第24章:大連立という決断
博物館での、歴史的な会談から、数日後。
日本中が、政局の行方を、固唾を飲んで見守る中、そのニュースは、全てのメディアを、駆け巡った。
『自民党・小泉新総裁と、『チーム未来』・安野代表が、電撃合意!』
『時限的な、大連立政権、樹立へ!』
永田町は、文字通り、ひっくり返ったような、大騒ぎになった。
昨日までの、不倶戴天の敵同士が、手を組む。
それは、これまでの、日本の政治の、常識では、到底、ありえない、禁じ手中の、禁じ手だった。
当然、双方の陣営から、猛烈な、反対の声が、噴出した。
自民党本部では、派閥の長老たちが、新総裁となったばかりの、小泉寸次郎の元へ、怒鳴り込んできた。
「小泉総裁! 一体、どういうおつもりだ!」
「我々を、あれほど、コケにした、あの小僧どもと、手を組むなど、党への、裏切り行為だぞ!」
だが、小泉は、もはや、彼らの前で、怯える、若手議員ではなかった。
彼は、党の、最高権力者として、冷徹に、言い放った。
「先生方。時代は、変わったのです。国民は、我々、自民党だけでは、国を動かす資格はない、と、審判を下した。この現実を、まず、認めてください」
彼は、長老たちを、一人ずつ、見据えた。
「我々が、今、最優先すべきは、党の、小さなプライドですか? それとも、この国が、機能不全に陥るのを、防ぐことですか? 答えは、明らかでしょう」
そして、彼は、旧世代の論理を知り尽くした、彼らだからこそ、分かる言葉で、続けた。
「それにこれは、権力闘争です。敵の懐に、飛び込み、その力を、利用し、そして、いずれは、その力を、完全に、無力化する。そのためには、一時的に、手を組むことも、厭わない。それこそが、我々、自民党が、これまで、生き残ってきた、戦い方では、ありませんでしたか」
その言葉に、あれほど、息巻いていた、長老たちは、ぐっと、言葉に詰まった。
小泉は、彼らの、最も、得意としてきた、権謀術数の、論理を、逆手に取って、彼らを、黙らせたのだ。
一方、『チーム未来』の、オフィスでもまた、激しい、議論が、巻き起こっていた。
「安野さん、本気ですか!」
補欠選挙で、奇跡の勝利を収めた、神崎麗奈が、信じられない、という顔で、安野に、詰め寄った。
「自民党は、私を、あれほど、孤立させ、そして、私たちの仲間を、フェイクニュースで、貶めた、敵ですよ! その、敵と、なぜ、手を組む必要があるんですか!」
彼女の言葉に、チームの、若いスタッフたちも、次々と、同調した。
「国民は、私たちに、自民党と、戦うことを、期待しているんだ!」
「これは、国民への、裏切りだ!」
安野は、その、全ての、怒りと、失望の言葉を、静かに、受け止めた。
そして、彼は、あの「五つの誓い」が書かれた、ホワイトボードの前に、立った。
「皆の、言う通りだ。自民党は、俺たちの、敵だった。だが」
彼は、三番目の、誓いを、指差した。
『3. 私たちは、誰かをおとしめない。他の政党も政治家も、日本の未来をつくる仲間。協力できる箇所を探し、一緒に進みます』
「俺たちは、こう、誓ったはずだ。これは、俺たちが、耳障りのいい、理想を語るだけの、口先だけの集団なのか。それとも、自らが、最も、苦しい時に、この原則を、貫き通せる、本物の、チームなのか。今、それが、試されている」
安野は、仲間たちに、語りかけた。
「俺たちの、目的は、何だ? 自民党を、倒すことか? 違う。俺たちの目的は、この国の、OSを、書き換えることだ。そのためなら、俺は、悪魔とだって、手を組む」
彼は、ホワイトボードに、一枚の、設計図を、貼り出した。
それは、『未来議会』で、国民から、最も、多くの支持を集めた、上位10の、政策リストだった。
行政の、完全デジタル化。待機児童問題の、抜本的解決。政治資金の、完全透明化。
「小泉は、これらの法案を、時限的に、我々と、共同で、成立させることを、約束した。自民党の、抵抗勢力を、彼が、抑え込んでいる間に、我々が、我々の手で、未来の、礎を、築く。これは、千載一遇の、チャンスなんだ」
「だが、もし、彼らが、その約束を、破ったら?」
夏目響が、鋭く、問いかけた。
「その時は」
安野は、きっぱりと、言い切った。「俺たちは、この連合を、即座に、離脱する。そして、国民の前で、彼らの、不誠実さを、徹底的に、明らかにするだけだ。そうなれば、次に、倒れるのは、我々じゃない。自民党の方だ」
それは、あまりにも、リスキーで、そして、あまりにも、大胆な、綱渡りのような、戦略だった。
だが、その、安миの、揺るぎない覚悟の前に、あれほど、反対していた、仲間たちの、心は、少しずつ、一つに、まとまっていった。
数日後。
国会の、本会議場。
首班指名選挙の、決選投票が、再び、行われた。
そして、日本中の国民が、固唾を飲んで、見守る中、歴史が、動いた。
『チーム未来』の、110名の議員たちが、一斉に、立ち上がり、自民党総裁である、小泉寸次郎の名が書かれた、票を、投じたのだ。
その瞬間、自民党の議席からは、安堵の、そして、チーム未来の議席からは、苦渋の、声が、漏れた。
だが、その、全く、質の違う、二つの声が、融合し、一つの、巨大なうねりとなって、日本の政治を、次の、ステージへと、無理やり、押し上げた。
新しい、総理大臣が、誕生した。
そして、その、異形の、しかし、かつてないほどの、可能性を秘めた、巨大な船が、今、静かに、未知の海へと、漕ぎ出そうとしていた。




