2章ー01
人口は推定六万三千人。
そこは工業が盛んな町であり機械、化学、食品問わず幾つもの大きな工場があり町はそれなりに栄えていた。
治安はよく、交通事故を除けばこれまで事件らしい事件はないのどかな町であった。
そんな町もある出来事をきっかけに地獄とかした。
多少は混むことはあっても渋滞など滅多にしなかった道路では、いたるところで衝突した事故車が転がり、燃え上がる車や潰れた車が放置されている。
そんな荒れた道路を走る足音が響いた。そして銃声と悲鳴、聞き慣れないなにかの鳴き声がいたるところで響いた。
数日前まではゴミもなかった路上には無数の死体が散乱しそれを漁る化物たち。化物たちは人の形に似ているが両手には鋭い爪が生え、縦に裂けた口は人の頭を丸のみにできるほど大きなものだ。
遡ること数日前、化け物が千を超える化け物たちが町中を襲撃した。
町全体は軍によって封じ込められ、軍や警察は事態の鎮圧を図ろうとしたが高い耐久力を持つ化物に制圧部隊は壊滅した。
その中でジョンは仲間と共に路地裏を駆けていた。
「くそっ、脱出ヘリはどこにある!?」
「もう少し先だ!いいから走れ!」
共に駆ける四人は皆ジョンと同じパワードアーマースカベンジャーを着ており、その手にはそれぞれライトマシンガン、アサルトライフル、ショットガンと様々な武器を装備している。
「どこのバカだ。こんな町で生物兵器の実験しやがって!」
「集中しろ!七時と十時の方向!」
通りに出ると四人はばらけて向かってくる化け物たちに撃ちまくった。
銃弾の雨が化物たちを襲うも貫通力の高いライフル弾はダメージをあたえても致命傷を負わせるどころか止まることなかった。
「なんつー化物だ!弾が効かねぇ!」
「弾は効いてる!いいから撃てっ!」
そう言ってジョンはショットガンを撃つも化け物は一瞬怯むだけで構わず突っ込んだ。
「グレネード!」
近づいてくる敵に焦ったのか一人が焼夷手榴弾を投げた。炎に包まれる化け物はそれでも止まることなく近づき兵士の一人に掴みかかった。
「くそっ!誰か」
気付いたジョンは近づきながら頭目がけて連射するも化け物は掴みかかった兵士の頭を丸呑みし食い千切ってから倒れた。
「一人やられた!」
「畜生!」
残る一体も蜂の巣になって倒れると、その死体に焼夷手榴弾を投げて燃やした。
「クソがっ!ブリーフィングより数も質も違いすぎるぞ!」
「文句は後だ!ミサイルでここが焼却されるまであと五分もないぞ!」
その言葉に皆一斉に目的地であるヘリポートへ駆けた。だがその歩みは途中で止まった。
ヘリは空を舞っていた。だがヘリのスキッドには化け物が放った触手が巻き付きコントロールを失っていた。どうにか態勢を立て直そうとするも化け物が腕を引くと完全にコントロールを失いヘリポートへと派手に墜落した。
「…嘘だろ」
「くそったれが!」
「言ってる場合か!どこか地下に逃げ込んで…」
ジョンが叫ぶと三人の目の前に化け物が跳んできた。
「!」
とっさに三人は連射すると化け物はよろめき威嚇するように大口を開けて奇声をあげた。三人は怯むことなく口目がけて撃つと頭が破裂し絶命した。
端末を取り出すジョンは素早く周囲の地図を開いた。
「この先にある銀行の大型金庫がある!。そこまで行けば」
再び駆けだす三人は障害物である車の残骸を苦もせず乗り越えて銀行へと向かった。だがそれを許さんと言わんばかりにどこからともなく現れた化け物が追いかけてきた。
「ちっ…あいつの相手は俺がする!お前らは先に行け!」
「ジョン!…すまん」
立ち止まるジョンに兵士の一人が振り向くも直ぐに駆け出し銀行の中へ入って行った。
これでいい。こいつにはこっちの方が効くしな。
素早く弾を装填するジョンは間髪入れず全弾撃ちまくった。だが撃たれた衝撃で態勢を崩し足を一瞬止めるも直ぐにまた進みだし距離を詰めた。
「この化け物がっ!」
弾が切れたショットガンを投げ捨てるジョンは大口径のハンドガンを頭部目がけて撃った。走っているため狙いづらいもジョンは縦に割れた口目がけて連射した。
先ほどとは違い悲鳴のような声をあげる化け物にジョンは最後のマガジンと交換し連射した。
化け物は止まることなくジョンへと掴みかかった。だがそれは化け物だけでなくジョンも頭を掴んだ。
「これでも食ってろ!」
残りの弾丸を口目がけて連射したジョンはとどめと言わんばかりにハンドガンを口の中に投げ込んだ。すると縦に裂けた口はゆっくりと閉じ力尽きたように倒れた。
「ふぅ…残り一分。もう間に合わないな」
端末で時間を確認するジョンは銀行の前に座り込んだ。
「久々に地元に戻ってみればまさかこんな地獄絵図になってるなんてな」
空を見上げるジョンはミサイルが向かってきているのが見えた。報告ではあれが落ちれば町は焼却されるらしい。
「まぁ化け物に殺されるよりはマシか。次生まれ変われるなら静かに暮らしたいもんだ」
全てを諦めたようにため息をつくジョンは数秒後のその時を静かに待った。
それがコードネーム、ジョン・ドゥの最期…のはずだった。
「それで気付いたら巨大な何かと顔を合わせたと思ったら洞窟の中に立ってるし、目の前には狂ったおっさんがわめいてて訳が分からなかった」
「そっかー。大変だったんだー」
気分よく語るジョンにエールは呂律の回らない口で答えた。二人の顔は真っ赤に染まり口からは酒臭い息を吐き出した。二人の手にはワインの入ったグラスが握られ横には樽が置かれている。そこから少し離れたところでレッドはなにも飲まず二人を見ていた。
三人がいるのは村から一つ二つ離れた所のある町でそれなりに良い宿屋の一室だ。
山での戦いから数日後レッドの用意された馬車で三人は町にたどり着くとエールの提案で真っ先に酒屋に行き、適当な酒を大量にレッドの奢りで買うと二人は酒盛りをはじめた。
「そうそう。もう血に飢えた獣がかわいく見えるくらいに凶暴でおぞましいわけよ」
「やばい、やばーい」
笑いあう二人に聞いていたレッドはため息をついた。
「いつもこうなのか?」
独り言のように呟くレッドに二人は同時に振り向いた。
「何言ってんだい。タダ飲み時くらいハメ外さなくてどうする!」
「そうだ、そうだー!タダほどいい物はないぞー」
「こうなるとはな」
頭を抱えるレッドにエールは滑るように床を這って近づいた。
「まぁまぁノーマンさんもほら一杯」
「端なんていないでこっちこっち」
「絡むな。厄介な連中だ」
エールに引っ張られ無理やりグラスにワインを入れられレッドはため息をついた。
「付き合ってやるが自分の質問に答えろ」
やはり気になるか。よし、俺からも情報収集してやろう。
酔っぱらいながらも考えるジョンは質問を待った。
「貴様が使うその武器は鉄砲と同じ部類か」
そう言ってレッドは羊皮紙を取り出すと手早く詳細な絵を描いてきた。その絵はジョンも良く知る水平二連式の猟銃だった。
「おおっ、古いタイプだな。これならこれだろ」
端末を操作し同じショットガンを出した。
「似てるだろ」
出現させたショットガンを投げるとレッドは慣れた手つきで掴み動作チェックをはじめた。
「…召喚系の能力か?しかも所有者以外でも使えるとはな」
そうだったのか、知らなかった。
驚きながらチェックを終えると満足したのかジョンに返した。
「貴様の能力は召喚者の中でも強力な部類のものだ。しかも鉄砲となるとこの世界では一方的に相手に仕掛けられる」
「そりゃそうだ。剣と魔法の世界で銃を制限なく使えるなら…」
「だからこそ貴様は狙われる。生死問わず関係なく」
その言葉に二人は手を止めた。
「…だろうな。知る限りこの世界には弓矢、ボウガンンはあっても銃は普及していない。あっても一部の魔法使いが使うとか言う魔筒くらいだろ」
「その通りだ。しかしあれは大砲に近い部類だ。仕組みも根本的には別物だ」
レッドはグラスに口をつけると小さく苦いと呟いた。
「この世界で一般的なのは火薬の使い方は手投げ爆弾に使われるくらいだ。だがどの国も銃や鉄砲の存在を知識と知っている」
「召喚者の知識からか」
「そうだ。召喚者は皆異なる世界や文明から来ていても似ているところはある。自分のいた世界にも鉄砲はあったが貴様が使うような物はなかった」
そりゃ水平二連式なんて俺の世界じゃクレー射撃や狩猟にしか使わないからな。
「誰にでも使え、殺傷能力の高さから各国で開発がされているが最新のものでも弾を一発込められるライフル銃程度のものしか作られていない。貴様の持つそれも似たような物ができるのはまだまだ先だろう。分かるか?貴様の持つ武器はどの国も欲しがっている。どんな手段を使ってもな」
「やっぱりそういうもんだよな」
敵国よりも有利な立場を得るために技術や人材の奪い合いは俺のいた世界でもよくあった。一度だけそれっぽい事件に巻き込まれたしな。
「貴様が隠していた能力は既にばれた。じきにランド王国は総力をあげて追いかける。そして恭順しないのであれば殺しにかかるだろう」
「…それかなりヤバいよね」
こいつ今更知ったのか。
「恐らく国を越えても追っ手は来るだろう。逃げる気なら遠くでひっそり暮らすんだ」
「そうさせてもらう。どこか良いところ知らないか?」
「知らないな。魔法学院は安全だろうが軟禁される。知り合いは研究のために体を凍結されている」
「親切にどうも。その学校は選択肢から外しておく。それにしてもそれだけヤバいって分かってよく俺が付いて行くのにオーケーしたな」
「そうだ、そうだー。…気持悪っ」
ラッパ飲みしながらエールは言うとその場で盛大に吐いた。
「「…」」
盛大にまき散らすエールの姿に二人は顔を見合わせ床に広がったものを片付けだした。
「了承したのは貴様が戦力になるからだ。エールは狙われている。自分のように彼女を探すように雇われた傭兵や彼女のことを良く思わない親族たちに雇われた連中にだ」
そいつはまた物騒な話だ。
「そこまでか。一体何が起きてる?」
「よくある家督争いだ。ただ今回は規模がでかい。前にも言ったがエールの家は隣国アクア王国の貴族だ。それも最も多くの領地を持つ大貴族の当主の娘だ」
「あれがか?」
ジョンが酔いつぶれて腹を掻くエールの姿があった。その姿にレッドは痛みに耐えるように頭を押さえた。
「前々から行方を捜していたようだが当主が重い病気になって本格的に探しはじめた。本人が了承すれば第一当主候補になるだろう」
「んなもんなるかー!」
鼾をかきながら怒鳴るエールは鼻を鳴らして丸まった。
「…そう言うわけだ。目的地までここから一週間ほどかかる。それでも付いてくるか?」
念を押すように言うレッドにジョンは床に集めた物を近くにあった入れ物に捨てた。
「金もないし当てもない中で見つけた金づるだ。逃がすと思うか」
「真面目に聞いた自分がバカだった。よろしく頼む」
握手を求めるレッドだったが直ぐに手を戻した。先ほどの吐しゃ物を片付けたジョンの手は汚れていた。
「まずは手を洗ってからだな」
「ああ…町に井戸があったな。自分は部屋を換気しておく」
なるべく手で触れないようにドアを開けてジョンは出て行くと日が沈みつつあるうす暗い町へと繰り出した。




