精霊召喚
世界に厄災が訪れる度にそれを召喚してきた。
世界を救うと、皆元の世界に帰っていった…かどうかは分からない。
この世界を救って、そして消えていく存在。
それが、「精霊」。
「ーーーいでよ、精霊」
今、世界は未曾有の危機に瀕していた。
大量の魔物が溢れ、人口が着実に減っていってるのである。そこで再び精霊を召喚しようとしている。
巨大な魔法陣を何重にも重ね、優秀な魔導師を数十人配置する。彼らは長い呪文をひたすら休むこと無く詠み続け、ついさっき最後の詞を口にした。
「……いでよ精霊、か」
魔法陣は極大の輝きを放つ。
輝きが収まった時、そこには少女がいた。
精霊、そう呼ばれるものを初めて目にした。
それはあまりにも美しく、俺は見蕩れてしまった。
そう、単純に……一目惚れしたのだ。
都立魔導学園ウェルセリア。
そこの序列一位。それが俺の肩書き。
日本で唯一魔導について学ぶ場で、魔導によって世界を守る為の兵士を育成する場所でもある。
序列とゆうのはこの学園での強さのランキングだ。
高ければ高いほど待遇も良くなる。
一位、つまりは頂点だ。
他の奴らの方が優秀な魔力を持っている。
それでも、俺の魔力には勝てない。
だって……俺は死なないんだから。
どれだけ強い攻撃を撃たれようと、死ぬ事はない。
それが俺の魔力、「不死」。
もう一つ、俺には秘密があった。
「黒咎征、君に精霊の管理役を任命するよ」
「……はい」
目の前の一人の魔導師がそう告げてくる。
この学園で最も強い俺が、精霊を管理し…厄災を打ち払うその日まで保護する。
「…………精霊、か。ただの女の子じゃねぇか」
精霊の少女が目を覚ますまで、俺は学園を歩いていた。目を覚ましたら呼ぶから、自由にしていろとの事だ。言われなくてもそのつもりだった。
ここ都立魔導学園ウェルセリアは、かつて東京の半分が吹き飛んだ大惨事の跡地に建てられたものだ。
魔族の襲撃に合った都市は半分を生き残らせ、残りを自らの手で爆発させた。それによって被害は最小限に抑えられたが、それでも東京とゆう日本で最も人の集まる場所を半分吹き飛ばしたのだ。被害は小さくは無い。人々は二度とこの様な選択を取らないようにと、魔導を学ぶ場を設け、魔族に抗う力を学ばせた。
それがここだ。東京の半分を使っているのだ。
学園としてはこの国で一番の大きさだ。
校舎は四つ。闘技場はすべて合わせるとおよそ五十。
学園そのものが都市として機能している。
俺は闘技場へ向かった。
どこにいても闘技場は必ず見える。
偶然入った闘技場に、会いたい奴がいた。
「…征、召喚は終わったのか?」
「ん、精霊ってのはもっと厳ついものだと思ってたよ」
赤い髪を短く切りそろえた青年。
序列三位のレトア・セニノトスだ。
「その言い方だと、女の子だったりしたのか?」
冗談めかして言ってくるが、これがほんとなんだよなぁ。
「そのまさかだよ……」
レトアは腹を抱えて笑い始める。
「はははっ!こりゃいい!女の子と関わったことなんてほとんど無いんじゃないか?いいじゃないか、頑張れよ!!」
こいつ、軽く模擬戦でもしてぶっ飛ばそう。
「……死ぬ覚悟は出来たか?」
「はは、お手柔らかに……」
俺とレトアは闘技場の中央に立って、それぞれ反対方向に広がった。
レトアが先に仕掛けてくる。
脚に炎を纏って蹴りを放ってくる。
素早さ、正確さ、威力共に申し分無い。
が、甘い。狙いが分かり易い。正確に急所を突いて来るが、それが逆に仇となっている。
俺は軽く体を捻ったり、手を使っていなしたりして防いでいく。
「どうした、当たらないぞ」
「ふっふっふ、これで終わりだと思ったかい?」
レトアの脚が俺の頬の近くを掠めていく。すると、纏った炎が弾ける。
咄嗟に後ろへ跳んでして距離を稼ぐ。
レトアはそれを予想していた様で、拳に密度の高い炎を纏って迫ってくる。
拳が突き出される。
「焔纏・砲撃!!」
「……少し本気をだすぞ」
俺はその拳を左手で受ける。
ズガァアアァァアアッンッッ!!!!
左手で全てを受け切ると、俺はレトアの腹に蹴りを入れる。レトアが後方に飛ばされる。
それに、追いつく。
そして大きく踏み込んで掌打を打ち込む。
パァアァアンッ!!
「……ぐぅ、やっぱり効かないかぁ」
「まだまだ、コレに反応出来ないんじゃダメだな」
「あぁ、ランキング戦で征がよく使ってるやつか。あれってダメージ凄いんじゃないのか?ほら、確か禁忌魔術だろ?」
「俺の魔力、「不死」はダメージも回復するから、この魔力あっての事だな」
「ははっ、チート野郎!」
そう言われても、自分でもこんな魔力欲しくて持った訳ではない。これのせいで研究者が是非実験を!とか言って寄ってくることが何回も、と言うか今も。
ーーー序列一位黒咎征、直ちにB区画第二病棟まで来なさいーーー
「……精霊が目覚めたみたいだな、いってくる」
「おー、いってら」
俺はこの場所からそう遠くない病棟へと歩き始めた。
精霊の少女を迎えに。