1章ー01
「うぅ…寒い」
朝の寒さに凍えながらジョン・ドゥはいつものように固いベッドから起き上がると腕をさすりながら朝ご飯の用意とエサやりのために鶏小屋へと出た。
「おおい、お前らメシの時間だぞ」
そう言いながら鶏たちにエサを撒くジョンは小屋の中に卵がないか探した。
「おっ、今日は二つか」
ほのかに温かい二つの卵を手に取って鶏小屋から出て母屋に戻るとお湯を沸かすために準備を始めた。
鍋に水を注いでから火をおこすと湯が沸くまで椅子に座って待った。
「ふぁー、今日やるのは畑から野菜を採って…しまった早朝に薬草採りに付いて行くんだった」
今日の予定を思い出して、急ぎ服を着替えるジョンは厚着の服に着替えつつ沸騰したお湯の中に卵を入れた。
「肉を焼きたかったんだがな。もうゆで卵だけにしておくか」
味気ない食事にため息が出るもジョンは出来上がったゆで卵二つをさっと食べて外へと出た。
「おはようジョン。向こうで先生が待ってたぞ」
「おはよう。つい寝過ごした」
通りかかったおっちゃんに挨拶して先に行くジョンは村の広場へと進んで行った。ジョンの住む村は百人前後のそれなりの規模の村だ。中心である王都から遠く離れた位置にあるが村は魔獣などの外敵に襲われることはない穏やかな生活を送っている。
村の中も村民たちの仲は良くジョンも会う人たちに挨拶していた。そうしながら町の広場に向かうとそこには不機嫌そうな顔で他の人よりも耳の長い長髪の若い女が立っていた。
「遅い。早朝に行くって言ったよね」
「悪い、寝坊した」
そう言ってジョンは腰に着けている道具を叩いた。そこには薬草を採るための採取道具とこの村にはそぐ合わない金の装飾が施された筒状の武器、魔筒をぶら下げている。
「相変わらずどこでもそれを持っているね。昔は名うての魔法使いだとしても薬草採取に必要ないと思うけど」
不機嫌そうに言う女、薬師であるエールはにジョンは苦笑した。
「やっぱり高価な物だからな。それになにかあった時のためにこれが役に立つ」
「ふぅん、まぁいいけど。それじゃ行こう」
先を歩いて行くエールの後にジョンも続いた。
向かったのは村から少し離れた森の中。その森は世界でも有数の大森林であり、そこには多くの魔獣が住むと有名であり全容を知る者は誰一人いない。
二人は森の奥には行かず入口近くを探索していった。
「えーと、この薬草が火傷に効く…だっけか」
「違う。それは毒だって。そんなの塗ったら火傷した所が腫れあがって火傷のような痛みと痒みに襲われるって。というか素手で触らないで!ほら直ぐ手を洗って」
渡された水筒にジョンはその水を使って手を洗った。
「もう。似たようなものが多いからしっかり見て。全くなんでハーフエルフの私になんて教えを乞うのかなー」
呆れたように言うは何度もやるやり取りにエール自身も悪い気はしていないようで顔は笑っていた。
「なんでって。この村で一番薬学を知識が深いからだろ」
「それって私が年寄りって言いたいの。これでもまだ五十なんだから」
「それでも俺よりだいぶ年上だ。たしかハーフで五十は二十後半くらいだっけか」
「うっさい!」
土を投げられるもジョンは姿勢を低くして躱した。
「本当ジョンって変わり者ね。この村で私にこんなこと言えるのジョンくらいよ。おかげで作業が進まないじゃない」
そう文句を言うも楽し気なエールは薬草の採取に集中しジョンも同じく薬草の採取に集中した。
「…ねぇ」
「なに?お、甘味草」
生えている草を採るとジョンは嬉しそうに口に銜えた。
「…なにか聞こえない?」
そう言われジョンは耳をすませるも音の正体に気づかず首を横に振った。
「…分からない。けど最悪魔獣だったらまずい。もう戻ろう」
ジョンの提案にエールは頷き持っていた薬草を収めた。
「静かにね」
二人は言葉少なく話すと静かに森を出ようと歩き出した。
「……聞こえてきた。これは…この音は?」
ジョンも異変に気づき音に集中すると手慣れた動きで魔筒を空に向けて構えた。
「止めて」
エールの注意と共に二人の頭上を竜が飛んでいった。それも十メートルを超える巨大なものだ。
二人の頭上を飛び去った竜の行く先を見つめると先には森の奥にある岩山の上へと向かって行った。
「あれが竜…でかいな」
「世界最大の種族だからね。私も…あれだけ大きいのは初めて見た。あの調子だと…多分ここに降りるかも」
呆気にとらえながらも呟くエールは駆けだすとジョンもその後に続いた。
「急いで村に戻って皆に知らせないと」
慌てたように走る二人だったがしばらくして足を止めた。二人の前には行く手を阻むように唸り声をあげる狼に似た魔獣たちが構えていた。
「ハウンド!縄張りはもっと奥なのに」
突然の脅威に息を呑むエールは荷物の中からなにかを取り出すといつでも投げられるように構えたが、それを阻むようにジョンは前に立った。
「ここは任せて先に行ってくれ」
壁になるジョンにエールは戸惑うも直ぐに怒鳴った。
「待って!一緒に」
「ハウンドがそっちに向いた時に魔筒を放つ。俺を信じろ」
「…っ。信じてるから」
「振り向かず走るんだ!」
ジョンの言葉にエールは駆けだそうとした。しかし口から涎を垂らしながら唸るハウンドの姿に足が止まった。
「行くんだ!」
エールのすくんだ足はジョンの一喝と共に走り出した。直ぐにハウンドたちは追いかけようと駆けだし獲物に向かって行った。
さて、仕留めるか。
ハウンドの鍛え上げられた四足はエールよりも速く一瞬で距離を縮め、勢いよくジャンプしようとした。しかし獲物に飛びかかる前に短い悲鳴と共に倒れた。
残るハウンド数匹はジョンを警戒するように吠えるも魔筒を向けられた順から破裂するように頭が吹き飛んだ。
ものの三秒にも満たない僅かな時間。走って逃げようとしたエールも異変に気付き足を止め振り返った。
「ふぅ…危なかった」
エールの前にはジョンが魔筒を腰構えで構えていた。
「これ全部…いや、それより大丈夫!」
心配そうに聞くエールにジョンは頷いた。
「ははっ…運が良かった。久々に使うものじゃないな」
そう言いながらジョンは深くため息をついた。
バレてないな。適当にごまかして煙にまこう。
「とりあえず行こう。あのハウンドもあの竜が来たからだと思う。他にもいるかもしれない」
「分かった」
そしてジョンはエールと共に森を出て行った。
数時間後、無事村に出た二人は先ほど起きたことを知らせた。
知らせを聞いた村の者たちは話し合いの末、大森林への出入りは禁止されることとなり、しばらくして竜の話は村だけでなく他の町や村へと広まっていった。
そして発見者の一人であるジョンは困っていた。それは森林に入れないこともあるが手に持っている端末画面に映る竜が原因だ。
持っている物は軍事用の情報端末。この世界にはない物であり電気がなければ役に立たない物だが、ジョンはバッテリーが空っぽの端末を使い、本来あるはずのない機能でドローンを操作していた。
全長十メートルを超える竜か。なんで俺のいる村の近くに来るんだか。
なるべく近づかないように竜の様子を見るジョンはドローン操作を止めて端末を机に置いた。
「なによりまずいのはエールか。見られてないだろうが魔筒の違和感に気づかれるのは面倒だ」
ジョンはエールをどうするか考えるも直ぐに諦めた。
「その時はその時か。最悪村を出ればいいしな」
そう考えるもできればそのことを避けたかった。ジョンはこの村に住むことになって一年と数ヶ月。最初は村人たちに疎んじられてはいたが今では村の一員として認められ、古家ながらも庭付の家で薬師見習いとしてエールの弟子のようなことをしている。
村自体に特別な思いはないが、せっかく静かに暮らせる環境を手放すのは惜しい。正直このままここでのんびり余生を過ごしたい。
「まぁ無理だよな。また前みたいに面倒に巻き込まれるか」
うんざりしたように呟くジョンはため息をつくと不意に外からエールの声が聞こえてきた。それに反応するようにジョンは端末を懐に収め玄関へと出た。
「なんでしょうかい?」
外に出るとそこにはエールが赤ら顔で酒瓶を持って立っていた。ふらつく足取りに直ぐに酔っていることを察した。
「入れてー。そして私と酒を飲んでー」
酒瓶を突き出すエールは口から息を吐くと酒と口臭の混じった臭いにジョンは顔を顰めた。
「昼間から酒か。村で何かあった時にどうするんだ?」
「その時は私の弟子見習のジョンがしてくれるよねー。傷薬のストックなんて幾つもあるから大丈夫。いいから入れてー」
強引に部屋の中に入るエールにジョンはため息をつきながらも諦めた。
「かーっ、ああもう困ったなー。森に入れないんじゃ退屈よねー」
「だから昼間から酒か。良いご身分だ」
「他にすることないからねー。討伐隊が来るまで暇すぎる」
「討伐隊?」
「あんなでかい竜がいたら国が動くでしょうねー。多分あと一週間もしない内に来るんじゃない」
そう言いながら酒を一口飲むエールは酒瓶を突き出した。
「ん!」
「要らない。それより村の警備は大丈夫か?」
その問いにエールは首を傾げた。
「どういう意味?」
「いや、ここ数日の間森の様子を見ていたが妙にざわついてるように感じてな」
「それは竜が来たことで森全体の縄張りが変わったから。竜が現れた時にハウンドが出たでしょ。あれは竜の気配に怯えて逃げたんだと思う。けどさすがに森を出ることはないはずよ」
楽しそうに笑うエールは直ぐに真顔になった。
「けど森の様子を見てるのは止めて。そうやって森に興味がある風に見せてると面倒ごとに巻き込まれるかも。特にジョンにはあれがあるから」
そう言ってエールが見た先には壁にかかっている魔筒だった。
「あれだけの業物とそれに匹敵する技量があるんだから、興味をもってると警備に駆り出されるよ」
業物ねぇ。昔火事場から拾って中身は別ものだけどな。まぁ森の方はドローンを使ってるからからばれないと思うがな。けどポイントを消費してばっかりだからな。またどこかで集めないと。
「分かった。気をつける」
別のことを考えながら適当に答えるジョンにエールはため息をついた。
「会った時から思うけどジョンって本当何者?」
「何者って言われてもなー」
異世界からやってきたただの兵士…と言ってやろうか。
悪戯心から軍支給のパワードアーマー、スカベンジャーを見せようとも思ったが直ぐにその考えを捨てた。
こういう所をどうにかしないとな。だがこの世界にやってきたから二年間隠し続けてきたがいい加減…辛抱堪らん。
内に溜まった欲求を堪えつつジョンは話を逸らした。
「そんなことよりご飯にしないか?昨日鶏を一匹しめたから丁度まる一匹あるぞ」
「やったー。私前に作ってくれたから揚げって言うの食べたいなー」
「了解、酔っ払い」
適当に返事をしジョンは血抜きを終えた鶏をさばき調理を始めた。
「失礼する!ジョン・ドゥと言う男はここにいるか!」
突然の怒鳴り声にジョンは玄関の方を一瞥したが直ぐに興味を失い料理に集中した。その間怒鳴り声とエールの声が響くが一切気にせず調理が終わるまで無視した。
「ほらよ。出来立てだから気をつけろ」
「ありがと。それよりいい加減出たら」
外から響く怒鳴り声のせいか少し酔いの冷めたエールにから揚げの乗った皿を渡すとジョンはそのまま玄関へと出た。
「はいはーい。なんの御用…おおっ、まさかの騎士さまですか」
…思ってたより動きが速いな。
内心苛立つもそれを表に出さずジョンはいつもと変わらず対応した。
「こんな所になんの用でしょうか?」
「…私はランド王国所属の騎士、ライルと言う。王国からの指示で今回の竜討伐隊指揮を任された。君がジョン・ドゥだね」
ここでウソをついてもばれるか。
「ええ、そうですとも。ただのしがない村人です」
「そうは思えないな」
ライルの後ろから聞こえてきた声にジョンが見るとその姿に頭の中で舌打ちした。
男は戦士だった。ライルと言う騎士よりも分厚い鎧を着ておりその手には鎧同様に分厚くでかい斧を軽々と持っていた。
「紹介する。イージーだ。恐らくは君と同じく」
「恐らくじゃない。俺のいた世界じゃその名前には意味がある。普通はまず使わないがな。あんたも召喚された口だろ」
イージーと呼ばれた男は愛想良く笑い握手を求めてきたのでジョンはそれに応じた。
「なんのことか分からないが討伐するなら早めに頼むよ。森に入れなくて薬草採れず仕事があがったりだ」
冗談交じりに話しをはぐらかすも二人は誤魔化されなかった。
「そう思うなら手を貸せよ。聞いた話じゃ相当凄い魔筒使いって話だが?」
「所属を抜けたとしても国の緊急時には君ら召喚者は呼びかけに応じなければならない。断る場合は罪に問われる場合もあるがそれでいいのか」
二人の一方的な言葉にジョンは黙って睨みつけてからため息をついた。
ふざけた連中だ。…いいだろう。ならこっちにも考えがある。
「分かった、分かった。意味は分からないがそんなこと言うなら断れないだろ。それでいつ行くんだ?」
「明日の早朝に使いの者を送る。それまでに準備してもらいたい」
「逃げた時はどうなるか分かるな」
念を押したように言うと二人は背を向けて離れていった。
厄介ごとに巻き込まれるなら村を出ることを考えたが、まさかばれたうえに参加するよう言われるとはな…最悪すぎる。
玄関を閉じるジョンはため息をつきながら部屋へと戻ると、そこに心配そうに見つめるエールの姿があった。
「ジョン大丈夫?」
「なんだ話聞いてたか」
その問いにエールは頷いた。
「はぁ、まさかお前に正体がばれるとはな」
「それなら最初から知ってたけど」
「…マジか」
驚きに固まるもエールは言葉を続けた。
「最初この村に来た時、雰囲気が普通じゃなかったし時々夜中になると変な鎧着て村の外に出てるからね。最初見た時は腰を抜かした」
笑いながら言うエールはから揚げを食べると美味しそうに声をあげた。
「けど悪い奴じゃないってのは分かってた。隠したいって気持ちは分かったから私も気にしなかった。…戦いたくないんだよね」
そう言ってエールは最後のから揚げを食べると勢いよく立ち上がった。
「ってわけで荷造りしないと。どうにか逃げる手段探さないと。あ、言っておくけど手伝いはするけど付いていかないから。私も逃げてる身だし」
こいつ…本当に良い奴だな。
荷造りをしようと部屋を漁るエールにジョンは笑った。
「そうする。もう少し薬草について学びたかったがな」
このくらい自分でどうとでもなる。前の世界じゃ移動が多くて旅支度は慣れてる。
「それじゃ正体もばれたことだし荷物の準備に手伝ってくれ」
「その前にから揚げおかわり」
「異世界の面白い物を見せるから」
「やる!」
元気よく答えるエールにジョンは嬉しそうに笑った。
その日、二十人の騎士たちが村の中で野営することとなり村は騒然とした。
騎士たちは村に食べものや酒などの物資を要求し村に貯蓄されていた食料は半分以上が持っていかれることとなった。それで終わらず彼らは横暴な振る舞いは続き、村の人間は嫌な思いをしつつそれに従った。
それらの行いは上空で静かに飛ばされていたドローンによってジョンに全て見られていた。
「…やってくれるな」
次の日の朝。ジョンはいつもより早く起きると昨日の内に用意した革袋に荷物を入れて背負った。
「よし、行くか」
覚悟を決めたジョンは最後に魔筒を掴み外へと出ていくと、外で待機していた騎士が振り向いた。
「出たか。ではこっちに」
その言葉に従いジョンは後に続くと広場では騎士たちが準備を整えていた。
「まさか全員山までそんな格好で行く気か?」
信じられないと言わんばかりに聞くジョンの前には全身鎧に手には槍、大盾、腰には剣と個人によってばらつきはあるがこれから重武装をしている。
驚くジョンの声で気付いたのかライルは近づいてきた。
「相手は竜だ。お前こそそんな格好で行く気か?」
そう言われジョンは自分の姿を見ると昨日着ていた普段着とほとんど変わらず少し厚着してるくらいのものだ。
「あんなでかぶつに鎧が意味あるのか?まぁ武器だけは持ってきた」
そう言って魔筒を見せるとライルだけでなく周囲の騎士達も声をあげた。
さすがにこれだけの物は見たこともないか。さすが賢者さまの持ち物は違う。中身は分解して捨ててはりぼてでしかないが。
「これが話に聞いた魔筒か。たしかに見事なものだ」
「言っておくが俺は基本戦闘に参加しないからな。こいつはお前たちが思うほど使い勝手の良い武器じゃないんでね」
「構わない。こちらとしてそれはあの竜がまた逃げようとした時に撃ってくれればいい」
「また?」
聞き直すジョンにライルはしまったと言わんばかりに口を手で覆ったが、直ぐに苦笑いを浮かべながら答えた。
「実のところあの竜とは一度戦っていてな。色々とやったが結局逃げられたんだ。だから今度こそ仕留めなければならない」
固く拳を握って言うライルの言葉にどこか引っかかりを感じるもジョンは気にしないことにした。
「では揃ったことだし全員出発だ!」
ライルの言葉に騎士たちは気合のこもった返事と共に立ち上がった。
ぞろぞろと歩く騎士たちの中をジョンは歩いて行くと、ふと視界の端にエールの姿があった。
まるで姿を隠すように家の陰に隠れながらもジョンに向けて手を振った。
……こういうのも悪くない。
「おーっ、女か?道理でこの村にいるわけか」
後ろから聞こえるイージーの声に苛立ちを感じつつ振り向くとニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「しかし分からないな。俺らだったら女なんて選び放題だっていうのによ。町でなんてちょっと路地裏連れて行きゃそれで一発だ」
「そういう話は聞きたくない。いいから絡むな」
「おいおいカッカすんな。実は俺は能力について興味があるんだ。だから会った連中には片っ端から聞いてるんだ」
「そんなの聞いてて面白いか」
「ああ、結構面白いぞ。って言っても詳しく教えてくれる奴はあんまりいないけどな。で、あんたのを教えてくれよ。魔法系の能力なんて珍しいんだ」
興味津々に聞いてくるイージーにジョンはため息をついて答えた。
「だから違うって言ってるだろ。俺の名前になんの意味があるか知らないけど偶々だから。これだってただの魔筒だ」
中身は違うけど。
「そうかい。つまんねー奴」
つまらなそうに舌打ちするイージーは離れるとジョンはため息をついて黙って騎士たちと共に森へと入った。
前に入った時と違い、どこかざわついた様子の森は時々聞き慣れない獣や魔獣の鳴き声が聞こえてくる。
「皆ここから警戒しろ。ジョン、あの山にはどうやって行けばいい」
「知らねぇ。行ったことすらない」
思ったままの言葉にライルは睨んでくるも直ぐに部下に指示して先へと進んだ。その中心にジョンとライル、イージーの三人がいた。
「しかしあの竜は一体どこから出てきた?」
警戒し沈黙の中で歩く騎士たちにジョンは誰に聞くでもなく呟いた。
「どこからって北の荒れ地からに決まってんだろ」
何を聞いてるんだとばかりに言うイージーにジョンは鼻で笑った。
「そんなもんは分かってる。俺が聞きたいのは北の荒れ地の山脈で生息してる竜がなんでこんな遠くの田舎の村の山にいるんだ」
北の荒れ地がどんな場所かもどこかも知らないが、こんな片田舎に来る理由が分からん。
その問いにイージーはジョンの胸を叩いた。
「余計なこと聞くな。分かったか」
「そう言うなら俺を巻き込むな。その様子だとどうせろくでもないことしたんだろ」
「ろくでもない?こっちは竜退治のためにわざわざこんなぼろい村に来たんだ。感謝しろ」
胸倉を掴むイージーにジョンは両手を挙げた。
「分かった分かった。落ち着け」
どうやら図星みたいだな。
確信を突いたことを感じつつジョンは突き飛ばされるも倒れることはなかった。
「余計なことを聞かずお前はビビらないようしてろ」
「二人とも揉めるな。弱ってるとはいえ相手は竜だ。協力しないと全滅するぞ」
ライルの言葉に舌打ちするイージーは目の前の山を見上げた。
「………近くで見ると結構高いな」
「だから言っただろ。そんな格好でいいのかって」
呆れたように言うジョンにライルは睨んだが何も言わず獣道を進むよう命令し、皆周囲を警戒しつつ登り始めた。




