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婚礼話

 雑談していた警備班員が顔を覗かせる。いつものようにカウラはそれを見て窓を開いた。


「ああ、ベルガー大尉。駐車場はいま満員御礼ですよ」 


 丸刈りの警備部員が声をかけてくる。


「島田か?」 

 

 そのカウラの問いに隊員はうなづく。


「ったくアイツ等なに考えてんだか……」 


 かなめの声を無視してカウラは車を走らせる。駐車場が見える前から野次馬の姿が見て取れた。


「おい、停められるか?」 


 そう言ってかなめが身を乗り出す。そのままゆっくりと近づくカウラの車に気づいてブリッジオペレータの女性隊員が脇によける。


 そうするとそこにはタイヤを外されてジャッキで持ち上げられた小型車が見えた。


「ちょっとそこに停めろ。降りるから」 


 かなめの言葉にカウラは小型車の手前で車を停める。ニヤニヤしているアイシャが助手席から降り、誠も追い出される。そのままかなめは苦笑いを浮かべながら見慣れない車に近づいていく。


「おう、西園寺か。見ろ凄いだろ?」 


 取り付けようとする新品のサスペンションを手に得意満面の第四小隊小隊長ロナルド・スミスJrがいる。だがかなめはそれを無視してエンジンをいじっているつなぎ姿の島田の後ろまで行き思い切り尻を蹴り上げた。


「痛て!」 


「バーカ!いちいち喚くな!痛いように蹴ってるんだよ!」 


 かなめの声に飛び跳ねるように島田が振り向く。隣に立っていたサラとパーラも振り向いた。


「ここは職場だ。仕事をしろ仕事を!」 


「でもまだ始業時間じゃ……」 


 島田は口答えをしようとするがかなめのタレ目の不気味な迫力に押されて黙り込んだ。


「それに昨日の件で話があるそうだ」 


 車を奥に停めてきたカウラの言葉に島田は悟った。


「おい!お前等も壊さない程度によく構造を把握しておけ!後で細かい説明はするからな」 


 島田は周りで彼の作業を見ていた整備班員にそう言うとそのまま正門へと走り去る。サラとパーラもそれに続いた。


「あらあらかなめちゃんがまじめに仕事しろなんて言うからびっくりしちゃったわ!」 


 手を合わせているアイシャにかなめは照れたように頭を掻く。


「その仕事を振ってくれる人が来たぞ」 


 カウラは白いセダンが散っていく野次馬達の間から白いセダンから降りている茜達の姿を見ていた。


「そうだな。どういう指示を出すか。実に見ものだな」 


 そう言うとかなめはそのまま茜達を無視してハンガーへと急ぐ。


「かなめちゃん!おはよう!」 


 巨大な熊、グレゴリウス16世の背中に乗っている猫耳をつけた第一小隊二番機担当のナンバルゲニア・シャムラード中尉の言葉も完全に無視してかなめはそのまま歩き続けた。


「アイシャ。何かあったの?」 


「知らないわよ」


 心配そうなシャムの質問にアイシャは困ったように両手を広げて見せた。誠もかなめの気まぐれに気をつけようと心に誓いながらハンガーを目指して歩いた。


 誠がハンガーに足を踏み入れると、誠の専用アサルト・モジュール05式乙型の前で足を止めているかなめがいた。


「どうしたんですか?西園寺さん」 


「リアルに作ってたんだな、アイシャの奴」 


 誠の薄い灰色のステルス表面塗料の上にエロゲーム『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃん描かれて、『痛ロボ』と言うことでミリタリー雑誌の紙面を飾った機体を見上げている。


「そうよ。すべてはこれをデザインした本人の資料を使ったんだから」 


 胸を張るアイシャとあまりの反響に照れている誠がそこにいた。


「ああ、そう言えば今日は明華の姐御は休暇だったな」 


 技術部員がちらほらとしか見られないことに気づいたカウラがそう言った。それを見てアイシャがにんまりと笑う。


「あれじゃない、式の衣装とか選んでるとか……」 


 司法局本局付き士官の明石清海中佐と、技術部部長で事実上の司法局実働部隊の最高実力者と噂される許明華大佐の結婚はすでに翌年の6月と言うことが決まっていた。アイシャとカウラがちらちらと誠を見つめてくるのを無視してかなめが口を開いた。


「今からか?まだ11月だぜ。胡州と遼北で式はやるって聞いてるけど……選ぶのにそんなにかかるのか?」 


 ぶっきらぼうにたずねるかなめにアイシャは大きくため息をつく。


「分かってないわね。私も姐御に見せてもらったけどカタログがこんなに厚いのが二つよ!それに一生に一度のことだもの。迷うわよ」 


「そんなもんか?」


「そうなんだろ」


 かなめの問いにそれだけ答えるとカウラは事務所へと足を向けた。


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