第6話『すれ違う想い』
【この物語は、かつて世界を滅ぼした少年が、もう一度だけ救いを選ぼうとする旅の記録である。】
新たな仲間を得た夜、
俺たちは村のはずれに小さな焚き火を囲んでいた。
ミレナは、子犬のように落ち着きなく尻尾を揺らしている。
初めての旅立ちに、興奮と不安が入り混じっているのが、手に取るようにわかった。
「レオン、なあ、旅ってどんな感じなんだ?
食べ物とか、寝るとことか、モンスターとか!」
一気にまくし立てるミレナを見て、
俺は思わず苦笑した。
「まあ、寝る場所はあんまり選べないな。
雨風をしのげるだけマシってところか」
「ええー、そんなのヤダ!」
ミレナは尻尾をしゅんと落とした。
隣でエリスが、静かに火をいじりながら言った。
「現実だ」
ばっさりだった。
子供扱いしないその物言いに、ミレナはむくれた。
「つ、冷たっ! エリスって、もっと優しいかと思ったのに!」
「優しさだけでは、生きられない」
「うー……!」
ミレナは不満げにぷいと顔を背けた。
俺は、二人を交互に見て、
少しだけ苦笑した。
──まだ、噛み合わない。
でも、
それでも、きっと。
この不器用な関係を、少しずつ紡いでいけたら。
そう思った。
火が、ぱちりと弾ける。
ミレナは、火の向こうにいる俺をじっと見つめた。
「なあ、レオン」
「ん?」
「私、あんたを信じても……いいかな」
真剣な目だった。
俺は、少しだけ考えて、答えた。
「俺も、まだ自分を信じきれてない。
それでもいいなら」
ミレナは、ぽかんとした後、
ふわりと笑った。
「……うん、じゃあ、信じる!」
その笑顔は、あまりにも眩しかった。
だけど。
隣でエリスが、火を見つめたまま、何も言わなかった。
その横顔は、どこか、寂しそうだった。
──すれ違いは、気づかないうちに、始まっていた。
「願いは同じだった。なのに、こんなにも、すれ違っていく。」