0章ー03
「あ、お疲れ様です」
「問題はないか」
元の場所へ戻るとそこにはユアンとホリーは座って休んでいた。
「もう一人はどこに行った?」
「食べ物を探しにいきました。先ほど大きな音が聞こえましたが、あれは?」
ホリーの問いにジョンは干し肉と革の水筒を手渡すと近くにあった岩に腰掛けた。
「俺の仕掛けた罠に引っかかった連中がいた。さっきの連中とは装備や格好は違っていたが関わりがあるのは間違いない」
息を呑む二人にジョンは観察するように見た。
「奴らは罪人を探していた。それはお前たちか?」
「!」
傷ついた顔で俯くユアンにホリーは心配そうに肩を抱くとジョンを睨みあげた。
「我々は断じて罪人などではない。先ほどの言葉撤回してもらいたい」
「違うならいい。撤回する。悪かった。なら追われてるわけではないわけだ」
「……いえ。私たちは罪人ではありません。ただ彼らが追いかけているのは私たちです」
「ユアンさま」
辛そうに言うユアンの言葉にホリーは悲し気な名前を呟くことしかできなかった。
「お前たちに事情がある事は分かってる。それを聞くつもりはないがこれだけは聞かせろ。この先は本当に安全か?」
「それなら大丈夫です。今から向かう砦には私たちだけでなく貴方の力になってくれる方もいます」
「俺の力?」
真っすぐと見つめたユアンの言葉にジョンは耳を傾けた。
「はい、貴方はこの世界にきたばかりの召喚者さまですね。ならこの世界のことは一切分からない手探り状態のはずです。私たちは貴方の質問に答えられる方を紹介できます。帝国一の知者賢者セルバさまを」
……今度は賢者か。いっそ魔法使いが出てきてくれた方が分かりやすいんだがな。まぁいい行く当てもないからな。
痛みだしそうな頭に押さえるジョンはユアンの方へ向き小さく頷いた。
「分かった、その言葉を信じよう。それよりも食べたらどうだ」
「いただきます。ユアンさまどうぞ」
ホリーは短剣を出すと受け取った干し肉を小さく切り分けそれをユアンに渡した。
「これはお酒ですか?」
「手に入ったのはそれしかなかった」
「感謝します」
毒味するようにホリーは一口飲むと安全だと判断しそれをユアンに渡した。
「俺はもう一人を探してくる。先に戻ってきていたら」
「すまない、なにも見つけられなかった。ジョン殿戻られましたか」
「ああ、食料を持ってきた。それを食べて一休みしたら行くぞ」
「あのどちらへ」
「見張っておく。なにかあったら知らせろ」
ふらつき気味のフライドにそう言うとジョンはその場を離れ、少しでも見通しの良い背の高い岩の上へとあがった。
本当は木の上がいいんだろうが軽量のパワードアーマーのスカベンジャーとはいえ数十キロの装備の重さに枝が耐え切れるか分からない。
岩の上から周囲を見回すも視界の悪い森の中では遠くまでは見えず、ジョンはマスクのこめかみに触れると途端に視界は切り替わりサーモカメラへと変わった。
小動物…あれはシカか馬か。なんにしても大型動物もいるが周囲に人の姿はないか。
「さてこれからどうなることやら」
これからのことに気持ちが重くなり、そう呟くジョンは不意に横から通り過ぎたものに気付いた。
とっさにサブマシンガンを構えるジョンだが新たに飛んでくることに気付き岩から飛び降りた。瞬間ジョンのいた場所を通りすぎると後ろにあった木へと当たった。
「!」
受け身をとりマスクの視界を切り替え、通常のものに戻すと木には大穴が開くと重みに耐えられなくなりゆっくりと倒れていった。
「なんて威力だ。大砲かなにかか」
「ジョン殿今の音は!?」
「敵に見つかった。直ぐに移動するぞ」
早足でフライドがやってくるとジョンは歩きだすとユアンたちの元まで移動した。
「どうしましたか?」
「移動だ。直ぐに敵が来る。俺が殿を行く」
ジョンの指示にユアンたちは頷いて立ち上がるとホリーが先頭へと出た。
「こちらです」
歩き出すホリーにユアンとフライドが続くと最後にジョンが続いた。
「さっき敵が使った武器は分かるか?」
「あれは恐らく魔筒かと。それも高精度の強力なものです」
「魔筒?」
フライドの言葉に意味が分からず問い返すと代わりにユアンが答えた。
「特殊な筒に魔力を込めて放つ古くからある武器です。強力な武器ですが扱いが難しいので二発目の間隔は長いはずです」
……ついに魔力って言葉が出てきたか。まいったファンタジーは好きじゃない。
嫌な予感がし横転しその場から離れると近くの木が吹っ飛びゆっくりと倒れていった。
「おい、間隔が長いんじゃないのか?」
後ろを警戒し構えるジョンの後ろではフライドがユアンを庇うように押し倒してた。
「分かりません。多分使い手が複数いるのかと」
「なら走れ。どうやら向こうにはこっちの位置がばれてる」
ジョンの言葉にフライドとホリーは頷くとユアンを立たせ駆け出そうとした。ユアンはそれに続こうとしたがジョンに気付き足を止めた。
「ジョンさんは?」
「向こうに位置がばれてるならこのままついてこさせる訳にはいかない」
なにより人の忠告を無視するとどうなるか教えてやらないとな。
元来た道を戻るジョンは飛んできたものの方向目がけて駆け出した。
悪路など関係なく車を思わせる速さで駆けるジョンは鎧姿の者を見つけると迷わず連射した。
鎧姿の者は蜂の巣にされて倒れると、周囲もそれに気づき他の武装した鎧姿の者たちとセーラー服の中年の姿を現した。
「目標発見!狙いをつけて…」
本堂の指示に鎧姿の者たちはボウガンを構えるも駆けながら連射するジョンに場は乱れた。
「くっ、怯んではいけませんぞ!数では吾輩らが有利!」
さっきの連中より硬いな。サブマシンガンじゃあの鎧を貫けないか。
先ほど倒れた者はふらつきながらも立ち上がり列に並ぶと再びボウガンを構えた。
「まずい」
とっさに近くの木にジョンは隠れると幾つもの矢がジョン目がけて飛んできた。矢のほとんどが木にめり込みむ中一本だけが木を貫きその先にある木へと刺さった。
そこまで分厚い木じゃないが貫通までするのか。こいつはあまり悠長にやってられないな。
「先生!」
「分かっております。アイススピア!」
女騎士と本堂の声が響くとともに空気が冷えたのをジョンは感じると咄嗟に横転し木から離れた。その直後巨大な氷柱が木を貫き大穴が開いた。
なんてこった。こいつは本当に剣と魔法の世界だな。頼むから悪い夢であってくれ。
思わずため息が出すジョンはサブマシンを撃とうとするも指に力を入れた途端に感じた違和感に思わず銃身を見た。
「残念。その玩具は使い物にならなくなったぞ」
どこからか聞こえてきた声にジョンは向くとそこには剣を持った鎧姿の連中とヨレヨレのスーツ男が立っていた。
「俺の能力のリミットを使った。しばらくは俺が指定した物は使えない」
能力?ああ、ワンマンアーミーと同じようなものか。
そんなこと思うジョンにスーツの男は腰からナイフを取り出し逆手に構えた。
「兵隊さんよ。いつまでもそんな物持ってないで男らしく腰のそれを使えよ。それともお飾りか?」
「バンナム氏!危険だ!離れるんだ!」
「悪いがそいつはできない。そいつは二人も仲間をやったんだ。許せるわけが…うおっ!」
ジョンは素早くハンドガンを抜くとバンナムと呼ばれた男目がけて連射した。身軽に地面を転がり近くの木の裏に隠れると代わりに鎧姿の連中が盾となるように前に出た。
小口径のこれじゃ防具を着けてる連中には効果なしか。…使い慣れない武器よりやっぱり使い慣れたあれだな。
その場でサブマシンガンを放り捨てるジョンはハンドガンを収めると端末を取り出し素早く目当ての武器を探した。
「降参するのだ!今なら身柄の安全と自由を保障しよう!ただしこれ以上抵抗するようなら…」
弾の種類も選べるか丁度いい。
女騎士の声を無視し素早く新たな武器を選んだジョンはコンバットショットガンを手にしフォアエンドをスライドした。
「まさか人間相手にこれを使う時がくるとはな」
苦笑を浮かべるジョンは直ぐに構えると向かってきた者たちの胸を近い順から撃ち抜いた。ポンプアクションとは思えない速度で連射にジャクソンの後に続いていた鎧姿の連中は皆倒れ、胸には風穴が開き貫通し即死している。
「……マジかよ。鎧を貫通してる」
聞こえてきた声を頼りに撃つも当の本人は転がるように仲間の元へ逃げていった。
「放てーっ!」
装填を終えたのか再び矢が迫ってきた。ジョンは同じように木の裏に隠れ、手の中に現れていく弾丸を込めていった。
「撤退でござる。皆の衆撤退でござる!」
叫び声に似た本堂の声に女騎士を筆頭に全員が下がりだした。ジョンは様子を伺おうとするも狙ったように矢は飛んできた。
「人の忠告を無視してやって来て。ヤバくなったら逃げるか」
姿勢を低くし飛び出すジョンにボウガンの矢は迫るも頭上を通り過ぎていった。
「アクアウォール!」
セーラー服の中年の叫びとともに両者の間に水の壁が現れるもジョンは迷わず撃った。ライフルスラッグ弾は水の壁へと当たると銃弾はなんなく貫きその先にいる本堂目がけて飛んでいった。
「うがっ!」
本堂の体は吹き飛ぶようにし倒れるも直ぐに仲間が抱え起こし、近くにいた女騎士は振り向きざまに大弓を構えた。
「!」
迫ってくる矢にジョンは咄嗟に撃つと弾と矢はぶつかり狙いが逸れ矢は近くの木を貫いた。
中々にスリルはあるがこの程度か。一方的に狩るのは嫌いだがここで全滅…いや、深追いは危険か。
駆け足で逃げる本堂たちに迫ろうとするジョンだが直ぐに足を止めた。
「次は仕留める」
逃げていく敵にジョンは警戒することはなく背を向けて元来た道を戻って行った。
ジョンたちがいる大森林から遠く離れた位置にあるフィリー帝国。建国から数十年の内に一代にして瞬く間に大きくなったその帝国は積極的に召喚者を召喚して戦力を増強すると大陸西部の軍事面においては大国も注目するほどだった。
国王アルドロン・ブロウ・フィリーは血統を重んじ能力よりも血を尊んでいた。自身の血こそ至高と信じ多くの子をつくり能力に関わらず重要な地位につかせていた。
謁見の間にはアルドロン・ブロウ・フィリーとその子供たちはいた。だがそこは王座ではなく見世物のように小さな檻の中に裸で入れられ、台の上にその子供たちの首が綺麗に並べられていた。なにかしら処理をしているのか腐ることはなくまるで生きているかのようだった。
「助けて…助けて」
うわ言のようになにか呟く国王は周囲に目を気にせず糞尿をまき散らすとお供に控えていた者が檻に手を入れ綺麗に後始末を始めた。その姿に謁見の間にいる国の重鎮たちは嫌な顔をするも皆口を閉ざし動くことはなく王座に座る男の挙動に注意していた。
「つまらんな。そろそろ町に放り出して見世物にするか」
王座で退屈そうに座る銀髪の若い男に将軍の一人はなにかを言おうとした。だが男の目を向けると口を閉ざし目を合わせないように俯いた。その姿に男は深くため息をついて前を向いた。
「まぁいい。それで逃げた末の娘を追っていたのはどいつだ?」
「私であります!」
女騎士は大声で応える並んでいる列から飛び出し王座の前で即座に跪いた。
「お前は…たしか変態を慕っている物好きだったな。部下は三十名、逃亡先には先行隊として使っていた虜囚兵共もいた。なのに逃がした。それも多くの部下も失った」
男の言葉に女騎士は緊張からか大量の汗が全身から噴き出た。その量は顎をつたい床へと落ちた。
「雑魚ならば構わん。だが連れて行った召喚者五人の内二人を失うとはな。使えない連中とはいえ二人だ。しかもあの変態も怪我をさせるとはな。なー」
愉快そうに笑い見下ろす男に女騎士は謝罪の言葉を言おうと口を開くが緊張と恐怖から言葉がでることはなかった。
「そう怯えるな。貴様は愚かではない。そこにいる王を名乗ったバカとその子供のようなことはしない。そう、ゆっくりと指先から肩まで何カ月もかけて死なないように傷を癒しながらゆっくりゆっくりと短く短く切るような真似はしない。俺様としても変態と懇意をしている貴様を罰したくはない。面を上げよ」
一瞬希望を感じる女騎士だったが残虐に口を歪める男の顔に全てを察した。
「かといえこれだけの失態をした以上罰は必要だ。選べ、虜囚兵の慰安として一ヶ月か、広場で公衆の面前で一日晒し刑か?」
今にも倒れそうなほど顔が青くなる女騎士に男は顔を顰めた。
「ん?不服か。この俺様の温情が不服か?それがどういう意味か分かるな。さあ選べ。言っておくが迷いは否定と一緒だ」
「お待ちくだされ!」
この場で崩れ落ちそうになる女騎士に素早く本堂が飛び出し横から支えた。その腕には撃たれたであろう傷には包帯が巻かれてた。
「変態か。どうした?その女にそこまで熱をあげてたか」
「そう言うわけではありませんが、いや、でも悪い気は…ではなくて!コール殿に非はないでござる!報告にもありましたが今回の捕縛には邪魔が入ったのでござる」
「聞いている。だが所詮はお供の騎士の二人。数も質も勝っていて収穫もなく撤退とは。言い訳として下も下もだ」
「敵は彼らではござらん。あの場には召喚者が一人おりました。それも凄腕でござる」
「…ほう」
初めて興味を示す男に本堂は話を続けた。
「恐らくはアクア王国が支援に送った召喚者。そうでなければあの強さは納得できぬござる」
「…変態。貴様の格好、言動は見るに堪えんが判断力と能力は買っている。その貴様が言うならば信用しよう。そこの女、運が良かったな…下がれ」
興味を失ったように手を振る男に女騎士は一礼し迅速に列へと戻った。
「それでその凄腕の召喚者のことを詳しく説明せよ」
「戦闘に長けた者でござった。負傷者に仕掛けた爆弾、様々な銃火器を巧みに使いこちらは一方的にやられる一方でござった」
「雑魚とはいえ訓練を受けた兵士たちと貴様がな。アクア侵攻前の余興と思っていたが…面白くなってきた。そうだろ剣聖」
男は目を向ける先には背丈と同等かそれ以上の長さの巨大な大剣を背負った騎士が立っていた。
「……自分は全てを従うのみです」
「そうか。なら砦に向かう際にその召喚者を殺せ。大した実力でもないようならさっきの女騎士の両腕をへし折れ。文句はないだろ?偉大なる剣聖に骨を折ってもらうんだ。大したことがないならそのくらいはな」
そう言うと男は立ち上がり首を回してから背筋を伸ばした。
「座り心地の悪い椅子だ。後のことは任せる」
床に固定されいる重く大きな王座を後ろ足で男は一蹴りすると、まるでバランスの悪い椅子のように横に倒れた。
音と衝撃が謁見の間に響き皆息を呑む中、男は近くにいた部下に声をかけた。
「椅子をもっと良い物にしろ。ああ、それとさっきの召喚者の話だが貴様が裁定し結果を報告しろ。私見で構わん」
その指示にタキシードを着た男は仰々しく頷いた。
「かしこまりました」
男はその言葉を聞くと皆に背を向け王座の奥へと消えていった。それからしばらくして本堂の深いため息とともに皆肩の力を抜いた。緊張が抜けたと共に皆各々話を始め本堂は腰が抜けたように座り込む女騎士へと駆け寄った。
「コール殿大丈夫ですか?」
「え…あ、はい。すいません。あ、あれ?立てない」
そう言いながら涙を流す女騎士に本堂は抱きしめると安心させる様に背中を摩った。鎧を着ているせいで女騎士にはそれを感じることはなかったが安心したように体を預けた。
「大変でしたね。まさかこんなことになるなんて」
「クラスター殿」
クラスターと呼ばれたタキシードの男は持っていたハンカチを女騎士に手渡した。
「なにがあったか知りませんが英雄王は残虐な暴君ですが愚かでもバカでもありません。同情はしますが私は私のすべきことに徹しますので悪しからず」
申し訳なさそうに言いながら笑顔で言うクラスターは剣聖が近づくと頭を上げた。それに続き本堂と女騎士も顔を上げた。
「剣聖殿…この度はこのようなことになって」
「気にしなくていい。重要なことは一つ。嘘はないな」
「それは…」
「万が一にも自分が彼女に剣を向けることはないな」
迫力のこもったその問いに本堂だけでなく女騎士とクラスターも気圧された。
「………吾輩…いや、僕から言えるのはあの男は強い。そしてなによりヤバいです」
「ヤバいか。英雄王とどっちが…いや、余計なことは聞かないでおこう。制圧部隊にはお前たちにも同行してもらう。早急に準備をしろ」
そう言うと剣聖は背を向けドアの方へと歩き出した。
「しかし相手もお気の毒ですね。帝国最強、いえ帝国一の騎士と国宝の王家の大剣。その彼が率いる寄せ集めの制圧部隊と私たち召喚者が五十人。森になにがいるのか知りませんが反逆者たちもひとたまりもないでしょう」
悲しそうに言うクラスターはそう言ってその場から離れた。残った本堂は女騎士に手を貸すと謁見の間から出て行く者たちの後に続いていった。
「大丈夫でござる。英雄王の言ったようなことには絶対ならぬでござる」
「先生…気休めでもありがとうございます」
力なく笑う女騎士に本堂はその目を見つめ力強く答えた。
「気休めではござらん。それよりも心配すべきは…吾輩たちが明日無事に生きてあの森から出られるかでござる。最悪誰も戻ってこれぬかも」
「…先生。なぜそこまであの男を恐れるのです?」
女騎士は怯えた様子の本堂に聞くとその耳元に小さく呟いた。
「僕はあの男の目を見た。……あれは人間の皮をかぶった化け物でござる」




