一人ぼっち
「ヒトカラなんて久しぶりだなあ」
部屋番号は23番。バイトのことなんて忘れて、軽い足取りで2階へ上った。
コップにたくさん氷を入れて、あったかいココアを注ぎ込む。カラオケ来たらココアに限るっ。
(ねえ、あれ実香じゃない?)
私の後ろから小声で話す声が聞こえてくる……
(うそ、ちょっと……どうしよう)
『どうかした、歩美、彩花?』
後ろを振り向くと、よく知っている二人ともう一人、見覚えのない男の子が立っていた。
「……歩美……彩ちゃん?」
「実香……奇遇…ね」
私が振り向くと同時に、歩美が目を背けた。
「歩美……今日用事があるんじゃなかったの?」
「………………」
どうして黙って下向いてるの……何か……何か言ってよ。
「ねえっ!」
「…んど……なっ……よ」
声が小さくて聞き取れなかった。けど、なんとなく……なんとなく歩美が震えているのが分かる。
その後すぐ歩美は顔を持ちあげて、貫かんばかりの鋭い目で私の目を見てきた。
「面倒になったのよ!あなたと付き合っていることが」
「……えっ……どういうこと?」
「言葉の通りよ」
「……そんな、歩美っ」
「実香は自己中なのよ。私たちが意見しても、最後は強引にでもあなたの考えに付き合わされて……もう嫌なの、こんなの」
「……彩ちゃんも……歩美と同じ考えなの?」
今にも溢れ出しそうな涙を堪えて彩ちゃんに聞いてみた。答えを聞くのはとっても怖かったけど、聞かなかったら今後辛くなるだろうし、後悔すると思ったから。
彩ちゃんは俯いたまま何も言わなかった。
「やっぱり、そうなのね……もしかしてさっきの私の電話、気付いてた?」
彩ちゃんがコクッと小さく首を縦に振った。
「そう……」
気付いていて出なかった。無視されたんだ、私。
その応答を見て、いよいよ耐えられなくなった私は勢いよく階段を駆け降りた。人前で涙を見せたくないっていう私のプライドを守るため。そして何より、あの場にいたら今にも爆発しそうな怒りのようなこの気持ちを落ち着かせるために。
『実香、ごめんね』
階上からかすかに聞こえてくる彩ちゃんの声も今の私には届かない。
友達だと思っていた二人の、私に対する本当の気持ち。高校の頃くらいからクラスで浮いてて、みんなとも仲良くできなかった私。こんな私を友達として見てくれる人がいるって、大学に入って、二人に会って思った。すっごく嬉しかった。なのに……結局は今までと何も変わらない。
また一人ぼっちだ……
階段を下り、投げ出すようにお金を置いてカラオケから出て行った。