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スクルートとキホテール  作者: てんきどう


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1/3

1.出会い

軽く読めるファンタジー短編です。


正反対の二人が出会ったら、きっとこうなる。

そんな物語を書いてみました。


疲れている時でも、少しだけ楽しんでもらえたら嬉しいです。


「君はクビだ。スクルート」


 突然の宣告だった。


「なぜですか!? 私はルールをちゃんと全部守っています!」


 スクルートは突然解雇宣告を受けた。一生懸命勤めてきた田舎の騎士団からの残酷な宣言だった。


「苦情が殺到しているんだ。君があまりにも厳格すぎてノイローゼになる者が続出していると! これは隊全体の総意だ!」


 どうやら、スクルートが注意をしてきた団員達が、団長に苦情を訴えたらしい。


「後悔しますよ…! ルールを守れない奴等の言うことを聞くなんて。退職金と未払い賃金と解決金は1ルピー損なうことなく払ってくださいよ!」


 団長は疲れたように頷く。

 スクルートはクビになってしまった。


「私は隊の規律を守るために、全員のルール違反を締め上げたのに、報酬金を貰えるはずがクビとはな。やはり田舎の騎士団は駄目だ。

 そうだ。首都へ行って騎士団に応募しよう。あそこなら、もっともルールに厳しく給料もいいはずだ。しかし、首都までは魔物も出るから、一人だと危険だな。怪我をして就職に不利になるのは機会損失のリスクだ。

 しかし、金は使いたくない」


 スクルートは冒険者ギルドに行くと、もっとも安い料金のFランクの魔法使いを雇うことにした。

 ところがスクルートの悪名は高く、片っ端から依頼を断られてしまったのだ。


 酒場で最も安い水をチビチビと飲みながら、スクルートは困り果てていた。

 ふと、酒に酔って盛り上がる人達の声が、隣のテーブルから聞こえてきた。


「キホテール、おまえ一人で王都まで旅をするって本気かよ!?」

「ああ。王都には不思議な魔道具や書物がたくさんあるらしいんだ。一生に一回は行ってみたい。考えるだけでワクワクするよ」

「無茶だぜ。やめときな。魔法使い一人で行けるわけない」

「俺は一人じゃないぜ。優秀な精霊達も仲間についているんだ」


 スクルートがキホテールを見ると、小さな光が3つ、彼の周りを疲れたように漂っている。


(精霊の加護もちの魔法使いか。実力はありそうだ。……うまく行けば、金を払わずに旅の道連れにできるかもしれない)


 スクルートは立ち上がると、キホテールに声をかけた。


「失礼、偶然話が聞こえてきたんだが、私の名はスクルートだ。私も王都へ旅をするんだ。よかったら一緒に行かないか? 私は騎士団出身だ。腕には自信がある」

「騎士団って……堅物な奴と一緒に旅したら、俺が自由に動けないじゃないか」


 キホテールという男は、頭に寝癖はついたままだし、どうにもだらし無さそうだった。スクルートは注意したくなるのを必死で我慢した。


「まあ待てよ。キホテール。旅は道ずれっていうだろ。彼と一緒なら、俺達も安心して送りだせる。一緒に行ってやれよ」

「ええー……嫌だなあ。だけど、おまえ達が出発させてくれないのも困る……分かったよ。俺はキホテール。魔法使いだ。ヨロシク」


 差し出された手は汚れていた。スクルートは後で手を洗おうと心に決めて握手したのだった。


 全く正反対の二人の旅が始まることになった。




 旅立ちの待ち合わせにキホテールは遅刻してきた。

 スクルートの眉間に皺がよっている。


「悪い悪い。荷物纏めるのに、思ったより時間がかかっちまった」

「……なぜ前日に準備を整えておかないんだ?」

「しょうがないだろう? 思いついた魔法公式をメモしてたら朝だったんだから」

「しかも、長旅の出立に寝不足とはな……」


 スクルートは目眩がしてきた。

 しかしキホテールは気にしない。


「この精霊達は俺の家族だ。左からノウ、ヨウ、ウチ。よろしくな」


 キホテールは、すり寄ってくる精霊達にくすぐったそうに嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 スクルートは感じたことを言ってみる。


「名前なんて無駄じゃないのか? 1と2と3でいいだろ」


 キホテールは、うすら寒い信じられない言葉を聞いた。


「はあっ!? おまえは家族を数字で呼ぶのか! 狂ってやがる……」

「家族なぞ、金の無駄遣いしかしないではないか。結婚したら1日で出ていったぞ。全く式代の損失はでかかった」


 スクルートの苦い思い出だ。結婚前に分かっていれば式にかかった費用を節約できたのに。


「……信じられん。本当に数字で呼んだのか。そりゃ出ていくよ……。本当に人間か?」


 キホテールは、ホラー話を聞かされた気分になってきた。


「私ほどまっとうな人間はいない。ルールを守れないクズばかりだ」


 キホテールは激しく後悔した。スクルートが絶対に旅の道連れにしたくないタイプだと分かったからだ。


「もういい。とにかく出発しよう。……王都までだからな」

「同意する。王都までだ。金の節約になるからな」


 しばらく二人で歩いていると、雨が降ってきた。

 大きな木の下で無言で立ち尽くす二人。

 やがて雨が上がると、美しい二重の虹が天空にかかった。

 キホテールは虹を見つけて大喜びだった。


「スクルート、見ろよ! 虹だ! 綺麗だなあ。虹の着地点に行ってみようぜ。おまえの好きな金が埋まってるって話だ!」


 スクルートは虹をチラッと見て認識する。


(虹か。久しぶりに見たな。空を見上げるなど天気の確認以外意味はないが。まあ少しは綺麗かもしれん。売れたら金にはなるだろうな)

「無駄だな。王都へ向かった方がいい。」


 キホテールは、その言葉を聞いて怒り出した。


「つまんねえ!」


 スクルートも言い返す。


「無駄な提案が多すぎる!」

「情緒がないのか、おまえはあ!」

「合理的なだけだ」


 しばらく言い合いをすると、キホテールが折れた。


「今日はもう寝よう。俺が見張りでいいから。これ以上聞くのが怖くなってきた」

「そうか! おまえが言い出したんだから、後で余計な食費を請求するなよ」

「しないよ。ああもう全く……こんな気分じゃ悪夢を見そうだからな」


 ウキウキと寝袋に入るスクルートを見て、キホテールは深いため息をついた。




 旅の途中で、二人はある村にたどり着いた。

 村の者達は怯え、困った顔をしている。

 村長らしき男がスクルート達に話しかけてきた。


「旅のお方。お二人はお強いようにお見受けいたしました。どうか村の危機をお助け出来ないでしょうか。魔物が村の近くまで来て、畑作業が出来なくなってしまったのです」

「報酬はいくらだ? 報酬がなければ力は貸せない」


 速攻でスクルートが答えた。

 キホテールは、彼の言葉を聞いて焦った。


「助けてやろうよ。報酬の話は後でいいじゃないか。見ず知らずの俺達に頼むなんて、きっと凄く困ってるんだよ」


 スクルートは冷たくキホテールを見ると言った。


「おまえは、それでいつもすぐ倒れて寝込むじゃないか。昨日も怪我した鳥を助けたり魔法を無計画に使って、旅の予定が遅くなった。おまえが依頼した旅の護衛だっならば、とっくに身ぐるみ剥いで道中で捨てている」

「おまえは魂を悪魔にでも売ったのか!」


 スクルートはキホテールを馬鹿だと思った。そんな事をするわけがない。しかし、自分は優しく親切な男だ。青ざめているキホテールに親切に教えてやることにした。


「ふん。悪魔に願い事一つで魂を売るなど割にあわんことはしない!」

「割にあったら、売るのかおまえ……」


 二人のやり取りを聞いていた村長が、勇気を振り絞るように話しかけてきた。


「あの……この村は貧しく物々交換が主なのです。食料と寝床なら提供できます。それで魔物退治をお願いできないでしょうか」

「そうだな。男二人分の食料と柔らかい寝床を頼む」

「スクルート、村の人達が困っているなら無償でもいいんじゃないか」


 スクルートはキホテールの言葉を聞くと、怖い顔をして彼の首の後ろを掴み、村人に声が届かない所へ引きずっていった。

 声を低くしてドスを効かせて、キホテールの耳元で囁く。


「馬鹿者。「善意の搾取」という言葉を知らんのか。癖になる。いつか彼等から、人が離れていくようになる」


 精霊達の光もスクルートに賛同するように頷いていた。確かに、貧しくとも食料や宿泊を提供できないほど困っていないらしい。


「……分かったよ。今回はおまえが正しい」


 キホテールは家族のような精霊達に弱い。スクルートの言うことはムカつくが、今回は精霊達の顔を立てることにした。

 そして、二人は魔物退治に出かけた。

 魔物を見つけると、スクルートが魔物の注意を引き付けて、キホテールが攻撃魔法を放つ。キホテールの魔法の威力は凄まじく、魔物は一瞬で消し炭になった。

 その直後、魔法を連発したキホテールは倒れた。


「ペース配分の下手な奴め」


 スクルージはキホテールの体を担ぎ上げると、村で提供された家のベットにキホテールを運んだ。

 キホテールの周りを、精霊の光が心配そうにとんでいる。


「おい、123」


 スクルートが精霊を数字で呼ぶと、トゲトゲした光になってスクルートの元へ飛んできた。


「キホテールの回復する食べ物を教えろ」


 スクルートはキホテールの口に、精霊が教えた食べ物を突っ込んだ。


「甘い……?」

「ゆっくり噛んで飲み込め。早く回復しろ。明日の朝には出発する。貧しい村に食い扶持を増やすな」


 スクルートは、なぜか暖かい飲み物もキホテールの口に突っ込んできた。


「飲め。回復が早くなる」

「ありがとう…」

「回復の時間短縮だ。早く寝ろ」

「……了解。隊長……」

「嫌味か。私は隊長に昇進できなかったんだ。なぜか人望が無さすぎると言われた…」


 スクルートは当時を思い出して、不安そうな顔になった。ルールを守ることは安全で心地よく正しいことのはずだ。それなのに上手くいかない。子どもの頃は暗記と計算が出来れば神童とチヤホヤされたのに。


 スクルートは鞄から紙の束を取り出した。今までかかった費用と食料を再確認する。それがスクルージにとって一番安心できる行為なのである。


「うむ。全て予算内で予定通りだ。完璧だ。美しい。村の滞在も予定範囲内だ。ウヒヒヒ」


 そんなスクルートの姿を、キホテールは呆れながら見ていた。


(俺もよくやり過ぎるけど、こいつも大概だな。……悪人ではない…多分…いや少しだけ…気のせいかも…)


 キホテールは魘され始めた。

 精霊のノウがパシパシと彼の頬を叩く。


『主、考えすぎ。それでは休めない』

『今は何も考えずに休むべき。明日もある』


 ウチとヨウも同意する。


「そうだな。今は休むよ。明日動けなかったら、スクルートに怖い顔で説教されるだろうな。可愛い女の子ならいいけど、オッサンに説明される趣味はない…」

「なにか言ったか?」

「おやすみって言ったんだよ」

「ああ、おやすみ」


 静かな月夜が穏やかにふけていった。



 村人達に見送られて出発した二人は、今日も喧嘩をしていた。


「ルールは絶対だ! 疑うなんて無駄な行為だ!」

「そのルールは何の危険を回避する為なんだ!? 説明できないおまえは馬鹿なんじゃないのか!? もういい! おまえには付き合いきれない!」


 キホテールは、くるりと背を向けると森の中へ入っていった。


「待て! キホテール! 無計画に行動するな!」


 キホテールは彼の言葉を無視して、森で薬草や食べ物を見つけたり探索を楽しんだ。


「ああ、自由っていいな」


 晴れ晴れとした気持ちで地面に寝転がろうとした時だった。藪の中から魔物が出現して襲ってきた。

 キホテールは慌てて魔法で魔物を倒したが、体調を崩して動けなくなってしまった。昨日の疲れが残っていたらしい。


「油断しちゃったなあ…。スクルートがくれた甘い物が食べたい。あいつ、怒って先に行っただろうなあ」


 キホテールは倒れたまま、スクルートを思い出した。彼の周りを心配して飛びまわっていた精霊の一人が、スクルートに助けを求めて飛びたった。


 スクルートは悩んで、森の入り口で座り込んでいた。


「私は間違っていない。ルールは絶対だ。実家でも学校でもそうだった。……それなら何故、私は評価されない? 何故、皆私から離れていくんだ…? 昔はうまくいっていたのに。どうしたらいいか分からない…」


 突然、精霊が飛んできて服をひっぱった。

 スクルートはキホテールの危険を察した。


「あの馬鹿者! また無計画に魔法を使って倒れたな! まったく世話のやける……」


 スクルートは精霊の後を追って駆け出した。間もなく倒れているキホテールを発見した。手早く彼を手当てしながら、スクルートは説教を始めた。


「どうして、ペース配分して魔法を使うというルールが出来ないんだ!」

「魔法はイメージで使うんだ。最初にルールを考えたら上手く使えないんだよ……」

「それはまた、ルール化しにくい代物だ。再現性も低い。たが希少な能力だ」

「古代の人間は皆、魔法が使えたって伝承がある。最初にルールばかり考えるから使えなくなったのかもな」

「……考えたこともなかった。いやだがルールがあるから、世の中円滑にまわるんだ」

「……まあ、おまえのおかげで助かったことは認める…。ありがとう」

「私もおまえの有用性は認めよう。非効率的な奴だが」

「言い方が酷すぎる。おまえは結果しか理解できないのか!」

「結果から計算することが効率をうむんだ。……いや私も少しは悪いのだろう。私が人と上手くいかないのは事実だ……。仲直りしよう、キホテール。王都に着くまでは、おまえを大目に見よう。野生動物のように非効率だが」

「俺に変なレッテルを貼って納得するな! 気持ち悪いんだよ! だがまあ、助かった……。また一緒に旅をしてくれ……」


 キホテールはスクルートに手差し出す。スクルートとキホテールは、いやいやながらも握手をした。

 顔は、お互いに明後日の方向を向いている。


 認めたくはないが、お互いに助け合うことになった。

 スクルートは、キホテールの不可解な魔法のおかげで魔物退治ができたのだ。安全だと信じきっていたルールも魔法は生み出せない。

 しかし、型破りなキホテールといるとイライラする。


 キホテールは計算が苦手だ。スクルートがいなければ、今頃倒れて魔物に襲われていただろう。道中の金の計算も助かってはいる。

 しかし、杓子定規なスクルートといると息がつまって仕方がない。


((王都までの我慢だ……!!))


 お互いにひきっった笑顔で、彼らは力強く手を握りあう。


「王都までは仲良くしようじゃないか、キホテール。ははは」

「そうだな。王都までだ。王都に着くまでな。ははははは」


乾いた笑いが、風が荒れ吹きすさぶ天空に響きわたっていった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は「合理主義」と「直感型」のぶつかり合いをテーマにしています。

どちらが正しいというより、どちらも極端だと大変そうだなあ…という視点で書きました。


もし気に入っていただけたら、次の話もゆるく続けていく予定です。


スクルートとキホテール、どちらに共感しましたか?


あるいは「この二人、ここが好き/苦手」など、気軽に教えていただけると嬉しいです。

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