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第17話 賢狼の森

 お待たせしました。

 あれから1年近くたった今、俺は相変わらず修行に明け暮れていた。

 もちろん、魔法の訓練も空いた時間に並行して行ってきた。自分で言うのもあれだが、魔法は才能があったらしくメキメキと実力が伸びていると思う。


 ある程度、思い通りに育てられるようになった。

 例えば、木も育てられるようになったし、その木の形状や、サイズもコントロールできる。


 水魔法では、氷やお湯や水蒸気も出せるようになった。

 砂漠やら氷山やらに放り出されて使わざる負えなくなった。


 人間極限状態なら大体のことはできるらしい。

 

 もう一つは、魔力の感知だ。

 他人の魔力の量や、質、場所などが何となく感じられるようになった。アベルとの鬼ごっこの成果だ。

 まあ、相手が隠そうとすると、感じ取れないのだが。


 因みに、琴葉は、母さんと隠れて何かしてる。

 兄離れには早いんじゃないかな、お兄ちゃんちょっと少しかなりすごく寂しいよ?


 え?あの日の翌日?何のこと?何かあったっけ?


 何も覚えていないはずなのに、全身から冷や汗が流れ足元が覚束なくなる。


 おかしいな?


 それはともかく、あの日から基礎的な足腰のトレーニングと、剣の修行を並行して進め今ではある程度剣を振れるようになった。

 とはいえ、以前やったアベル相手の模擬戦では、(本人曰く)スピードもパワーも俺の半部程度で抑えてもらったいるにもかかわらず、かすりもしないレベルだ。


 そして、今日は久しぶりに剣を振るのをアベルが見てくれるそうだ。

 というのも、最近は自主トレ(素振りと、木の案山子もどきに打ち込む練習)が多く直接見てもらってはいなかったのだ。


 まあ、アベルの場合それでも把握してそうな気もするのだが。


「よし、じゃあ早速だが見せてみろ」


 いつも素振りをしているところにつくなりアベルはそういった。


「はい」


 あの日以降、俺は修行時は基本的に(かなりの頻度で素は出るが)敬語を使うようになった。

 理由は、なぜだろう?思い出そうとしても、本能が思い出すなと告げるから放置している。


 息を深く吸い込み、全身を使い剣を振り下ろす。

 空を切る音とともに振り下ろされた剣は、かかしの頭部に当たるところに当たり、俺の手に確かな手ごたえを伝える。


「よし、これならいいだろう」


「何が?」


 冷や汗を流しながらアベルに問う。経験則、こういう時のアベルはろくなこと言わない。


「いや何、ちょっと動物さんたちと戯れるだけだよ」


 そうニヤリと呟いた。


「は?」



***



 まあ、当然そんなほのぼのイベントなわけもなく、見覚えのない森に強制連行され、獣道と思われる場所に立っていた。


 鬱蒼と生い茂る木々に、鼻をつく獣臭。心当たりなどない。

 ついでにここに来た記憶もない。気が付いたらここにいた。


「ここどこですか?」


「賢狼の森だ。ここには、多くの狼型の魔物がいる。何時ぞやの狼もここから引きずってきた」


 狼の森というからには、おそらく一匹で俺が死にかけたようなのがうじゃうじゃいるのだろう。

 つまりを俺は死ぬのだろう。

 ああ、母さん先立つ不孝をお許しください。


 などとくだらないことを考えてるうちに、アベルは一振りの刀を残して、いつの間にか姿を消していた。


「ふざけんなーー!!」


 カサカサと周囲の草むらが揺れる。生物の気配。


「っーーー⁉」


 前よりは格段に体も動くし、魔法もある程度戦闘に使える。だが、以前のやつは所詮手負い、ハンデマッチいいとこだ。

 それにそもそも一対一の話だ。囲まれたら一発アウト、人生からの永久退場だ。


 何をすればいい?


 とりあえずは安全確保のために、ここから離れるべきだろう。


 慎重に、自分が来た方向に、ーーー俺どっちから来たっけ?


 てっ、そうだ、俺意識飛ばされて連れてこらたから帰り道とかわかるわけないんだった。


 まあ、いざとなったらどこかで見ているであろうアベルが助けてくれるだろう。


『旅に出ます。探し物が見つかるまで帰ってこないので、探さないでください。

                         byアベル』


 なんてふざけた看板が置いてあった。

 

 まあ、嘆いていてもしょうがない。

 とりあえず、進んでみるか。


 こういう時のお約束である、枝、はないから代わりにアベルが残した刀を倒して、進路を決める。


 そして、そのまま道なりに進んでいく。

 時々聞こえてくる足音や、強い獣臭に血臭が酷く不安を煽る。


  ガサリ


 正面から悠々と、一頭の狼が姿を現した。


 以前襲われた時、今度戦う時があれば後れを取らないように、アベルから情報を聞き出したのだが、この世界の魔物であっても、生体自体は狼は変わらず、群れで狩りをするらしい。


 つまり、一頭が姿を隠しもせず現したのなら、すでに囲まれていると思はなければならないらしい。

 なんだそれゴキ〇リかよ。


 ふざけたことを考えても現状は変わらない。


 ならどうするか?もちろん逃げの一択だ。


 敵の強さが分からないのに、正面からとか明らかにバカだろ。ただ囲まれてるのがネックになる。

 一頭だけ、明らかに格の違うのがいる。多分ボスだろう。あれは、多分一対一でも危うい相手だ。

 だが、今なら不意を突けば雑魚一頭行動不能にして突破するぐらいなら可能なはずだ。


 (アベル)ごっこは得意だからな。


 方針が決まれば後は行動あるのみ。


 ボスらしきものとは逆方向の一頭に狙いを定める。


 相手は、それなりに高度とはいえそこまでの知能はないらしいので、若干わざとらしくボスにおびえるような演技をし、後退る。


 すると、俺を格下と侮ったであろうオオカミが狙い通り隙だらけで俺に飛び込んでくる。

 当然その行動は読めている。

 それに想像より、明らかに遅い。


 身を低くし、素早く刀を振りぬく。半ば賭けだったが、刀の刃はオオカミの首に吸い込まれてゆき、断ち切れないまでも、十分な致命傷を与える。

 自分でも気が付かないうちに、存外強くなっていたらしい。


 この瞬間オオカミたちは理解する。


 こいつ()はただの獲物ではなく、反抗する牙を持った『敵』である、と。


「これならやれるかも」


 そして、血を振り払い再び、刀を向ける。

 当然のことながら、奴らは、自らの命を脅かしかねないものに、意識を取られる。

 その意識ごと投げるように、刀をボスの方へと投擲する。


 どうせ戦っても勝てないんだ。だったら、逃げるために最大限利用するまでだ。


 それを警戒したオオカミたちは、咄嗟に身構える。そのすきを俺は逃さず、俺自身は全力で駆け出す、群れとは逆方向に。


 当然追いかけてくるのだが、こと森林の中での鬼ごっこに関しては、俺はかなり強い。


 あのアベルから15分も逃げ続けられたぐらいだ。


 さすがに、素のスピードではオオカミに分があるので、魔法で、目の前の障害物はどかし、逆に自分の後ろには、元々ある植物に向けて魔法を使い、草結びや、垂れ下がってる枝をやたら固くしてトラップを仕掛けていく。


 ボスだけは、知恵が回るようで罠はすべて避けていく。

 だが、その回避でも時間稼ぎにはちょうどいい。


 だが、雑魚どもはそうはいかない。

 足を取られ、頭を強かに打ち脱落していく。


 そうして孤立する。一騎打ちだ。


 おそらく、時間を掛ければ逃げ切ることはできるだろう。

 だが、他の奴らがいないとも限らないし、挟み撃ちにでもされたらもっと危険だ。

 何より、こいつぐらい倒しておかないと気が済まない。


 しばしのにらみ合いのうち、焦れたオオカミが、飛び込んでくる。

 

 それを避けながら、準備を進めなくてはいけない。


 服のポケットから、以前母さんからもらった黒檀の種を取り出す。

 そして、魔力を注ぎ先を剣の形になるようにイメージする。根の部分を脆弱化し、素手でたたき折る。

 剣だけになった部分に、氷を纏わせ鋭利に。


 攻撃を避けるのに気を取られ少し時間がかかってしまう。


 だが、時がたつにつれ、集中力が高まり時間の流れが遅くなっていくように感じる。


 ようやく剣が完成した。

 ひどく不格好ではあるが、致命傷を与えるには十分。


「今度はこっちの番だ」


 小さくつぶやき、身を低くする。イメージするのはアベルだ。

 以前の模擬戦で見た動き。

 

 アベルは、速いのではなく、早かった。

 動き自体は俺より遅くしていたのに、それでも俺の認識の外に消えて、一瞬で詰められた。


 そこまでのことはできずとも、あの時の無駄のない動きを少しでもトレースする。

 

 一歩、また一歩と距離が詰まっていく。


 オオカミが、俺の頭をその爪で引き裂こうとしているのもよく見える。

 俺は、体を半身にしてそれを避ける。


 そして、通り過ぎ空中で無防備になった横っ腹に、さっきの剣を突き立てる。


「グルゥゥゥゥ!!」


 苦悶の声を上げるオオカミが跳び退る。


「遅い」


 全力で距離を詰め、首筋に一閃。


 鮮やかなまでに赤い血潮が噴き出る。

 生温かな返り血が全身にかかり、不快感が募る。 


 だが、それ以上に、


「よっしゃー、かった~!」


 不覚にも子供のようにはしゃいでしまう。

 血濡れで、喜ぶ幼児。傍から見れば、さぞかしシュールな光景だろう。


 命を奪ったのにその反応はどうかとも思われるかも知れないが、そもそもが命のやり取りだ。負けたほうが死ぬのは初めから決まっていた。


 ならば、今自分に命があることを喜ぶことは、何らおかしくないだろう。


 喜びもつかの間、壮絶なまでの魔力を感じる。


 俺も、かなり多いほうらしいが、それとすら比べ物にならない。質も、清らかで、感じ入ってしまいそうだ。


 だが、その敵意からすぐさま、意識を現実に引き戻される。


 ゆっくりと、品すら感じさせる歩き方でその姿を現したのは、九つの尻尾を持った巨大な狐だった。 


 遅れてしまいすいません。学校の方でいろいろありまして。

 感想やブックマーク、ポイント評価があれば頑張れるかも(チラッ

 まあ、本当はpvが増えるだけで嬉しかったりするんですけどね。

 これからも、お付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴェールとアベルが師弟関係しているところ。 [一言] ヴェール強くなりましたね。応援してしたくなります!作者さんもお忙しい中ご苦労様です。
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