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第27章:ライバルの誕生

安野が、デモ隊の前で、「究極のライフOS」という、壮大なビジョンを、提示してから、数ヶ月。

『マイナ・トランスフォーム法案』は、国会で、最大の、焦点となっていた。

世論は、真っ二つに、割れた。


安野が、約束した、圧倒的な「利便性」と、「いざという時の、安心感」を、熱狂的に、支持する、声。

そして、あなたが、指摘した通り、個人の、全金融口座との、紐付けを、義務化することへの、「国家による、過度な監視」と、「プライバシーの、侵害」に対する、根強い、アレルギーと、恐怖の声。

この、二つの、巨大な民意の、狭間で、大連立政権は、激しく、揺さぶられていた。


「安野君。少し、やり方が、急進的すぎないか」

総理執務室で、小泉寸次郎は、珍しく、険しい表情で、安野に、問いかけた。


「我が党の、支持母体である、保守層の中には、君のやり方を、『国家社会主義的だ』と、批判する声が、日増しに、高まっている。私も、彼らを、抑えきれなくなりつつある」


「それが、あんたの、仕事だろ、小泉」

安野は、冷たく、言い返した。「あんたが、汚れ役を、引き受ける、と、言ったんじゃないのか」


「だが、物事には、順序というものがある!」

小泉は、声を、荒らげた。「口座の紐付けは、まずは、『任意』から、始めるべきだ。インセンティブを与え、国民に、その、利便性を、理解してもらう。それが、民主主義国家の、手順というものだ!」


「その、悠長な手順が、次の、国難で、何人の、命を、奪うことになるんだ」

安野の、声もまた、熱を帯びる。「災害時に、支援金を、受け取れない人が、一人でもいたら、そのシステムは、欠陥品だ。99%では、ダメなんだ。100%でなければ、意味がない!」


二人の、理念が、初めて、正面から、激突した。

「スピードと、合理性」を、最優先する、安野。

「合意形成と、個人の自由」を、重んじる、小泉。


どちらも、正しく、そして、どちらも、譲ることはできない、国家の、根幹に関わる、哲学だった。

連立は、解消寸前の、危機に、瀕した。


そして、その、膠着状態を、破ったのは、小泉の、政治家としての、最後の、そして、最も、優れた、資質だった。


彼は、密室での、議論を、打ち切り、テレビカメラの前で、国民に、こう、語りかけた。

「安野大臣の、理想は、正しい。しかし、その、進め方には、乱暴な点も、ある。私は、総理大臣として、国民の、皆様の、不安の声を、無視することは、できません」


そして、彼は、驚くべき、提案を、した。

「よって、この、法案の、最も、重要な点である、『金融口座との、紐付けの、義務化』。その、是非についてのみ、もう一度、国民の、皆様の、声を、直接、問いたいと、思います。憲法改正の手続きに則った、正式な、『国民投票』によって」


それは、かつて、高虫蛹が、使った、禁じ手を、今度は、小泉が、切った瞬間だった。

だが、その、意図は、全く、違っていた。


安野は、すぐに、小泉の、真の狙いを、理解した。

彼は、この国を、二分する、巨大な、論争を、自らが、「自由と、プライバシーの、擁護者」として、そして、安野を、「効率と、管理の、推進者」として、再定義し、国民に、選択を、迫るつもりなのだ。


それは、連立の、パートナーに対する、事実上の、「決別宣言」であり、次なる、戦いのための、「布石」だった。


国民投票の結果、法案は、可決された。

だが、それは、小泉が、提示した、「数年間の、猶予期間を、設ける」という、大幅な、修正案付きの、可決だった。


安野の、完全勝利では、なかった。

その、国民投票が、終わった日。


二人は、再び、二人きりで、会談した。

「見事な、手腕だな。小泉」

安野は、静かに、言った。


「君こそ」と、小泉は、答えた。「君は、たった、二年で、この国の、OSを、ほとんど、書き換えてしまった。私の、役目は、終わったよ」


二人は、どちらからともなく、立ち上がり、固い、握手を、交わした。

それは、共犯者の、握手ではなかった。


互いの、力を、認め合い、そして、これから、始まる、長い、戦いを、覚悟した、好敵手同士の、握手だった。


その、翌日。

小泉と、安野は、合同で、記者会見を開き、大連立政権の、円満な、「発展的解消」を、宣言した。

数年後。


日本の、政治地図は、完全に、塗り変わっていた。

小泉寸次郎率いる、自民党は、旧来の、利権政治と、完全に、決別し、個人の自由と、責任を、重んじる、クリーンで、現実的な、「新しい、保守政党」へと、生まれ変わっていた。


そして、安野貴率いる、『チーム未来』は、データに基づく、徹底した、合理主義と、社会全体の、セーフティネットを、重視する、「新しい、改革政党」として、その、地位を、不動のものとしていた。


かつて、高虫が、破壊した、更地の上に。

二人の、若きリーダーは、二つの、全く、違う、しかし、どちらも、魅力的で、力強い、「未来の家」の、設計図を、国民の前に、提示した。


どちらの家に、住みたいか。

国民は、ついに、本当の、意味での、「選択肢」を、手に入れたのだ。


ライバルは、誕生した。

それは、憎しみ合う、敵ではない。

互いを、高め合い、競い合うことで、この国を、より、良い場所へと、導いていく、最高の、好敵手だった。

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