0章ー09
「!」
衝撃音と共に目を覚ましたジョンは起きあがると共にベッドフレームに頭をぶつけ顔を顰めた。
「痛…忘れてた」
痛みに顔を顰めながら這ってベッドの下から這い出るジョンはふらつきながら身支度を整えた。
「思ったより早かったな」
だが丁度いい。飛ばしていた偵察機が役に立つ。
暗い部屋の中ジョンは端末を出すと画面を切り替え偵察機からの映像を確認した。
サーマルカメラから分かるのは敵は…ん?数人なのか。焚火のせいかはっきりと分からないが十人…くらいか?
「…いや、既に侵入されてるのか」
嫌な予感を感じジョンは部屋を出ると下の階から物音が聞こえた。
まずは確認だ。
音を立てないよう慎重に廊下を出るジョンは隣の部屋のドアを慎重に開けた。すると隣ではすでに準備を終えた三人が武器を構えていた。
いい判断だ。とりあえず安全が確保できるまでここで大人しくしてもらおうか。
三人はジョンに気付くと警戒を解こうとしたがジョンのハンドサインに気付き静かに頷いた。その姿を確認し開けた時同様に音もなくドアを閉じた。
暗い廊下をゆっくり歩くジョンは端末からバッテリー式のランタンを選ぶと手に現れたそれを廊下の端に置いた。
蝋燭など近い周囲を明るくランタンにジョンは構えることなくただ来るであろう敵を待った。
「明るい。上にいるぞ」
「静かに。まだ気づかれてないかも」
階段から聞こえてくる小さな声と階段をあがる足音にジョンは小さく息を吐いた。
素人か。とりあえず相手の出方を見るのもいいかもな。
やがて頭をひょっこり出す侵入者は驚いた顔をするも、侵入者は慌てることなく階段を上がりジョンの前へと姿を現した。
こいつはまた変わった組み合わせだな。ボディビルダーみたいな上半身裸のマッチョと革鎧を着た女か。
「珍妙な格好だな。本堂と同じコスプレか?」
「油断しないで。こいつが噂の新入りよ」
そう言う割に余裕のある女にジョンはなにも言わず観察を続けた。
「おい、あんた。ここでなにしてる?」
警戒もなく近づこうとする男に女は肩に手をかけて止めた。
「待って。貴方が反乱軍に加担してる人でしょ。悪いこと言わないからここで手を引いて。なんだったら次の仕事先を探してあげるから」
「お前たちここでなにしてる?」
友好的に話しかける女にジョンは問いかけると女は見るからに顔を顰めた。
「質問してるのは私なんだけど。まぁいっか、時間が押しているし派手にやったら出てくるかも。それじゃお願い」
女は男の肩を叩くとそれを待っていたように男は口から大きく息を吐き出した。
「やっと暴れられる。おい、そのライフルを捨てて土下座するなら外へ放り投げるだけで許してやるぞ」
「これはショットガンだ。情報を吐くなら生かしてやるがどうする?」
「面白い野郎だ。マッスルアーマー!」
顔を真っ赤にして筋肉を見せつけるようにポーズをとる男にジョンは下ろしていたショットガンを構えると同時に撃った。
速射とも言える早撃ちは的確に男の胸に命中したが、弾は分厚い筋肉に弾き返され壁にめり込んだ。
ライフルスラッグ弾を跳ね返した。こいつは思ったより厄介かもな。
「ふはははっ!見たか。これぞ能力マッスルアーマー!筋肉の厚さに応じて強固な防御力を得るまさに鋼の肉体!お前の銃などまさに玩具そのもの」
…いや、そうでもないな。
「それじゃミンチにしてやる!」
駆けてくる男にジョンは構えなおすと素早く膝に狙いを合わせると素早く両膝を撃った。先ほど違い撃ち抜かれた膝は完全に破壊され男は勢いよく頭から倒れた。その勢いはすさまじく男の頭は床にめり込んだ。
「ぶべっ」
口の軽い奴だ。筋肉の厚さが関係するなら薄いところを狙えばいいだけ。後は頭が筋肉じゃないことを祈ろう。
男の間抜けな声に気にせずジョンは頭に狙いを合わせ一発撃ちこむとジョンはそれ以上は気にせず残った女に狙いを合わせた。
「召喚ガーディアン!」
女の叫びと共にジョンは頭を狙って撃つも弾が届く前に巨大な手が間に入った。
「!」
驚きながらも迷わずジョンは撃ち続けた。巨大な手は指や肉が弾けるも貫通することはなく女に届きはしなかった。
…分厚い肉だ。こいつが化け物のマーダ…いやダーマだっけ。…なんにしても面白い。
マスクの裏で小さく笑うジョンは端末を出して操作するとその間にも手の主がなにもない空間から姿を現していった。
「あいつをやるなんてさすがね。けど古参の私から言わせてもらえばまだまだ」
余裕気に言い放つ女の前には先ほどの男を二回り三回り大きくした緑色の化け物が立っていた。その化け物は豚面で口から涎を垂らしうつろな目で鼻をいじりはじめた。
片手が潰れても気にもしていない。痛覚がないのか…いや、壊れた手が元通りになってる。高い再生能力があるのか。
ショットガンにカスタムしたガンベルトからライフルスラッグとは別の弾丸を取り出すとクアッドロードで素早く込めた。
さて向こうも準備ができたようだし片をつけるか。
「まだやる気?私の能力、召喚の中でこのガーディアンを倒したいなら戦車でも持ってきなさいよ」
戦車か。ご要望には応じたいところだが生憎ポイントが足りない。なによりこいつには贅沢だ。
構えなおすジョンにガーディアンと呼ばれた化け物は掴みかからんと鈍足ながらも駆けだしていった。
「!」
向けられた手にジョンは狙いを合わせて撃つとガーディアンの腕は爆発したように吹き飛んだ。その火力は強烈でジョンのところにまで血と肉が飛び散るも本人は怯むどころか冷静に頭部に狙いを合わせた。
「え?」
女の間抜けな声が一瞬聞こえたがジョンは気にせずガーディアンの頭部を撃った。跡形もなく頭部は吹き飛びそのまま後ろへと倒れた。
壁であったガーディアンは倒れ無防備になった女はジョンと目が合うも即座に放たれた弾丸が当たると上半身は跡形もなく吹き飛んだ。
少しするとガーディアンの体は消えてなくなり、残ったのは女の下半身と周囲に飛び散った血と肉片が飛び散ったままだった。
「炸裂弾は強力すぎたか」
冷静にそう呟くジョンは何事もなく歩き出すとユアンたちの部屋をノックした。
「ジョン・ドゥだ。侵入者を排除したが他にもいるようだ。今から移動する。出られるか?」
「分かりました。今すぐ出れます」
ホリーの返事が返ってくるとドアが開き慎重に彼女は顔を出した。
廊下の明かりの眩しさに目を細めると次の瞬間目を見開きそのまま気絶した。
…さすがにこれは心外だ。
「大丈夫か?」
ジョンはそう聞くと異変に気付いたのかフライドが近づいてきた。
「おい、どうした……ジョン殿、それは…一度汚れを落としてくれませんか。…あまりにそれは」
吐き気を堪えるように口を押えながら言うフライドにジョンは首を傾げ、端末を取り出しカメラモードで自分の姿を見るとスカベンジャーには血と肉片がこびりつき、目玉と髪のついた肉片がべったりとくっついていた。
たしかに慣れない奴にはキツイな。
「ちょっと待ってろ」
ジョンは一旦離れると自身の部屋に戻り体に付いてた肉片を落とし部屋に置いてあった布で汚れを落としていった。
真っ赤になった布を放り捨てると不意に腕についていた青い瞳の目玉と目があった。
「悪く思うな」
目玉を払い落とすジョンは廊下へと戻った。すると既に三人は廊下に出ておりユアンを囲うようにしてゆっくりと階段を下りていた。
「先に行くな。侵入者はまだいる」
「ジョン殿。すまない、あまりに耐えられなくて」
そう言うフライドの顔は青白く、目を覚ましたホリーも今にも倒れそうな様子に見えた。唯一目隠しされて歩くユアンだけが鼻を押さえている程度で平気そうだった。
「…彼らは?」
「召喚者のはずだ。気にするな、ただの筋肉バカとよく分からん女だ」
「筋肉バカと女って……まさかあの二人を倒した?この短時間で?………信じられない」
さっきからこいつなに独り言を言ってるんだ?危機感が足りないな。
「敵は少数だ。人の多い場所に…いや、守りやすい場所へ移動する」
とりあえずリーンのいるあの塔なら俺一人でも守りやすいな。
「先頭は俺が行く。フライドはこれを持って周囲を警戒しろ」
ジョンは血に染まったランタンを渡すと、込められている炸裂弾を抜いて代わりに手の中に現れた弾を込め始めた。
どういう仕組みか知らないがベルトには弾が新しく入ってる。これならよほどのことがない限り対応できる。
屋敷を出ると外は騒がしかった。既に砦の前だけでなく中でも戦闘が行われているようで、どこからか戦闘音が聞こえてくる。
「ジョン殿まだ屋敷の方が安全では?」
「屋敷は侵入できる場所が多い。出入口が少なく頑強なあの塔に行く」
ジョンはそう言って指示した先にはリーンの住む見張り塔が先にあった。
「話は終わりか。敵は恐らく全員召喚者だ。ふざけた能力で不意を突かれないよう集中しろ」
「はっ、すいませんでした」
意味を理解したように口を閉じるフライドは緊張した面持ちで周囲を警戒した。
周囲に人の姿はないがこの暗さじゃ確認しきれないな。
足を止めぬままジョンは端末を出すと偵察機からの映像を確認しその場で足を止めた。
目の前に二人いる。どこだ?姿は見えない。
敵か味方を確認するためジョンは慎重に一歩足を前に出した。
「!」
足が沈んでる。泥?沼?いや昼間にはそんなものはなかった。
「下がれ」
ジョンはそう言いながら足を抜こうとしたが、もう片方の足も同じように地面に沈んでいった。
これは召喚者の能力か?だとしたら端末に映ってたのは敵か。
端末を収めるジョンは目の前の地面に銃口を向けると、そこから二本の槍が勢いよく飛び出した。
とっさに槍の一本を撃つも二本目には対処しきれず肩へと当たった。だがスカベンジャーの装甲を貫けず肩を滑った。
「そこか」
槍の飛び出てきた位置から狙いを決めたジョンはそこへ向けて弾が切れるまで連射した。すると効果があったのか二人の男が地面から飛び出した。
「このっ!」
短剣を持って向かってくる男にショットガンのストックで殴り、フォエアンドを引き手の中から現れた弾丸を込めた。
「野郎!」
殴られた男が倒れる中、残ったもう一人は槍を構えるもジョンはフォアエンドを戻すと同時に撃った。
腹に風穴が開いて吹き飛ぶ男は地面に叩きつけられると苦しそうにもがくも直ぐに動かなくなった。
「ひぃ、ひいっ!」
倒れたもう一人男は逃げようと背を向けた。だがジョンはそれを見逃さずホルスターからハンドガンを抜き胸に一発撃った。
男は悲鳴をあげ倒れこむとジョンはすかさず胸と頭に一発ずつ撃ちこんでとどめを刺した。すると泥のように柔らかった地面は何事もなかった元通りになった。
ジョンは足に力を込めて片足ずつ足を抜いて自力で出た。
地面に潜る能力か。使いようによっては厄介だったな。
「全員無事か?」
ジョンは弾を込めながらそう聞くと後ろからは申し訳なさそうにユアンの声が聞こえた。
「あの足が沈んで…出られません」
その言葉にジョンは振り向くと恥ずかしそうに俯くユアンとどうにか自力で出ようとするフライドとホリーの姿があった。
「…ちょっと待ってろ」
そう言ってジョンは端末で前に見つけた軍用折り畳みシャベルを出すと一人ずつ周りの土を掘り始めた。
「すいません」
「気にするな足が動かせそうなら教えろ。足に当たるとケガするからな」
ブレードにもなっているシャベルの先端に気をつけながらジョンは慎重に掘っていった。
「あの…聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「あそこまでする必要はあったのですか?」
そう言われジョンは振り向くと胸と頭をを撃たれた男は絶命しており、脳漿の一部が飛びでていた。
「これは戦闘だ。やるからには確実に仕留める必要がある」
特に負傷した敵ほど恐ろしいものはない。追い詰められると人でも化け物でもなにをしてくるか分からない。
「…そうですか。それとさっきから二人の様子がおかしいんですが、なにか知ってますか?」
小声でそう言うと心配そうにフライドとホリーをユアンは見た。
「気にするな。慣れないものを見て気分悪くしただけだ」
「それは…あ」
納得したように口を押さえるユアンにジョンはもう片方の足を地面から出した。
「そっちは出られたか」
「はい、出られました」
ホリーの言葉にフライドは頷くとジョンはなにも答えず先へ進んだ。徐々に近づく見張り塔へと近づくもほのかに臭う血の臭いがしてきた。
「ジョン殿」
「こいつはまずいな。警戒を強めろ」
嫌な予感がするもジョンは暗い砦の中を記憶を頼りに歩き続けると、やがて塔の前へとたどり着いた。
「全員動くな。周囲に警戒しろ」
ショットガンを構え前に出るジョンは敵に警戒するも党の前には無数の死体が転がるだけで立っている者は誰もいなかった。
騎士や兵士の死体だけじゃないな。この二体は明らかに召喚者だ。
転がる死体の内二つは東洋にいたとされる鎧武者と暗殺者風の格好をしていた。二人とも剣によって斬られていた。
こいつは見事だ。剣に詳しくない俺でも分かる。急所だけを的確に狙ってる。しかし誰がどうやって?
「…よう…あんたか」
声の聞こえた方にとっさにショットガンを向けるとドアの横に座る男に気付きゆっくりと銃口を下した。
「お前か。なんでここにいる?」
「…隊長にここの護衛を頼まれてな。ああ、クソ。こんなことになるなんてな」
力なくマーレー笑うと小さく咳き込んだ。塔の横に座るマーレーの腹には深々とカタナが突き刺さっていた。
「中にいるリーンは無事か?ここでなにがあった?」
「…二つも聞くなよ。賢者さまなら無事だ。…ここで遊んでる見張り連中の監視で付いてきたら…召喚者に会っちまってな。…気付いたら…この様だ。…まっ、時間稼ぎくらいになったろ」
小さく笑うマーレーだったが咳き込むと共に血を吐いた。
「…なぁ頼みなんだけど…隊長の様子を見に行ってくれないか。あの人なら大丈夫だろうけど…気になってな。…ああ、代わりにここの警備…任せとけ」
徐々に弱くなっていくマーレーの声にジョンは静かに目の前で手を動かすも気づかないのか反応はなかった。
もう長くはないな。いやこれだけの傷でよくもった方か。
「分かった」
「へへ…すまねぇ。…ああ…そうだ。…この…戦い…おわっ…さ…けっ」
横に倒れるマーレーにジョンは脈を確認しゆっくりと立ち上がった。
「仕方ない。頼まれたからにはやるか」
ジョンはため息をつくとユアンたちの元へと戻った。
「大丈夫ですか?なにかありましたか」
「戦闘があったみたいだ。死体は転がってるが恐らく大丈夫だ」
三人の顔に緊張がはしるもジョンは再び見張り塔へと向かった。
死体の山に悲鳴をあげるユアンに気にせずジョンは見張り塔のドアを叩くとゆっくりとそのドアは開いた。
「やぁ君か。まずいことになってるね。来た理由は分かってるよ、さぁ」
警戒することなく中へと招き入れるリーンにジョンは先に入ると安全を確認した。
「安全か。どうして俺たちが来るのが分かった?」
「賢者と呼ばれてるのは伊達じゃないよ。この塔の周辺一帯を見る術くらいはあるからね。君が侵入者と戦ってるのはここから見てたんだ」
ここから見てた?よく分からんが魔法かなにかなのか。
「お姫さま御一行もどうぞ。狭いところで悪いけど」
「セルバさま。ではお邪魔します」
笑顔で招き入れるリーンにユアンたちは緊張した面持ちで塔の中へと入った。
「いやー、さすがに五人は狭いね。適当に座って…と言っても無理だね」
笑いながら言うリーンであるが下手に足を動かすだけで何かが倒れるほど狭苦しくなっていた。
「それじゃ俺は外で警備してる。なにかあったら教えてくれ」
「それなら別にしなくていいさ。砦に入った侵入者は十人。その内君が殺した六人で残り四人は既に殺されている。後は砦の前で暴れているダーマたちだけなんだ」
「あのなぜそこまで詳しく知っているのですか?」
「ああ、それはねお姫さま。さっき教えてもらったからさ。僕たちの友人さ」
「友人?…もしかして」
納得したように話は進んでいく中ジョンは端末を取り出し操作した。
「よく分からんがその情報が確かなら俺はここを離れる。念のため俺が戻るまでの間ドアをしっかりと閉じておけ」
そう言ってジョンはショットガンその場に捨てると、代わりにジョンの手には光学サイト、レーザーサイト、サプレッサー、銃身下にはグレネードランチャーをカスタムしたアサルトライフルが握られていた。
このままショットガンでも構わないが敵は得体の知れない能力がある。接近を控えて狙撃ができればいいが苦手なんだよな。
そんなこと思いながらスライドを引き見張り塔を出ていったジョンは真っすぐ砦の門へと歩いていった。その後ろから続くリーンに気にしながら。
……なんで何食わぬ顔で付いてきてるんだ?しかも口笛まで吹いて楽しそうに。
上機嫌そうなリーンを横目にジョンは進んでいくもやがて耐え切れず口を開いた。
「なんでお前が付いてくる?」
「ん?とても興味深そうだからね。特に君の持つ銃火器なんて話でしか聞いたことないからチャンスは見逃したくないのさ」
「そうか。巻き込まれても知らないぞ」
そう言うとジョンは立ち止まり先にある門を見上げた。元は分厚い丸太で作られた門と塀は今では砲弾の雨でも受けたように原型なく破壊しつくされていた。
……これだけのでかいものを壊したか。こいつは中々の大物が出てきそうだな。
警戒心と共に期待と好奇心から高揚感を感じつつジョンは再び門へと歩き出した。




