1章ー05
「……ふがっ」
懐から聞こえるアラーム音にジョンは跳び起きた。バランスを崩し足場から落ちそうになるも寸前のところで堪えた。
危ない、危ない。もう少しで落ちるところだった。…まだ連中は来てないな。
森の入り口にある大きな木の枝の上にジョンは座っていた。その腕にはカスタムの施されたバトルライフルが握られている。
懐に収めている端末を取り出すジョンはアラームを切ると画面を切り替え、偵察ドローンのカメラ映像に変えた。
ドローンの起動時間はあと数時間。できればこれが動いてる間に来てもらいたいな。
そんなこと思っていると村から人が出てきた。カメラを拡大するとそこには馬に乗った傭兵たちが警戒したように防御陣形の構えをとり、魔法使いとイージー以外は鉄の盾を装備している。
人数は減ってるが昨日の件で警戒してるな。ここから狙えは…無理か。狙撃は苦手だな。
スコープを覗くジョンの先には村を出て行く人の姿が点のように小さい。だが手の揺れに狙いはぶれるとジョンは引き金から指を放した。
スカベンジャーには狙撃用の補正機能はないからな。こんなことならもっと練習しておけば良かった。
ゆっくりと向かってくる傭兵たちにジョンは狙える距離までただひたすら待った。
「ここら辺か」
徐々に近づく傭兵たちにジョンは深く息を吐き、ゆっくりと引き金に指を添えた。
まずは魔法使いだ。
ジョンはタイミングを合わせて引き金を引いた。
銃声と共に放たれた銃弾は真っすぐと飛んでいくも狙いとずれて魔法使いと話していた傭兵の頭部に当たり派手に倒れた。
「やっぱり狙撃は苦手だ」
つまらなそうに呟くジョンは二度三度と撃つも鉄の盾に防がれたところで構えを解いた。
「殺せ!。殺して死体を持ってこい!」
距離があるにも関わらずジョンの元までイージーの怒声が響くと、その声に苦笑いを浮かべた。
どうやらとにかく俺を殺したいらしいな。火だるまにしたから無理もないか。
バトルライフルを持ったまま木から飛び降りるジョンは馬で向かってくる傭兵たちに背を向け、全力で山へと向かって駆けた。だがそれでも馬の脚よりも速く駆けることができず両者の距離は縮まった。
ジョンの耳からも馬の蹄がはっきりと聞こえる距離まで近づくと突然爆音と共に背中を押すような衝撃にバランスを崩しその場で転がるも再び駆けだした。
夜中に森の入り口で仕掛けた地雷が役に立ったな。これで向こうの警戒心が上がって足取りも重くなるはず。
そう思いながら駆けるジョンの後ろでは先ほどまで追いかけていた傭兵と馬の死体が散乱していた。
ジョンは端末を取り出し敵の動きを見ると、先ほどの爆発で無事な者たちは予想外にも混乱はなく纏まった動きで直ぐにジョンへと向かってきていた。
「警戒せずに突っ込むか。吹っ飛んでもよくやるもんだ」
これだったら他にも仕掛けておくべきだった。いや、それとも罠の場所が向こうは分かってたからか?
もう一度爆薬を仕掛けようとしたが足元に飛んできた矢にジョンは見ると距離があるにも関わらず一人の兵士が馬に乗ったままで弓を構えていた。
上手いな。先に殺したいが…当てられるか?
弾丸を一発装填するとバトルライフルを構え狙いがあうと同時に撃った。
「………ダメだ、こりゃ」
狙いはズレて弾は外れると二度目に飛んできた矢をジョンはバトルライフルを盾にして弾いた。
バトルライフルを投げ捨て端末からアサルトライフルを選択すると馬に狙いを合わせて連射した。
狙いを合わせて数発ずつ打ち込み、銃弾を受けた馬は悲鳴の嘶き声をあげながら倒れた。それに巻き込まれ地面に叩きつけられる者もいたが半分は綺麗に着地し大盾を構える者の後ろに回り前へと出た。
どうやらただの悪党でもなさそうだ。
アサルトライフルを連射しながら下がるジョンは用意していた発煙弾を投げて森の奥へと向かった。
ばかでかい盾持ってよく馬に乗ってこれたな。
ある程度の距離をとり振り返ったジョンの手には端末から出した使い捨てのバズーカが握られていた。
イージーを筆頭に煙を抜けてくるも待ち構えるジョンの姿を見て急いで馬を止めようとしたが既に引き金が引かれていた。
「にげっ」
イージーの言葉が最後まで言い終わらない内に発射された弾がイージーの馬に当たった瞬間爆炎と共に全てが吹き飛ばした。
火柱と舞い上がる爆炎を見つめながらジョンは空になったバズーカを捨てた。
「どれだけ人数が減った」
そう呟くジョンの前には立ち上がるイージーと後ろからやってきた兵士たちの姿があった。
「バズーカの一撃を無事か」
さすがの想定外に固まるも直ぐにその疑問は解けた。
「魔法の力か」
よく見るとイージーの前にはガラスのような透明な壁によって守られていた。ただ壁も無事ではなかったようでそこら中がひび割れている。
「ジョン!今度はてめぇが焼ける番だ!」
イージーの言葉と共に傭兵たちは一斉に黒い石のようなものを投げた。
「!」
反射的に腰に手を伸ばすジョンはハンドガンを抜くと飛んでくる物を撃った。すると黒い石は当たった瞬間に爆発し火の粉が周囲に広がった。
ジョンはそれに気にもせず残りの飛んでくる黒い石を撃っていくと、最後の一つが間に合わず飛んできた石は地面へと落ちると火花がジョン目がけて飛んでいき火の粉が肩にかかった。
「ちっ」
素早く手で振り払うジョンはマガジンを素早く交換した。
「ちっ、運が良い。けど次はそうはいかないからな!」
兵士たちは次にスリングを用意しようとするもジョンが放った弾丸が一人の肩に小さな穴を開けた。
「ちっ、防壁はどうした!」
「ダメだ。今ので限界だ」
疲れ切った様子の魔法使いにイージーは舌打ちするとジョンに向けて両手を振った。
「待て、待て、まーて!」
「なんだ?白旗か?」
マガジンを交換しながら聞くジョンにイージーは鼻で笑った。
「なわけねぇだろ!てめぇにチャンスをやる。今すぐこの山を出て行けばなにもなかったことにしてやる。もし…」
最後の言葉が言い終わる前にジョンはハンドガンを収め、代わりに端末から大口径のハンドガンを出した。
「…分かった。そんだけ死にたいみたいだな!」
ハンドガンの連射を鎧で受け止めながら前に出ようとするがそれをライルが止めた。
「落ち着け。一旦話し合おう」
「なにをだ?」
「お互い誤解…」
ライルの言葉など気にせず撃つジョンは再び発煙弾を投げた。
「話し合いも誤解もない。皆殺しだ」
しかし思った以上に手強い。本当なら最初の爆発で慎重になって森に入ったところを罠を仕掛けて動きを止めてバズーカで吹き飛ばすはずだったんだけどな。
「上手くいかないもんだ」
背を向けて逃げるジョンは真っすぐと目的地に向かった。後ろから怒声と共に矢が飛んでくるもジョンは見向きもせずに走り続けた。
戦闘のあったところから離れた山の麓でジョンは足を止めて振り返った。
「敵の姿はないな。山に行ったか?」
そう呟きジョンは端末を取り出し偵察ドローンのカメラを見た。
「……ん?二手に分かれてる」
端末に映る一団は二手に分かれていた。一つは予想通り山へと向かってはいるが、もう一つはジョンの元へ向かってきていた。
「まさか二手に分かれるとはな」
来た道を戻ろうとするジョンに傭兵たちは姿を現した。
「みつけたー!そんなところに隠れてたかー!」
狂気の満ちた笑い声にジョンは目を向けるとイージーが五人ほどの傭兵を引き連れてやってきた。
「格好良い鎧だな!後で貰ってやるよ!」
そう言いながらイージーは自分の兜を外した。その顔は火傷によって酷く焼け爛れ片目は完全に潰れている。
「酷い顔だ。ちょっと見ない間に化け物みたいな顔になったな」
「てめぇのせいだ!まだ痛みが引かねぇ」
「ほーっ、それより他のはどうした?」
「竜がまだ山の上にはいるのは分かってる。だから二手に別れた。…って言うのは建前だ。てめぇを殺したくてたまらねぇだけだ!」
兜を被りなおすとイージーは肩に担いでる斧を振り下ろした。その一撃は地面に亀裂を入れるまで強力なものだ。
「二手に分かれたのは想定外だな。なら余裕はないか」
そう呟きながらジョンは端末を操作しハンドガンのマガジンを更に大きな増量マガジンに変えて次に消防斧を取り出した。
ハンドガンやライフルは使うのに一つずつしか使えない。けど接近戦用の武器や爆薬は幾つも出せるのが不思議だな。
「はっ、ふざけやがって。なにを取り出すかと思ったらそんなしょぼい斧で何ができる!ここは俺がやる!さしで勝負だ!」
自信満々に叫ぶイージーにジョンはハンドガンを連射した。それもただの連射と違い反動でほぼぶれることなくマシンガンのように撃ち続けた。
「そんなもん効くかよ!」
二人は距離を詰めていくと片腕で顔を守りながら歩くイージーはいつでも振り下ろせるように構えていた。
イージーは先の戦いの対策に鎧は魔法によって耐火性を得ていた。後は接近戦に持ち込めれば能力である怪力からの一撃と鎧の防御力で一方的に終わる。それはイージーにとっては必勝法であり人間だろうが他の種族だろうが例外はなかった。
振り下ろされた斧にジョンはを僅かに体を反らして躱した。大振りの一撃にイージーは身を捻り再び振り上げようとした。
「ぐあっ!」
だが身を捻る前に斧の鋭く尖ったピックがイージーの脇の下を突き刺していた。
「ちくしょ…やりやがったな」
逃れようとイージーは刺さった斧を抜くと大量の血が止めどなく流れだし鎧は血で真っ赤に染めた。どうにか押さえようとするが分厚い鎧のせいで流れ出る血は止めるどころか、直ぐに立っているのもやっとな状態となった。
「致命傷だ。深くは刺せなかったが長くない」
そう言いながら手首を回して斧を一回転させると、こめかみに斧を叩きつけた。イージーはとっさに腕を入れて斧の一撃を防ぐが衝撃に耐え切れず地面に倒れた。
「今まで俺が戦ったのは三メートル以上のコウモリもどき、岩石の肌をしたデカいクモ、腕にガトリングガンを着けた人型の化け物なんかだ。硬くて力自慢の雑魚なら今まで腐るほど倒してきた。お前なんて最初から眼中にない」
なにかしら仕掛けがあると思って警戒してたがこれならとっとと近づいて殺しておけば良かった。
「くそっ…たれ」
傷を押さえながらうずくまるイージーはその言葉を最後に息絶えた。
「残りはお前らか」
銃身と同じ長さほどはあるマガジンを捨て新しいマガジンに交換するジョンは残る傭兵たちに向けて撃ち始めた。
傭兵たちは直ぐに盾を構え防御態勢をとるが、防御の隙から足を撃たれ態勢を崩したところを急所撃たれマガジンの半分を使ったところで全滅した。
戦闘時間は一分未満。見た感じは雑魚しかいなかったな。
体感時間からそう呟くジョンの足をなにかが掴んだ。
反射的に掴んだものに撃ちまくるも手は放すことなくより強く握ってきた。
「ちっ、まだ生きてたか」
生きていたイージーの背中から足を掴む手へと狙いを変えて撃つと手甲の装甲に大穴が開き指は弾けとんだ。
悲鳴をあげて手を押さえるイージーは距離をとるように地面を転がった。
「またか。しぶとい奴だ」
マガジンを新しいものと交換しているとイージーはゆっくりと立ち上がった。
「畜生が。奥の手まで使うはめになりやがった」
イラついたように言うイージーは腰の剣を抜いた。
「奥の手?どうやったか気になるが立ち上がるなら何度でも殺してやる」
「ああっ!?」
構えるイージーにジョンは素早く駆け寄った。一瞬反応に遅れるもイージーは斧を振り下ろすもジョンは刃ではなく柄で受け止めた。
「なっ、受け止めただと!」
驚きのあまり叫ぶイージーはジョンの腕から鳴るモーターの駆動音には気付かなかった。そして兜の下から突きつけられたハンドガンにも。
発射された弾丸は無防備な顎を突き抜けその先にある頭を貫いた。だがそれでは終わらず頭を貫いた弾丸は兜に当たると跳弾し再び頭の中へと戻っていった。
頭を完膚なきまでに破壊されたイージーは何が起きたか分からないまま今度こそ息絶えた。
力なく腕を下ろすイージーは兜から血が噴き出るとゆっくりと地面に倒れた。だがジョンはそれで終わらず端末を操作し粘着爆弾を出すとイージーの頭に貼り付けて爆発させた。
「最初からこうしておけば速かったかもな」
そう呟くジョンの目の前には頭部が吹き飛んだイージーの死体が転がっている。
「…他の連中にもそうした方が…いや、雑魚はどうでもいい」
そう考えたジョンは歩き出そうとすると突然指に熱を感じると慌てて腕具を外した。そこには竜がくれたあの指輪が熱もったように赤く輝いていた。
「簒奪者の指輪か。…忘れてた」
たしかイージーの能力は怪力とか言ってたが…あんまり役にたちそうにないな。
「さっさと行くか」
ジョンは周りの木々など気にせず山へと駆けていった。
道なき道を崖のような道を進み山をあがって行った。




