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らんまも!  作者: 海谷子猫
1/1

〜エピソード・ゼロ〜


https://42762.mitemin.net/i784147/


 今年で五歳になった桐也少年は、父方の祖父母の住む村の秋祭りに呼ばれて田舎に車で向かっていた。運転席には大好きで唯一の家族の父、まさと。眼鏡をかけて、優しい表情を含む彼は、息子のことを溺愛していた。亡き母の忘れ形見の息子は、自分の面影もあり、彼女の面影もある。急な病気で母親を亡くして、桐也は少し大人ぶるようになった。

「きりや、おクツはけるよ!」

 父親としては、桐也なりに母の死を乗り越えようとしている姿に、目頭が熱くなる思いだ。

 祖父母の暮らす神守村は、パワースポットで有名だった。すり鉢状に整備された村は、東西南北に石碑を構え、青龍・朱雀・白虎・玄武を祭っていた。そして今回の祭事を執り行うのが、北へ居を構える光風神社だ。村の人ほとんどがこの神社の氏子で、祭りは村をあげての一大イベントだった。

「パパ!ちょうちんある! まっかだよ!」

「そうだねぇ、お祭りだから、提灯が飾られてるんだよ。」

「ふぅん。キレイだねぇ。」

「そうだねぇ。」

 そういえば自分も小さい頃、提灯がたくさん飾られる秋祭りは提灯の数を数えてはしゃいだっけ。などと考えながら、とある言葉を思い出した。

「提灯をたくさん出しておかないと、悪いものが子どもをさらっていってしまうからな……。」

 隣のおばあちゃんが言っていたのを、ふと思い出したのだ。まさかそんな非科学的な。そう思いながらも、桐也から目を離さないようにしよう、と心に決めたのだった。



 祖父母宅、もとい実家に帰ると、手厚いお出迎えが待っていた。

「まさと! 桐也ちゃん! いらっしゃい!」

 おばあちゃんが真っ先に迎えてくれる。

「二人とも元気そうだなぁ!」

 おじいちゃんも元気そうだ。

 当の桐也は人見知りして、父親の後ろから二人の様子を伺っている。

「わっはっは! 人見知り結構結構! 都会は怖いでな! 警戒心があるのはいいことだ!」

 おじいちゃんが豪快に笑って、桐也はよりいっそう怖がった。

「父さん……。大きな声を出すと桐也が怖がるよ……? 初孫に怖がられたくないでしょ。」

「えっ! 怖かったか? ごめんな、桐也。」

「まぁ立ち話も何ですし、家の中でお茶でも飲みましょうよ。桐也ちゃん、お菓子あるわよ!」

「おかし?」 

 桐也が目をキラキラさせる。

「桐也ちゃんは何のお菓子が好きかなぁ?」

「んーとね、キャンディ!」

「キャンディ! あるわよ! さぁ、クック脱いでお家に入りましょうね。」

「うん!」

 流石子育てしてきただけあって、おばあちゃんは子どもの扱いがうまかった。

 取り残された父親まさとと祖父は、

「荷物、持つか?」

「ありがとう、父さん。」

 お泊まりの荷物を車から下ろし始めた。



「おいちい!」

 すっかり祖父母宅に馴染んだ桐也を見て、父、まさとはホッとしていた。何が不安かと言われると具体的には言えないのだが、ここが、桐也の心休まる場所のひとつになってくれたら嬉しいと思っていたのだ。

「まさと、桐也ちゃんは、夜とか泣いたりしてない? 大丈夫?」

「泣いてはないけど、しばらくベッタリだったよ。それに、まだよくわかってないんじゃないかって、支援先のボランティアさんも言ってたよ。」

 住んでいる自治体には、「身近な人を亡くした子どものつどい」というものがあって、同じく片親や、兄弟姉妹や、祖父母が亡くなってしまった子ども達が、それぞれに気兼ねなく遊べる催しがボランティアさん達の手によって開催されている。子ども達が遊んでいる間に、親は同じ境遇・近い境遇の親御さん達や、経験豊富なボランティアさん達と交流することができる。

「本当に、急だったものねぇ……。」

「膵がんは進行が早いって言うから、見つけたときには手遅れな場合が多いらしいからね……。」

「ふみこさんも、こんなに可愛い盛りの息子を残して逝くのは心残りだったろうなぁ。」

 大人達が難しい話をしている間、桐也は大人しく、喋っている人の顔を交互に見ていた。

「せめてこの子には丈夫に育って欲しいわねぇ。」

 おばあちゃんに頭を撫でられて、桐也はきゃあきゃあ言っていた。

「なでないで! きりや大人だもん!」

「そっかぁ! もう大人になったのねぇ! おっきくなったねぇ! おばあちゃん嬉しいなぁ! 待て待て~!」

 おばあちゃんに今度は抱き締められて、桐也はきゃあきゃあ言って逃げ回った。嫌がりながらも、顔は笑顔だ。

「さて、遠山家からもお神酒を奉納に行くか。ついでに神主の楠木さんに桐也を紹介しよう。」

「楠木さん所の蘭ちゃんも五歳じゃなかったかしら?同い年でお友達になれるといいわね。」

「おともだち? らんちゃん?」

「そーよ。会いに行こっか!」

「うん!」

 かくして、村の北にそびえる光風神社へ向かうことになった。石段を登っていって、結構広い境内は神楽殿が組まれていた。

「おぉ! 遠山の! お疲れさん!」

 神楽殿の微調整をする大工の一人がおじいちゃんに近寄ってくる。

「おお、羽竹さん! これ、うちの初孫の桐也! 五歳になっただよ!」

「うわぁめんこいのぅ、これから楠木さんとこに挨拶け?」

「そうだよ、お神酒も奉納せんといかんでなぁ。」

 周りは、提灯で飾られて華やかだ。本殿に行くと、父まさとと同じ年代くらいの神主が出迎えてくれた。

「遠山さん。来てくださったんですね。まさとくんも久しぶり。」

「先輩、お久しぶりです。」

 神主の楠木さんは、桐也の父まさとの小学校からの先輩だ。隣には、小学生とおぼしき少年がちょこんと座っている。

「楠木さん、今回はお祭りおめでとうございます。無事終わりますよう、願いを込めてお神酒を奉納します。それと初孫の桐也です。五歳になりました。ご挨拶をしに参りました。」

「ありがとうございます。……こちらは、跡取り息子の瞬です。お見知りおきを。」

「いやぁ、お利口なことで! 頑張ってね!」

「ありがとうございます。未熟者ではありますが、精一杯努めます。」

 かしこまった口調で瞬は挨拶の口上を述べた。おばちゃんが少しキョロキョロと辺りを見渡す。

「ところで楠木さん、蘭ちゃんは? 桐也と同い年よね? 仲良くなれるんじゃないかと思って。」

「あぁ、蘭なら……、」

 神主が口を開きかけたとき、バタバタと走りよる人影があった。

「ちちうえ! かあさんがぬってくれました! みてください!」

 小さな巫女服に身を包んだ、小さな少女が現れた。

「巫女達の練習の時に見たようで、巫女服を着たいと聞かなくてですね。正式なものではありませんが、妻が作ってくれたようです。」

 桐也が身を乗り出して蘭の巫女服姿を見る。

「パパ、らんちゃん、かっこいいねぇ。」

 桐也に気付いた蘭が、桐也のそばに寄ってくる。

「あなた、名前は?」

「とおやま きりや、五歳!」

「わたしは、くすのき らん、五歳よ。このお洋服、かっこいいでしょう!」

「うん、とってもステキ!」

「ありがとう!わたしたち気が合いそうね。」

 蘭から握手をして、ふと、蘭が怪訝な顔をした。

「ちちうえ。」

「うん、よく気付いたね、蘭。でも、大丈夫だよ。」

 なにやら奥の方に行った神主が、お守りを一つ持って戻ってくる。

「まさとくん、桐也くんは今不安定みたいだから、魔除けにこの身代わり守りを持っておくといいでしょう。お代は要らないから、持たせてやってください。」

「えっ、あ、はい、ありがとうございます……。」

 こういう昔の風習は当てにならないモノも多いけれど、タダなら貰ってもこちらに損はない。ありがたく貰うことにした。

「ちちうえ、きりやくんとかぐらでんに登ってもいいですか?」

「いいよ、もうすぐ作業も終わるから。」

「ありがとうございます。きりやくん、おいで。おクツ脱いでね。」

「わかった!」

 板張りの神楽殿に登ると、きゃっきゃとはしゃいで二人が走り回る。微笑ましいその光景を、神主の楠木は神妙な顔で見ていた。

「何も起こらなければいいが……。」

 ぼそりと呟かれた言葉は、誰にも届いてはいなかった。

 そうして挨拶も終わり、またお祭りの時間に、と遠山家一同は石段を下りていった。

 それを見送り、神主の楠木は娘にとあることを伝える。

「蘭。」

「はい、ちちうえ。」

「あの子の魂が、非常に不安定なのは感じたね?」

「はい、このままだと『狙われやすい』ですね。」

「そうだね。確か遠山では、最近お嫁さんが病気で亡くなったはずだ。息子さんに影響が出て、悪い相が出ていた。けれどあれは……おそらく生まれ持ったものもある。」

「そうなると、どうなるのですか?」

「より『狙われやすくなる』んだよ。また夕方に彼らは境内に来る。桐也くんと一緒に居なさい。何かあれば瞬か私に伝えなさい。」

「わかりました。」



 そしてしばらくして遠山家は、軽く夕飯を食べて、また境内に来ていた。鳥居の所には蘭が居て、きりやくんと遊ぼうと思って待っていたと言った。

 おばあちゃんから小振りなりんご飴を買ってもらって、蘭と桐也はご満悦だ。

「奥さま、私まで買ってもらってすみません。」

「あら、いいのよ蘭ちゃん。気にしないで。桐也と仲良くしてくれておばちゃん嬉しいからいいの。」

「それならありがたくいただきます。」

 移動中、蘭は桐也の手をずっと握っていた。りんご飴を食べる時は、桐也が夢中で両手で食べたので離したが。

「蘭ちゃんは上手にキレイに食べるのねぇ。」

「毎年食べてますから。それに兄さんに、食べ方のコツは教わりました。」

「あら、でもちょっとほっぺについてるわ。拭くわね。」

「ありがとうございます……。」

 気恥ずかしそうにしていた蘭が、桐也の視線に気付いてそちらを見る。両ほっぺが真っ赤になった桐也の姿を見て、蘭はケタケタ笑い出す。

「べたべただよ、きりやくん!」

「えっ?」

「あら、食べ終わったの? 拭きましょうね。こっち向いて。」

 おばあちゃんが桐也の顔を拭いてくれて、元のつるすべ肌に戻った。

 桐也が欄の手を持ちながら、にっこりして言う。

「おいしかったね。」

「そうね。また来年も来て、りんご飴食べたらいいわよ。」

「来年も?」

「そうよ、来年も、その次も、毎年秋祭りに来たら食べられるわよ。」

「そっかぁ。じゃあまた来る! パパ、きりや来年も来る!」

 桐也は振り向いて父に言う。

「そうだな。じゃあパパ、運転頑張るね。」



 この約束は、結果守られなかった。なぜなら、とある事件が起きたから。桐也少年が、神隠しに合ったから。



 それは神楽が始まってすぐだった。人混みのなか、神楽を見ようとする人の群れから少し離れて、地面に木の枝で子ども二人は絵を描いていた。すると、近くの茂みに、何かキラリと光るものが見えた。桐也は何だろうと茂みをかき分けて……。何者かの手に、引きずり込まれた。

「きりやくん!」

 とっさに茂みに追いかけようとした蘭は、何かに弾かれる。

「くっ! ちちうえに知らせなきゃ! きりやくん! 待ってて!」

 踵を返して本殿の方に走る蘭を、たこ焼きを買いに行っていたまさとは、あれ? と見ていた。そしてどこにも息子が居ないことに気が付き、探し始める。

 一方桐也は、自分を引き込んだよくわからない「ニンゲンでないもの」を恐れて声が出せずにいた。

「こいつ、死の匂いがするぞ。」

 もう一匹が舌なめずりする。

「しかもいい匂いだ。」

 手が四本、足が二本ある生き物が、桐也を掴んでいた。

「ちびすけだな。喰うところが少ない。他の奴らに見つかる前に喰っちまうか!」

 くっ、喰う⁉ 僕を食べるってこと⁉ やだ‼

 桐也がそう思った途端に、ポケットの身代わり守りが光を放つ。

「なっ、何だこの光は⁉」

「うわぁ! 目が痛い‼」

 二匹が怯んだ隙に、桐也はその場から逃げ出した。そう、「禁域の森」に向かって……。



「ちちうえ! きりやくんが! すみません、私は弾かれました!」 

「どこだ⁉」

「かぐらでんの、西の方角に!」

「禁域の森に近いな…。瞬! 蘭を連れて先に行きなさい! わたしは万一を考えて(かずら)を呼びに行く! 優子!」

 瞬と蘭の母、優子を呼び出して、神主は指示を出す。

「まさとくんを保護して、お前は朱雀衆を集めなさい。禁域の森に少年が一人迷い込んだかもしれん! あの子は今『狙われやすい』。羽竹さんにそう伝えて!」

「はい! お気をつけて!」



 桐也は、逃げた。もうどこをどう逃げたか覚えていない。走って、走って。もう光らないお守りを握りしめて、月明かりの下、暗闇の森の中をやみくもに走っていた。

「どこだぁ⁉ ガキィ‼」

 後ろからはさっきの化け物が追いかけて来ていて、まだ遠くだが着実にこちらに近づいて来ていた。

 すると、ふわりと、小さな光が手の中に入ってきた。

「どうしたの? 逃げてるの?」

 その淡い光は呼び掛けた。

「君の髪の毛を一本くれたら、隠してあげる。どうする?」

「どこ行きやがったぁぁ‼」

 危険はすぐそばまで迫っていた。

「髪の毛一本でいいならあげるよ。助けて!」

「わかった! そこの木の根元に入って! 隠してあげる!」

 プチンと髪の毛を一本抜かれた桐也は、言う通りに光を持ったまま木の根元に入っていく。すると、光がもこりと膨らむと、苔になって出入り口を塞いでしまった。

「喋ったらダメだよ、静かにできるかな?」

 桐也は、こくこくと頷いて、口元をその小さな両手で覆った。そのうち苔がもっと生えてきて、足元も覆って温かくしてくれる。

 外の気配が近づいてくる。

「匂いが途切れてやがるぞ。」 

「誰かに先越されたかなぁ?」

「でも誰の匂いもしないぞ。」

「付喪神の類いかもしれねぇ。あいつら御神体じゃねぇと匂いがしねぇから。」

「でも付喪神がニンゲンを喰うか?」

「そうじゃねぇ。匿われたんだ。もうとっくにどこか遠くに運ばれてるかもしれねぇ。これ以上は無理だ……ずらかるぞ。」

 気配が消えてしばらく経って、光がポコンと苔から生えてきた。

「もうお話ししても大丈夫だよ。」

「助けてくれて、ありがとう。」

「こちらこそ。僕も弱ってた所を、君の髪の毛から力を貰ったから助かったんだよ。」

「僕の髪の毛食べると元気が出るの?」

「そうだよ。だからさっきの悪いやつも君を食べて力を得ようとしてたんだ。気を付けないといけないよ。悪い奴らが君を狙うようになるだろう。」

「どうしたらいいの?」

「この村には、しばらく来ない方がいいよ。ここは街より、悪い奴らが多いんだ。」

「わかった。でも、これからどうしよう。きっとパパが探してる。」

「うん、大勢の人が君を探してるみたいだね。気配がするよ。そのうち、ここも見つけてくれるから、僕とお話しして待ってよう。」

「うん。そうする。僕は、とおやま きりや、五歳!」

「僕は苔の付喪神、名前は無いよ。」

「名前ないの?」

「そうだよ。」

「僕がつけてあげようか?」

「おっ、いいねぇ。どんな名前?」



 消防団みたいな村の団体、朱雀衆が山狩りをする中、桐也少年は中々見つからなかった。瞬に背負われた蘭は、焦っていた。

「きりやくーん‼」

 自分が傍について居ながら目の前で拐われたのだ。責任も感じていた。「わたしのせいで。」兄である瞬は、背中の妹をたしなめた。

「蘭、『気』が乱れているぞ。落ち着け。」

「はい、兄さん……。」

「深呼吸して。」

 そう言いながら瞬は、蘭を一度地面に下ろした。

「とは言え……。禁域の森だからかな、気配が多すぎて僕も探し切れないよ。」

「どうしよう……。」

 蘭が途方に暮れた時。ふわりと、風が吹いた。

「……兄さん、何か聞こえなかった?」

 蘭は一方向を見つめながら言った。

「いや、何も聞こえないぞ。どうした?」 

「今、きりやくんの笑い声が聞こえた気がしたの……。こっち!」

 そのまま蘭は自ら走り出す。瞬はそれについていく。風が、運んでいた。風が、呼んでいた。蘭が望むまま、探すものへといざなっていく。

 そこは一見、何の変哲もない木の根元だった。苔むした部分が、呼吸するように動いている。

「きりやくん。」

 蘭が呼び掛けると、苔がポロポロと崩れ落ちた。

「らんちゃん……?」

姿を現した桐也は、伸ばされた蘭の手をとった。


 瞬に背負われて下山して。無事、父まさとの元に戻った桐也は、すっかりその頃には寝入っていた。蘭が、まさとに耳打ちする。

「きりやくんは、魔の物に『狙われやすい』です。この村にはもう、来ない方がいいです。あのね、苔神様が守ってくれたの。だから今回は無事だったけど、気を付けた方がいいです。」

「えっ……?」

「無事で良かったね!」

 くるくる回って風を感じて、巫女服姿の蘭が、神楽殿でくるくると舞う。

 蘭は、瞬が父親と連絡を取っている間に、苔神様と約束をしていた。

「僕、この子が心配だから『憑いていく』ことにしたよ。けど、この子にも、周りにもナイショね。しーっ。」

「わかりました! きりやくんをお願いします。」

 難しいことは蘭にはまだ判らなかったが、苔神様がそこら辺の『悪いもの』より強いことは感じ取っていた。だから、もうきりやくんは大丈夫。神主の楠木は、まさとに深々と頭を下げた。

「私の娘がついていながら申し訳ないことをしました。お詫びできることなら何でもしましょう。」

「いいえ、息子が無事に帰ってきただけで充分です。お気遣い感謝します。」

 まさとは、桐也を抱いたままぎゅっと抱き締めた。

「さっき娘が何か耳打ちしていた様でしたが、何か言われましたか?」

「あぁ、桐也が狙われやすいだとか、苔神様が守ってくれたとかって……。よくわからないことを言ってました。」

「そうですか……。まぁ、もう大丈夫そうですがね。」

「えっ?」

「まぁまぁ、小さい子どもの言うことですから、気にせずいてください。」

 すやすや眠る桐也を見つめて、神主はにこにこと微笑む。

「良い縁だ。」

 神主は、全てお見通しであった。

「蘭にとっても良い結果になって良かった。」

 今度は、風と遊ぶ愛娘を見つめて目を細める。神守村は、土地柄魔を呼び、村人が魔を祓う村。村にある家系の三分の一が、異能を今日まで継承していた。まさとのいる遠山家は血が薄く、村の政からは遠ざけられて過ごした。だからまさとは知らなかった。魔の物の存在も、力を持つ者の存在も。魑魅魍魎も、神格も、八百万の神々も。

 一方で楠木家は霊験あらたかな光風神社開祖の血筋を引き、水の力か、風の力を継ぐものが生まれるのが常だった。瞬は水の適性が強く、既に発現している。蘭はどちらを継ぐだろうかと皆が気にしていたのだが……。今日、風の力を手にした様だ。


 桐也が家に帰る日、蘭と瞬が見送りにきた。おばあちゃんが連絡した様だ。小さな身体同士で桐也と蘭が抱き合うと、バイバイ、とお互い小さな手を振る。

「らんちゃん、助けてくれて、ありがとう!」

「どういたしまして! 私、もっと強くなるね。だからまた大きくなったらこの村に遊びに来て!」

「わかった! じゃっ!」



 こうして、桐也と蘭は、しばらくのお別れをすることになった。桐也が次にこの村に来たのは、高校生になってからのことだった。そしてなぜか再び、「らん」が桐也を「まも」ることになるのだが……。その話は、悲しい出来事から再開する。

 桐也少年の難多き半生の話は、またの機会に。



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