0章ー21
「フィリー帝国を制圧…残るは自身の領地に引きこもった貴族たちと帝国傘下の属国だがじきに片がつく」
そう言うと男はナイフを手にベッドに座ってる女の元に近づきナイフを振るった。
「それは良かった。だけど犠牲は大きすぎるね」
「戦いには犠牲はつきものだ。それが困難なものなら尚更だ」
そう言うと置いてある果物の皮を剥いて小皿に綺麗に切り分けた。それを包帯の巻かれた腕でリーンは小皿を受け取った。
「砦の死傷者は敵味方問わず負傷者を合わせて千人を超えている。現在はこちらで保護しているがあの火傷から助かるのは一握りしかいないだろう」
「つまり君に助けられた僕だけが無事なわけか。力になれると思って行ったのに。真っ先にやられるなんて歯がゆいね」
肩を落とすリーンに男は次にお茶を淹れ始めた。
「せめてもの慰めになればいいが。要塞の中にいた者たちは無事だ。本堂という召喚者の魔法によって守られたようだ」
「本堂…ああ、珍妙な格好の彼か。まさか敵だった彼に助けられるなんて…もう一人の珍妙な格好をした人はいなかった?」
「デストロイヤーと呼ばれてる男のことか。燃える砦から姿を消した後は行方不明だ」
「デストロイヤー?いや、そうだね彼はデストロイヤーだね。そうか無事でよかったよ」
「調査によって剣聖の部隊を壊滅させたのも城の大破と高台に剣聖の折れた剣はこの男が関係してると思われている」
「だろうね。彼ならなんだってやりかねない。でも君にはどうでもいいかな」
その言葉に男は動きを止めるも直ぐに作業に戻った。
「話を戻そう。領主が保護したフィリー王家の生き残りは客人として保護しているが当人の希望で側近と共にアクアで戦闘訓練を受けるそうだ。話では国の復興のために力と知識をつけたいと言っている」
「彼女ならできるだろうね。王家の中で誰よりも勤勉で優秀だから。彼女ならいずれ崩壊した帝国を復興できる。大きなスポンサーがいればだけど」
お茶の用意を終えたリーンの前にお茶を置くと近くの椅子に座った。
「アクアの大貴族の一人ドレッド・グスタフが復興のために助力させると約束した。聞きたいことは以上か」
「それなりに満足かな。…お茶はイマイチ」
「悪かったな。それよりもいい加減友人について話してもらおうか。エール・グスタフは砦を出た後にどこに行った?」
落ち着いて話す男だがその声に若干怒りが感じられた。
「やっぱり彼女のことか。残念だけど居場所は知らないよ。彼女は君たちが関わることを知って出ていったからね」
「むっ…そうか。いや、そうだろうな」
困ったように腕を組む男はため息をついて立ち上がった。
「協力感謝する。他になにか分かることはあるか」
「そうだな。…僕の推測でいいなら答えられるけど」
お茶に口をつけ顔を顰めるリーンは真顔になり姿勢を正した。
「まずこの一件で裏を引いてるのはランド王国かその裏にいる人たちさ。狙いはフィリーではなく君たちアクア王国。恐らく英雄王を操作している者たちはフィリー王国を使ってアクアに戦争を仕掛けるつもりだった。そして君たちがフィリー王国に集中している間にランド王国はなにかしら仕掛け…既に仕掛けているのかも」
考えに耽るように黙ったリーンは自身の顎を指で撫でた。
「面白い考えだ。その線についても調べよう。だが聞きたいのはエールのことだ」
「分かっているよ。君たちが手を貸してくれた理由の一つが彼女だからね。彼女なら追手が来ない場所を選ぶね。だから行く場所はランド王国かな」
「ランド王国…よりにもよって敵国。相変わらず自由だな」
「彼女は誰よりも自由だからね。国や種族の繋がりには縛られず行きたい事ややりたいことをする。…正直うらやましいよ」
思い出を懐かしむように言うリーンに男はため息をついて立ち上がった。
「協力に感謝する」
「そうだね。お礼はなにかな」
「しばらくここで休養しろ。その後については後々ゆっくりと決めるといい」
「ならお言葉に甘えさせてもらうよ」
その言葉を聞き立ち上がる男はそのまま部屋を出ていった。一人になったリーンはもう一口お茶を飲むと深く息を吐いた。
「はーっ……僕も一緒に行きたかったよジョン。けどまぁ気長に次の機会を待とうかな。さてこれから忙しくなるぞ。……あ、プレゼント渡し忘れた」
気合を入れるように呟くリーンはベットから立ち上がった。




