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10話 ドライアドという存在

 ペロペロと琴葉が頬を舐める感覚で目を覚ました。


 因みに、あの後、家にかえってから夕飯など、食べる気も起きず、軽く汗を流しただけ、速攻で寝た。

 今日の修行は、アベルもさすがにやり過ぎたと感じたのか休みになった。

 …いや、ないな。ただの気まぐれだろう。


 そこでふと、ご飯を作る役目をほったらかしてしまったことを思い出して、色々と憂鬱になりながら布団から這い出る。

 

 そして、リビングにたどり着くとそこにはエプロン姿の母さんがいた。

 それだけなら、大変魅力的状況なのだが、ようは、母さんが()()をしているのだ。

 

 以前も言ったが母さんは、別にメシマズって訳ではないのだが、不器用なため大味なのだ。というか、新鮮な野菜に、調味料をかけ、「はいどうぞ」みたいな感じなのだ。

 それで、美味いんだから母さんの魔法は反則的だよな。でもさ、その素材を生かしたいと思うのが料理人(笑)の性というものだろう。

 せめて、火や包丁ぐらい使ってみようよ、と思ってしまうのだ。

 

 ちなみに、料理は元居た世界のころの趣味だった。一人暮らしのぼっちのあり余った時間で、自分が食べるものを美味しくする努力ぐらいはしていた。それがいつの間にかちょっとした趣味になっていた。それだけのことだ。

 

 やたら長く、色々と語ったが、結局のところ今日の朝食は、丸まる一個のキャベツに、以前俺が作ったドレッシングを垂らしただけのものになった。


 うん、オイシカッタヨ。

 

 これで、俺ことヴェールが(よわい)7歳で料理を始めていたことに納得していただけただろうか。


 ――逸話休第――



「エル、私少し村に行ってくるわね」


 村は、この近隣にあり生活必需品などを買いに偶に母さんが行くのだ。買うといっても、母さんの野菜と物々交換らしいが。


 そして俺は、今まで一度も街に行ってみたことが無く、行ってみたいと思っていたのだ。


「母さん、俺も今日は連れて行ってよ」


「へ?……あ、うーーん」


 俺がそう言うと、母さんは渋い顔になった。

 何か連れて行きたくない理由でもあるのだろうか?


「そうよね、そろそろ話さなきゃよね。あなたも、中身は大人と言ってもいい年だものね」


 そうして、深刻そうな顔をして母さんは話し始めた。


「あなたは『ドライアド』について、どれくらい知ってる?」


 そうして、思い出しみると自分が何も知らないことに気付く。一応探しては見たのだが、家にそれに関する本が一切なかったのだ。自分について書いている本なんて置かないかと納得していたのだが、意図的だったのか。

 確かに物語などにも登場しないのは不自然だよな。


「いや、何も知らないと思う」


「そうよね、じゃあ話すわ。世界で忌み嫌われるドライアドという存在を」


 そうして、母さんは訥々と少し寂し気に話し始めた。


「この世界は、魔物がいるという話はもう知っているわよね?その中でも、ある程度系統があって、その一つに植物系の魔物もいるの。ここまで言えば分かったと思うけど、その上位種にドリヤードという種がいるの。その姿形や、魔法なんかの特徴が、私たちドライアドに似ているから私たちは迫害された。それに、ドリヤードという種族は特に狡猾で、ドライアドになりすまし町に入り込み、町を荒らしたという。だから、忌み嫌われ、居場所を失ったドライアドは生き残りも少なく、町に入ることもできないの」


 話が終わり、何故かはわからないが母さんの顔は申し訳なさそうになった。

 そして、重々しく口を開いた。 


「ごめんね、ドライアドなんかに産んでしまって、私が母親「ふざけんな!」」


 感情に任せ、言葉を母さんに言葉をぶつける。


「それ以上言ったら、さすがに怒るよ。俺は母さんが母さんで、心底、何の嘘偽りなく幸せだよ。それを否定することは、例え母さんだとしても許さない。もし、世界に嫌われても母さんの息子であることは否定しないし、誰にもさせない。誰が何と言おうと、俺は、胸を張って言える」


 世界なんて何も知らないガキが行っても何言ってんだか、という感じかもしれないが、だからと言って、訂正する気はみじんもない。

 

「母さんに、救われて、居場所をもらって、あ、愛情も知った。だ、だから、あぁ、えっと…あ」


 何を言っているのか自分で分からなくなって、しどろもどろになってしまう。

 その時、体が柔らかく温かな感覚に包まれる。母さんがそっと抱きしめてくれた。


「ごめんね、そこまで言わせちゃって。でも、ありがとう。私のもとに生まれてきてくれて」


 すごいむず痒いが、それ以上に温かい。

 でも、今はそうじゃない。今、一番つらいのは誰だ?母さんだろ。俺が慰められていてどうすんだ。だから、足りない身長で手を伸ばし、母さんの頭に触れる。

 母さんがしてくれるように、優しく柔らかに、安心できるように。


「ヴェ……ル?うっ…うぅ…」


 母さんは、力が抜けたのか膝をつき、胸に顔をうずめる。そして、声にならない嗚咽を零し始める。母さんのこんな涙を見るのは初めてだ。

 

 きっと、ずっと気にしていたのだろうと思う。息子(おれ)を、ドライアドとして、不遇の種族として生んでしまったことを。そして、元は人間だったと聞いて、余計気にするようになってしまった。思いつめてしまったのだと思う。


「エル、あと少しだけ、こうしてもいい?」


 上目遣いでそう言ってくる母さんに、「もちろん」とうなずく。

 うかつにも、どきりとしてしまったのはここだけの話だ。


 そうして、俺と母さんが抱き合っていると、琴葉が、自分も混ぜてというように飛び込んできた。


 二人と一匹、前世では考えられない温かさと、優しさを感じ俺はこれを絶対に守ろうと誓うのだった。

作者にそのつもりはないのに、何故か圧倒的ヒロイン力を身に着けるメアリさん。

 私はどうすればよいのでしょう(笑)

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