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第16話 剣

 月始めっていたのに、全然守れてない。

 ほんとすいませんでした。

「ほらよ」


 そう言って、唐突に投げ渡されたのは普段から腰に差している木剣だった。

 受け取ろうとするも、想像より重く取り落としてしまう。


「何すんだよ、こんな重いもん投げたら危ないだろ!」


「悪い、気が回らなかった」


 この様子、素で忘れていたのだろう。この俺の筋力が、大人と比較にならないほど虚弱だということを!

 自分で言ってて悲しくなってきた。


「これで殴れと?」


 そう言って、アベルが答える前に思いっきり殴る。


「ちげえよ」


 殴ったこっちの手の方がいたくなった。

 解せぬ。


「素振りだよ。素振り。1度だけ見本を見せてやる。理想の振り方は自力で見つけろ。今日は2時間くらい。そのあとは走り込みだ」


 そう淡々と話し、傍目から見てもわかるほど集中していく。

 普段の砕けたアベルを見ている身としては、違和感がある。


「ふっ」


 小さな気合の声とともに繰り出された一太刀は、俺の目で追えるほどゆっくりと手加減しされていて、音もなく、見惚れるほど美しく振り下ろされた。


 だが、その結果は鮮烈だ。一切の衝撃を余さず一直線上に伝え、大地に剣と同じだけの幅の裂け目を作っていた。


「ふう、こんなもんだ」


 軽く放心していたが、アベルの声で意識が浮上する。

 あれを目指せと、できるのか?おれに。


「修行は、一日にしてならずだ」


「え?」


 急にアベルは何を言うんだろう。


「どおせ、俺にできるのかとか、そんなこと考えてたんだろ?」


「それは…」


「一朝一夕でできたらだれも苦労しねえよ。そのための修行だ。

 少しは前向きになったと思ったらすぐこれかよ。お前より、メアリの方がよっぽど豪快だぞ」


「ぷっ、何だよそれ」


 笑う俺を、したり顔で見るアベル。

 アベルは、大雑把でてきとうだけど、意外と人を見ているんだと思う。


「ドsの鬼畜だけどな」


「なんだよ、情緒不安定のネガティブボーイを慰めてやろうとしたってのに」


 こうやって冗談めかしてくれるのも、気遣いなんだと思うとなんともむずがゆく感じる。


「余計なお世話だっつうの」


「じゃあ、俺は行くからさぼんじゃねえぞ」


 そういって、俺に背を向けひらひらと手を振りどこかへいってしまう。

 その背中は大きかった。


「かっけぇなチクショウ」


 

 ***



 早速さっき渡された木刀を、見よう見まねで構えてみる。

 ずっしりとした重さに、体勢を保つのも難しい。

 幸い長さは俺の今の身長に調整してあるようで地面に引きずるようなことにはなっていない。


 とりあえず一振り、剣を力いっぱい振り下ろす。

 

 だが、握力が足りず無様に手から剣は離れてしまい宙を舞う。


「そもそも、握力が足りてない…?」


 多分違う。アベルは、あれでいろいろ考えているタイプだ。それなのにそんな単純なミスをするとは考えづらい。

 それに、持ち上げられるのなら振ることだってできるはずだ。


「となると、俺の問題、か」


 握力を鍛える?


「流石にないな」


 浮かんだ答えを即座に否定する。

 そんな直ぐになんとかなるものでもないし、俺は脳筋ではない。


 座学が多分ヒントになるはずだ。


 俺は、筋力が極端に弱くて、それで……………。



 ***



「ああ、そう来たか…」


 そう、困ったようにアベルは顔をひきつらせた。

 

 考えた末に俺が導き出した答えは、


「ツタで、剣と手を固定させたのか」


 そう、俺は剣を魔法で手と括り付けたのだ。


「ふっ、これが頭脳プレイ、頭を使った作戦というものさ」


 気障ったらしくカッコつけて言う。


「頭脳も何も脳筋まっしぐらじゃねえか」


 呆れたという意思を体全身で表現しながら言うアベル。心底腹立たしい。


「うっさい!その筋肉がないから態々魔法まで使ったんだろ!さっき、俺には力が付きづらいが、、魔法はうまく使えるって言ったから、こんな無理やり魔法使った方法ひねり出したんだろ!」


「ああ、そこを参考にしちまったか。あれは、ただこれからの方針と、お目の目指す場所の遠さを先に伝えようと思っただけで、ヒントとかじゃなかったんだよ。

 それに、言っただろ修行は一日にしてならずって言っただろ。しっかりと触れるような握力、それと無駄な力をなくし剣をうまく振る技術、全身の力を御する体幹、その他もろもろを身に着けろって意味だったんだよ」


 なるほど、つまり俺が勘違いしただけでアベルは何も悪くないと。

 顔が、羞恥で熱くなるのを感じる。


「まあ、何だ、元気出せ」


 アベルに慰められた⁉

 むしろ、その優しさが胸に来る。


「あ、でもあの(死ぬって思いこんでた)時よりはましだ。気にすることじゃねえよ」


 ああ、確かにその通りだとも。だがな、それとこれとは関係ない。

 むしろそのフォローはとどめを刺しに来てるということに気付け、気付いてくれ。


「うん、分かったからもうやめて」


「そ、そうか」


 アベルのこんな顔初めて見たな。ちょっと面白いかも。

 思わず頬が緩む。


「ぷっ」


 俺の表情を見てか、表情に安堵が見える。


「やっといつもの調子に戻ったか、じゃあ、走ってから帰るぞ」


「ちっ忘れてなかったか」


「くく、キリキリ走ってもらうぞ。俺も一緒に走るからな」

 

 逃げ道が消えた

 

「はあ、分かりましたよ」


 溜息を吐き、ひたすら走る。


 アベルは後ろ向きで、俺の前を走っている。息も切らさず、笑いながら話しかけて(煽って)くる。


 これでも、前世より速く(当社比)走ってるのに、これってどういうこと。

 

 文句を垂れ流しても、ついでに汗やら何やら垂れ流してもアベルは決して待ってはくれない。そこに自費の心などというものは存在しない。


「おい、その程度でへばったのか?これじゃあ、琴葉にも馬鹿にされんじゃないのか」


「は、琴葉がそんなことするわけ…」


『お兄ちゃん、かっこいいお兄ちゃんだと思ってたのに……。

 私が守ってあげなきゃね♪』


 悪意もなく、琴葉が無垢な笑顔を浮かべる情景がふと頭に浮かぶ。


 それだけはだめだ。

 何があろうと、兄として琴葉を守ると決めたのだ。そして、兄として、男としての尊厳も守る。


「っあああぁぁぁぁぁ!!」


 アベルの掌の上というのは、業腹ではあるが背に腹は代えられん。


「やればできるじゃねえか」


 クッソ、その余裕面近いうちに必ず崩してやる。



 ***



 あれから、暫く走った。それはもう走った。

 比喩でもなんでもなくぶっ倒れる程度には走った。


 アベル?ただ立っているだけで汗が噴き出すようなところで走って、汗の一滴も書かないとかおかしいだろ。

 つまりアベルは人間じゃない。Q.E.D.


「ただいまー」


「おかえり~」

「おかえりなさい」


 琴葉と母さんが出迎えてくれる。疲れ切った体が癒されるように感じる。

 これがあるから、明日も頑張ろう、料理も頑張ろうという気になる。


「今日はカレーだよ、アベルも食べてくよね?」


 後ろにいたアベルに声を掛ける。


「そうだな、俺も今日は食べていくか」


 よし。


「かれえ?」


「今日のご飯だぞー。超うまいから楽しみにしとけよ!」


「うわー!」


 琴葉が目を輝かせる。兄冥利に尽きる。

 腕によりをかけて最後の()()()をする。


 琴葉と俺ようには、砂糖や蜂蜜なんかの甘口調味料。(甘党ですが何か?)


 母さんには、リンゴやら何やら。


 そしてアベルには、最近試行錯誤していた()()()()()を。


「それじゃあ「「「「いただきます」」」」


 みんなで声を合わせて、食事を始める。

 こういう、温かな雰囲気は好きだ。寂しさを感じない。


「おいしい!!」


「ええ、本当にね」


 琴葉と母さんが、朗らかに感想を言い合う中、一人たらたらと汗を流す方が一名。


「んーー?アベルさん、いかがなさいましたーー?」


 これ見よがしに聞いてみる。


「ッーーー、てめえ、やりやがったな」


「はて、何のことやら?大人なアベルさんにはそれくらいがちょうどいいかと思いまして。

 あ、残すのも捨てるのもなしだからね」


 白々しく嘯く。

 ここで、自分が子供であることを利用して、自分は食べないことの予防線を張る。


「そうね、琴葉の教育にも悪いわね」


 母さんも状況を掴めたようで、悪乗りする。

 グッジョブ母さん。


 一見効果はなさそうだが、俺も、多分母さんもアベルの目元が琴葉を見るときだけ緩んでいるのに気付いている。


「お前、マジ覚えとけよ」


 逃げ道をふさがられた、アベルが怨嗟の声を上げる。


「一晩寝たら忘れちゃうかも?」


 今までの鬱憤を晴らすように全力で煽る。

 やばい、楽しくなってきた。


 因みに俺がやったことは至極単純だ。

 ただ、香辛料の辛みを全力で高め、その匂いを誤魔化しアベルのカレーにぶち込んだ、それだけだ。


 多分魔力を使ったのは感じただろうが、俺は自分のものや琴葉のものにも魔力を使っていたのでカモフラージュになったのだろう。


「アベル、子供みたいなこと言ってないで、最後まで食べなさい。琴葉が見てるわよ」


 確信犯だ。

 

「ん?どうしたの?」


 琴葉は純真な表情でこちらを見ている。

 頼む、琴葉だけはそのまま奇麗にまっすぐ育ってくれ。


「お前らーー」


 憤懣遣る方ないといった表情だ。

 だが、そのあと諦めて掻き込むように食べていく。


「あべる、こんなに美味しんだから味わって食べなきゃだよ」


 琴葉の無意識な刃が、アベルをさらに追い詰める。


 俺と、母さんは笑いをこらえるのに必死だ。


 ふう、楽しかった。 


 楽しい楽しい食事の時間が終わり、物思いに耽る。


 これで、いつぞやの復讐も果たせた。


 あとの問題は、明日の修行地獄だろうなというくらいだ。


 でも、アベルの涙目を見れたヴェール君は満足なのでした、まる。


 学校って、ここまで面倒なものなんですね。

 ホント疲れます。

 皆さんもコロナに負けず、元気に過ごしてください。

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