居合道部へお届け物
「…部活には入らんのか?」
昼休み。屋上で弁当を食べてると、ライテイ先輩が聞いてきた。
「うーん、入りたいけど…確実に浮いた存在になるからなぁ」
やっぱり目立ちたくないし。
「俺はめんどくさいから入らねぇよ」
エンは体動かすの好きそうだから部活とか喜んでやると思ってた。でも強制入部とかそういうのないからいいよね。
「ライテイ先輩はなにかやってたんですか?」
「俺もやってない」
ライテイ先輩もやってないんだ。まぁ、そうだよね。ライテイ先輩が部活行ったらどうなるか予想つくし。
「あ、そういやこんなの拾ったんだけどよ。何に使うものかわかるか?」
エンが鞄から何かを取り出す。長細い布の袋みたいだ。
「竹刀入れる袋じゃない?ほら剣道の」
なんとなくそれに似てたから言ってみる。剣道やったことないからよくわからないけど。
「あ、よく見たら名前書いてある。んと…『諚 ヤイバ 居合道部』だってよ」
居合道部なんてあるんだ。名前しか聞いたことない。
「よし、届けに行こうぜ!」
「ちょっとまって」
今すぐに届けに行こうとするエンを止める。
「諚さんが何年生か知らないでしょ?昼休みだから部活場所にいないだろうし。あと昼休みもう少しで終わるよ」
「わ、わかってる!放課後!放課後に行くんだよ!!」
なに焦ってるんだよ。あとは、居合道部の部活場所を調べて…
「居合道部は道場で活動している。正門付近の道場だ」
「さすがライテイ先輩、ありがとう」
ちなみにこの学園、道場が2つある。正門付近と、体育館の隣。体育館側は柔道部とかが使ってるんだっけ。
「じゃあ放課後、道場前な!」
「え、僕も行くの?」
「…俺もか?」
エンが拾ったんだからエン1人でいけばいいじゃん。
「みんなで行った方が面白いだろ?」
なにが面白いのかはわからないけど?このあとエンが駄々をこねるので3人で行くことにした。ちょっとめんどくさいなぁ…
放課後。約束通り道場前に集合した。正門はいつも通ってるけど、道場を気にして見たことはない。あー、こんなところあったんだって感じだ。
「たのもー!」
隣でうるさいエンに殺意が芽生える。ってよく見たら部員1人しかいない。活動していた部員、白い毛の狼獣人かな?は僕たちに気づいたみたいだ。持っていた刀でホワイトボードを指す。
「あ、今日は部活休みなんだ…」
じゃあこの人は自主練してるのかな?
「えっと、部員に諚ヤイバって方はいらっしゃいますか?」
同じ部活なら渡してもらえるはずだよね。狼さんは僕の方を向いた。…ん?どういうこと?
「あいつが諚ヤイバだ。袴のところに名前がある」
ライテイ先輩に言われて見てみると確かに書いてあった。というかヤイバ先輩は無口なんだね。さっきから一言も喋らない。
「これ、落ちてた。お前のだろ?」
エンが布の袋を渡す。ヤイバ先輩は袋をちょっと見てからうなづく。よかった、無事に渡せたね。ヤイバ先輩はそのあと無言で自主練に戻った。邪魔しちゃ悪いから僕たちは帰ることにした。
「いやー、なかなか癖のあるやつだったな」
エンが伸びをしながら言う。ライテイ先輩とは学園で別れて、今はエンと2人だ。まぁ確かに。というか…
「ちょっと怖い人だった。なんか、近寄るなってオーラ出してた気がする」
「あーそれ思った」
「あと、2年生だったね、ヤイバ先輩」
「マジかー」
うん、ホワイトボードに貼ったあった部員名簿で確認したから。だからさっきからヤイバ先輩って言ってるんだし。
「でもヤイバ先輩、なんか寂しそうだったね」
「なんとなく俺もそう思った。な、今度昼誘ってみようぜ?」
「いいけど、来てくれると思う?」
正直微妙な気がする。まあ、せっかくだからちょっと話をしてみたいって思いはあるけど。
「ライテイ先輩に脅してもらうとか」
「無理矢理はダメでしょ。ライテイ先輩がかわいそう」
エンよ、変な案を出すんじゃない。そんな会話をしていると家に着いた。
「なんかごめんね、毎回送ってもらって」
「別に、弁当のおかずもらってるからな」
そういやそんな条件出されてたっけ?
「ま、明日の昼楽しみにしてろよ!じゃあな!」
そう言ってエンは走って行ってしまった。地味に嫌な予感がするが…まぁ大丈夫だろう。