大原潤はほめちぎる ~ 最強美少女が来店したので、全力でコーディネートしたお話
ちょっと待て。
なんでお前がいるんだ鳥宮 篥。
清楚にして高貴、文武両道にして才色兼備、山の手の豪邸に住んでいる(と勝手に思ってる)お嬢様(真偽は未確認)にして、「最強美少女」なんて呼ばれているセレブな(イメージの)女子高生。そんなお前が、この寂れた商店街の奥にある小さな洋品店に来ていいわけがないだろう。
正直、わけがわからねえ。
自慢じゃないがこの店は、この俺大原 潤の叔母が、趣味が高じて始めた店だぞ。お前のような上級高校生が来るようなお店ではないはずだ。
さあ、いますぐ回れ右をしてお前にふさわしい店へ行くんだ。
それがお互いの平和のためだぞ、鳥宮篥!
「あらいらっしゃい、りっちゃん」
りっちゃん!?
ちょっと待て叔母上様、あなたはこの最強美少女をそんな愛称で呼んでいるんですか!? 罰当たりにもほどがありませんかね。ちくしょう、うらやましくなんかないからな!
「……どもです」
叔母の呼びかけにうなずきつつ、瞳は俺にロックオンの鳥宮篥。やめろ、見るな、見つめるな、猛禽ににらまれた兎の気分だ。よし決めた、俺はお前が知っている大原潤のそっくりさん、世界に三人はいるというドッペルゲンガーだ。赤の他人で押し通す!
「大原くん、バイト?」
「あ、えーと……誰かとお間違えでは?」
俺の言葉に、ぱちくり、とまばたきをした鳥宮篥。頬に指を当て首をかしげたかと思うと、数秒後に「なるほど、そうきたか」とつぶやいてニンマリと笑った。
「友恵さーん、この人、○△高校3年4組、出席番号4番の大原潤くんですよねー?」
「はい、そうですよ」
やめろ鳥宮篥、俺の個人情報を大声で叫ぶんじゃない! そして叔母よ、それをあっさり認めるんじゃない! 悪用されたらどうするつもりだ!
「なぜに他人のふりをしたのかな?」
「……心より謝罪いたします」
直角九十度の最敬礼で謝罪。「よろしい」と満足そうな鳥宮篥の声が後頭部に降ってくる。そして「あらまあ」となにか言いたげの叔母の声が続く。
「りっちゃん、うちの甥と知り合いだったの?」
「はい、同じクラスで席が隣です」
「ふーん、そうなんだ」
叔母がニマニマ笑う。何だその笑顔は、言っとくけど俺と鳥宮篥の関係は「クラスメイト、以上」だからな。入学以来同じクラスで、席替えしても進級しても席が隣になってしまうという奇跡が続いているが、それだけだからな。何か期待しているようだけど、これといって何もないからな。
何かあったら、とっくに自慢しとるわ!
「じゃあ潤くん、接客お願いね」
「えっ!?」
「私、伝票処理溜まっちゃってて。お願いねー」
では後は若いお二人で、と謎の言葉とともに叔母はバックヤードに姿を消した。いやちょっと待て、いつも「伝票処理メンドイ」て俺に押し付けているじゃないか。今日もそれで呼んだんじゃないのか。
カムバック、マイ・アント! プリーズ! 俺に伝票処理をさせてくれ!
「よろしくね、潤くん」
鳥宮篥が、ニッコニコの笑顔で俺の顔をのぞき込む。流れ落ちるサラサラの黒髪ロングがまた色っぽい。いや近いっての。てゆーか今、俺のこと名前で呼んだ?
「……なあ鳥宮」
「りっちゃんでいいよー」
ちくしょう、からかう気満々だな。よしわかった、そっちがその気ならやり返すまでだ。
「わかった。りっちゃん」
「ふへ」
なんか変な声出してそっぽを向いたぞ。どうした、鳥宮篥――いや、りっちゃん。
「な、なんでもない……ちょっと心臓が跳ねただけ」
不整脈か? 大事じゃね? 椅子持ってこようか?
「だ、大丈夫……すーはー、すーはー……よし、おっけー」
何をしとるんだこいつは。変なやつだな。
「で、りっちゃん」
「……すいません、いつも通り呼んでください」
なんだ、仕掛けてきたくせにもうやめるのか。ふははは、勝った。勝利とは気持ちのよいものだな!
「わかった。で、鳥宮。今日はどのようなご用件で?」
「服を買いに来たに決まってるじゃない」
そりゃそうだな、ここは洋品店だ。
「わかりました。ではあちらにいますので、気になる商品がございましたらお声がけくだ……」
むんず、とシャツをつかまれた。
「色々目移りして困っているので、アドバイスください」
「……入店してまだ服を見てすらいないよな?」
「私、お客。あなた、店員。アーユーオーケー?」
「……イエス、マム」
いやしかしアドバイス、て。
俺に女物のアドバイスができるとでも? 現役の男子高校生でそんな高度なミッションをこなせるやつ、いるのか?
「自分で選ぶといつも似た感じだからさ。今日は大原くんが私にどんな服を着せたいか、聞いてみたいなー」
わー、楽しそうな笑顔。いっそ爽快。そーかよ、とことんからかう気かよ、ならばこちらも全力で相手してやろうじゃないか。趣味が合わなくても知らんぞ。
「いいだろう。シチュエーションは?」
「シチュエーション?」
「どういう状況で着る服だ? 冠婚葬祭か、学校行事か、それともオープンキャンパスか」
「それ全部制服でよくない?」
ちっ、気づいたか。お前に一番似合うのは制服だ、以上、で終わらせる作戦は失敗だ。
「でもそうか、シチュエーションは大事だね。それじゃあ……」
ほんのりと頬を染め、キラキラした目で俺を見つめる鳥宮篥。くっ、まぶしい。この笑顔、戦闘力53万はあると見た! オラ、ドキドキすっぞ!
「デートで着る服、なんてどうでしょう?」
「は?」
デート? こいつが? 毎日のように告白されては秒殺し続けているこいつがデート? え、そういう相手、いるの?
「なに?」
「いや、鳥宮もデートとか考えるんだなあ、と思って」
「私だってお年頃の女子高生だぞ。デートぐらいしたい、ての」
「ちなみに、お相手の名前は?」
「え……そ、そ、そんなの言えるわけないでしょ!」
お、珍しい、焦っている。顔を真っ赤にして、まあカワイイこと。これはマジで好きなやつがいるな。
そっかー。
こいつ好きなやついるのかー。
ちょっぴりショックだなあ。いや俺がこいつとなんて考えたこともないけどよ。なんか寂しい気持ちになっちゃったなー。
おっといかん、ショックで落ち込んでいる場合ではない。
ならばこの大原潤、日頃の感謝を込めて、全力でアドバイスをしてやろうじゃないか。「最強美少女」なんて呼ばれているお前にアドバイスがいるとは思えんけどな。日頃の感謝――世話になった記憶もないけどな。
うむ、俺は今、洋品店の店員なのだ。相談には全力で答えるのが責務。
俺は、俺の責務をまっとうする!
「ふん!」
バチン、と両手で頬を叩いて気合注入。「どうしたの?」なんて鳥宮篥がびっくりしている。まあ気にするな。よし、スイッチが入ったぞ!
「では、まずは誰もが認めるお前らしさを全力でアピールしてみよう」
「私らしさ?」
さらっさらの長い黒髪に、スラリとした体つき、カワイイよりもキレイと呼ぶべき清楚なたたずまい。まさに高嶺の花と言うべき正統派美少女、それが鳥宮篥だ。ゆえに王道のお嬢様コーディネートがぴったりだと考える。
「あ……いや、その……そ、そんなふうに思ってるんだ」
照れるな照れるな、胸を張れ。お前は本当に清楚な美少女だぞ。この俺が保証する。何の保証にもならんがな!
「あ……ありがと……」
さて、そんなお前におすすめなのは、このセーラーカラーのワンピース、色は白だ。お嬢様といえばコレ、な服だが、お前ならまったく嫌味じゃない、むしろそれしかない。絶対に似合うから着てみるがいい。
おっと、白一色というのもなんだから、胸元はラベンダー色のリボンで飾ろう。いいアクセントになるし、お前、ラベンダー好きだろ?
「そうだけど……なんで知ってるの?」
ん? いやお前、ハンカチとか文房具とか、紫系が多いからさ。たまにラベンダーのポプリとか持ってきてるし、好きなんだなー、と思ってただけだ。
「あ、そう、なんだ……」
どうした鳥宮篥、顔が真っ赤だぞ? また不整脈か?
「な、なんでもない……あの、それじゃ、ちょっと試着してみる」
俺が選んだワンピースをひったくり、小走りで試着室へと向かう鳥宮篥。
うーん、大丈夫かな。顔が赤いということは暑いのかな? 仕方ない、エアコンちょっと強くして、飲み物でも用意しておくか。大切なお客様だしな。
「き、着替えたよー」
バックヤードでジャスミンティーを用意して戻ってきたら、鳥宮篥から声をかけられた。
カーテンから顔だけ出して俺を呼んでいる。え、行かなきゃだめ? お前が満足ならそれでよくね?
「ど、どうかな?」
恐る恐るカーテンを開けた鳥宮篥。
やばい――想像以上だ。
きっと似合うと思っていたが、ここまで似合うか! まさに正統派お嬢様、キング・オブ・最強美少女の爆誕だ! これ写真撮ったら売れるぞ!
「似合いすぎてて怖いな」
「怖いって……それ褒めてる?」
「うむ。俺がデート相手なら、デートしてくれることを神に感謝したくなるクオリティだ」
「ふ、ふーん……」
何やら嬉しそうな顔の鳥宮篥。おい勘違いするな、俺の感想だからな。お前が好きな相手がどう思うかは知らんぞ。
「いやいや、大丈夫だって。うん、そうか、こういう感じか。なるほどね」
うんうんとうなずきつつ、鏡の前で一回転。ふわっと膨らむスカートがいい味出している。素晴らしい光景だな、マジで。
「選んでくれてありがと。それじゃこれを……」
「待て、鳥宮」
どうやら気に入ってくれたようだが――鳥宮篥、慌てるな。
「へ?」
「まずは誰もが認めるお前らしさ、と言っただろう。俺の真のコーディネートは、これからだ」
清楚にして正統派お嬢様、キング・オブ・最強美少女の鳥宮篥。
それが誰もが抱くイメージ。そのイメージを最大限に反映したのがこのコーディネートだ。
しかし、俺は知っている。
そんなのは鳥宮篥の一面にしか過ぎないと!
「問おう、鳥宮篥よ。わざわざ休日に待ち合わせてするデートで、お前は相手に何を望む?」
「え、相手に、望む……」
「相手のことをもっと知りたい、同時に、私のことをもっと知ってほしい。そうではないか? そうであろう!」
答えられる前に、ビシィッ、と指を突きつけ断言する俺。あさってのこと言われて想定と違う話になったら嫌だからな。ここは勢いで押し通そう。
「デートとはそういうものだろう、違うか!?」
「あ、はい……そう、だね」
よし、同意を取ったぞ。俺はデートなんてしたことないからよくわからんが、うなずいたんだからよしとしよう。
「そこでだ。俺がお前におすすめするのは、こちらの品だ!」
「え……これ!?」
鳥宮篥が目を丸くする。
だろうな、お前のイメージとはちょっと違うからな。だがまあ聞いてくれ。
「鳥宮篥よ、最強美少女なんて呼ばれているお前だが、俺は知っている。お前はただ清楚なだけのお嬢様ではない。その内には、とんでもないオテンバ気質を秘めているとな!」
絶対そうだって。1年のときから隣で見てきた俺にはわかる。こいつは絶対にオテンバ系だ。
そんな鳥宮篥におすすめするのはこちら、シンプルなラベンダー色のTシャツとデニムのショートパンツだ。これにキャップとスニーカーを組み合わせれば完璧だ。
そう、これはお嬢様というイメージを払拭し、快活なイメージを与えるコーディネートだ。いっそ男物でボーイッシュ路線とも考えたが、普段が普段だからな。ガーリーな雰囲気は残すべき、これくらいがちょうどいいだろう。
学校でのお前しか知らない相手なら、このコーデでギャップに萌えること間違いなし。そしてデートでは、着飾らずに素のお前を出せばそれでよし。高嶺の花だと思っていた鳥宮篥が、実はただの女の子なんだと知ってもらえれば、一気に距離が縮まること必定。
そしてなにより。
そんな一面を見せるのは君だけだよ、なんて思わせてしまえば、男の独占欲も満たせてパーフェクト。
これぞ俺が考える、鳥宮篥の最強デート服だ!
「どうだ鳥宮篥、なかなかの着眼点だろう?」
「いや、その……なんというか……」
なんだかポカンとした感じの鳥宮篥。心ここにあらずという感じ。あれ、大丈夫かな。まだ暑い?
「あ、いや、その……ううん、なんでもないよ!」
そうか、なんでもないのか。ならよしとしよう。
「さあ、試着してみるがいい!」
「あ、はい」
選んだ服を押し付けると、鳥宮篥はちらっと俺を上目遣いに見た。
「ええと……その、選んでくれて、ありがと」
もごもごという感じでそう言うと、鳥宮篥は慌てて試着室のカーテンを締めた。
なんか顔、ますます赤くなってたな。しまった、せっかく入れたジャスミンティーを渡すの忘れてた。今日結構蒸し暑いし、喉が乾いているのかもしれんな。
「き……着替えた、よ……」
数分後、呼びかける声が聞こえた。先ほどとは打って変わり、蚊の泣くような小さな声。うーむ、やはり調子悪いのか。もう少しエアコンの温度下げようかな。そう思い、リモコンに手を伸ばしたところで。
試着室のカーテンが、ゆっくりと開かれた。
「ど、どう、かな?」
「……」
――。
――――。
――――――。
ハッ!
しまった、マジで意識飛んでた!
なにこれ、なんでこいつこんなにカワイクなるの。何を着ても想像以上に似合うなんて、存在そのものが反則じゃね? うーわー、自分でコーディネートしといてなんだけど、マジですげえよギャップ萌え。
「な、なにか、言ってよぉ……」
俺が何も言わないからか、鳥宮篥が不安そうな顔になった。いかん、お客様にそんな顔をさせては店員失格だ。ここは最高の褒め言葉を贈るとしよう。
「最の高!」
Tシャツはゆったり目のを選んでいたが、それでもわかる女らしいメリハリボディライン。むき出しになったおみ足の脚線美たるや、神の造形物としか思えない美しさ。
いやこれは最高としか言えないだろう。いいのか俺、この美しさを独占鑑賞して。罰が当たりそうだぜ。
いや待て。
これは――よく見たら完璧ではない。惜しいかな、1点だけ、どうしても1点だけ直したい。ああちくしょう、我慢できねえ。思い切って聞いてみるか。
「鳥宮。お願いがある。髪、いじらせてくれないか?」
「え?」
「頼む。ここまできたら完璧なお前を見てみたい」
「は、はい!? 完璧って……」
真っ赤な顔でたじろぐ鳥宮篥。だよな、そうだよな。家族でも彼氏でもない男に髪なんて触られたくないよな。怒る気持はよく分かる。
だが頼む、これは店員としての責務を果たすためだ! どうか髪をいじらせてくれ!
「うん、いい、けど……」
ありがとう、鳥宮篥。お前マジで天使だな。
では失礼して。
サラサラストレートの黒髪にそっと触れる。うわ、マジでサラサラ。腰もあってすべすべしてめっちゃ気持ちいい。うーわー、ずっと触っててぇ。癒やされるぅ。
いかんいかん、そうじゃなくて。
俺はどうにか誘惑を断ち切り、鳥宮篥の髪を束にする。細いゴムで根本を縛り、少し高い位置でポニーテールにまとめた。
「これでキャップを被れば……よっしゃ、完璧!」
世界よ見たか、これが鳥宮篥バージョン2、清楚に見えて実はオテンバお嬢様だ! いたずらっぽくウィンクなんかしたら、世の男どもは虜になること間違いなし!
うむ、やりきったぜ!
「大原くん、髪いじるの……慣れてる?」
「ん? ああ、毎朝従妹の髪をまとめてるんでな」
従妹、つまりここの店長の娘、御年六歳。叔母と一緒にわが家に居候中。最近髪型に凝り出して、なぜか俺が毎朝手入れを手伝うことになっている。いや別にいいんだけどさ。
「なるほど、それでこの手際ね……よかった」
納得と同時になぜかホッとした顔の鳥宮篥。よくわからん反応だ。あ、そうだ。お茶入れたから飲んで。
「ありがと。ふーん、そっかー。これが大原くんの好みかぁ」
ジャスミンティーを飲んだ後、鏡の前でくるくる回る鳥宮篥。揺れるポニーテールにじゃれつきたい――猫か俺は。
「自分じゃこれは選ばなかったなー。でも両足むき出しでちょっと恥ずかしいかも」
「心配するな、すばらしい脚線美だ、むしろ見せびらかしてやれ」
「大原くんは、彼女の生脚を見せびらかしたい派なんだ」
「いや、そういうわけじゃなくてだな……」
妙な誤解をするんじゃない。お前だからこそのコーディネートだろうが。俺の彼女――なんてものができたらの話だが――なら、絶対隠すね! 他の男に見せてたまるか!
「ふーん」
何やら文句ありげな鳥宮篥。何だよ、にらむなよ。洋品店の店員として、全力でお前のリクエストに答えただけだぞ!
「店員として、ね」
うーん、何だ、何が問題なんだ。はっきり言ってくれ。
「……ま、いいか。今日のところは許してあげる」
何を許されたんだ、俺は。まあいいけどよ。
「じゃ、店員さん。これ買いますので、お会計お願いします」
「かしこまりました。お買い上げ、ありがとうございます」
こうして、俺は店員としての責務をまっとうしたのだった。
はー、やれやれ。もう二度とごめんだぜ。
◇ ◇ ◇
お店を出たところで、ニヤニヤ顔の友人たちに出くわした。
「な、なんで……」
「ヤア、リッチャン。コンナトコロデ、キグウダネ」
絶対ウソ。ここはたまたま通りかかるような場所じゃない。
「あはは、そうだね。私らも服見に来たんだけどさ」
「あの最強美少女が、想い人と楽しそーにお買い物してるのが見えちゃって」
「邪魔しちゃ悪いかなー、て思うじゃない。人として」
いやそうだけど。そうかもしれないけれど。
「……いつからいたのよ」
「店長さんがバックヤード行ったところぐらい」
ほとんど最初からじゃない!
1時間ぐらいはあったでしょ、あんたら暇人か!
「それは否定しない」
「でもいいものが見れました」
「ありがたやありがたや。心が洗われる1時間でした」
ああもう、拝むな!
「で、篥さんや。そちらが大原潤コーディネートですか」
「いやあ、攻めましたなぁ」
「おみ足がまた美しい。眼福、眼福♪」
だから拝むな、ての! 私は仏像じゃないの!
ああもう、着て帰るなんて言うんじゃなかった。小っ恥ずかしい。
「いやいや、想い人のコーディネートだもの、着て帰りたいというのは当然の乙女心」
「しかもめちゃくちゃ似合ってるし」
「陰キャの皮を被った隠れイケメン、なかなかやりますな」
「このまま彼色に染まっちゃうのもいいと思ったんじゃない?」
な……何を言って……いや、その、あの。それは、その、あの……。
「あ、思ったんだ」
「そのまま告っちゃえばよかったのに」
「あなたが選んだこの服でデートしたい、とか?」
「うわ、それなんかエロい」
キャッキャウフフと話す友人たち。
「ホント……楽しそうね、あんたたち」
「そりゃあね」
にへー、友人たちが笑う。
いやいいけど。どうせみんなにバレバレだし、クラスの見世物になってるのもわかってるけど。
でもさあ!
肝心の当人にまったく伝わってないって、どういうことよ!
自分で言うのも何だけど、私、めっちゃわかりやすいと思うんですけど! 結構露骨にアピってるつもりなんですけど!
ああもう! なんなのよ、大原潤!
私の気持ちにまったく気づいてないくせに、あんなに褒めちぎられたら私どうすればいいのよ。なんで私のことそこまで見て知ってくれてるのよ。
嬉しくてたまらないじゃない!
「もー決めた、この夏こそ想いを伝えて、恋人になってやる!」
「いや高3の夏だよ?」
「受験勉強の天王山だよ」
「あいつ進学組でしょ? 告白なんてして大丈夫?」
ぐっ――ああもう、もっと早く告白すればよかったー!
神様、真面目に受験勉強するから。第一志望は自力で合格してみせるから。
どうか告白のチャンスを恵んでくださーい!




