして、新しく始まった日常は、穏やかに流れるように過ぎていくのであった。