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第3章:最初の武器 『未来議会』

『チーム未来』が「五つの誓い」を掲げてから、一ヶ月。

世間の熱狂は、徐々に「で、彼らは一体何をするんだ?」という、期待と、少しの疑念が混じった視線へと変わり始めていた。このままでは、ただの意識高い系集団として、忘れ去られるだけだろう。旧世代の政治家たちは、そう高を括っていた。


安野は、その空気を読んでいた。

そして、彼らが最も油断しきったタイミングで、第二の爆弾を投下した。

それは、テレビ局のスタジオを借りた、大々的な記者会見ではなかった。平日の夜9時。一本の動画配信。安野、夏目、羽生の三人が、自分たちのオフィスの、あのホワイトボードの前から、国民に直接語りかけるという、極めてシンプルな形だった。


「皆さん、こんばんは。『チーム未来』の安野貴です」

配信が始まると、安野は、いつものように淡々と、しかし、その瞳の奥に確かな熱を宿して語り始めた。


「これまで、皆さんと政治との関わりは、どうだったでしょうか。数年に一度の選挙で投票する。あるいは、地元の政治家に陳情し、お願いをする。そのどちらかではなかったでしょうか。それは、あまりにも一方通行で、あまりにも断続的です」


「私たちは、それを、根本から変えたい。政治を、一部の専門家や、声の大きい人たちだけのものではなく、この国に暮らす、全ての人のものにしたい。そのための、私たちの最初の答えが、これです」


安野が、隣のモニターを指差す。

そこに、洗練された、しかし極めてシンプルなデザインのウェブサイトが映し出された。


『未来議会』


「『未来議会』は、国民の誰もが、いつでも、どこからでも参加できる、オンライン上の国会です」

夏目が、その機能とデザインについて説明を始めた。彼女が監修したサイトは、およそ政治とは思えないほど、直感的で、親しみやすいインターフェースを持っていた。


「ここで、皆さんは、自らが解決したい課題や、実現したい未来について、自由に政策を『提案』することができます。例えば、『近所の公園に、もっと遊具を増やしてほしい』という身近なものから、『日本のエネルギー政策をどうすべきか』という大きなものまで、テーマは自由です」


続いて、羽生が熱っぽく語る。

「そして、他の人の提案に『賛成』の票を投じたり、コメント欄で『議論』したりすることもできます。皆さんの投票によって、どの政策が、今、この国で最も求められているのかが、リアルタイムで可視化されていくのです」


安野が、最後を締めくくった。

「私たち『チーム未来』は、この『未来議会』で、最も多くの支持を集めた上位3つの政策を、次の国政選挙における、最優先の公約として掲げることを、ここに約束します。総理大臣でも、党の幹部でもない。この国の政策を決めるのは、主権者である、皆さん自身です」


配信の最後に、サイトのURLが表示された。

その瞬間、日本中のスマートフォンやパソコンから、何百万というアクセスが、たった一つのサイトへと殺到した。


『YATAGARASU』のサーバーは、悲鳴を上げながらも、その凄まじい負荷に耐え抜いた。

SNSは、お祭り騒ぎになった。


「面白すぎる!」「俺たちの声が、本当に届くのか!」「とりあえず、消費税減税を提案してきた!」

「#未来議会で語ろう」というハッシュタグが、爆発的にトレンドを駆け上がった。


人々は、初めて体験する「自分たちが主役の政治」に、熱狂した。

数時間後には、「待機児童問題を解決するため、企業の社内託児所設置に、大胆な税制優遇を」「高齢化した地方の交通弱者を救うため、AIによるデマンドバスの導入を」といった、極めて具体的で、建設的な提案が、国民自身の投票によって、次々とランキングの上位へと押し上げられていった。


永田町は、この現象を、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。

自民党本部。小泉寸次郎は、部下が報告する『未来議会』の凄まじい盛り上がりを、腕を組み、不機嫌極まりない表情で聞いていた。


「バカバカしい。素人が、好き勝手な夢物語を語り合っているだけじゃないか」

彼は、吐き捨てるように言った。


「政策とは、財源の裏付けと、利害関係の調整という、地道で、泥臭い作業の上に成り立つものだ。こんな、ただの人気投票で国が動かせるなら、政治家などいらん」


だが、彼の内心には、これまで感じたことのない、焦りと、かすかな恐怖が芽生え始めていた。

自分たちが、これまで独占してきた「民意」という名の神輿を、全く知らないルールで、自分たちの手の届かない場所で、担がれている。そんな、得体の知れない感覚。


「好きにさせておけ」

小泉は、自分に言い聞かせるように、呟いた。


「どうせ、すぐに飽きる。しょせんは、一過性の、花火のようなものだ」


しかし、彼も、そして安野自身でさえ、まだ気づいていなかった。

この日、点火された小さな花火が、やがて、旧世代の政治という分厚い夜の闇を、根本から焼き尽くす、巨大な炎へと変わっていくことになるということを。

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