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2 OUR・TIME ――今は…――

ベースシティの闇に潜むもの


 数多くのアース系人が密かに誇りに思っている事は、ミドルアース無しでは現在の銀河の平和はあり得なかったか、100年は遅れていたに違いないということである。

 かつて、銀河には300以上のヒユーマノイド、非ヒユーマノイド型知的生命体と、100ほどの惑星国家があり、文化、文明、科学、そのどれを取っても当時の地球・太陽系が太刀打ちできる相手ではなかった。

 テラ暦094年、《西暦で200X年を元年とした新地球暦》

 惑星国家として統一を果たし、やっと兄弟星達に小さな足掛かりをつけて、母星太陽の見守る庭にそろそろと這いだして来たばかりの地球人達にとって、銀河の先輩達はその存在すら信じられない未知のものであった。

 そんな世間知らずの幼い地球は、いきなり、セファート王国と、アルゴル帝国という銀河を2分する超大国同士の全面戦争に巻き込まれたのである。

 だが、数々の星系国家が民族ごと滅んでいったこの大戦の中で、地球は、奇跡ともいえる特別待遇をうけた。

 ある偶然により、セファート王家の第一王位継承者ソーラ・アイ・セファートと妹姫ソーロ・コーカ・セファルトァが地球に身を寄せていた事と、アルゴル帝国第13王位継承者アルタイル・アルナスル・アルゴスがソル系討伐軍の副官として《司令官は、彼の兄アルファルド・アルナスル・アルゴスであったが戦死している》地球攻撃をおこなった事によって、地球は奇跡と平和の星に輝く幸運を手に入れた。

 ソーラ・アイとアルタイル・アルナスルはこの地で単独の和平協定を結び、それぞれ自国へ帰還をはたすと、ソーラ・アイは自国の全てを王と後継者だけが持つ特殊能力「ロゴス」で包み、防衛以外の攻撃を停止した。アルタイル・アルナスルは、父アルゴル帝を暗殺、アルゴル帝国崩壊という強攻策で戦争に終止符をうった。

 地球はまったくの新参者にもかかわらず、この和平協定の仲介人として大きな位置を占めるにいたった。

 その後、多星系共和国家として新生を果たしたアルゴルと、新王をかかげたセファート王国。テラ国から馴染み深いアースと名を変え、独自に発達した経済理念を銀河内に普及せしめたために、急速に力を伸ばした地球の3国家によって銀河連合が結成された。旧テラ暦104年の事である。

 旧テラ暦310年、銀河標準年206年現在、アース人は銀河全てに広がっている。



 『市内パトロールに緊急指令、繰り返す、市内パトロールに緊急指令。トルファルガー地区26にて通報、付近巡回中のパトロールは速やかに現場へ向かわれたし。』

「32号、これより現場に向かいます。」

 インターコムにゾルゲが答えると、ディスプレイに付近の地図が転送されてくる。

 それを横目で見ながら、ドルフェスはアクセルを踏んだ。

「おっといけねぇ、煙草(たばこ)きらしちまった」

 ポケットをまさぐってゾルゲが顔をしかめる。

 その前に、ドルフェスは煙草の箱を差し出した。

「これでいいかい?」

 ゾルゲは嬉しそうに笑うと、両手で拝むようにして受け取る。

「ありがとよ、何時も済まないねぇ」

 いそいそと封を開けながら、ゾルゲはドルフェスを見た。

「ところで、お前、煙草呑まねぇのに何で何時も持ってるんだ?」

 青年が、少し照れくさそうに笑う。

「俺の親父が、物凄いヘビースモーカーだったらしいんだ、それを聞いてから、何となく持ってると落ちつくんだ。ま、お守りみたいなもんかな」

「ふぅん、悪ぃなお守りもらっちまって」

ゾルゲは美味そうに煙を飲み込みながら、しげしげと箱を眺めた。

 アース語とアルゴル語の書かれたパッケージ。

「アース製か…シャイニング・ライト、軽い奴か…いや、違うな、輝きの光? 眩しい名前だな」

「名前が気に入ってね。たっぷり吸っとけよ、もうすぐ現場だぜ」

「あいよ」



 トサマール太陽系は、ミドルアースと仇名される地球を含むソル太陽系より、銀河系を挟んで反対側の中心部に近い部分にある。

 新生銀河暦206年の現在、アルゴル連邦に加盟する2億の星系の一つとして、160億の人口を抱えた星系国家となっていた。

 そして今トサマールは、その歴史始まって以来の1大イベントを迎えようとしていた。

 銀河標準年5年ごとに開かれる、先進国首脳会議。アースの古い言い方で言えば銀河サミットがこの地で行われるのである。

 3連合と呼ばれるセファート、アルゴル、アースを筆頭に、40ヵ国もの星系国家の首相が一同に会し、今後の銀河連合の有り様や方針を話し合う。

 この会合の舞台に選ばれる事は、即ちトサマールがアルゴルの主要国の仲間入りを果たした証拠であった。

 そして副首都星であるここコーチも警察の警備力の強化が計られ、商業都市ベースシティも又、近年にない安定した治安を保っていた。

 サミットを6ヵ月後に控え、ベースシティの警察もまた、フル稼働の毎日である。


 トルファルガー地区は惑星内線の空港があり、大部分の区画が倉庫街になっている、普段から人気のない場所である。

その倉庫の狭間でドルフェスとゾルゲは、吐き気を堪えながら現場の確認作業にあたっていた。

 わずか1mほどの路は、赤いペンキをぶちまけた様な有り様で、その所々に千切れた指や足、どこかの骨、肉のついた布辺が転がったり、壁に張りついていたりと、凄まじい光景である。

「スプラッタだな。」

 ゾルゲはオレンジ色の肉片を踏みかけ、それが舌と気が付いて身震いする。

「通報者はここの警備員、被害者は同僚らしい。二人で巡回中、不信な物音を確かめるため一人がここに入ったんだそうだ」

「そんでギャー!!ときて、飛び込んでみたら相棒はアートになっていたってわけか」

 ドルフェスの報告に、ゾルゲは茶化した様な言い方で答えた。あたり一面から立ちのぼる、乾きかけた血液の鉄臭い臭いで、そうでもしていなければ吐きけがこみ上げてくる。

 ドルフェスにもゾルゲの気分がよく判った。

 恐らく、彼の頭にも酔いどれレイフのよた話がぐるぐると走り回っているに違いなかった。青年は首を振ってそんな考えを振り払った。世迷い事を考えている暇はない。

 ドルフェスは指輪がはまったままの指が、一本転がっているのを見ないふりしている相棒に声をかけた。

「鑑識はいつ来るって?」

 ゾルゲがドルフェスに振り返る。

「もうすぐだ。ルーシー通りで渋滞に引っ掛かってたらしい」

「まだここに居なくちゃならないのか…勘弁してほしいな」

 ドルフェスのぼやきに、ゾルゲは首をすくめた。

「ま、巡り合わせってもんだ」

「俺って不幸」

 青年のため息にゾルゲが笑いかけたとき、通路の奥を青白い何かが横切った。

「!?」

 ドルフェスは腰からニューロロッド(電圧衝撃機能の警棒)を引き抜いた。ゾルゲはパラライザー(麻痺銃。小さなチップを打ち込み遠隔操作で高電圧を掛けて動きを止める)を構えて、既に血ノ池地獄を飛び越していた、倉庫の壁が途切れた所で壁に背を付け、胸元で銃を構える。ドルフェスが追いつくと、彼は顎で、二人がいる通路よりも更に狭い、倉庫と倉庫の隙間を示した。その隙間から何とも言えない妙な呼吸音がしてくる。

 犬が喘いでいる音を、少しゆっくりにしたような、動物的な音だ。

 ドルフェスは、野良犬かと思った、さっき見た物の大きさが無ければ、二人ともそれで納得したはずだ。

 青年は、あれは見間違いだと思いたかった。眼の隅で、ほんの一瞬浮かび上がったものは、高さが2mはある巨大な四つ足の何かだった。

 バイオクリーチャー。

 ドルフェスの頭に、酔いどれレイフの与太話が現実味を帯びて蘇った。

 倉庫街や港に、3〜4mの大きさはある妙な生き物が出没して、浮浪者や野良の動物を食べている。何処かの阿呆がDNA をいじったペットをもてあまして街に放したらしい。そんな、愚にもつかないような話が、本当の様な気がしてくる。

 ふと、呼吸音が小さくなりだした、足音は聞こえないがゆっくりと遠ざかっている。ゾルゲとドルフェスは視線を合わせると頷きあった。

 パラライザーを構えたゾルゲが、先に隙間に向き直り、ワンテンポ遅らせてドルフェスがニューロロッドを蒼くスパークさせて突き出す。

 電磁光に照らされて、薄暗い隙間にぼんやりと浮かび上がった影は、青白い光沢のある毛皮に包まれた生き物だった。そして、その生き物はいきなりぐうっと伸び上がったかとみるまに、白い風が二人の前を下から上に吹きぬけた。

 …青年は、自分の両手がニューロロッドを握ったままくるくると回りながら宙を飛んで行く様をを呆然と見つめていた。

 時間が物凄くゆっくりに感じられた。

 手の飛ぶ先をみていた彼は、青白い生き物の青紫色に脈動する双眸とぶつかり、暫く見つめあう。

 青紫色の金属といえばいいのか、腹の底から震えが来る様な、冷たい、しかも知性の宿った眼。それは、ドルフェスに向かってニヤリと歪んだ。

 背筋を冷たいものが伝う。

 相手の眼に残忍な光が浮かんだ、ドルフェスは死を感じた、が、その時死神の青紫色の眼に何かが突きたった。

 血も凍る様な悲鳴があがり、呪縛は解け、時間が正常に動きだした。

 途端に視界が赤く塗りつぶされる。

 それが自分とゾルゲから吹き出している血だと気付くのに少し時間がかかった。手首から先を飛ばされた両腕に激痛が走る、急な失血のために意識が遠くなっていく。

 ドルフェスは死神の姿をかすれかけた視界の中で追いかけた。

 奴は左目に突き立った何かを必死で取ろうとしていた、まるで猫が顔を洗うような仕種になっているのが妙にユーモラスに見える。

 ドルフェスは生き物の目に刺さっているのが、自分の両手が握りしめたニューロロッドなのに気がついた。自分の手が死に神の目の上でぶらぶら揺れているさまを見るのは、何とも変な感じだった。

 スプラッタムービーでこんなのを見たな。ぼんやりとそんな事を考える。

 心臓の音が耳のなかでドンドンと響いているのを感じながら、青年はゾルゲと自分の血の海に、ゆっくりと倒れこむ。

遠くからサイレンの音が響いてくる。

だが、ドルフェスにはもう聞こえなかった。




今回は背景説明。緩長ですみません

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