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第23章:歴史的な会談

その会談は、永田町の、どの料亭でも、ホテルの一室でもなく、全く、予想外の場所で、セッティングされた。

深夜、閉館後の、国立科学博物館。

静まり返った、巨大な恐竜の骨格標本が立ち並ぶ、地球館の一室だった。


先に着いていたのは、安野貴だった。

彼は、Tシャツにジャケットという、いつも通りのラフな格好で、ティラノサウルスの、巨大な頭骨を、静かに、見上げていた。

かつて、この地球の、絶対的な支配者だった、生物。だが、環境の、急激な変化に、対応できず、滅び去った、旧世代の、王者。


「待たせたかな」

背後から、声がした。

振り返ると、そこに、小泉寸次郎が、立っていた。

テレビで見る、高級なスーツではなく、シンプルな、ノーネクタイのシャツ姿。SPの姿も、見当たらない。彼もまた、たった一人で、ここに来ていた。


二人は、どちらからともなく、歩き始めた。

巨大な、化石の間を、縫うように。

言葉は、なかった。

ただ、互いの、腹の底を、探り合うような、重い沈黙だけが、二人を、支配していた。

最初に、その沈黙を破ったのは、小泉だった。


「見事な、戦いぶりだった。完敗だ」

その言葉に、安野は、少しだけ、驚いたように、小泉の顔を見た。

「負けたのは、俺たちの方だ。政権を、獲ることは、できなかった」


「違う」と、小泉は、首を横に振った。「君たちは、選挙に勝った、負けた、という次元で、戦ってはいなかった。君たちは、この国の、政治というゲームの、『ルール』そのものを、変えてしまったんだ。我々が、慣れ親しんだ、リングの上で、戦っている間に、君たちは、全く、新しい、リングを、国民と共に、創り上げてしまった」


それは、彼の、心からの、本音だった。

嫉妬も、敵意も、ない。ただ、自分とは、全く違う種類の、天才に対する、冷徹なまでの、分析と、そして、かすかな、畏敬の念。


二人は、巨大な、マンモスの化石の前で、足を止めた。

「安野君」

小泉は、安野を、まっすぐに、見つめた。「君は、この国を、どうしたいんだ。我々、自民党を、完全に、破壊し、君が、この国の、新しい、独裁者になりたいのか」


その、あまりにも、直接的な問いに、安野は、静かに、答えた。

「あんたこそ、どうなんだ。俺たちと、手を組むふりをして、時間を稼ぎ、次の選挙で、俺たちを、完全に、叩き潰すつもりか」


互いの、本心が、剥き出しで、ぶつかり合う。

数秒の、長い、長い、沈黙。

やがて、安野は、ふっと、息を吐いた。


「独裁者になる気はない。俺は、コードを書くのは好きだが、ハンコを押すのは、死ぬほど、嫌いなんでね」

彼は、続けた。

「俺が、やりたいことは、一つだけだ。この国の、あまりにも、古くて、非効率な、OSを、一度、完全に、書き換えること。それだけだ。行政の、完全なデジタル化。政治資金の、完全な透明化。そして、データに基づく、合理的な、意思決定のプロセス。その、新しいOSさえ、インストールできれば、その上で、どんなアプリケーションを動かすかは、あんたたち、自民党と、健全な競争をすればいい」


その言葉に、今度は、小泉が、息を呑んだ。

安野の、野心の正体。

それは、権力を、握ることではなかった。

権力が、クリーンに、そして、効率的に、機能するための、「仕組み」そのものを、創ること。


「面白い」

小泉の口元に、初めて、笑みが、浮かんだ。「だが、そのOSの書き換えは、口で言うほど、簡単なことじゃない。この国には、百年分の、埃をかぶった、規則と、しがらみが、こびりついている。それを、一枚、一枚、剥がしていくのは、君のような、天才の仕事じゃない。我々のような、泥にまみれることを、厭わない、旧世代の、政治屋の、仕事だ」


そして、彼は、安野に、一つの、歴史的な、提案を、した。

「手を、組まないか」

「どういう意味だ」

「連立は、組まない。互いの、理念は、違いすぎる。だが、一点だけ、目的を、共有する。『この国の、OSを、書き換える』。ただ、その、一点においてのみ、協力する、『パーシャル連合』だ」


小泉の瞳が、熱を帯びる。

「私が、総理大臣となり、党内の、抵抗勢力を、旧世代の論理で、抑え込む。その間に、君は、全ての省庁に、絶大な権限を持つ、新しい大臣となって、君のやり方で、OSの書き換えを、断行する」

「私が、汚れ役を引き受ける。君は、未来を、創れ」


それは、あまりにも、危険で、そして、あまりにも、魅力的な、賭けだった。

水と油。

光と影。

新旧二つの世代の、リーダーが、互いの、強みと、弱みを、完璧に、補完し合う、奇跡の、方程式。

安野は、何も、答えなかった。


ただ、目の前の、自分と、同じ年頃の、しかし、全く違う人生を歩んできた、ライバルの顔を、じっと、見つめていた。

彼の瞳の奥に、単なる、権力欲ではない、この国を、本気で、憂う、確かな光が、宿っていることを、安野は、初めて、見抜いていた。


「悪くない、提案だ」

長い、長い、沈黙の後。

安野は、静かに、呟いた。


博物館の、高い天井から、月明かりが、差し込み、二人の若きリーダーと、彼らを見下ろす、太古の、恐竜たちの骨を、静かに、照らし出していた。

古い時代が、終わり。

そして、全く、新しい時代が、融合し、生まれようとする、歴史の、転換点。


その、荘厳な、証人として、彼らは、そこに、立っていた。

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