第25章:未来改革担当大臣、安野貴
小泉寸次郎内閣が、発足した。
その閣僚名簿は、これまでの、どの内閣とも、全く違う、異様な光景を、呈していた。
防衛、外務、財務といった、主要閣僚には、自民党の、ベテラン議員が、名を連ねた。それは、党内の、抵抗勢力への、配慮だった。
だが、その、古めかしい、閣僚名簿の、末尾に。
日本中の、度肝を抜く、一つの、新しいポストが、創設されていた。
『未来改革担当大臣』
その初代大臣に、就任したのは、もちろん、安野貴だった。
彼は、民間人閣僚ではなく、『チーム未来』の党首として、与党に、参画した。
そして、彼に、与えられた権限は、前代未聞のものだった。
「未来改革担当大臣は、全ての省庁に対し、行政システムの、デジタル化と、業務改革に関する、直接的な、勧告権と、調査権を有する」
それは、霞が関の、分厚い「縦割り行政」の壁を、全て、無視して、横断的に、メスを入れることを、許可された、究極の、権限だった。
安野は、自らのオフィスを、官邸ではなく、彼が、最も、信頼する、自社『YATAGARASU』の中に、置いた。
そして、彼が、大臣補佐官として、霞が関に、送り込んだのは、官僚ではなく、夏目響と、羽生翔太だった。
「よろしく、お願いしますね。先輩方」
初めて、各省庁の、事務次官たちが、集められた会議の席で、夏目は、にこやかに、しかし、一切の、遠慮なく、言い放った。
「これから、皆さんの、お仕事を、ゼロベースで、見直させて、頂きますので」
その日から、霞が関の、悪夢が、始まった。
安野と、彼のチームのやり方は、これまでの、どの「改革」とも、全く、違っていた。
彼らは、分厚い、報告書を、求めない。
長時間の、退屈な会議も、開かない。
彼らが、要求するのは、ただ一つ。
「データ」だった。
「なぜ、この申請手続きに、ハンコが、7つも、必要なのですか? その、根拠となる、データを、示してください」
「この補助金の、費用対効果を、過去5年分、全て、データで、提出してください」
これまで、前例と、慣習という、曖昧な空気の中で、仕事をしてきた、エリート官僚たちは、完全に、パニックに、陥った。
彼らの組織には、安野たちが求める、客観的な「データ」そのものが、存在しなかったのだ。
「そんなデータは、ありません、と?」
モニターの向こうから、安野の、冷たい声が、響く。彼は、ほとんど、霞が関には、足を運ばず、全ての会議を、オンラインで、行った。
「ならば、それが、答えだ。その仕事は、必要ない、ということだ。明日までに、その手続きを、廃止するための、具体的な、工程表を、提出しろ。以上だ」
抵抗する者は、容赦なく、切り捨てられた。
安野は、小泉総理との、密約に基づき、人事院に、直接、働きかけ、抵抗勢力の、中心人物である、ベテラン官僚を、次々と、閑職へと、更迭していった。
霞が関は、阿鼻叫喚の、地獄絵図と化した。
だが、その、徹底的な、外科手術によって、この国を、蝕んでいた「無駄」という名の、脂肪が、驚異的なスピードで、削ぎ落とされていく。
国民が、申請してから、数ヶ月もかかっていた、補助金の支給が、オンライン申請で、わずか、3日で、完了するようになる。
起業家が、会社を設立するために、何種類も、提出させられていた、書類が、一枚の、デジタルフォームに、統合される。
国民は、初めて、自分たちの、生活が、日々、良くなっていくという、「改革の、果実」を、実感し始めた。
そして、その、奇妙な、二人三脚は、国会の中でも、繰り広げられていた。
安野が、立案した、急進的な、改革法案。
それに、自民党の、長老議員たちが、猛反発する。
「こんな、過激な法案、通せるわけがないだろう!」
その時、彼らの前に、立ちはだかるのが、総理大臣である、小泉寸次郎だった。
「先生方。この法案に、反対されるのであれば、次の選挙で、党の公認は、ないと、お考えください」
彼は、かつて、自分が、やられたのと、全く、同じ、「旧世代の論理」で、彼らを、黙らせた。
「これは、未来のためです。嫌なら、党を、出て行ってもらっても、構いませんよ」
党内の、汚れ役を、小泉が、引き受け。
国家の、OSの書き換えを、安野が、断行する。
それは、互いの、腹の底では、全く、信頼し合っていない、危険な、共犯関係だった。
だが、その、歪んだ歯車は、恐ろしいほどの、推進力を、生み出し、日本という、錆びついた、巨大な船を、強引に、未来へと、押し進めていった。
安野は、時折、オフィスの窓から、国会議事堂を、眺めた。
あの、建物の中で、今、自分の、最大の、そして、唯一の、理解者である、好敵手が、孤軍奮闘している。
「借り、だな。小泉」
彼は、誰に、聞かせるともなく、静かに、呟いた。
融合は、美しい、調和ではない。
それは、互いの、エゴと、野心を、ぶつけ合いながら、それでも、同じ、一つの、目標へと、進んでいく、激しい、摩擦熱そのものだった。




