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ようこそ吹き溜まりの世界へ  作者: ジャッカス
7/32

0章ー07

「…よく眠れた」

 そう言って目を覚ますジョンは直ぐには起き上がらず横にスライドするように体を動かした。

 万が一襲撃に備えたが意味なかったか。硬い床で寝たせいか体の節々が痛むな。下に布でも敷いておけばよかった。

 ジョンはベットの下から出ると体を伸ばし軽い柔軟をしてから、置いていたパワードアーマ―のパーツを一つ一つ装着していった。

 さて服はどうしたものか。戦闘服自体は動きやすくていいが一着しかない。最悪戦闘服でなくてもスカベンジャーは使えるが相性を考えないと。

 そんなこと考えながらパワードアーマーを装着すると置かれている鏡で異常がないか確認した。

「装備に異常なし。しかしよく片付けたものだ。見違えたな」

 ジョンはそう言って見回すと部屋はマーレーに案内された部屋の隣であった。当然ここも最初は長年放置されたことで埃が積み重なっていたがジョンが部屋に案内された時には埃一つなくなっていた。

 まさかあのお姫様とお供の二人で部屋どころか館一つ掃除するとは見上げた根性だ。一日どころの作業じゃないだろう。

 ジョンが砦に戻ると案内されたのは最初に案内された屋敷であった。当然気が重くなるジョンだったがそこではユアンたちが綺麗に掃除をしていた。

 ここに来てから約一週間掃除を続けるとはな。まだ清掃は全て終わってないとはいえこれだけでも凄いことだ。

 そんなことを思いながらジョンは置いていたショットガンを手にすると状態を確かめるように動作確認をはじめた。

 俺の能力で出した武器は捨てるとそれは一定時間で跡形もなく消える。出せる銃火器は一つ。手榴弾や高性能爆弾の類は一種類までなら銃火器と一緒に持てるし幾つも持てる。ただ個別にポイントが消費される。

 敵を倒すことで加算される謎のポイントは対象によって加算されるポイントは違い、動物や魔獣にたいしポイントは少ない。人はそれなりで召喚者はかなりのポイントが加算されるようになっている。

 ワンマンアーミー。正直よく分からない得体の知れない力だが使い勝手はいい。やりようによってはこの世界で困ることはなさそうだ。

「面倒は起きたが変わらず情報収集と今後の身の振り方を考えないとな」

 そう呟き改めて部屋の行き届いた清掃に感心するジョンは部屋を出るとユアンは壁に雑巾がけをしていた。

「あ、ジョンさんおはようございます」

 ユアンはジョンに気付くと笑顔で小走りで駆け寄った。

「おはよう。朝から掃除とは感心だな」

「はい!精一杯やっています。あ、もしかして騒がしかったですか」

「いや、それより一人で動いて大丈夫なのか」

「大丈夫です。ジョンさんがいますから」

 言ってる意味が分からんが突っ込むのもやぶだろう。それに笑えるってことはいいことだ。

 信頼を寄せた無邪気な笑顔にジョンはそれ以上言わず部屋を出た。その後に続きユアンも後に続いた。

「フライドとホリーはどうしたんだ?」

「今ご飯を用意しています。もう少しでできるはずです」

「そうか。俺もなにか手伝おうか」

「大丈夫です。ジョンさんは私たちのお客さんですから、それに昨日戻ってきたばかりなんですからゆっくり休んでください」

 力強く言うユアンにジョンはなにも言わず歩くと腕を引っ張られた。

「ジョンさんこちらです」

「そうか、ありがとう」

「案内しますね」

 笑顔で答えるユアンの後に続くと石造りの調理場へと案内された。

「あ、ジョン殿おはようございます」

「おはようございます」

 丁度支度を終えたのか机にはパンやスープなどの料理が置かれていた。

「すいません。まだ部屋の片づけが終わってなくて」

「いや、気にしなくていい。これを貰うぞ」

 置かれてる料理の前に座るとすかさずユアンが隣に座りフライドとリリィは前へと座った。

 ジョンはマスクを外すと置かれてるスプーンを手に取ると周囲から向けられる目に気付いた。

「なんだ?」

「ジョンさんは極東の生まれの方ですか」

「東の生まれ?よく意味が分からないな」

「それはですね。召喚者の方に生まれを聞くと、ジョンさんと同じ顔立ちの方は皆極東の生まれと答えますので」

 極東…ああ、地図で見ればそうなるか。

「いや西の大陸側だ。これは親の遺伝だ」

「それは失礼しました。ちなみにジョンさんは独身ですか?」

「ユアンさま。ジョン殿失礼しました」

 ホリーに注意され不満そうな顔をするもユアンは話を続けた。

「ジョンさんは」

「ユアンさま。まずは食べてください」

「むーっ、いいじゃない」

「子供じゃないんですから」

「すいません。お見苦しいところおを」

 仲が良いな。そういえば三人は幼馴染とか言ってた…どうだっけ?

「気にするな。それより三人はこれからどうするつもりだ」

 ジョンの問いに三人は真顔になるとユアンは口を開いた。

「私たちはこれから隣国であるアクア王国と交渉し援軍を要請するつもりです」

「アクア王国。ああ、砦の向こうにあるでかい国だったか」

「はい、我が国の仮想敵国ですが今回の件に向こうのある貴族の方が協力する気があると知らせがきました。まだ直接お会いは出来ていませんけど協力者の方の連絡や手はず、コニー・ボードさまに話を通してくれました」

 ほう、よく分からんが色々と裏で動いてる連中がいるわけか。興味はないが巻き込まれたくはないな。

「それなら直ぐにここを出ていくのか」

「いえ、話では向こうから使いの者が来るはずですので、それまで待ちます」

「そうか。まぁなんにしても頑張れ。俺は好きにさせてもらう」

 スープに口をつけるジョンはかき込むように食べると横に置かれてる木のコップに口をつけた。

 久々にまともなものを食べた…しばらく食べれるならそいつはいい。

「ジョンさんはやはり賢者さまに会いに行かれるのですか?」

「そうだ。それじゃ俺はもう行く。ごちそうさん美味しかったぞ」

 そう言うとジョンは横に立てかけていたショットガンを手に取り、マスクを顔にはめると何か言おうするユアンに気にせず部屋を出ていった

「不愛想ですけど良い人ですね」

「最初はおっかない感じだったけど話せば良い人だ」

 フライドとホリーはそう言うとユアンは笑顔で頷いた。

「…あの人どうしたら一緒に来てくれると思う」

「無理です。彼は手に負えない」

「無理だ。あれは手に負えない」

 ユアンの問いに二人は同時に答えた。

 

ジョンは屋敷を出ていくと外で警備をしている兵士に声をかけた。

「おい、今いいか」

「召喚者さま。おはようございます。どうされましたか」

「賢者とかいう奴に会いたい。今どこにいる?」

 その問いに警備の兵士は驚いた顔をするも直ぐににやけた顔を浮かべた。

「そういうことですか。同じ男だから理解できますよ。あの人なら砦の端にある見張り台の塔に住んでいます。ほらあそこですよ」

 何言ってるか分からないがまぁいい。役に立つ情報があればいいんだが。

「分かった。ありがとう」

 礼を言ってその場から離れるジョンは言われた通りの方向を見た。砦を囲う壁の近くに見張り台らしき石の塔が建っていた。

 あそこにいるのか。賢者というだけあってそれっぽい場所に住んでるな。

 興味深く塔を見上げながら歩くジョンは真っすぐ歩いていった。

「お前ここに何の用だ?」

 塔の前で呼び止められるとそこには銀色に光り輝く鎧を着た騎士が道を塞ぐように立っていた。

「ここにいる賢者に話があってやってきた」

 騎士は無遠慮にジョンを見つめると納得がいったように頷いた。

「ああ、噂の男か。ここには許可なく入ることは許さん。通りたくば許可をとれ」

「許可ならここのコニー・ボードから貰っている」

「あの男の許可などではダメだ」

「話が違うな。なら誰の許可がいる」

「自分で考えろ」

 小ばかにするように騎士は笑うとどこから現れたのか数人の騎士や兵士が出てきた。

 …面倒な事になってきた。

「喧嘩を売るなら他でやれ」

「黙れペテン師が。あの森でなにをしたのか分からんが俺たちは騙されんぞ。この先を行きたいなら俺を倒していけ」

「言ったな」

 ジョンはショットガンを構えようとしたが動きを変え、ゆっくりと腰のナイフに伸ばした。

 久々の対人だ。今後の接近戦を考えて試しておくか。

「来いよ。相手をしてやる」

 数歩距離をとり腰を低く構えをとるジョンに騎士は盾と腰の直剣を構えゆっくりと前に出た。

「我が名はトーリ・スタン三世!偉大なる…」

 名乗りを上げだす騎士にジョンは駆けて距離を縮めると守りの要である盾に前蹴りを放った。

 薄い金属の盾はパワードアーマーによって強化された蹴りに耐え切れずそのまま風穴開き盾の内側の板と騎士の腕へと当たった。

「なあっ!」

 急な一撃に態勢を崩す騎士は後ろに倒れるとジョンは態勢を低くし素早く後ろに回って騎士の首を傾けさせ露になった首にナイフを向けた。

「まずは一撃。次だ。早く立て」

 なす術もなくやられたことにショックを感じたのか固まるトーリにジョンはその背を蹴って歩いて元の位置に戻った。

「ふざ、ふざけ…ふざけた真似を!もう許さん!その首叩き斬ってやる!」

 トーリは壊れた盾の残骸を外すと今度は両手で直剣を構えた。だが衝撃は抜けきってないのか剣先は小刻みに震えている。

 腕を折らないよう加減したが相手をできるのは次で終わりか。次はどう攻めようか。

 周囲のやじ馬たちがどよめく中ジョンは気にせず構えなおすとトーリは目を見開き上段で構えた。

「風斬り!」

 トーリは剣を振るうと強い突風がジョンを襲った。不意の一撃に態勢を崩しその場に膝をついた。

 なにが起きた?振るった剣から風が吹いたのか?…こいつも召喚者なのか。

「どうだ?これが我が一族に伝わる秘伝の固有能力!」

 自信ありげに言い放つトーリにジョンは立ち上がると膝についた土を払い落し再び構えなおした。

 よく分からんな。態勢を崩した俺に追撃すれば倒せたかもしれないのに。まぁいい次はない。

 油断をなくし殺気をこめて構えるジョンにトーリは同じように構えた。

「風斬り!」

 トーリの動きに合わせ斜め方向に駆けるジョンは放たれた見えない一撃に横転して躱した。

「なっ!?」

 驚きに固まるトーリにジョンは態勢を低くしたまま再び駆けだした。

「ぬんっ!」

 駆けてくるジョン目がけて直剣を振り下ろすもその動きを読んでいたように横に動いて一撃を躱した。

 隙だらけになったトーリにジョンは前から迫り、片手で口を塞ぐと体重をかけながら足を引っかえて態勢を崩した。

「のわっ」

 体重をかけられ後ろに倒れるトールにジョンはそっと無防備な首にナイフの切っ先でそっと刺した。

 浅く刺した一撃にトールの首からは噴水のように血が噴き出すと止まることなく血がとめどなく流れ出した。

「なっ、あっ」

 動揺したように慌てて自分の首を押さえるトールだが金属の腕具によって上手く押さえられず血は止まることはなかった。

「鎧を着けるなら首もしっかり守らないとな」

 徐々に青ざめていくトールにジョンは傷口を押さえている手を退けようと手を伸ばした。だが横から伸ばされた手に動きを止めた。

「はい、そこまで。さすがに殺すのはまずいよ」

 聞き覚えのない女の声にジョンは離れると見覚えのない女がトールに近づいた。青くなっていくトールに女はそっとなにかを塗った。すると溢れ出ていた血はピタッと止まった。

「外野の君たちは彼を搬送するんだ。一時的に止血したけど傷を縫って点滴をしないと長くはもたない」

 女の言葉に慌てて動き出す騎士と兵士はトールを急いで運ぶと残った女はジョンに握手を求めるように手を伸ばした。

「初めまして。君のことは聞いている。僕が賢者リーン・セルバ。賢者セルバでもリーンでも好きに呼んでほしい」

 そう言うリーンにジョンは足の先から頭の先と全身を見ると一つの疑問が解けた。

 あの兵士の意味深な言葉の意味がよく分かった。まさかチャイナドレスの美人だとは驚きだ。

 赤いチャイナドレスのスリットと盛り上がった胸にジョンは一瞬見入るも直ぐに平常心で顔を見つめた。

「ジョン・ドゥだ。思っていたより…いやそれ以上に若いな」

「賢者と言っても僕は二代目なんだ。賢者は帝国にある真理の門を通った者にだけ送られる称号さ」

 よく分からんが詳しく聞く必要はないな。

「そうか。コニー・ボードから話を聞いてるか」

「もちろん。僕の答えられることならなんでも答えるとも。あ、ちなみに僕のスリーサイズは…」

「どうでもいい。話せる場所と洗える場所はどこだ?」

 そう言って血に染まった手を見せるとリーンは興味深そうに見つめた。

「それなら中にあるからそこで洗うといい。ああ、さっきの件も気にしなくていいから。彼らは上流貴族の出身らしいけど英雄王のせいで没落してね。ここに来たはいいけど親衛隊長の指揮に入らず僕の警備の名目でさぼってるんだ。彼らにはいい薬になっていいだろう」

「あの連中のことはどうでもいい。案内してくれ」

 ジョンの言葉にリーンは笑顔で応じると塔の中へと招き入れた。

 こいつはまた…地震が起きたら地獄だぞ。

 塔の中は壁全体にいたるところに本棚が設置され、その中には隙間なくみっちりと本が入っていた。

「汚いところで悪いね。あ、水を使うならここの水道を使って。地下水に繋がってるから飲み水として使えるよ」

「水道…水道があるのか」

 見慣れた蛇口に驚きながらも水を流すと綺麗な透明な水が流れ排水口へとスムーズに流れていった。

「それは僕が設計したものでね。君たち召喚者の知識を参考に砦の人たちに協力してもらったんだ。将来的には湯沸かし器を作りたいところだけど、この内戦で難しいね」

 そう言いながらリクライニングチェアに座るリーンは激しく前後に揺らした。

「そうか。拭くものあるか?」

「これを使うといい。僕と友達で共同で作ったアルコールシート。汚れも殺菌もできる便利品」

 渡された紙を受け取るとアルコール独特の臭いをかぎつつ汚れたアーマーを拭くと汚れはたちどころに取れていった。

 こいつは…ただのアルコールシートじゃないな。拭いてもシート自体に汚れがついてない。

 興味深そうにシートを見るジョンは一通り拭き終えるとシートを丸めだした。

「良かったら差し上げるよ。汚れがつくまでは何度でも使えるよ」

「そいつはありがたい。それじゃそろそろ話を聞かせてくれ」

 適当に座れる場所を探すと、離れたところに置かれていた椅子は勝手に動き出しジョンの後ろに置かれた。

「これは魔法かなにかか?」

「友達が作ってくれた椅子なんだ。僕もどういう仕組みか知らないけど凄いよね」

 誇らしげに言うリーンにジョンは気にすることなく椅子に座りショットガンを横に置いた。

「できれば仮面を外してくれないかな。君の顔が見たい」

「分かった」

 二つ返事で応じるジョンはマスクを外すと一瞬驚いた顔を見せるリーンだったが直ぐに元の表情に戻った。

「それじゃ君たち召喚者について話をしよう。だけどその前にこれだけははっきり言っておく。君たち召喚者を元の世界に戻す術はない。少なくとも僕は知らない」

 はっきりと言い放つリーンはリクライニングチェアから立ち上がりお茶の用意を始めだした。

「驚かないんだ。大抵動揺するんだけどね。ただまだ分からないだけで今後誰かが見つけるかもしれない」

「そうか。大して興味はない」

 あの地獄に戻りたいとは思わない。正直ここ数日と前の世界と比べると今は休日みたいなものだ。

「興味ないんだ。泣かれても困るけどそこまでドライだとちょっと拍子抜けかな。それじゃ説明に戻るけど君たち召喚者は百年以上昔にある秘密結社の魔法使いが開発した召喚術によって召喚された人のことを指すんだ」

 召喚ねぇ。あの死体の山を築いてた異常者のことか。問答無用で殺したが拷問もとい尋問の一つや二つしておけば良かった。

「君たち召喚者はこの世界に来た際にそれぞれ特殊能力を持ってやってくるんだ。聞いた話だと君もその能力で敵を追い返したらしいね。普通は最初からそれほどの力を振るえる者はいないんだ。精々怪力になったり魔法を巧みに操れたり空を飛べたりするくらいだね」

 使い勝手の良い能力とは思ってたが、どうやら同類の中でも強力な部類か。たしかにこんな能力がゴロゴロしてたらヤバすぎる。

「大抵は召喚した者や国や組織に仕えるんだけど、君のようなタイプは傭兵なんかの職についているね」

「傭兵か」

「この世界ではよくある職さ。この世界は人間だけでなく他の種族と大なり小なり争いが多々ある。だから傭兵はこの世界になくてはならない職種の一つなんだ。ある種族なんかは種族全体で傭兵業をしているね」

 そうか。そいつはいい話を聞いた。将来的には考えるのもいいかもしれないな。

「さてこの世界について話そうと思うけどいいかな」

 そう言ってお茶を渡すリーンにジョンは受け取ると一口飲んだ。

「…苦いな」

「残念、砂糖はないんだ。代わりにハチミツはあるけどどうだい?」

「貰おう」

 瓶に入ったハチミツを入れてもらい改めて口をつけた。

「中々いいな」

「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃこの世界の話をしよう。まずはここは五大陸ある中で最も小さい大陸。世界のあらゆるものが流れつく先と言われている吹き溜まりの地」

「吹き溜まりの地?長い名前だな」

「この大陸だけね。他はロングランド、レッドアース、ノースアイスと普通の名前。他の大陸については今は後にしよう。この吹き溜まりの地は多くのものが流れ着くらしいんだ。それは物だけじゃなくこの大陸にはどの大陸よりも多くの種族がいる。人から始まって竜にエルフ、鬼、ここにしかいない死霊などがね」

 ………ファンタジーだな。そういうのはエルフや竜…小さい時にやったボードゲームや映画で充分だ。

 たまらず顔を顰めるジョンにリーンは楽しそうに笑った。

「そういう顔もするんだね。安心してほしい、他の種族とは基本出会うことはないよ。数十年前にアクア王国の勇者さまが他の種族と停戦協定を約束してからはほとんどが各々の縄張りから出ることはない。時たまはぐれやなにかしらの理由で人間の領土に来ることはあってもそれ自体滅多にないことなんだ」

「そうか。それを聞けて安心だ」

 魔法に竜にエルフに鬼に死霊…俺の理解の範疇を超えたな。化け物の次はファンタジーは御免だ。

「しかし君の装備といい知識は僕の知るものとは違うね。たまにいるけど君とはその中でも少し違う。できれば君の話を聞かせてほしいな」

「俺の話か」

 そう聞かれるとは思ってはいたが困ったな。一応機密情報扱いではあるがさすがに異世界まで来て守る気はない。だがこれが実は俺から情報を探るための罠だとしたら?さすがにあり得ないとは思うがVRを使って俺を騙してる可能性もなくはない。

「いや、考えすぎか」

「なにかまずいことかな?それなら別に話さなくても」

「いや、話しておこう」

 騙してるならそれでもいい。これが茶番ならとっとと終わらせたい。

「俺のコードネームはジョン・ドゥ。対生物兵器特殊部隊スカベンジャーに所属していた。簡単に言えば化け物退治のプロだ」

「化け物退治か。それは魔獣のようなものかな」

 興味深そうに聞くリーンにジョンは首を横に振った。

「魔獣はなにか知らないがそれとは違う。俺のいた世界の化け物は人が人為的に作ったものだからな」

 俺の世界は終末に向かってた。この世界よりも遥かに技術が進んでいる世界。だがこの世界と変わらずいたるところで争いは続きそれはもう取り返しのつかない状態になっていた。

 とある小国が大国を相手に勝利するため生物兵器を開発した。だがそれは完成間際に暴走し開発した国だけでなくその周囲にまで被害をもたらした。

 これがきっかけであらゆる国が生物兵器に注目し国際法を無視し秘密裏に兵器運用のために自国で開発を始めた。

 その結果世界のいたるところに化け物が現れた。

 国やテロリストたちが独自に開発した生物兵器の大半は研究中や戦闘中で暴走、または逃亡し野に放たれた。その結果生態系にまで影響を及ぼしていった。

 人だけでなく化け物ととの戦うこととなり幾つかの国は対策部隊を新設。その内の一つが俺の所属していた部隊だ。

「村や町が全滅なんてよくあることだった。部隊も入れ替わりが激しくて一年の間に生き残ったのは三人もいなかったな」

 おっと…話をしすぎたな。ここまで自分の話を初めてだ。

「…興味深い。ずいぶんと過酷な世界を生きてきたんだね」

 そう言うとリーンは真面目な顔で姿勢を正した。

「召喚者のほとんどは戦いを知らない平和な世界から来た人ほとんどだけど君は違うみたいだね。詳しく君の話を聞きたいところだけどもうお昼時だ」

 そう言われジョンは習慣で端末を見るとリーンの言う通り時間はそれなりに経っていた。

 今気づいたがこの端末の時間は合ってるみたいだな。まぁなんにせよ長話をしすぎたな。

「長居して悪かったな」

「いやいや、僕も色々聞けて楽しかった。時間がある時にまた来てほしい。いつでも待っているよ」

 リーンはそう言うとジョンの持っていたコップを受け取り流しへと置いた。

「そうか。また来る」

 ジョンはショットガン手にして立ち上がると、マスクを着けて振り返ることなく出口へと出ていった。その後姿をリーンは笑顔で見送った。

「……興味深い」

 そんなリーンの独り言にジョンは気付くことなく歩き出すも、その先で待ち構えるように立つコニー・ボードと数人の騎士たち気付き足を止めた。

「何か用か?」

「昼食を共にどうかと誘いにきた」

「分かった」

 ジョンは素直に応じるとコニーと共に砦の中を歩いた。

「食事以外の用なら手短に済ませろ。さっきの仕返しなら特にだ」

 両手でショットガンを持つジョンに共に歩いていた騎士たちは警戒するように身構えた。

「先ほどの件なら気にしなくていい。恥ずかしながら反乱軍と言っても上手く纏まっていない。あいつらにはいい薬だ…ただ殺そうとしたのはやりすぎだが」

「向こうが仕掛けたから応じたまでだ」

「分かってる。ここが食堂だ。食事を持ってこさせるが苦手なものはあるか?」

 そう言って案内されたところには巨大なテントが設置され、その下には木製の長机と椅子が幾つも置かれていた。

「基本大丈夫だ」

 共にいた騎士にコニーは指示すると二人は適当な椅子に座った。ジョンは横にショットガンを置きマスクを外すと自分が注目されていることに気付いた。

「なんだ?」

「…いや、仮面を外した顔は初めて見たから、つい」

 気まずそうに言うコニーにジョンは周囲を見回すと近くの騎士たちは目をそらすように俯いた。

「なんなんだ?」

「失礼した。実はジョン殿には折り入ってお願いしたいことがあってこうして誘った」

「内容によるな」

 とりあえず話だけ聞いてヤバそうなら断るか。あの森での戦いで変に期待されても困る。

「そうか。実は内通者から情報がきた。今回の作戦の失敗に英雄王は直ぐに次の部隊を送るそうだ」

「早いな」

「情報では次は英雄王の私兵が数十人。全員召喚者らしい」

 召喚者…あの剣聖は来ないのか。なら大したことはない。

「なら大したことはない。所詮戦いも知らない素人だ」

「いや、そういうわけでもない。英雄王の私兵はこの世界で戦闘経験を積んでいるだけでなく、凶暴な者たちで編成されている。高い能力を持っているのは間違いない。特にその中にいるダーマは危険だ」

「そうか。それで俺になにをさせたい?」

 まぁやらされるとしたら森での警備かなにかだろ。丁度いい、ポイントで手に入る無人偵察機の性能を確かめるいい機会だ。ポイントの消費はそれなりだが最長稼働時間百時間超えと名高いこいつなら丁度いい。

 そんなこと考えながら見返りのことを考えるジョンにコニーは答えた。

「先ほど言った通り次は敵が少数精鋭だが非常に厄介な敵だ。なので万が一を考えユアンさまの警護を頼みたい。応じてくれれば最大限要求に応じるつもりだ」

「そうか。応じよう」

 ジョンは二つ返事で応じると共に机に料理が置かれていった。

「肉料理か。よく用意できるな」

「協力してくれている村の寄付だ。デイブとマックの村は狩りで生計を立てているからな。ここから少し離れた森の中にある。森に詳しい者でないとたどり着けない」

「そうか。二人はどうしてる?」

「彼らは砦の外の警備をしてもらっている。彼らは森で姿を消す術に長けていて非常に有能だ」

「そうか」

 ジョンはそう言うと食事を始めた。

「話は変わるが賢者には会えたか?」

「ああ、中々に有意義な時間だった」

「そうか。彼女はあの見た目からか多くの熱狂的なファンがいる。あまり長居すると今日みたいなことがある。だから気をつけてほしい」

「なにをだ?」

「火の粉は払ってもいい。だがやりすぎるな」

 やりすぎねぇ…そいつは困った。どうすればいいのか分からん。

 顔を顰めるジョンにコニーは小さく笑った。

「そういう顔もできるんだな」

「どういう顔だ?それより水はどこで貰える」

 食事を終えたジョンは一人砦の中を歩いてた。その姿に見かけた者は注目するも当の本人は気にすることはなく端末を操作していた。

 あの森での戦いでかなりのポイントは貯まった。このまま偵察機に使うのもいいが今なら色々試せるな。

 端末に表示される無数の武器や兵器、道具にジョンは貰ったばかりのゲームのように夢中で操作した。

 ほうほう、銃火器は火縄銃から俺のよく知る銃火器に最新型まであるのか。ただ骨董品と最新型や強力なものはポイントが高い。よほどのことがない限りこれを使えばいいか。

 そう思いジョンは持っているショットガンを見ていると離れたところで手を振ってくるマーレーの姿に気付いた。

「お、おう。ジョンさん」

「何の用だ?」

 怯えたような声をかけるマーレーにジョンは普通に問いかけるもその表情は恐怖で固まった。

「あ、え、いや、それは…普通に挨拶を」

「そう怖がるな。今のところは危害は加えない」

 ここにいる全員に言えるが、あくまで今のところはだが。

「そ、そうか。いやそうですか。あ、いや一度あんたにも謝らないといけないと思ってさ。それにお礼も」

「俺に謝る必要はない。礼もいい。用がそれだけならもういいか?」

 さすがになにもしてないのに、冷や汗かいて緊張されるのは気分の良いもじゃない。

「そうかそれは良かった。…じゃない!いやよくない。それじゃこっちの気がすまない。そうだ!酒があるんだ。ここに来るときに持ってきた高級なので」

「…酒だと」

「ああ、高級品だ」

「よし付き合おう。どこに行けばいい」

 酒なんて何年も飲んでない。俺としては甘い酒がいいんだが今ならなんでも飲めそうだ。

「おい」

「ああ、こっちだ」

 先を進むよう促され戸惑いながら歩くマーレーにジョンは続いた。

 案内されたのは砦の端で無数に設置されてる小型テントの一つに案内された。そこは人一人が住める小さなところで簡易ベッド、小さな机、そして鎧をかけるためであろう鎧掛けがあった。

「狭いところで悪いが適当にゆっくりしてくれ」

 そう言うとテントの主であるマーレーは自身の荷物を漁りだした。

「ずいぶんと狭いところだな。砦の方が広いと思うが」

「砦の中はケガ人や病人を収容してるからな。おっ、あった、あった。二本あるから一杯あけるか」

 高級そうな酒瓶二本を見せるマーレーにジョンは迷うことなく頷いた。

「クソ野郎と思ったがこいつは考え直さないといけないな」

「あんたもおっかない奴かと思ったが、案外話せるな」

 そう言いながらグラスを用意するマーレーは酒瓶を一つ開けると並々と注いだ。その途端アルコール独特の匂いと共に甘い香りが鼻についた。

「貴族御用達の果実酒だ。疲れた時にはこいつが一番だ。氷も水もないからこれで我慢してくれ」

 受け取ったジョンはマスクを外すとグラスをゆっくりと傾け、口に広がる酒の味と喉を焼く感覚を味わった。

 この鼻を抜ける感じ…久々だ。やっぱりこれじゃないとな。

「いい味だ」

「だろう。酒屋に友達がいてな。なんとか融通してもらったんだ。…あの時は本当に良かった」

 楽し気に言うマーレーは昔を思い出すように言うと自身のグラスを一気に飲み干した。

「本当悪いと思ってる。色々ありすぎてなにかにぶつけたかったんだ。そんな時にあのお姫さまが来たからつい」

「そうか。詳しいとこは知らないがそういうのは良くないぞ」

「分かってるよ。だけどあのお姫さまは王国にいた頃は親衛隊の縮小を王に進言して三割減らされた。もし万全だったらと思うとな」

「そう言っても仕方ないんじゃないのか。他人事だが過去よりも目の前の問題に集中しろ。そのあと考える時間ができるはずだ」

 赤ら顔になるマーレーは酒をあおり、ジョンは味わうようにゆっくりと飲んだ。

「周りにもそう言われたよ。お姫さまが悪くないのは知ってる。いや、王族の中でまともなのはあれだけか。だから離宮に閉じ込められてたんだしな」

 独り言を呟きだすマーレーは酒をグラスに注ぐと一気に飲み干した。

 よく飲むな。丁度いい今なら口も軽いだろう。

「一つ聞く。英雄王って奴はどういう奴だ?」

「英雄王か。あいつは一言で言えば最低な奴だ。自分のことを神とでも思ってそうな奴だ。召喚者は人扱いしてるが他は遊び道具や消耗品としか思ってない。貴族の半分は権利や財産没収されて奴隷に落とされて、一つでもへました奴は召喚者以外は良くて死刑、悪くて地獄のような目に合わされる。この酒を融通してくれた友達も無茶な命令を断って見世物として牛裂きの刑を食らった」

「そこまでか。酷い奴だ」

 ロクな奴じゃないのは聞いてたが鬼畜外道の類か。どうやら城の方に行かなくて正解だったか。

「今だから言うけど正直あんたは英雄王と同類だと思ってた。あんたあいつと似たような目をしてるしな」

「どういう意味だ?」

「見てるようで見てないところだ。こうして目を合わしてるけどあんたの目には俺は映ってない。眼中にないというかなんていうか…分かんねぇ」

 酒に酔ったからか爆笑するマーレーにジョンはじっと見つめた後鼻で笑った。

「酷い言いようだな。酔っぱらうのもいいが飲みすぎると戦闘中に吐くぞ」

「大丈夫だって。あんたがいればダーマの野郎もちょちょいのちょいだろ。それに話だとアクアの応援にはアクアの勇者ドレッド・グスタフも来る。爺さんらしいがそいつらとあんたが組めば英雄王なんて敵じゃないだろ」

「ダーマに英雄王、それにアクアの勇者か。ちなみにダーマって奴はどうだ?」

「あいつは一言で言えばいかれてる。召喚されたその日に誰彼構わず刺し殺した。直ぐに捕まったが逃げては…特に女子供を襲った最低な下種だ。剣聖は殺そうとしたが殺しきれずに厳重に閉じ込められていた。けど英雄王は自分の部下になることを引き換えに自由にした」

「殺しきれない?強いのか」

「それもあるが恐ろしくしぶとい。急所を斬っても突いても首を斬り落としても直ぐに治って立ち上がる。能力でって話だがたしかモ…モン…モンキー?」

 モンキー?いや、恐らくはモンスター…化け物か。そいつは俺の相手に良さそうだ。

「そうか。機会があればな。それより…」

 ジョンは時間を許す限りマーレーと酒を交わした。

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