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お転婆嬢は帝国王の腕の中に  作者: 桃巴


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24/25

*24*

 ……


 ……


 ……


 時間は過ぎていく。


「……ええ、完璧よ。そう! さすがは華の王女ね」


 マルグレーテが賛辞を贈る。


 シンシアが満面の笑みをマルグレーテに返す。


「さあ、もう一度よ! 華の王女たるに相応しい一連の謁見をご披露なさって!」

「はい! マルグレーテ様……いいえ、マルグレーテお姉様!」


 シンシアはモジモジとマルグレーテを桃色の頬で見つめる。


 マルグレーテのスパルタに感化され過ぎたシンシアは、マルグレーテに心酔してしまっていた。


 おそろしや……マルグレーテ。


 すでに数十回も戸口とザグレブの御前を行来し、同じような行為を見続けさせられている貴族らは、白目を向いて若干意識が飛んでいるようだ。


 おそろしや……マルグレーテ。


 だが、ザグレブだけは生き生きとしたマルグレーテを見つめ、楽しそうに笑っていた。


 一連の儀礼が終わろうとしていた。


「……お祝い申し上げます」


 シンシアが美しい一礼を見せた。


 マルグレーテは大きく頷き、ザグレブの横の椅子へと上がった。


 シンシアが、潤んだ瞳で顔を上げた。マルグレーテを羨望の眼差しで見つめている。……最初とはまるっきり反対だ。最初はザグレブに向けていた潤んだ瞳は、今やマルグレーテ一筋だ。


「華の王女……いいえ、単なる華ではありません。麗しき華、つまり『麗華の王女』とても素晴らしい二つ名をお持ちになられましたね」


 シンシアは両手を胸の前で重ね、マルグレーテに熱い視線を送る。これもまた然り。


「ジャンテでの一月の滞在を認めましょう」


 その発言に、ザグレブがギョとしマルグレーテに声をかける。


「おい、マルグレーテ」

「ふふふ、王様ったら誤解なさらないで。ジャンテ王城の滞在でなく、ジャンテでの滞在ですわ」


 マルグレーテの思惑の行方を探るように、ザグレブはマルグレーテを見つめる。いっさい揺らがず視線を反らさないマルグレーテに、ザグレブはやがて小さく頷き、身をひいた。


 マルグレーテはシンシアに向き直った。


「ジャンテでの滞在は一ヶ月です。先ずはヤンガルデの使者としてまた王女として、ジャンテに組みすことになる領地の領民に声をかけること。親交の証である王女が先頭に立ち、領民にそれを示す。重要な役目だわ。


さらに新しくジャンテ域になった南方、西方地域には、ヤンガルデがいち早くジャンテと親交を進めていることを誇示するのですわ。きっと隣国は焦りましょう。これもとっても重要な役目よ。


さらに北方ね。今まで蛮族とされてきた人達の所に、一国の王女が向かいご挨拶するのよ。ジャンテに、そしてヤンガルデに認めてもらったと胸をはれましょう。その使者が王女ならなおのこと!


ジャンテのためのご尽力、相応の手土産に値しますわね」


 シンシアの目は爛々と輝き、マルグレーテを崇拝している。


 おそろしや……マルグレーテ。


 王間の誰もが思ったであろう。マルグレーテを敵にしてはいけないと。


「私の父上ゼッペルが王女を先導しますわ」


 マルグレーテはそこでやっとゼッペルやカイザルに目配せした。


 シンシアの瞳がマルグレーテの視線を追い、ゼッペルとカイザルに移る。


 爛々と輝くその瞳に、カイザルは少々ひいた。


「マルグレーテお姉様のため、私シンシアはこのお役目全ういたしますわ!」


 マルグレーテ教の信者誕生だ。この信徒は結構な数がいる。ラグーン領にも、この王都にも。筆頭はマルグレーテの侍女たちであり、この結束は容易に崩れはしない。


 ゼッペルとカイザルは内心ガックシと膝を折っていた。


「マルグレーテお姉様、お役目を全うできましたら……」


 シンシアはモジモジし出す。


「ご褒美をいただけますか?」


 シンシアは両手を胸の前で重ね、懇願するように膝をついた。


「まあ! よろしくってよ。無理難題でなければね」

「無理難題など! お姉様を困らせることなど絶対にしませんわ。私のご褒美は……だ、抱きしめてほしいだけですの!」


 ポッと頬を染めるシンシアに、ザグレブが呆れたような視線を向ける。


「それは許可できねえな」

「……王様に頼んでおりませんわ」


 なぜか、ザグレブとシンシアがバチバチと火花を散らすように睨み合う。


 王間では、貴族らがもうどうにでもなれとばかりに、天井の装飾を数えていた。


「マルグレーテ」

「マルグレーテお姉様」


 二人は同時にマルグレーテを見つめた。


 マルグレーテはすぅーっと二人から視線を外す。


「さっ、戦勝会は終わったわね。小腹が空いちゃったわ。じゃあ、皆さんごきげんよう」


 マルグレーテはそそと立ち上がり、一目散に王間の戸口から出ていった。


「おい、こら待ちやがれマルグレーテ!」

「お待ちを、マルグレーテお姉様!」


 二人の行動はすぐに止められる。ザグレブは先王によって。シンシアはゼッペルによって。


 つまり、ザグレブは王としての役目を全うするために。勲功、褒賞は王の役目である。そして、シンシアはゼッペルと共に東方に向かい王女としての役目を果たすために。


 そして、カイザルは『相変わらず、逃げ足は早いなマル』と内心で笑っていたのだった。

次話最終話水曜更新予定です。

完結後に感想返信いたします♪

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