アイの花
ランプが照らし出す豪華絢爛な室内で一人の男性がベッドに体を横たえています。
彼はこの国の王様です。三十年ほど王位にありましたが、ここ数ヶ月は体調を崩して療養を余儀なくされていました。
王は枕元に置いた事典の一ページを指しながら報告に来た大臣に激怒の声を浴びせます。
指差された先には薄い赤の大輪を咲かす花の絵が描かれていました。この国では見舞いにその花を贈る風習があったのです。
ゆえに王は兵士に命令して集めさせていたのですが、一向に集まりません。
王が国を治めていた頃には国中に咲き誇っていましたが、彼が病に倒れてからというもの何故かどんどん枯れていくのです。
その原因が王にはまったく分かりません。学者も首を横に振るだけです。
ひたすら頭を下げる大臣に欝憤をぶつけ飽きると退室を命じて休みます。
それから数ヶ月が経っても王の病は良くならず、むしろ悪化していました。
その上、慰みにしようとしていた花も手に入りません。新しく就任した大臣の報告も最近は憂鬱になるばかり。
更に数日後、とうとう王の体力は限界を迎えました。
朦朧とする意識の中、ふとある考えが浮かびます。
それはとても恐ろしい考えでした。そんな筈はないと思いながらも否定出来ない。逆に幾つかの事実と符合します。
結局その考えに囚われたまま王は目を閉じ、二度と開かれる事はありませんでした。
直後、宮廷の庭、その隅でひっそりと一輪の花が咲きました。
――賢人いわく、その花は悲しき涙を養分に育つ。
「私はあなたの事が心配で堪らない」という意味から見舞いに贈られる事も多い。
時代、地域によっては幻の花とされる事もあるが、それはむしろ感謝すべきだろう。