1章ー04
二日後。村には三十人を超える傭兵部隊が集まった。その中にはライルやイージー、そしてもう一人召喚者らしき姿があった。
「この二日でよくこれだけ用意できたな」
イージーの問いに傷だらけのライルは睨むようにして見た。
「王国の援軍には時間がかかる。だから自費で傭兵を募った。これはもう誇りの問題だ」
「誇りねぇ。俺はそんな生ぬるくねぇぞ」
血走ったイージーの目にライルはその圧から逃れるように目を離した。
「その大怪我行く気か?」
「当たり前だ。痛み止め呑んでも痛みが引かねぇ。いや、それ以上に…腹が立って腹が立って仕方がねぇんだ」
狂気に満ちた笑いをあげるイージーに聞こえた者たちは顔を顰めるがライルはニヤリと笑った。
あの二人、だいぶ頭のネジが外れてるな。
傷だらけにも関わらず爛々と輝く二人の目にジョンは少し離れた村はずれからスコープ越しに見ていた。
動きがあったから山を下りて見てきたが、まさかこれだけの兵士を集めるなんてな。装備も山向きの実戦装備か。剣に弓矢、あの杖は魔法使いか?バリエーション豊富だな。
「ここで何人か始末するか。問題は…狙撃苦手なんだよな」
ジョンはスコープから覗き狙いを定めようとするも僅かな手の振動でズレて狙いは定まらなかった。
最悪村人に当たるかもしれないからな。ここは下手な真似はせずに夜にでも近づいて不意打ちを狙った方が良さそうだ。
そう決めるジョンは構えを解かず伏せた状態のまま、指向性マイクとスコープから村の音声から様子をうかがった。
数時間が経つと辺りは暗くなりジョンは横に置いていた革袋から色々と取り出した。それは鎧のようにも見えるが形状や素材はこの世界と違い飾り気はなく、防具は樹脂と特殊合金によって見た目よりも軽く動きやすさを重視されたものとなっている。。
足から順に黒色の防具を付けていくジョンは胸具と腕具を付けてタクティカルグローブをはめると最後にマスクを着けた。
対特殊生物兵器用パワードアーマー、スカベンジャー。ジョンの部隊に支給品であり軽量ながらも施されている装甲は高い防弾、防刃機能をもっている。
一ヶ月ぶりの起動だが問題なし。量子バッテリー異常なし。システム異常なし。
一つ一つ問題ないことを確認するジョンは端末を取り出しハンドガンを選ぶと、夜の闇の中を駆けた。
時速二十キロを超える速度で駆けるジョンは息一つ乱さず、村の見張りの少ない所に向かった。
村の警備は遠見台と数人の村の見張りたちだけで侵入自体は楽だ。問題はどっちを攻めるかだ。
松明の明かりを元に周囲を見張る村人の目に入らぬように村の中へと入るジョンは近くの民家の陰に隠れた。
話を聞いてた限りだとあの二人が雇った傭兵は二チーム。一つはイージーとライルたちといる十人前後の傭兵団。話の内容からして騎士の要請を断り切れずに今回ここに来たようだ。もう一つは二十人ほどの傭兵団は寄せ集めで装備は十人と比べて質が低く、各々好き勝手に村をうろついている。
「おい!なにしてる!」
突如響いた怒鳴り声にジョンは壁に身を寄せ動きを待った。直ぐに慌ただしく動きが聞こえると悲鳴のような声とほのかに木が燃える臭いがした。
「一体なにをしたんだ?」
慎重に音のする方を覗くジョンはその光景に目を見開いた。
家が燃えてる…あの方向は俺の家だ。
嫌な予感に隠れながらその方向に近づくジョンは自分の的中が当たったことに怒りがこみ上げた。
燃えている家は予想通りジョンの家だった。その前には呆然と見上げる近所の村人と松明を持つ数人の傭兵たちだった。
「なにやってんだ!早く火を消せ!」
怒鳴りこんでやってきた傭兵たちは火を消そうと動きだした。彼らは近所の避難運動や井戸からの水汲みなど指示がないにも関わらず迅速に動いた。
おおっ、中々に良い連中だ。ここからじゃ姿がよく見えないがとりあえず感謝。
「おいおい、勝手に消してるんじゃねぇ」
後からやってきたイージーの言葉に傭兵たちは手を止めた。
「どういうことだ」
「こいつは合図だ。俺が帰ってきたいう合図だ」
合図ねぇ。それならこっちもお返しの合図を送りたくなってくる。…はぁ、今すぐ撃ち殺したいがこれ以上村の連中には迷惑かけたくないし、なにより包囲された時が面倒だ。
そう考えるとジョンはその場から離れ村の中を移動した。
適当に村の中を散策するジョンは酔っぱらった様子の傭兵の一人が家の壁に向けて小便をしようとしていた。
ジョンは足音を立てないようゆっくり背後に近づくと、傭兵の腰にある直剣を引き抜き、わきの下から胸を一撃で貫いた。
傭兵はなにが起きたか分からぬまま地面に倒れるとなにかを言う事もなく大量出血の中静かに力尽きた。
死んだ傭兵に気にもせずジョンはハンドガンを構えその場から離れようとした。その時家の中から悲鳴のような声が聞こえてきた。
「ふざけた連中だ」
込み上げる怒りを堪えながらジョンは静かに家の中に入り込んだ。
玄関のドアを開け難なく侵入するジョンは目の前の光景に息を呑み怒りのままに動いた。
「あ、なにもんだ」
気付いた裸の男にジョンは何も言わず距離を詰めると前蹴りを食らわせた。
派手に吹っ飛び壁に叩きつけられる男にジョンは男の持ち物を一つ取った。
「巻き込んですまない」
床で倒れる半裸の女に謝り、起き上がろうとする男の頭をわし掴み外へ出た。
「助けて、侵入者だ。侵入…」
蹴られた衝撃か大声の出せない男にジョンは顔面に拳を食らわせて黙らせた。パワードアーマーによって強化された力とナックルガードによって男の鼻は一撃で砕け埋没した。
「侵入者はお前だ」
家から離れた場所まで引きずると持ってきたロープで近くの木に男をきつく縛り上げた。特に首の絞めつけは強く、男はロクに呼吸ができず悲鳴をあげようにも声を出せずにいた。
「運が良ければ誰かが見つけてくれる。悪ければ死ぬまで苦しめ」
目を見開く男は声を出そうとするも背を向けたジョンにはもう聞こえなかった。
再び闇の中を歩きだすジョンは複数の話し声が聞こえて足を止めた。ゆっくりと近づき様子を探るその先では酒を飲み歩く傭兵四人の姿があった。
「かーっ、ここの酒は旨いな」
「あんま飲み過ぎんなよ。明日は二日酔いで山登りになるぞ」
「構わねぇだろ。どうせ俺らの仕事なんて荷物持ちだからよ。後から来るって言う伝説の傭兵さまがやってくれるだろ」
好きに話す傭兵たちはジョンに気づくことなく横を通り過ぎようとした。
伝説の傭兵さま?まだ新手が来るのか。そいつが来る前にここの連中をなるべく殺した方が良さそうだ。
周囲を見回すジョンは素早く四人の胸に一発ずつ撃ちこんだ。サプレッサー装着のハンドガンではあるが発射直後のフラッシュと掠れた銃声音は隠しきれなかった。
「なんだ?今のなにか見えたぞ」
「お前はあのクソ野郎の貴族に報告に行け。俺らは確認に行くぞ」
やっぱりこんな小さい村で使えばばれるか。ここはもう出るか。
向かってくる足音に舌打ちするジョンは早足でその場から離れると、少しして緊急事態を示す笛が甲高く響いた。
一応俺が侵入した時の対策はしてたみたいだが、こんなもの大した意味もない。
慌ただしくなる村中に家から松明と槍をもって人が出てくるが、明かりとしては乏しく闇に紛れるジョンの姿を誰の目にも止まらずをすり抜けるようにして村を出て行った。
「ここで一度仕掛けるか」
少し離れたところで足を止めるジョンは端末を取り出すと、画面を上空を飛んでいる偵察ドローンのサーマルカメラ映像に切り替えた。
村中動き回ってるが村から出ようとする人の姿はない。村の中を捜索してるか追跡する気がないか知らないが村を出る気はないか。…これなら嫌がらせのためにも戻らずにここに残って連中を攻撃するのもいいかもな。
真剣に悩むジョンは唸りながら画面を見つめ続けた。
「うーん、困った」
「なにが困ったんだ?」
考えるよりも速く声のする方へハンドガンを向けた。その直後頬に衝撃を感じたまらずジョンは後ろに下がった。
撃たれた!?いや、そんな訳がない。第一どこから。
混乱するジョンは片手でハンドガンを向けると暗闇の中を全身黒づくめの男が現れた。
こいつ…何者だ。いや、そもそも人間か?
ジョンには男の正体は掴めなかった。男の格好はジョン同様黒づくめだが服装はこの世界ではそれなりに上等な服のようで貴族や一部商人が着ているような物だ。防具らしきものは一切なく格好だけなら戦士ではないがその手にはクロスボウと直剣が握られている。
動きやすさを重視する連中はいるがこの世界でここまで無防備な戦士や傭兵は見たこともない。…というかこいつの顔はどうなってる?目がおかしくなりそうだ。
ジョンの目には男の顔をしっかりと見ている。だが瞬きをするだけで男の顔を認識できないでいた。まるでなにかに阻害されてるかのように。
そもそも偵察ドローンにこいつの姿はどこにも映ってなかった。あの服になにかしらの機能があるのか?
いくつもの疑問に混乱するも深く息を吸って直ぐに目の前の男に集中した。
「誰だ?」
「レッドと呼ばれてる。貴様と同じこの世界に召喚された」
「なら連中の仲間だな」
「心外だ。仕事中に脅迫まがいの要請で仕方なく」
うんざりしたように言うレッドの言葉は最後まで言い終わる前にジョンは構えると同時に撃った。
確実に当てるため胸を狙った一撃は目にも止まらぬ速さでレッドは直前で弾いた。
「なに?」
なにが起きたかジョン自身分からなかった。撃った弾丸はレッドはまるで動きを読んでいたように僅かな動きで直剣を構え飛んできた弾丸を弾いた。それだけでも驚きだがその弾丸をジョンに向けて弾き返し胸に当てたことだ。
……こいつは桁外れだな。
警戒レベルを最大限まで引き上げるジョンはハンドガンを捨てて素早く端末の画面をカメラ映像を閉じ新たな武器を選んだ。
「鉄砲か。それも自分の知る物よりも遥かに強力だ。それにその防具、この世界の物よりも遥かに性能が良いようだ」
感想を述べる男にジョンはライトマシンガンを出した。腰構えのままレーザーで狙いを合わせると男は両手を挙げた。
「落ち着け。少し話がしたい」
その言葉にジョンは躊躇いもなく撃ちまくった。ドラムマガジン二百発に込められているライフル弾は赤い光の軌道を残し男に向かって飛んでいった。
俺が能力で生み出した武器は一部を除いて持っている間だけ存在する。手放すと少しして消えるが持っている間はなにがあろうと不具合は起きない。ジャムることもなければ連射による熱の心配もない。…なのに全く当たらないとはな!
絶え間なく響く銃声と共に発射された無数の赤い光は飛んでいくが、レッドはどこに飛んでくるか読んでいるかのように直剣一つで銃弾全てを弾いていた。
夜の闇の中を無数の火花が散る中、レッドはその場から動くことなく激しい攻防が一分近く続いた。
「ちっ」
弾が空になりライトマシンガンを投げ捨てるジョンにレッドは何もなかったようにゆっくりと歩き出した。
ボウガンに矢を込めず近づいてくるってことは接近戦がお好みか。だがそうはさせるか。村の連中が来る前に倒す。
端末を出すジョンは愛用のショットガンを出すとフォアエンドを前後させて、一歩前に出るジョンは構えると共に撃った。
「!」
先ほど同様にレッドは弾を弾いた。だがその視線はゆっくりと自身の直剣を見てから驚いたように声をあげた。
「ほう、これは凄い」
レッドの持つ直剣はいたるところがひび割れ、中心には致命的な亀裂が入っていた。
「むしろよくもったな」
容赦なく撃つジョンにレッドは先ほどと同様に弾こうとした。だが直剣は耐え切れず粉々に砕けるとスラッグ弾は胸を撃ち抜いた。
「…盾としても使えるように耐久力を上げたこの剣を折るとはな」
「…厄介だな」
胸を撃たれたにも関わらず倒れることのない男はため息をついて両手を挙げた。
「自分の負けだ。武器を下ろしてほしい」
「そう言って下ろすと思うか?」
警戒心全開のジョンの言葉に男は頷いた。
「なら気にせず話をさせてもらう。撃ちたければ撃てばいい」
別にどうでもいいと言わんばかりの男の言葉にジョンは舌打ちし構えを解いた。
「改めて名乗ろう。自分の名はレッド。ここには貴族の強制依頼で竜退治とある方の依頼でここに来た。そこで質問だ。貴様は何者だ?」
「ジョン・ドゥ。しがない村人でその竜を守る者だ」
その言葉にレッドは疲れたようにため息をついた。
「一つ提案がある。自分に殺されたことにしてここから離れる気はないか?」
「なに?」
突然の提案に顔を顰めるジョンにレッドは説明し始めた。
「自分としてはこんなことに巻き込まれて迷惑している。余計な戦いはなるべく避けたい」
「魅力的だがあの悪党どもは皆殺しにする。逆に聞くがお前が下がる気はないか」
「依頼者の貴族が死なない限りは無理だ。他も一緒だろう。あれでもこの国ではそれなりの権力者だ」
「なら災難だ。皆死ぬことになるな」
「残念だ」
再びため息をつくレッドは闇に溶けるように姿を消した。ジョンは偵察ドローンのカメラ映像を見て探すもその姿はどこにもなかった。
幽霊とでも戦った気分だ。ちっ、村から何人かこっちに向かってる。
「また明日会おう」
どこからか聞こえるレッドの声にジョンは山へ向かって走り出した。




