第17章:多様な声
解散総選挙の号砲が鳴ると、永田町は、候補者選定という、古くからの儀式に、突入した。
自民党本部では、連日、各派閥の領袖たちが、密室で、眉間に皺を寄せ、選挙区ごとの、候補者の割り振りを、話し合っていた。
「この選挙区は、我が派閥から出すのが、筋だろう」
「あそこの世襲候補は、人気がない。だが、父親には、大きな借りがある」
そこで、語られるのは、国民の利益ではない。ただ、派閥の論理と、長年の「しがらみ」だけだった。
結果として、自民党が擁立したのは、これまでと、代わり映えのしない、ベテランと、世襲議員の、顔ぶれだった。
一方、その頃。
『チーム未来』は、全く違う方法で、国民と共に、歴史を創ろうとしていた。
安野は、解散が宣言された、その日の夜に、オンライン・プラットフォーム『未来議会』を通じて、国民に、こう呼びかけた。
『『チーム未来』の、候補者を、全国から、公募します』
それは、前代未聞の、試みだった。
『年齢、性別、学歴、職歴、一切、不問。必要なのは、議員バッジという「権力」ではなく、この国を良くするための「具体的なプラン」と、それを実行する「情熱」だけです。我こそは、と思う方は、名乗りを上げてください』
この呼びかけに、日本中から、驚くほどの数の、「声」が、集まった。
数日のうちに、応募者の数は、千人を、遥かに超えていた。
そして、『チーム未来』の候補者選定は、ここからが、本番だった。
安野たちは、一切の、密室での面接や、選考を行わない。
全ての応募者の、経歴と、政策プランを、『未来議会』のサイト上で、完全に、公開したのだ。
誰が、どの選挙区から、立候補するのか。
それを決めるのは、安野でも、チームの幹部でもない。
その地域の有権者自身による、「オンライン予備選挙」だった。
人々は、初めて、自分たちの手で、自分たちの代表を、「候補者」の段階から、選ぶという、体験をした。
彼らは、候補者の、ポスターの見栄えや、演説のうまさではなく、その人物が、どんな人生を歩み、どんな未来を、この街にもたらそうとしているのか、その「中身」を、真剣に、吟味し始めた。
そして、数日間にわたる、オンライン上での、白熱した議論と、投票の末。
『チーム未来』の、候補者たちの顔ぶぶれが、決定した。
そのリストは、これまでの日本の政党では、到底、考えられないような、「多様性」に、満ち溢れていた。
北海道からは、スマート農業で、地域の再生に成功した、30代の、若き農家。
東京の、神崎麗奈の隣の選挙区からは、GAFAの日本法人を辞め、内部から、巨大プラットフォーマーの問題点を、告発した、元エンジニア。
愛知からは、中小の自動車部品メーカーで、EV化の波に乗り遅れ、苦闘する、現場の、女性工場長。
大阪からは、シングルマザーとして、子供を育てながら、地域のフードバンクを、一人で立ち上げた、元NPO職員。
そして、沖縄からは、基地問題と、環境問題に、IT技術で、新しい解決策を、提案する、20代の、女性プログラマー。
彼らは皆、これまでの「政治家」のイメージとは、かけ離れた、ごく普通の、しかし、それぞれの現場で、懸命に「手を動かしてきた」人々だった。
彼らには、自民党の候補者のような、強固な地盤も、資金力も、ない。
だが、彼らには、旧世代の政治家たちが、とうの昔に、失ってしまった、二つの、最強の武器があった。
一つは、現場を知り尽くした、圧倒的な「当事者意識」。
そして、もう一つは、『未来議会』と、『未来まる見え政治資金』を通じて、彼らを、自分たちの手で選び、支えようとする、無数の、国民との「直接的な繋がり」だった。
自民党本部で、その候補者リストを見ていた、小泉寸次郎は、思わず、嘲笑の声を上げた。
「まるで、素人の、寄せ集めじゃないか。学芸会の、配役か、これは」
彼は、まだ、気づいていなかった。
自分が「寄せ集め」だと、見下している、その「多様な声」こそが、自民党という、均質で、同質的な、巨大組織の、最も硬い装甲を、内側から、食い破る、恐るべき力となることを。
選挙戦の、本当の構図が、今、ようやく、固まった。
旧世代の「エリート」たちと、新しい時代の「無名の人々」。
日本の未来を賭けた、壮絶な戦いが、始まろうとしていた。




