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第15章:党内の亀裂

未曾有の国難は、皮肉にも、一つの真実を、白日の下に晒した。

どちらが、本当に、国民の命を守る力を持っているのか。


『チーム未来』の支持率は、災害対応への圧倒的な評価を背景に、うなぎ登りに上昇していた。もはや、それは「新しい選択肢」などという、生易しいものではない。多くの国民にとって、彼らは、次なる日本を託すに値する、唯一の「希望」となっていた。


そして、その地殻変動は、ついに、永田町の、最も分厚い岩盤である、自由民主党の内部にまで、達しようとしていた。


地震発生から、一週間後。

自民党本部で開かれた、非公開の、緊急役員会。

その席上は、重苦しい敗北感と、責任のなすりつけ合いで、澱んでいた。


「総理。一体、どうなっているんですか! 国民からの、政府への批判は、もはや、危険水域を、遥かに超えている!」


党の幹部たちが、石破下流総理に、厳しい言葉を浴びせる。

だが、石破は、憔悴しきった顔で、「現場は、全力を尽くしてくれている」と、力なく繰り返すだけだった。


その時だった。

役員会の末席に座っていた、小泉寸次郎が、静かに、しかし、誰もが聞き取れる、強い意志を込めた声で、立ち上がった。


「総理。そして、執行部の皆さん。もう、認めませんか」

全員の視線が、彼に突き刺さる。


「我々は、負けたのです」

その場が、凍りついた。


「何を言うか、小泉君! 不謹慎だぞ!」

長老議員の一人が、怒鳴る。


だが、小泉は、怯まなかった。彼は、この一週間、対策本部の片隅で、自らが信じてきた「政治」が、無力に崩れ去っていく様を、嫌というほど、見せつけられてきたのだ。


「安野貴は、ただのITベンチャーの社長ではなかった。彼は、我々が、この10年間、見て見ぬふりをしてきた、この国の、行政システムの、致命的な欠陥を、たった一人で、ハッキングしてしまったのです!」

彼の言葉は、もはや、安野への嫉妬や、敵意ではなかった。


それは、自らの敗北を、完全に認めた者だけが持つ、冷徹な分析だった。

「国民は、もう、気づいてしまった。我々が、口先だけで、『国民の命を守る』と言い続けてきたことを。そして、本当に、国民の命を救ったのが、我々が『素人』だと、嘲笑っていた、彼らのテクノロジーであったということを!」


小泉は、石破総理を、まっすぐに見据えた。

「このままでは、自民党は、国民からの信頼を、完全に失う。次の総選挙で、我々は、結党以来、経験したことのない、歴史的な大敗を喫することになるでしょう。そうなっても、よろしいのですか!」


それは、党の若手エースによる、現執行部への、公然たる「反逆」だった。

石破は、怒りに、顔を真っ赤にして震わせた。

「黙れ、小泉君! 君は、この国難に、政局を絡める気か!」


だが、その時。

小泉の言葉に、呼応するかのように、もう一つの声が、上がった。


「総理。私も、小泉副大臣と、同意見です」

発言したのは、当選二回の、無名の、若手議員だった。

「私の選挙区も、被災しました。そこで、自衛隊よりも早く、被災者に、薬と、ミルクを届けてくれたのは、『チーム未来』のドローンでした。現場の有権者の声は、もはや、我々には、向いていません!」


その声を皮切りに、これまで、沈黙を強いられてきた、党内の若手や、中堅議員たちから、次々と、声が上がり始めた。

「我々も、変わらなければ、国民から、見捨てられる!」

「安野たちのやり方を、我々も、謙虚に、学ぶべきだ!」


それは、長年にわたり、鉄の結束を誇ってきた、巨大与党・自民党の、分厚い一枚岩に、初めて、はっきりと、亀裂が入った瞬間だった。

旧世代の、経験と、しがらみにすがる者たち。


そして、このままでは、党も、国も、沈没すると、危機感を抱く、新しい世代。

石破は、その光景を、愕然と、見つめていた。


安野貴が放った、見えない砲撃。

それは、いつの間にか、自らの足元を支えていた、巨大な岩盤そのものを、内側から、崩壊させ始めていたのだ。


役員会は、紛糾の末、何の結論も出ないまま、終わった。

だが、その日を境に、自民党は、もはや、決して、元に戻ることはできない、深刻な「世代間の断絶」という、時限爆弾を、抱え込むことになった。


摩擦は、ついに、敵陣の、最も硬い中枢にまで、達していた。

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