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操るもの

 都心部の高層ビルの窓ガラスが衝撃を受けて一斉に砕け散った。法術を使用できる警察の機動隊の部隊が足元に干渉空間を展開して上空に滞空してその破片を受け止めるが、路上でパニックを起こした人々には多くの怪我人が出ていることは東都第一ホテルの昼食を食べている老人が眺めているだけでも見ることが出来た。


「実にすばらしい能力だ」 


 笑みを浮かべて年代モノの赤ワインを楽しむ老人、ルドルフ・カーンを目の前で肉と格闘しながら頬のこけた顔で見つめる男の姿があった。


「この力を前の戦争でも見せ付けることが出来れば枢軸は勝利していたんじゃないですかね」 


 一言そう言った後、再びステーキにフォークを突き立てるのは『人斬り孫四郎』の異名で知られた胡州浪人桐野孫四郎その人だった。


「そうだとしてもだ。この力が公にされれば遼南が付け上がることは分かっていたからね。分相応と言う言葉をあの暗愚なムジャンタ・カバラが理解できたとは到底思えないよ」 


 そう言ってカーンはパンに手を伸ばす。


「地球人至上主義者にはこれは脅威と見えますか?」 


 すでに肉を口に入る大きさに切ることを諦めた桐野はフォークに刺した肉を口で引きちぎる。まだ避難勧告が出ていないものの、ビルの最上階のレストランでは階下の騒動を見下ろすべく窓に張り付く客達の姿があふれていた。


「なあに、そのようなものは脅威とは呼ぶに値しないよ。兵器は使用者の意図に従ってこその兵器。あれは兵器と呼べるような代物ではない。いうなれば自然災害みたいなものだ。それは遼南の山猿達も承知していてこの力を封印してきたんだ……ちがうかね?」 


 窓が時々衝撃波のようなものを受けて膨らむたびに野次馬になれなかった客達が窓を見つめる。


「それに私はこんな値段を吊り上げるためのデモンストレーションには興味が無いんだ。出資にふさわしい代価をいただきたい。ただそれだけの話だ」 


 カーンは穏やかな顔で目の前で今度はパンを口に詰め込み始めた桐野を眺めていた。


「出資?そうですね。あなたにはそれにふさわしい手駒を手に入れる資格がある……私には腹立たしい限りのことではありますが」 


 パンを飲み込んだ桐野は地球の銘柄モノの赤ワインでそれを流し込む。その様子を暖かく見守る外惑星の資産家の偽名でこのホテルに滞在しているカーンを孫四郎は見上げた。


「それがこれか」 


 そう言って階下の騒動が始まる前に桐野が差し出した小さなデータディスクをカーンは手にした。その表情にゆとりのある笑みが浮かぶ。


「三人ほど選びましたよ。従順でありながら的確な判断ができて、それでいて好戦的な性格。遼南人にはなかなかいない性格の持ち主ですよ」 


 桐野の笑みにカーンも満足げにディスクをかざして見せた。


「それは結構。だが、能力的にはどの程度のものなのかな」 


 カーンはディスクを胸のポケットに入れると興味深そうに桐野を見つめた。口を手で拭う無作法を自覚しているような笑みを浮かべる孫四郎はその視線を外へと向けた。


「なあに、その為にうってつけのデモンストレーションとしてあの化け物を起動させたんですから」 


 その言葉でカーンも悟った。そして立ち上がったカーンは階下で東和警察の機動隊とにらみ合う制御に失敗して暴走を始めた法術師の成れの果てに視線を向けた。



「リスクよりデモンストレーションを取るとは。芝居が過ぎるんじゃないか?」


 カーンの問いに桐野はただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。


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