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ようこそ吹き溜まりの世界へ  作者: ジャッカス
25/32

1章ー03

 数時間後、泥と草まみれのエールがふらつきながら現れた。

「遅かったな」

「…あんたのせいで遠回りさせたからでしょ…もう無理」

 睨みあげるも力尽きたように座るエールは肩に担いでいた荷物を下ろした。

「魔獣に遭遇しないルートだったんだ。おかげで安全だったろ」

「もう二度とあんたの頼みは聞かないから。…それでなにがどうなってるの?竜や騎士たち殺してなにがしたいの?」

「竜?いや竜なら生きてるぞ」

「人間とエルフの混血…これはまた。できれば静かに休ませてもらいたいものだ」

「…………ぎゃー!!!」

 悲鳴をあげるエールは一瞬目と舌が飛び出たかのように叫ぶとそのまま大の字に倒れた。

「もういや…あんたなんて弟子にするんじゃなかった」

「そんな寂しいこと言うなよ。ささっ、薬師の出番だぞ。はい患者」

 倒れてるエールを無理やり起こすとそのまま竜の前に座らせた。

「患者は…二匹?二体?なんにしてもこいつらの傷をどうにかできるか?」

「え?ちょっ!……冗談よね?」

 鼻息のかかる距離まで近づけられ冷や汗をかくエールにジョンは笑った。

「これがそう見えるか?」

 両手で顔を挟みエールを無理やり竜の方に向けた。すると状況を察したのか真剣な表情で観察しはじめた。

「体力を消耗してるみたい。こういう時は精のつく食べものを食べて栄養を摂るのがいいんだけど…この大きさだとねぇ」

「その必要はない。安静にさえすれば直ぐに良くなる。しかし…薬学に詳しいか?」

「これでも薬師の端くれなので。一応竜にも効く精力薬もありますけど」

「それよりもこちらを頼む」

 目の前で重々しく立ち上がる竜の姿にジョンは息を呑むもエールは竜に見向きもせず下で寝ている小さな竜を見つめていた。

「下に入るけどいいよね」

 竜に向けて問うも返事を聞かぬままエールは竜の下を通って小さな竜に近づいて行った。

「暗い…そこにいられるとよく見えないんですけど!」

 文句を言うエールに竜は直ぐには反応しなかったがゆっくりと横に移動し木々の上に座りこんだ。

「よくあれだけでかいのに文句言えるな」

「同族以外で文句を言わるのは初めてだ」

 ジョンと竜の声など聞こえてないのか、患者である小さい竜を見ると腰の荷物から紙に包まれた物を取り出しそれを口の中へ投げいれると小さな竜は呑み込むように喉を動かした。

「なにを呑ませた?」

「解毒薬って言いたいところだけど滋養強壮薬。症状から長期的に弱い毒を摂取されて衰弱してる。だからこれを定期的に飲んで栄養を摂取すれば直ぐに良くなると思うの」

 栄養ねぇ。まぁ普通に考えて肉を食べさせればいいんだが…あ、丁度いいのがある。ちょっと鉛が入ってるが。

 思いついたままに端末を操作するジョンは端末を操作すると適当に選んだ斧を選択した。

 手の中に現れた斧を握りジョンは転がっている死体の元まで歩いていった。

「エール。食べやすいように小さい方が良いのか?」

「? まぁそうね」

 自分の荷物から道具を出し薬の調合をするエールは見向きもしないで答えてると、ジョンはささっと用を済ませて血まみれになると持っていた肉片を小さな竜の口の中に放り投げた。

「助けてくれるのはありがたいが…良いのか?」

「今すぐ狩りに行くよりいいだろ。なにより無駄にならない」

「なんの話をしてるか分からないけど、これをすりこぎで潰してくれる」

 見向きもせず渡されたすりこぎにジョンは細かく潰した。

「これは?」

「別の薬を用意してるとこ。…なんか臭くない」

「直ぐに慣れるさ。それより着替えてくる」

「替えの服なんて持ってきてたの?」

「持ってきてくれた物の中にな」

 素早く血に濡れた服を脱ぐジョンは服の下には肌に密着した灰色のスーツを着ていた。それは特殊なもので血が付いても付着することはなかった。

 手早く持ってきていた服に着替え終えたジョンは近くにあった岩の上に腰がけた。

「巻き込んで悪かったな」

「本当ね。これで村を出なくちゃならなくなった。けど頼ってくれて悪い気分じゃない」

 そう言って作業の手を止めるエールはゆっくりとジョンの方に向いた。

「それにいつかは村を出る気だったしこれもいい機会と思うしかないね」

「迷惑をかけてすまん」

「謝らないで。私は薬師としてここにいる。それが今回は人じゃなくて竜ってだけ。あ、だけど慈善でやってるわけじゃないから報酬は払ってね」

 愉快気に笑うエールに竜は困ったようにうねった。

「善処する」

「大丈夫。無理だったらあっちが払うから」

「へいへーい。卵でいいか?」

 中指を突きつけてくるエールにジョンは笑った。

「分からぬな。何故私たちを助ける?見返りはなんだ」

「勘違いしないで、私は巻き込まれただけ。聞くならこっちね」

 指をさされ竜がその指先を向くように見るとジョンは腕を組んで考えた。

 ……理由か…特にないんだけどな。第一助けている気もない。ただ連中のやり方が気に入らなかったし、あの状況じゃ半分成り行きもある。

 答えを待つ竜にジョンは思いついたまま答えた。

「むしゃくしゃしてやった。後悔はしてない」

「つまり考えなしか。利口な生き方ではないな」

 さすが竜、高い知能をしている。

「だからこそ君らは信用できる。人間の世界では依頼か?君らに仕事として我が子を助けてもらいたい」

「依頼って言われても私ができるのは滋養強壮の薬をあげるくらいなんだけど」

「充分だとも。とは言っても今私に差し出せるのはこれくらいだが」

 そう言うとどこからか現れた指輪がエールの前に現れた。

「指輪?わっ高そう」

 渡された指には細かい装飾が施されブーツらしく靴が彫られている。

「隠密の指輪だ。これを着けている間は一時的に姿を消すことができる」

 なにそれ。俺が欲しい。

 興味深く見る指輪を見るジョンだがエールは気にした風もなく自分の指にはめた。すると竜の言葉通りにその姿は忽然と消えた。

「凄い!本当に消えてる!」

 自分の姿が消えたことにはしゃぐエールは指輪を外すと元に戻った。

「姿を消せるが他者と接触した場合は効果は消え一時間ほど使えなくなる。逃げる時などに役立つことだろう。これならば売るとしても価値がある」

「いい値どころかこれだけで家が建つよ。こんなの貰ってもどうしたら」

 両手で大事そうに持ってオロオロするエールに竜は満足そうに頷きジョンの方へ向いた。

「君にはこれを渡そう。ただこれは少し扱いに注意が必要だ」

 念を押すように言うとジョンの前にも同じように指輪が現れた。ただし先ほどのものと違い薄汚れ僅かだが乾いた血が付着している。

「薄汚いどころか汚い指輪だな。まさか要らない物を押し付けられてないよな」

 冗談半分で聞くと竜はなにも言わず視線から逃れるように横を向いた。

「…当たりか」

 取ろうか迷うジョンに竜は咳ばらいをした。

「要らない物というよりもこの指輪の前の持ち主とは因縁があるのだ。私としてこんな物は破壊したいのだがそれはそれで厄介なことになる。だが君の力となることを約束する。それは簒奪者の指輪だ」

 簒奪者…またずいぶんと過激な名前だ。

「はるか昔に作られとされる六つの最悪の指輪。一つ一つが強大な力を持ち、持つ者によっては国すらも傾かせる物となる。その内の一つ…簒奪者の指輪だ」

 ……いらねー。

「チェンジ!」

「この指輪の力は殺した召喚者の能力を得ることができる。それも手に入れた能力は指輪がなくとも死ぬまで使うことができる」

 殺した召喚者の能力…それって今まで殺した奴も含まれるのか。

 興味本位から指輪を手にするジョンは人差し指にはめようとして引っかかった。

「意外と小さいな」

「注意することは殺す際に指輪を着けていなければ意味がないこと。そして対象は召喚者の特殊能力とこの世界の者が持つ一部の能力のみ。魔法などは対象外だ」

「この小汚い指輪をずっと着けろと…なんかばっちぃな」

『そう言うな。この指輪の所有者は人間の魔女。くだらぬ理由で数多くの同胞を殺し死ぬまで幽閉されることになった愚か者だった』

 思い出すかのように呟く竜の言葉を聞き流しジョンは小指にはめた。

「特に分かりやすい変化はないか。まぁいい、たしか前に殺した男の能力は…炎だったな」

 前に戦った敵と同じ動きをまねてジョンは空に向けて手をあげた。しかしなにも変わりはなく代わりに手の上に風に飛ばされた葉っぱが落ちてきた。

「ダメか。とりあえず貰うとして。その竜が回復するまで世話をすればいいんだな」

『頼む。数日もしない内に良くなる』

 持っていた斧を投げ捨てるジョンは端末から先ほどと同じショットガンを出した。

「数日もしない内か。簡単そうに言ってくれるな」

 あれだけ痛めつけてたんだ。直ぐには態勢を立て直して山に登ってくるわけがないが向こうも諦めはしないはず。なら万全といかないまでもそれなりの部隊を早急に仕掛けてくる。少なくとももう一度戦闘が起こると思っていた方が良いな。

「分かった。俺は食料を用意する。山菜でいいか?」

「やだ。肉が食べたい」

 あんな物が近くにあるのによく肉が食べたいなんて言えるな。

 エールの言葉に驚きつつも、隠すように置いた山のような肉塊が気付かれないことを祈りつつジョンは周囲の探索を始めた。

 偵察用ドローンは出してから最大三日間使用できる。この件が片付くまでは目の代わりになってくれるはず。

 ジョンは端末を取り出すとドローンのカメラに画面を変えて拡大し山の周囲をだけ表示した。

「魔獣も獣も焼けばば一緒だ。獣狩りだ」

 そう呟きジョンはドローンのカメラを頼りに獲物の元まで歩き出した。


 狩猟はやったことないが案外うまくいかないもんだな。

 森にまで降りつつ狩りをしていたジョンの手には山で採れた山菜の類を入れた袋と運よく見つけた猪に似た小さな魔獣だった。

「戻ったぞー」

 山頂に戻るとそこには竜の姿はなかった。代わりにいたのはエールと話す戦士風の男とその横でぐったりと寝ている少年だ。

「誰だ」

 その場に取ってきた物を捨てショットガンを向けるとエールは慌てて前に出た。

「ちょっ、ちょっと落ち着いて。それがなにか知らないけど落ち着いて。この人たちはさっきの竜よ」

 胸を照らすレーザーを気にしながらも盾になるエールにショットガンを下ろした。

「竜?あのでかいのが?…ありえん」

 素で聞いてくるジョンに戦士風の男は立ち上がった。

「君の用意した物のおかげでだいぶ元気が出てきた。これで人間の姿に擬態できる」

 あのでかいのがどうやったら人…端末には…たしかに竜の姿がどこにもない。どうなって変わったか見てみたいもんだ。

「しかし俺が何を…ああっ、あれか」

 あれだけの肉の山を食べれば元気にもなるか。

「ならそっちのご飯は要らないな」

「結構だ。このまま少し眠らせてもらう」

 その場で横になると竜はそのまま寝始めた。

「食べて寝るとは暢気だな」

「それだけお疲れみたい。体中傷だらけ…正直生きてるのが不思議」

 そう言うと分かりやすく頭を撫でた。

「そんなことよりいい加減ご飯用意して。お腹空いた」

「分かった、分かった。こっちも腹が減ってるからな。直ぐに用意する」

 そう言うと先ほど捨てた食料を拾いあげ手早く皮を剥ぎだした。

「内臓はもう抜いてるがちょっと時間が経っているから少し臭いかもしれない。そこら辺は我慢してくれ」

「えー」

 不満そうに声をあげるもジョンは気にせず調理を続け、放置していた荷物の中から道具を一つ取り出すとそれを使って用意した焚火に火をつけた。

「早っ!凄い手際いいね」

「前の世界で一応サバイバル訓練はしてたからな。まさか異世界で役に立つなんてな」

 そう言いながら先を鋭くした木の枝に肉を突き刺して焼き始めた。

「ねぇそこら辺の話聞いてもいい?」

「そこら辺…ああ、向こうの話か」

 その問いにジョンの声は低くなった。それだけでエールも気付いたようで慌てだした。

「いや、うん。事情は分からないけど話したくないならそれでいいから。ただちょっと話のネタにいいかなぁって」

 …反応が過敏だったか。…もう俺の正体も外にばれてることだしそこまで拘らなくていいか。

「いや…焼けるまでの時間潰しにいい。俺のいた世界は…こことは全然違うな」

 ジョンはそう呟きながら前の世界のことを思い出した。飛び交う無数の銃弾、怒号と悲鳴、飛び散る血と肉片…そして化物。

「いや、大して…違わないかも」

「どっちなの」

「この世界に召喚されている人間は一つの世界ではなく幾つもの世界から召喚されていることは知ってるか?」

 エールは何も言わず首を横に振った。

「だよな。俺の世界はこの世界と違って人間しかいない。文明としてこの世界よりも遥かに進んでた。俺の能力もその世界にあった武器を出している」

「ふーん、それだったらこの世界より平穏だよね。だって種族同士の争いはないもん」

「いや、たしかに人間しかいないが国、価値観、肌の色、金。上げればキリがないほどの理由で戦争をしていた。それもこの世界よりも遥かに酷い争いだ」

 黙って息を呑むエールにジョンは言葉を続けた。

「俺がいたのは対特殊生物兵器部隊。簡単に言えば人が作り上げた化物共相手に戦ってた」

「…なにそれ」

「分かりやすく言えば…この世で一番気色悪い種族はなんだ?」

「死霊系」

「あれがいたか。会ったことはないがそいつらより遥かに凶暴でおぞましい化け物ばかりと戦ってた」

「うわぁ、それいや」

 嫌悪のあまり顔を顰めるエールはため息をついた。

「なんとなく分かった。向こうの世界もそれだけヤバい世界ってことね」

 少し違う。思ってる以上にヤバい世界だった。なにせもう取り返しのつかないところまでいってるいわゆる終末の世界ってやつだろう。

 そう言いたくなるもジョンは笑って誤魔化した。

「まぁそう言うところだ。そう言うエールの方はどうだ?」

「私?私は普通かな」

 そう笑って答えるエールはゆっくりと語りだした。

「エルフと人間のハーフとして生まれた私はエルフの里で過ごしたの。ああいう閉鎖されたところだと私みたいなのは疎んじられるのよねー。友達なんていなかったし、いつも一人だったなー」

 思い出すように言うエールの両手は何度も拳を振るった。

「だからもうケンカなんて日課だったよ。だから見返してやろうと思って薬の勉強をしたの。魔法でも傷は癒せるけど病気や一部の毒は無理だから、いつか見返すチャンスがあると思って勉強してたんだけど」

 照れたように笑うエールは頬を掻いた。

「誰も怪我しないから暇で、暇で。退屈だから修行に出るってことで旅に出ることにしたの」

 暇だからって旅か。こいつ思った以上に自由だな。

「そう言うことか。…なら俺を弟子にしたのも」

「暇つぶし。結構面白かったよ」

 楽し気に笑うエールは直ぐにため息をついた。

「けどこれからどうしよっか。これで私もお尋ね者かなー」

「その心配はない。お前はまだ連中に見られてないからな。連中に出くわすか出くわした連中を片っ端から俺が殺せばいい」

 かなりのハードだが巻き込んだ以上はポイントはマイナス覚悟でやるとして問題は他にも召喚者いたら更にハードになるな。

「無茶苦茶言うね。なら私は間近で見させて貰おうかな」

「見ててもつまらないと思うが」

「私が苦労して持ってきた武器を使うところ見たいなー。だって異世界の武器なんて滅多に見れるものじゃないからね。それにそれなんかすごそー」

 好奇心に目をキラキラさせるエールにジョンは笑った。

「分かった。その時は過激にやってやる」

 笑うジョンは頭の中で次にどう動くか考えた。

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