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8 To・Retturn・To・Our・Subjct――閑話休題――

新たな謎



 二人の男は、消防車が消火作業にあたっているのを、車に寄り掛かって立ちながらぼんやりと眺めていた。

 滉は、ダフネ、というあの少女の名を口にしてから、むっつりと黙り込んでしまっている。

 ドルフェスも、ダフネが妻だという滉の意外な言葉と、ファントムという男の途方もない話で頭が一杯だった。

 滉に聞きたいことは山ほどあったが、何から聞いたらいいのか全然まとまらない。結局彼の隣でぼけっと火を眺めていた。

現場検証に当たっている警官たちのなかから、一人の男が二人のところにやって来た。

「津川警部。自分は25分署交通課勤務、カウル・タウスです。事情をお伺いしたいのですが、署まで御同道願えますか?」

 敬礼をしながら、タウスは滉に訊ねた。片手を上げて挨拶に応じながら、連合警察の警部は首を振る。

「いや、後ほどこちらから報告書を出させてもらうよ。今は人を待ってるんだ、調査の途中でね」

 軽く微笑みながら答えると、タウスは再び敬礼をして去っていった。

 遠く頭上からクラクションの音が聞こえる。

 ドルフェスは上を見上げた。辺り一帯は全車線通行止めとなっていたが、通交量の多い幹線道路であるために、取り敢えず上空に迂回路を設け、交通課のマシンが整理に当たっている。

 立ちのぼる黒煙を避けて流れる車の列が、のろのろと頭上を通り過ぎていくのが見えた。

 ふと、その車の列から一台のパトロールマシンが離れ、こちらに向かって降りてくるのに気が付いた。

 マシンは二人の立つネプチューンの横に滑り込み、運転席のドアを開ける。

 その中からぬっと現れたごつい男は、なんとセーレォ・カシムだった。

「ぶ…部長…?」

 意外な人物の出現に、ドルフェスは思わず背筋を伸ばす。

 第一課の鬼部長と仇名されるセーレォは、何時も通りかっちりと背広を着込み、きびきびとした動作で二人に近づいて来る。

「津川警部。私の気のせいか、貴方が来られてから、何だか事件が多くなっているようですな」

 形式通りきっちりと敬礼をしてから、セーレォ部長はそう切りだした。思わず滉が苦笑する。

「全く、うっかり蜂の巣をつついてしまったと認めますよ」

「まぁ、早めに見つかって良かったと言っておきましょう。これは昨夜の報復ですか?」

 セーレォの問い掛けにアース人は頷いた。

「そう考えて差し支え無さそうです。ネプチューンのデーターを分署のコンピュータに送っておきますから、こちらの正当防衛は立証出来るでしょう」

「そうしてください、こちらも手間が省けて助かります。なるべくなら、もう少し穏便に事が収まってくれれば、これに越したことはないんですがね」

 そう言うとセーレォは現場の主任と話してくるとことわってその場を立ち去った。

「結構腹の出来た部長だね」

 感心したように滉が言った。

「有り難うございます」

 上司を褒められて、ドルフェスは何となく嬉しくなった。

「しかし、事件が多くなったってのは痛かったな」

「実際そうですからね」

 青年が頷くと、滉はがしがしと頭を掻いた。

「あの爺ぃの所為だ。ほんとに、腹立つ奴だよな」

 そう言って大きく伸びをする。

「誰が、腹立つの?」

 不意に滉の後ろから女の声がした。何となく甘ったるい鼻にかかったようなアルトの声である。

 いつの間に来たのか、滉の後ろに黒髪の女が立っていた。

「おう、お前か」

 顔だけを後ろに向けて、滉が笑いかける。女は白い手を伸ばすと滉の首に巻きつけ、伸び上がって赤い唇を男のそれに押しつけ、軽く音を立てててすぐに離れた。

「お・は・よ」

 突然のキスシーンにドルフェスはすっかり動揺してしまった。

「えっと…あのう…その…」

 真っ赤になってしどろもどろになっている青年に、いきなり女が飛びついてきた。

「D・M!!」

──えーっ?!!!──

 女を首からぶら下げて、ドルフェスは何にも考えられなくなり、点目のまま滉に救いを求める。

「おいこら、馬鹿娘。人違いだよ」

 笑いながら滉は、女の襟首を掴むと、猫でも持つようにして、ドルフェスからひきはがした。

「え、そうなの?」

 きょとんとした顔で滉を見た女は、にっと笑うと誤魔化すようにドルフェスの肩をポンポン、と2〜3度叩き、澄まして滉の横に立った。

「失礼いたしました。知人とよく似ておいでだったものですから」

 そういって軽く頭を下げた女を、あらためて見てドルフェスは又少し驚いた。

 まるでモデルの様にほっそりとして背の高い女性で、絹糸の様に艶やかな黒髪は膝よりも長く、色の白さを更に際立たせていた。歳は自分と同じぐらいか、淡い色のスーツに身を包み、落ち着いた大人の女といった雰囲気を漂わせている。

 そして何より彼を驚かせたのは、その面差しが滉に良く似ていたせいだった。

 滉よりも幾分線の細い感じで、女らしい柔らかさを持ってはいたが、端正な造作は生き写しといえた。

 彼女は、ドルフェスがぽかんとした顔で自分を見ているのに気ずき、少しはにかんだ微笑みを浮かべた。その笑顔が別の女性のものと重なる、青年は不意にホログラムの少女を連想した。

「ごめんなさい、気を悪くなさったかしら?」

 アルトの声が心配そうに訊ねてくる。

「え、いいえ」

 慌ててかむりを振る。見とれていたとは言いにくいので、ドルフェスは顔を赤らめながら大きく一礼して名を名乗った。

「25分署の刑事でドラゴ・ドルフェスです」

 黒髪の女は、思い当たったように微かに頷いた。

「貴方がドルフェスさんですか。私は竜造寺魅羅(りゅうぞうじ みら)、連合司法局の検事です。今回は津川警部の秘書として、この任務に当たっています」

 魅羅の言っていることの不自然さに、ドルフェスは首を傾げた。

「あの、検事さんが、警部の秘書なんですか?」

 どこの世界に警部の部下になる検事が居るんだろう? 納得がいかない様子の青年に、黒髪の女検事はため息とともに頷いてみせ、

「そうなんです、任務にプライベートを持ち込むなんて良くないと思うんですけど。何しろ実の父親には逆らえませんからね。仕方なく、秘書をやっていますの」

と言って、魅羅は可愛く笑ってみせる。ドルフェスは再び点目になった。

「へ? 実の父?」

 聞き返す青年に、魅羅は笑顔で答える。

「ええ、私、滉の娘です」

「あ?! 魅羅! てめぇ言いやがったな」

 滉が慌てて魅羅の胸座を掴む。

「あら、いけなかった?」

 魅羅は少しも動ぜずに艶然と笑っている。

「ったりめぇだろ、こぶ付きじゃあ女にモテねぇだろうが」

「まぁ、お父様。お母様を裏切るの? 何時ものことだけど」

「喧しい!!」

 掛け合い漫才の様な会話を始めた二人を前に、ドルフェスは、一人静かに混乱していた。

──え…こぶ付きがけーぶで、実の父で…だから、検事が娘で…へ? で…キスしてて…え?え?──

 ショックの連続でぐちゃぐちゃになった頭のなかは、容易には纏まらない。

 ドルフェスは、兄弟程度の歳しか離れていないように見える親子を、ぼんやりと見つめていた。

「ちょっと、滉、ドルフェスさんが困ってるわ」

 父親を平気で呼び捨てにしながら、魅羅がこちらを向く。

「困らせたのは、お前だろーが」

 文句を言いつつ、多少照れたように顔を赤らめている滉の様子に、ドルフェスは思わず吹き出してしまった。

「何だよ」

 憮然とする滉を見て、今度は魅羅がけらけらと笑いだした。見た目の雰囲気とは裏腹に彼女は途轍(とてつ)もなく明るい性格らしい。

「とにかく、これから暫くの間、私たちはチームなんだから、仲良くして下さいね。ドルフェスさん」

 ひとしきり笑ってから、魅羅はにっこり笑って握手を求めてくる。

「あ、D・Dと呼んで下さい。ニックネームなんです」

 魅羅に答えてドルフェスがそう言うと、黒い瞳が微かに見開かれた。

「D・D…」

 そう呟く魅羅の後ろから、滉がか細い声を出した。

「魅羅ぁ腹へった。何か喰いに行こうぜ」

「そー言えば私もぉ」

 魅羅はまた、けらけらと笑いだした。



 魅羅を連れてきてくれたセーレォ部長に後のことは任せて、再び走りだしたネプチューンは、空腹の3人を乗せて、レストラン求めて軽やかに走っていく。

 その車内でドルフェスは、血の繋がりという事実を痛感していた。

 滉が良く喋るのは判っていたが、魅羅は父親の2倍は喋りまくる。

 滉の話しにあいづちをうち、アルゴル風の建物が有ると面白がる。飛行船の爆発に巻き込まれて、遠くへ飛ばされ、傷だらけになって帰ってきたトリトンを労わって膝に乗せて撫ぜたり話しかけたりし、かというと、昨日市警本部に置いてけぼりにされた恨み言を滉にぶつける。

 見た目がしっとりとして落ち着いた感じのする分、実態との落差は激しかった。

 ドルフェスは、魅羅の中に、間違いなく滉の遺伝子が伝わっていることを実感した。

──似た者父娘──

 彼はしみじみとそう思った。


「私、滉が25分署に腰を落ち着けた訳が判ったわ」

 ネプチューンの後部シートから、妙に納得した様な声で魅羅が言う。

「何だ? 藪から棒に」

 滉が怪訝な顔をする。

「モセ署長って、モロ滉の好みだもの」

「余計なことをぬかすな、腹が減る」

 不機嫌に答える父親に、からかうような笑みを浮かべて娘は言葉をつなげた。

「だぁってぇ、滉が25分署から帰ってこなくなったから、私、本部署長に散々厭味を言われたのよ。で、誰が御意にかなったのかなって思ってたんだけど、さっき挨拶に行ってなるほどって思ったの。ナディーラって、素敵な人ね」

 最後の言葉はため息をまじえた、夢見るような口調になっていた。

 ドルフェスは一瞬背筋を走ったものが何か判らなかった。

「魅羅、お前…病気が出たな」

 滉が嫌な予感に眉をひそめた。

 魅羅はこっくりと頷いた、目がとろんと潤んでいる。

「勿論よ。滉の好みは私の好みなんだから。私、ナディーラに恋しちゃったわ」

 大量の悪寒が一個師団ほど背中を駆け抜けていった。ドルフェスはシートベルトを握りしめ、恐る恐る魅羅を振り返った。

 花のかんばせを桜色に染めた黒髪の美女は、うっとりとモセの面影を追っている。

「やめとけ、セファートやミドルアースと違ってここはそういう事に偏見がある」

「あら? アルゴル人って、顔さえ良ければ性別も相手の人数も関係ないんでしょ?」

 彼女は不思議そうに首を傾げた。

「そりゃ、昔のアルゴス王家と、それに毒されてる主星の連中だけ。一般のアルゴル人はノーマルなの」

「べーっ、私諦めません。必ずナディーラを振り向かせるわ」

 決意を込めて白い手を握りしめ、天を振り仰ぐ。

 父娘揃って、50年前からの美女に一目惚れしなくても良さそうなものだ、ドルフェスから見れば、外見はどうあれ自分の3倍は年上の女性は、恋愛対象の外にあった。尤も、もしかしたら滉は署長と歳が近いかも知れない。まあとにかく、父娘の趣味はドルフェスの理解を越えている。

 青年はイメージを完璧に裏切っている父娘を見ながら、そっとため息をついた。

「あっ? そういえば、あの狒々親爺、こっちに来てるんですって?」

 忌々しげに魅羅が言う。

「そーだよ」

 同じくらい憎たらしそうに滉が口を歪める。

「ダフネ見つかった?」

 ドルフェスは、ホログラムへ視線を移す。

「お前ね、実の母親くらいお母さんって呼べないの?」

「いいのよ、私が二十歳になったとき、名前で呼び会いましょうねって、二人で決めたんだから。母さんもその方が若返るって言ってたわ」

 平気な顔で魅羅が言い返す。滉は父として深くため息を付いた。

「ダフネの奴、どういう育て方をしたんだろうな」

「滉が居なかったから悪いのよ」

「俺の所為じゃない…」

「そう。悪いのはあの狒々親爺よ。で、昨日何があったのか教えて頂戴?」

 ドライバーズシートの背に手を掛けて、魅羅が身を乗り出したとき、ネプチューンがオンオンと鳴きながら減速しはじめた。前方にレストランの看板が見える。

「ま。飯喰ってから、ゆっくり話してやるよ」

 何となくホッとしたような声で滉が言う。魅羅は又、けらけらと笑いだす。

 ドルフェスは、そんな父娘のやり取りを聞きながら、新たに判明した、魅羅よりも年下の少女に見えるダフネが魅羅の産みの母。というショックを必死になって押さえつけていた。



「何ですってェ!! ダフネが?!あの爺様と?! まさか!!」

 目をつり上げて魅羅が怒鳴る。

 テーブルの上に並んだコーヒーカップやミルクピッチャーが、まるで魅羅の剣幕に怯えるようにかたかたと音を立てた。

 3人はやっとありついた食事の後、コーヒーを飲みながら、ドルフェスが昨日から今朝にかけてのあらましを魅羅に話して聞かせているところだった。

 別に滉が喋りたがらないわけではないのだが、魅羅がドルフェスにばかり訊ねるので、自然ドルフェスが話し手になってしまっていた。そして、飛行船でファントム達が逃げる段にきて、ロフトに乗っていたダフネの姿を話したとき魅羅が怒鳴ったのである。

 明るい日差しを受ける窓辺で、朝日を後光の様に浴びる魅羅は、黒髪を艶やかな紫色に輝かせながら、全身に怒りを漲らせていた。

「D・Dに怒鳴ったって仕方無いだろう?」

 のんびりとした声で滉がたしなめる。魅羅は激しく首を振った。

「信じらんないわ! あり得ないわ!! 正気じゃないわ!!」

 娘の言葉に滉はゆっくりと頷いた。

「勿論正気じゃ無いだろうな」

 魅羅は気を落ち着かせるために、コーヒーを一口飲み込んだ。

「じゃぁ、何らかの細工をされていたって事ね?」

「そうだろう? 正気なら殺されたって一緒に居るはずがない。あの爺ぃ、俺に見せつけるために何かしたんだろうよ」

 黒髪のアース人は眉を寄せて頷いた。

「あいつ滉に嫌がらせするためなら何でもするものね」

 それで納得したのか、魅羅は再び黒い目をドルフェスに向けた。もうさっきまでの怒りは影をひそめてしまっている。彼女は劇的に気分を変える事が出来るらしい。

「でね、その後どうなったんです?本部署からは綺麗な花火が見えたわ。後で飛行船が爆発したって聞いたけど?」

 魅羅の問いに、青年は頷き、爆発のときの様子を話した。

「変なの、あの時、星間通信まで不通になったのよ。飛行船一隻の爆発で空中散布された物でそんな事になるかしら?」

 不思議そうに小首を傾げる魅羅の可愛い仕種に、ドルフェスは少し赤くなりながら首を振る。

「さあ、俺には判りません」

「何も散布されちゃいないだろうよ」

 滉が在らぬ方を見ながらぼそりと呟く。

「え?」

 ドルフェスは滉を見た。アース人はカップを片手にそのままの姿勢で言葉を続ける。

「爺ぃは、穴を掘って逃げたんだ。あいつの奥の手さ」

「そっかー。いつもの手ね。だから電波が混乱したんだわ」

 魅羅が納得したように頷く。

「あの、でも地上にはあの時、もう警官や消防車が来ていたんですよ。どうやって穴を掘ったんです?」

 納得がいかないドルフェスが、かむりを振りながら聞き返す。そんな青年に、今度は魅羅がくすっと笑いながら答える。

「地面には掘らないわ。掘ったのは空中よ」

「はぁ?」

 ますます判らなくなった青年は、ぽかんと口を開ける。

 魅羅はその顔が面白いと言ってけらけらと笑いだした。

「魅羅さん…」

 ジト目になってドルフェスがいじける。魅羅は慌てて咳払いをした。

「コホン。えっと詰まりね、詳しくは私も判らないから、ちゃんとは説明できないんだけど。空中に穴を掘るって言うのは、次元に穴を開けてそこに逃げ込んだってことよ。宇宙船のハイパージャンプと同じかな?」

「惑星上でそんな事できるんですか?!」

「普通なら無理でしょうね。重力場とか何とかややこしいらしいから。でも、あの爺さんなら出来るのよ」

 理屈なんて知らない。と言わんばかりの魅羅の説明に、ドルフェスは混乱しながら取り敢えず頷いた。

「そうなんですか…」

「そうなのよ」

 たたみかけるように魅羅が頷いてみせる。青年はこっそりため息を付いた。

 気のせいかもしれないが、何となく何かもっと別の理由があるような気がした。この父娘は何かドルフェスに隠していることがある。ドルフェスはぼんやり窓を眺めている滉の横顔を見ながらそう思う。

「ミウル・クルム・クルム…」

 その滉が、またぼそりと呟いた。

「何それ?」

 魅羅が訊ねると、滉はやっと二人のほうへ顔を向けた。

「飛行船に書かれていたアルゴル文字だ。D・D、お前さん服屋の名前だって言ってたよな?」

「ええ、ベースでは結構名前の通ったメーカーです」

「知ってる。ニュースで言ってたわ。K・D・Dでしょ? カジュアル・ドレス・ドラマティックだっけ。アース系資本のアパレルメーカーよ。アルファベットをアルゴル文字にして、それをマークにしているの。結構いい服多いわよ、実は私、このスーツ昨日そこの直営店で買ったの、似合うでしょう?」

 ドルフェスの後を取って魅羅が一気に説明する。滉は空になったカップを皿に戻し、やれやれとため息を付いた。

「見た事の無い服だから変だと思ったんだ。お前本部で何やってたんだ?」

 ぼやく父親に、魅羅は唇を尖らせる。

「暇だったの。書類整理が終わったら、後待ってただけだったんですもの」

「ああ、悪かったよ。ところで、その服屋の車が、表の駐車場に止まっている」

 ドルフェスと魅羅は、思わず窓の外を見た。

 先ずとても目立つネプチューンが目に入る、その他は数台の普通の車が止まっている。ドルフェスはその中に、見覚えのある青い車を見つけた。

「あの青い車…」

「流石D・D、伊達に刑事はやってないね。そう、さっき火事の向こうで横道に入った車だ。そして…」

 顔は動かさず、視線だけで後ろを示す。

「あれの運転手が、俺の後ろのほうのカウンターに居る、気づかれるなよ」

 低い声で滉が注意する。

 2人ともさすがに今度はすぐ見るような間抜けた真似は思い止まり、さりげなく滉の顔を見るようにして肩ごしにカウンターを眺めた。

 30程のテーブルが並んだ、ミドルアースのアーリィアメリカン調の装飾をした店内には、朝食の客はそれほど入っていない。背の低い、お碗を伏せたような形のメンテナンスロボットが、清掃と給仕のためにもそもそと動き回っているのが目についた。店の奥にはカウンターバーがしつらえられ、そこにこちらに背を向けて、二人の男が座っていた。

 美貌のアース人は、金褐色の瞳を細めて自分によく似た娘を見る。

「さて魅羅ちゃん。カウンター奥の鏡に映っている顔に見覚えは有りませんか?」

 背後で後ろを向いている男の顔を、振り向きもせずにどうやって見たのか、滉は微笑みを浮かべながら頬杖を突く。

 カップを持ち上げて暫く何か考えていた魅羅は、ゆっくりと父と同じ微笑みを浮かべると、バックから手帳型のシステムコンピューターを取り出した。

 手早く立ち上げると二・三キーを叩き、何事かを打ち込んでいく。

 ドルフェスは、にんまりと悪巧みをするかのように微笑み会う父娘の顔を、交互に見つめながら首を傾げた。



ついに魅羅の登場です。Angel Cryにも、同時登場。見比べてみてください。

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