タクシー
「……△△町まで」
酔った私が拾ったタクシーの
運転手が行き先を確認した
「へへ、〇〇トンネルの裏ですね」
「……何で知ってんの」
「何でって、そりゃお客さん……」
タクシーは走り出した
雪がちらつく大通りを抜け、国道に入る
「……前に乗った?」
「前にって、そりゃお客さん……」
「……何よ」
「さっき、乗ったばかりじゃないですか」
タクシーは県道に入り
雪が積もる住宅街を抜ける
「……さっき? どういう意味?」
「どうって、そりゃお客さん……」
「……何よ」
「へへ、こっちが聞きたいくらいですよ」
バックミラー越しに見える
運転手のニヤついた顔
路面が凍るトンネルを抜けて裏に出た
目的地に着き、ドアが開く
「……お釣りは結構です」
一刻も早く
この不気味な運転手の視線から逃れたかった
「へへ、どうも」
タクシーは走り去った
私は足早にその場を離れ
雪がちらつく大通りに出てタクシーを拾う
「……△△町まで」
AI illustration by かぐつち・マナぱ