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4 Memory・Impulsef――記憶の衝撃波――

滉との初仕事

 ドルフェスは、前を歩くアース人から感じている、奇妙な懐かしさに、まだ混乱していた。

 彼が夢の女そっくりだった驚きからはどうにか立ち直ったが、張りのある声や、流れるような動作、良く動く目。赤面ものの気障な所業まで、嬉しくなる様な懐かしさがこみ上げてくる。やはり彼の顔のせいだろうか。

 ぼんやり歩いていると、不意に津川警部が振り返った。

目線は自分より少し高い、夢の女に見下ろされているような気がして変な感じがする。

「…え…? あの…何ですか警部?」

 どぎまぎしながら聞くと、津川はひとなつっこい笑顔で笑いかけてきた。思わず心臓が飛び跳ねる。笑顔もそっくりだった。

「D・Dってのが呼び名だったよな。俺はあきらって呼んでくれ」

「は…アキラですか…?」

「そう、敬語も一切不要にしてもらいてぇな、肩凝ってしょうがない」

 いきなり砕けた調子で喋りだした滉は、また唐突に、じっとドルフェスの顔を覗き込む。

 青年は自分の顔が赤くなるのを感じた。彼は青年の動揺には気付かずに、少し眉をよせて考えていたが、微かに頷いてから思い切ったように問い掛けてきた。

「竜造寺って名を聞いたこと無いか?」

「へ…?」

 目を点にしていると、アース人はまた照れたように笑いながら、自分の言葉を消そうとするように右手を振る。

「いや、何でもない。気にすんな」


 ドルフェスは曖昧な返事をした。竜造寺などという名には聞き覚えはない。だが、その名を聞いた途端に感じたものは、懐かしさと嫌悪感の入り交じった奇妙なものだった。

 アース系人は、ベースシティにはかなりの割合で移民していた。

 ベースシティはアース人によって作られた都市と言ってもいい。

 だから滉の名前が、姓が先にくるアースの一地方の者なのにも違和感は感じなかった。

 しかし、青年が育ったのは首都星トサマール。アース人はトサマールにはあまりいない。青年もアース人のハーフだが、母方の血筋を重んじるアルゴル系の社会では、アルゴルのクォーターとしての意識のほうが強い。

 血筋で優劣が決められる階級制度は、百年以上も前に払拭されているが、やはり、アルゴルの血筋かどうかという事がそこではかなりのウエイトをしめていた。

 それなのに何故、アース人の彼を懐かしがったり、聞いたこともない様な名前に、妙な感情をもったりするのだろう?

──俺はどうかしてる──

 彼は、この妙な感覚を、滉が夢の女にそっくりな所為だと思った。

「…から、連れていってくれないか?」

「え?」

 物思いにふけっていたドルフェスは、滉の言葉を聞き逃した。

「すみません、何でしょうか?」

「君の相棒だったゾルゲ・カスティヨの墓参りがしたいんだ、連れていっててほしい」

 滉は別に気を悪くするでもなく、もう一度繰り返す。

「ゾルゲの? 判りました。郊外だから、少し遠いですよ」

 ドルフェスの言葉に滉はにっと笑った。

「OK、街の観光も一緒に出来るって訳だ、よろしくたのまぁ」



 滉は、自分の車をミドルアースから持ってきてあると言った。

 連合警察機構捜査官の車は、特殊な装備を積んでいるので、出向先の惑星に持ち込む捜査官も多い。

 公務中は全ての税関、入国審査がフリーパスになる捜査官の特権を活用するのである。 

 二人が駐車場へ向かって通路を曲がると、そこにエミーが立っていた。

──う──

 また何か厭味を言われる。

 ドルフェスは、よりによって滉にそれを聞かれるのは嫌だった

 しかしエミーがそんな事に頓着するはずもなく、暫くは出会い頭で驚いていたが、すぐに面白そうに唇の端を引き上げる。

 が、彼女が口を開くよりはやく、滉がエミーの前に進み出た。

「やあ、赤毛の可愛い子ちゃん、俺は君の名が知りたいな」

「エミーよ、エミー・テーラー」

 声を掛けられるのは当然といった態度でエミーは滉を見上げた。

「ここは美人の宝庫だねぇ、署長といい君といい、目の保養になる」

 滉の言葉にエミーはちらりと視線を流す。

「あんなお化けと一緒にしないでよ。で、貴方はだぁれ?」

「俺は滉、ミドルアースから来たんだ。ところで、お近ずきの印に今夜食事でもどう?」

 エミーは、さりげなく髪に絡められた滉の指を、そっと外して微笑んだ。

「考えとくわ、じゃあね」

 エミーは妖艶な流目を滉に向けると、上機嫌でドルフェスの脇をすり抜けて歩いていく。急におとなしくなったエミーの後ろ姿を、青年は狐につままれた様な気分で、見送った。

 滉はもう興味なさそうに歩きだしている。青年は慌てて後を追った。


 エレベーターを下りて地下駐車場に入ると、いきなり嬉しげに吠える犬の声が響いてきた。K9(警察犬)の犬でもいるのかと、ドルフェスが回りを見回していると、滉は彼の背を軽く叩いた。

「俺の犬だ。見てな、驚くぜ」

 まるで悪戯っ子の様な笑いを口許に浮かべて、滉は短く口笛を吹いた。犬の声は一声高く鳴くと、エンジンの動く音がして、それが次第に近づいてきた。音のほうを見れば、真っ赤なスポーツカーが走ってくる、ウインドゥがすべてブロンズガラスのため運転手は見えないが、その車は滉にぶつかりそうな程近くまで寄って停止する。

 そして一声

「オン!!」                                   

 ドルフェスは初め、中に犬が乗っているんだと思った。が、滉がにやにやしながら車のボンネットに手を置くと、再び鳴き声がして、車が前後に細かく車体を揺らしはじめる。

「俺の愛犬、兼、愛車のネプチューンだ」

 明るい色の髪を楽しげに振りながら、滉は車の天井を撫でた。すると、車は甘えた唸り声をたてて左右のドアを開ける。

 その中のシートには、何も乗っていなかった。

「け…けーぶぅ?!」

「滉」

「あ…きら…これは?!」

 滉は、点目の上にあんぐりと口を開けたままの青年を、嬉しそうに眺めていた。

「昔飼っていた犬が死んだんで、その性格を車のコンピュータに移植したんだ。これは便利だぜ。呼べばこの通りすぐ来るし、俺の言うことしか聞かない。おまけに一度走った路は絶対に忘れない。寂しいときは話し相手にもなるしな」

「そーですか…」

 それにしても、なんて派手な車だろう。

 流線型のボディは燃える様なスカーレットを地色に、サイドに金色のラインが2本、後ろにいくほど太くなり、リアは金色になっている。バンパーから下はメタルブラックといった調子で、天井は全面メタルグラスのサンルーフ。

 その前に立つ純白のスリーピースの男は、満面に笑みを浮かべて自慢げに愛車─この場合愛犬と言うべきだろうか─を撫ぜている。まるで何かのポスターかCMの一場面の様だった。

「乗れよD・D、乗り心地は保証するぜ」

 臨時の上司に促されて、ドルフェスはこわごわと助手席に座った。運転席に滉が乗り込むと、ドアは勝手に閉まり、身体に動力炉の振動が伝わってくる。

 まるで犬の呼吸の様だ。まさか、噛みついたり、尻尾を振る機能まであるなんて言うんじゃ無いだろうか。

 滉の悦に入った表情を見ると、訊ねたら頷きそうな気がして、青年は何だか怖かった。

「ネプチューン、ベースシティの地図は覚えたか?」

 元気なお返事と共に、サイドボードのディスプレイにベースの道路地図が浮かび上がる。

「よし、いい子だ。D・D、目的地は?」

 ドルフェスが警察の共同墓地を示すと、地図に赤い点が灯り、ネプチューンは静かに駐車場の出口に向かった。



 地図をインプットされたネプチューンは、正確に墓地への路を進んで行く。お陰で多少暇になった滉は、ドルフェスに矢の様な質問を浴びせた。

 青年には馴染みのない、一風変わった質問の仕方をする男だった。

 まずは例の死神の事から、詳しく何度も同じことを繰り返して、ほんの些細な事も鮮やかに浮かび上がらせる。

 ドルフェスは、再び奴と対峙している様な気分になり、無意識に左腕を撫ぜ始めていた。

「腕痛むのかい? ずっと撫ぜてるけど」

 滉に指摘されて初めて気がつく。そういえば、入院中にアンジェラにも言われたことがあった。手首を切られてからついた癖だと答えると、滉は妙なことを呟いた。

「された事が同じだからかな」

 青年がどういう意味か聞く前に、滉はにっと笑って次の質問に移ってしまった。

「そういえば、署で会った赤毛の女。お前さん振りでもしたのかい? 凄い目で見てたじゃないか」

 いきなり痛いところを突かれて、深くため息をつく。

「冗談じゃ無いですよ。振られたのは俺のほうです。しばらく付き合って、ある日、貴方といてもつまんないから別れましょって、言われてバイバイです」

「それにしては、何か恨みの籠もった視線だったぜ」

「判りません。あれ以来俺の顔を見たら必ず厭味を言うんです」

 困惑した青年を見ながら、滉は同情のこもった微笑みを浮かべた。

「ああいうタイプは執念深そうだから、気をつけろよ」

「なるべく近寄らないようにしています」

 諦めの境地に達した答えに、微笑んだまま頷いた津川は、それから分署内の人間についての質問を始めた。矢継ぎ早に飛んでくる問いに、生真面目に答えながら。ドルフェスはディスプレイの横に小さなホログラフフォトスタンドがはめ込んであるのに気付いた。

 水晶の棒の様なデザインのスタンドの中に浮かび上がった、菫色のワンピースを着た栗毛の少女が、横座りをして微笑んでいる。

 夢の様に美しい少女だった。

 糖蜜の様な栗色の髪は、ふんわりと細い肩をくるむ様にしてまとまり、首や手足、身体の全てが風にも耐えられないのではないか、と思われるほど華奢でほっそりとしている。

 肌は透き通る様に白く、整った細面の小さな顔に、微笑みを浮かべた唇の薄紅色が鮮やかに映え、細い眉の下で、真っ直ぐに滉を見つめる瞳は、身に着けたワンピースよりももっと澄んだ紫色だった。

 白い肌に紫水晶のネックレスが良く映える。精霊とか妖精といった、この世の者では無いような儚く淡い雰囲気をまとって、彼女は幸せそうに微笑んでいる。

 質問に答えるのも忘れて、ドルフェスが少女の姿に見とれているのに気付いた滉は、何故か苦しげに眉を寄せそのまま流れ去る街の景色に目をやった。

 その表情は、ドルフェスが今まで見ていた人懐っこいおどけた笑顔からは、想像がつかないほど苦渋に満ちた、思い詰めたものだったが、それに青年が気付くことはなかった。

 青年は、ネプチューンの淋しげな鼻声で我に返った。慌てて滉を見ると、アース人は今までと同じ人懐っこい笑顔を浮かべて彼を見つめた。

「美人だろ?」

「済みません、お話の途中でぼんやりして」

 詫びる青年に、滉は人指し指でこめかみを掻きながら口を尖らせた。

「D・D、敬語はいらないっていったでしょ?」

「はぁ…済みません」

 生真面目な答えに、滉はため息と共に苦笑いをした。

「ま、いいか」

 再び質問を始めようと口を開きかけたとき、ネプチューンが得意げに二声吠えた。二人は窓の外に目を転じた。アース風の白い墓標が整然と並んだ光景が道路の両側に広がっていた。ベース市警察職員専用墓地である。

 ベースシティの市警察の職員で殉職したものや、退職後希望した人々が此処に眠っている。

 殉職したゾルゲは、家族の希望で火葬にふされ、分骨されて此処に眠っていた。

 ゾルゲの墓標の前で、二人は暫し跪いて黙祷を捧げた。

 黙祷の後、じっと墓標を見つめる滉の、静かで深い光をたたえた金褐色の目を見ながら、ドルフェスは、彼が何故ゾルゲの墓参りをしたい、と言いだしたのか判った様な気がした。同じ警官として、職務中に倒れた彼の仇を討つ。その決意を固める儀式なのだろう。数日前、青年も又同じ様にこの墓標の前で、故人に約束した事を思い出す。

 青年はこのアース人を、顔のことは横において、何だか好きになってきた。彼となら、必ずゾルゲの仇が討てるに違いない。ドルフェスはそう確信した。

「行こうか、D・D」

 顔を上げた滉は、再び明るい笑顔で立ち上がった。

「ゾルゲにお前さんを借りるよって言ったら、半人前だからしごいてくれって言ってたぜ」

 おどけた口調に思わず吹き出す。

「彼なら、きっとそう言うでしょうね」

 冗談にあいずちを打ったとき、いきなり甲高い女の悲鳴が響きわたった。

「?!」

 二人は弾かれた様に、声のほうへ走りだした。

 白い墓標の列を2〜3列横切ると、広葉樹の大木が涼しげな影を広げて立っている。 

 その陰から白い服を着た少女がよろめきながら走り出てきた。少女は二人を見つけると、助けを求めて両手を伸ばした。

「ラウが!! ラウが!!」

 二人の男を見て気が緩んだのか、彼女はそのまま崩れるように膝を突く。

「D・D、その子を頼む!!」

 相棒の肩をパンと叩いて、アース人は少女が走ってきた方へ向かう。

 ドルフェスは少女を助け起こしながら、白いスーツが大木の後ろの坂を駆け降りて行くのを見守った。

「ラウを助けて!! お願い、ラウを!!」

 恐怖に身を震わせながら、少女はドルフェスの服の袖を握りしめた。

「大丈夫、落ちついて。もう安心です」

 しがみつく小柄な身体を、力づけるように抱きしめて同じ言葉を繰り返してやる。小刻みに震えながらも、彼女は小さく頷いた。

 少女の背中を撫ぜながら、青年は滉の後ろ姿を目で追っていた。

 100m程先で、滉は少女を追ってきたらしい5〜6匹のダリルバダス犬に囲まれていた。

 アルゴル原産のこの動物は、性質や飼育目的がアースの犬と良く似ているため、一応犬の部類に入れられているものの、その姿形は似ても似つかない生き物である。

 大きさは子牛ほどもあり、首は長くそのまま先細りの鼻面になる。目は大きく正面に並び、小さい耳は頭の側面に張りついたように付いており、この生物が音よりも視覚と嗅覚に頼っていることを語っていた。

 毛足の長い丸い背中、丈夫そうな前足と後ろ足。鼻から長い尻尾にかけてのフォルムはアースのオオアリクイを連想させるが、ダリルバダス犬の最大の特徴は前足の内側にある一対の手であった。筋肉を前足と共用しているため、前足が邪魔になってたいした力は出せないものの、訓練を受けたダリルバダス犬は、簡単な武器をこの手で扱うことが出来た。

 今も、滉を囲んでいる連中は、何やら四角い箱を抱えている。それがこの犬用のレーザー発生装置ではないかと思って、ドルフェスは背筋に冷たいものが流れる。

 少女を抱き抱えながら、一応パラライザーを構えた青年は、滉の援護をする事も出来ない自分を呪っていた。

 銃刀法の徹底により、凶悪犯罪発生率の比較的低いベースでは、警官も殺傷力のある銃火気を持つことはない。

 犯人の抵抗力を奪うだけならば、パラライザーかニューロロッドで十分だからである。

 勿論、武装した犯人に対処する狙撃部隊もあるが、普通の警官はそんな物を持たない事を自慢にしていた。自分がいかに勇気があるか示せるからだが、今のドルフェスは、20mも届かないバラライザーの射程がもどかしかった。しかし、少女を置いて行くわけにも行かない。青年は口惜しさにきつく奥歯を噛みしめた。

 凶悪な唸り声を発する犬達に囲まれながら、アース人は何を思ったのか銃も構えずに立っていた。

 涼しい風が金褐色の髪を優しくなぶり、日の光を受けてその髪はあらゆる色に反射した。ドルフェスからは見えない彼の表情は、人好きのする笑顔から、剃刀の刃を連想させるような不敵な殺気をたたえた冷酷な微笑みに変わっている。

 彼の全身から、底知れぬ気迫がみなぎり、まるで炎のように立ちのぼった。

 犬たちは、動物特有の感覚で、常人とは違う相手だと判断した。

 遠巻きに取り巻きながら隙を伺う事にして主人の指示を待つ。人間には聞こえない笛の音がして、この男を殺せと命令する。リーダー犬はゆっくりと男の回りを回りはじめた。

 冷たい微笑みを更に深めて、滉は目だけでリーダー犬の動きを見ていた。

「俺は殺生はしたくないんだが、お前の飼い主は酷い奴だな」

 そういいながら軽く目を閉じる、全身にみなぎっていた殺気が少し弱まった。犬たちは一斉にレーザーのスイッチを入れた。

「ヴァォ!!」

 2〜3匹の犬が、向側の犬のレーザーに撃たれてのたうち回った、標的の男が高く飛び上がり光線を避けたからだ。男は着地と同時にリーダー犬に向かって走り、再び跳躍して踵で犬の後頭部に飛び下りた。

「ギャヴ!!」

 白い泡を血とともに吐きだして、犬は四肢を痙攣させながらもんどりうって転がる。リーダーを討たれた犬たちは、四散する代わりに一斉に滉に襲いかかった。

「殺生ばかりさせやがる!!」

 一声叫んだ滉は、V字型にした指で一番近くの犬の目を突き、それを力点にして回転するように飛び上がり次ぎにきた犬の鼻面を両足で蹴る。

 骨の砕ける音と共に声も上げずに絶命した犬の身体を踏んで、高く飛び上がると、飛びかかってきた2匹に蹴りと手刀で応酬する。

 勝負は一瞬のうちに終わっていた。

「可哀相に……酷ぇことさせやがって」

 犬好きの滉は、心から自分が殺した異形の犬たちを哀れんだ。

 ふと見ると、レーザーに足を撃ち抜かれ、気を失っていたらしい1匹がよろよろと立ち上がって元来たほうへ歩き始めていた。犬に気付かれ無いように気配を殺してそっと後をつける。

 しかし、犬の持っていたレーザー発射装置が青白い火花を吹き出すといきなり爆発した。悲鳴を上げる暇もなく、犬の上半身が吹き飛ぶ。

 明らかに、犬が帰ることで居場所が知れることを恐れる何者かに自爆させられたのだ。同時に後ろの犬たちの死体も次々に爆発する。証拠湮滅の為に違いなかった。憤怒の形相で滉は犬が向かっていた方向を睨み付けた。

 腕時計に仕込んだ通信機のスイッチを入れると、愛犬の元気な返事がかえってくる。

「ネプチューン、レーダーでこれから墓地をでていく車を見張れ、そいつがいたら、トリトンで後を追え」

 ネプチューンは心得たと言わんばかりの返事を返した。通信を切り、その手で髪をかきあげようとして、指が血糊で汚れているのに気づき顔をしかめる。

「犬ってのは、こんなに可愛いのに、酷い奴だ」

 一片の愛情も持たない主人によって、ただの殺人機械に仕込まれた犬たちの不幸を、滉は本当に哀しんでいた。


 ドルフェスは、素手で犬の群れを倒したアース人の姿を驚嘆の眼差しで見つめていた。それは少女も同じらしく、初めは恐ろしさで目を向けていることも出来なかったが、犬たちが倒れると、安堵とも感嘆ともつかないため息を一つした。

「凄い、あの人…」

 そう呟くと、太陽光を7色に乱反射する髪の男を、うっとりとした眼差しで見つめる。

 少女を助けて立ち上がると、滉が大きく手を振った。それに答えて手を振り返した時、青年はデ・ジャヴを感じた。

──前にもあった?──

 滉と同じ事をした。此処じゃない違うところで、同じような状況で。

 相手すら特定できる強烈なデ・ジャヴ。

 ドルフェスは自分の中に今までと違う記憶があることに戸惑いを感じていた。




ドルフェスを、流れが捕らえました。

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