先生と先輩
放課後、エンとライテイ先輩と一緒に職員室へ向かった。本当ならヤイバ先輩の担任に話を聞きたいけど、担任が誰か知らないし…ライテイ先輩は教師が多いから誰が誰だかほとんど覚えてないとか。とりあえず、僕の担任に話を聞いてみる。
「失礼します。炎魔サイゾウ先生はいらっしゃいますか…?」
職員室入るだけで視線が集まる。早く帰りたい。担任の名前は覚えている。入学初日は火竜なんだなぁって感想しか無かったけど。
「なんじゃぁ?儂に何か用か?」
炎魔先生は顔が怖い。喋り方も威圧感がある。いい先生なんだけど、ちょっと怖い。
「えっと…聞きたいことがありまして…」
「そうか。その前に場所を変えようかのぉ。ここでは視線が気になるじゃろ」
さすが炎魔先生。気配りが最高に嬉しいです。というわけで普段あまり使われない応接室に来ました。
「それはそうと、お主ら仲良いのぉ。前に問題を起こしてからずっと一緒じゃな」
問題って、屋上での事件のことですか?
「ま、仲良いのは当然だよな!」
エンが言うとライテイ先輩もうなづいた。なんかこういうのって嬉しいよね。あ、聞きたいこと聞かなきゃ。
「えっと、2年生のヤイバ先輩の事を聞きたいんです。もし知ってたら教えて欲しいんです」
僕が言うと、炎魔先生の表情が暗くなる。…もしかして。
「…お主が思っている通り、儂は去年諚ヤイバの担任じゃった」
やっぱり。でもなんでそんな表情をするんだろう…。
「諚は1年の時、喉の病気にかかり声が出せなくなったのじゃ…。それまでは明るい性格じゃったが、今は塞ぎこんでしまい、誰も寄せ付けんようになった…」
炎魔先生は下を向いている。ヤイバ先輩の事で責任を感じてるのだろうか。
「…諚ヤイバが今暗くなり1人でいる事、自分のせいだとでも思っているのか?」
ライテイ先輩が腕を組みながら言った。それは僕も聞きたかったことだ。でもなんでそんなに偉そうなの?
「儂があの時、諚に接していれば今のようにならなかったじゃろう。儂は、諚から逃げていた。それが奴のためだと思っていた」
炎魔先生は手を強く握っている。そこまで強く責任を感じていたのだろう。
「確かにそれはあるな。だが今からでも遅くはない」
「そうだよな、それが昼誘った時ものすごく嬉しそうだったし。きっと今寂しいんだよ」
ライテイ先輩が言うと、エンはうなづいた。
「今から話してみたらどうだ?なぁ。ユウ、今日居合道部活動あったか覚えてるか?」
「確か今日も休みってなってた気がする。ヤイバ先輩読んでくるね」
「頼む」
戸惑っている炎魔先生を2人に任せて僕はヤイバ先輩を呼びに行った。
ヤイバ先輩がどこにいるかわからない。でも、自主練している時のヤイバ先輩の顔はとても熱心だった。だから今日も道場にいるはずだ。
「ヤイバ先輩…!」
全力で走ったから息切れしている。思った通り、ヤイバ先輩は道場で自主練していた。息を切らしながら道場の入り口に立っている僕を見て不思議そうにしている。
「一緒に来てください!炎魔先生が待ってます!」
炎魔先生の名前を出したらヤイバ先輩の表情が変わる。何か…怒っているような…
「痛っ!」
腹部に激痛が走る。ヤイバ先輩が木刀で殴ってきたのだ。何故だかわからないけど、炎魔先生に会いたくないらしい。腹部の痛みは持ち前の治癒能力でもう治っていた。痛いのは嫌だけど…炎魔先生とヤイバ先輩の為。理由を知らなくちゃ。
「ヤイバ先輩…なんで…」
また殴られる。太刀筋は早すぎて見えない。避けようにも見えなければどうにもできない。痛いのを我慢して聞くしかない…
「炎魔先生を憎んでるんですか…?」
ヤイバ先輩の動きが一瞬止まる。そのあとすぐに殴られる。でも憎んでいるか聞いた時、ヤイバ先輩は悲しそうな顔してた…。憎んでなんかないんだ。じゃあなんでこんなに拒むんだろう。
「ぐっ!」
木刀で殴られ壁まで飛ばされる。背中を強くうち一瞬息ができなくなる。同時に上から部員の名前が書かれた木の札が落ちてくる。
「これって…!」
少し大きいのは顧問の札だろう。現在の顧問の札ともう一つ。二重線で消された炎魔先生の名前があった。炎魔先生は去年、居合道部の顧問だったんだ。だからこそ、クラスの一員でもあり部員でもあるヤイバ先輩を気にかけ、責任を感じていたのだろう。多分それが理由で炎魔先生は顧問を辞めた。ヤイバ先輩はそれが自分のせいだと思っているのだろう。だから会わないんだ。
ヤイバ先輩が木刀を振り下ろす。紙一重でそれを避けると、僕はヤイバ先輩の右頬を殴る。不意をつかれたヤイバ先輩はその場に尻餅をつく。僕も避けられるとは思ってなかったから驚いてる。でも驚いてなんかいられない。
「このまま炎魔先生から逃げていていいんですか!先輩が暗くなったのは自分のせいだって炎魔先生は責任を強く感じてるんです!ヤイバ先輩がなんで炎魔先生に会わないか僕にはわからない。でも…でも…!」
さっき思ったことは言わないようにする。結局は僕の考えだし。言葉を選ぼうとしてもなかなか出てこない。ヤイバ先輩は僕の言葉を聞き、下を向いている。…泣いてる。
「…諚」
道場入り口から声がする。そこには炎魔先生が立っていた。