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ようこそ吹き溜まりの世界へ  作者: ジャッカス
19/32

0章ー19

 王城の謁見の間には英雄王は一人酒を飲んでいた。彼の前には台が置かれそこには王族たちの首が並べられていた。その中心には新しく追加された首は憎々し気に睨んでいた。

「狂っていた割にいい顔をするものだ。後は一つで全て揃ったときは…いや生きたまま並べるのも悪くはない」

 愉快そうに酒を飲む英雄王にエルドリッチはどこからともなく現れた。

「ずいぶんと上機嫌だな。なにかあったか」

「数日ぶりだな。目の前で飛んでいたハエを潰したまでのこと。後は結果を待つだけだ」

 そう言うと英雄王はなにかを思い出したように口を開いた。

「おっと忘れるところだった。ついでに頼まれたものは用意しておいたぞ」

「仕事が早いな。誰を始末した?わしとしては本堂が望ましい。あの男自身は臆病だが能力だけは目を見張るものがある」

「なら良かったな。ここに所属していた召喚者者たちがあの砦に転がっている。損傷具合は知らぬが好きなように使うがいい」

「あの砦…まさか全滅したのか?このわしに敵陣で死体を取りに行けというかこの小童が」

「落ち着け全滅させたのだ。先の戦いからここにいる連中は役立たずばかりと判断してな。俺が直々に現地に向かい全てを焼き払っておいた」

 さすがに驚くエルドリッチは疲れたようなため息をついた。

「愚か者が。これからが本番だと言うのに。せっかくの戦力を」

「気にするな。あんな雑魚一人も始末できずにいる連中など邪魔でしかない」

「ほう、噂の召喚者を倒したか。どのような能力であったか聞かせてくれぬか?」

「噂のゴーレムの素体に使う気か。たしかナンバーズと言ったな」

「ハワードの小僧の玩具だが予想以上に使えてな。わしの護衛として一体預かることになった」

「ほう、そこまで言うならそうなのだろうな。だが俺様を前に腰を抜かして動けずにいたあの男は役に立たぬだろう。気になるのなら剣聖に聞け。今ごろとどめをさしている」

 笑いながら酒を飲む英雄王にエルドリッチは顔を顰めた。

「その言い方…まさかとは思うが死ぬところを見ておらぬのか?」

「燃える砦の中でただ呆然としてた。後始末は剣聖に任せたから心配はあるまい」

「信用しておるようだがそこまでか?」

「腕以外は信用などしておらん。奴がしくじれば難癖をつけて罰することができるからな」

「悪趣味じゃな。なら…」

 

 英雄王とエルドリッチが話している同時刻。王城から離れた丘の上でジョンは一人タブレット端末の操作していた。

「設定はこれでいいはず。後はどうなるか」

 ジョンはタブレットの設定を実行すると予め用意していた単眼鏡で遠くにある王城の様子を確認した。しばらくなにも変化はなかったが上空をなにかが通りぬけると遠くからでも分かるほどの衝撃と爆発と共に巨大な火柱があがった。

「ちっ、狙いがずれて城門に当たったか。ならこれで…どうだ」

 タブレットに目を戻し設定を修正し新しい設定を行うとジョンは再び単眼鏡で確認した。その直後二度目の爆発と共に王城には巨大な火柱が上がっていた。

「直撃…最後の三発目」

 同じ設定のまま大破した王城にジョンは同じ設定のまま三発目を発射した。

 これで城にいなかったら笑い話にもならないな。だがまぁ城門も城もなかったら、あの偉そうな男も堪えるだろう。それじゃ生きてるにしても死んでるにしても俺がやったとばれる前に逃げるとするか…さてどこへ行こうか。

 今後のことを考えるジョンは歩き出すとホルスターからハンドガンを抜き素早く構えた。そこには最初とは違いくたびれた雰囲気の剣聖が両手を挙げていた。

「止めろ。話がしたい」

「てっきりあれで吹っ飛んだと思ってたんだが」

「優秀な部下がいる。危険を察知して直ぐには合流しなかった」

 そう言うと剣聖は両手を挙げたまま王城の方を見ると深くため息をついた。

「どうして俺がここにいると分かった?」

「たまたまだ。部下数人に周辺を見張らせていた。安心しろここには一人だ。誰も来ない」

「その言葉を信用できると思うか?」

「好きにしろ。ここにはコニーの頼みで協力を要請したかったが…あの様子では必要ないな」

 燃え上がる王城に剣聖は大剣を外し地面に置くと自身はその場に座った。

「協力?」

「本当の内通者は自分だ。コールと協力して情報を流し姫さまを英雄王から隠していた」

 なんか語りだした。とりあえず聞いてこう。

「砦に逃がすのは部の悪い賭けだったがあれ以上は隠し通せなかった。本来はコールが追手として合流し部下と共に砦に行くはずだったが、まさか虜囚を使って先に森の偵察をさせてたとはな。あれは誤算だった。それに貴様の存在もだ」

 そう言われてもな。あんなもの見たからには手を出さないわけにもいかないだろ。

「本来あのコニーとの戦いは時間を稼ぐためだった。姫さまをアクア王国に受け入れてもらい協力関係を築いてもらうまで、最初に大きな戦闘をした後に小競り合いを続けるはずだったが、この有り様だ」

「そうか。ぶち壊して悪かったな」

「いや、自分とコニーが賭けに出て失敗しただけだ。予想を超える甚大な被害は出たが当初の目的、英雄王を倒すことは達成された」

「あそこに英雄王がいればな」

「あの男は城から滅多に出ない。確実にいる」

 そう言うと剣聖はジッと燃える王城を見つめると満足したのか立ち上がった。

「自分は傭兵からの成り上がりでしかない。国や王への忠誠心など元からないし栄誉にも興味はない。今回のことも自分が守れなかった不始末と責任。自分を慕ってくれる部下…そして友のためだった」

 置いていた大剣を手に取る剣聖は鞘を捨てると地面に突き立てた。それに続くようにジョンは端末を取り出し武器選択画面からショットガンのカスタムを行った。

「全ては終わったが…役目はまだ残っている。一人の騎士…いや、一人の戦士として貴様のその力は認められない。たった一人で戦局を変えるその力は危険すぎる」

 だろうな。俺だってそう思う。

「殺すつもりだったら話なんかせずに仕掛ければ良かったろうに」

「本来なら共に王城へ侵入し英雄王を暗殺するはずだったからな。なにより一人の戦士として不意打ちではなく真正面から挑みたい」

「好きにしろ。相手をしてやる」

 俺としてはこれ以上厄介ごとが起きる前にどこかにおさらばしたいところだが…あ、一つ思いついた。

 マスクの中で笑うジョンは端末から選択したセミオートショットガンは手の中に現れた。レーザーサイトが装着されチューブには徹甲弾が装填されている。

「決着をつけよう」

 大剣を構える剣聖にジョンはショットガンを構えた。睨みあう二人は合図がないまま同時に動いた。

「!」

 一瞬にして数メートルの距離を瞬時に埋める剣聖はジョンを両断せんと大剣を振るった。

 突然目の前に移動してきた剣聖の動きにジョンは目を見開き即座に銃口を上げた。迫りくる大剣の刃にジョンは迷わず撃った。

「!」

 放たれた弾丸に大剣は当たると火花とともに剣は弾かれた。態勢が崩れる剣聖にジョンは即座に胸目がけて連射するも剣聖は大剣で守りを固めた。

 至近距離で放たれた弾丸は大剣の腹で受けると徹甲弾は構わず貫いた。

「ぐおっ」

 胸に弾丸を受けて後ずさる剣聖は即座に大剣を構えなおした。

 思った通り。ひび割れているから硬い弾でなら貫けたか。問題は威力が落ちて仕留めきれなかったか。………いや殺したらまずかった。危ない危ない。

「いい加減諦めたらどうだ?」

「なんの!むしろこの重く忌々しい剣が軽くなって清々した」

 どこか楽し気に言う剣聖はジョンはリロードしつつ呆れたようにため息をついて構えた。

「撃たれたのに元気な奴だ」

 構えなおすジョンに剣聖は大きく剣を振り上げて上段で構えた。

 今までにない構えだ。守りを捨てて攻撃に入ったか?いや、さっきの動きで警戒しすぎだ。探るまでにまずは仕掛けて出方をみよう。

 先ほど同じく胸を狙って撃つジョンに剣聖はそれに合わせるように大剣を振り下ろした。その瞬間火花が一瞬あがるとジョンにへとなにかが飛んできた。

 高速で横を通り抜けたそれをジョンの目は見逃さなかった。

 今のは弾丸…弾を弾いた?こいつ人間か…気のせいか。さっきより剣の振りが速い気がする。

 嫌な汗が額を垂れるのを感じながらもジョンは手を止めることはなかった。

 ハンドガンを思わせる連射に剣聖もまた手を止めることはなく連射に合わせて剣を振るい続けた。その度に火花はあがり弾丸は地面に叩きつけられた。

 人間離れしてるな。剣聖なんて呼ばれてるだけあるわけか。どこを狙おうが確実に叩き落としてくる。

 残弾が少ないことを気にしつつジョンはリロードのタイミングを計った。剣聖はその隙を与えない言わんばかりに歩き出した。

「「!」」

 最後の一発と共に大剣が砕け散ると二人は同時に動いた。折れた大剣を手に迫ってくる剣聖にジョンはショットガンを振るった。

 振り下ろされた折れた大剣にジョンはストックで受け止めた。

 剣の衝撃にたまらず歯を食いしばるジョンは力づくで押し返した。

「ぐっ…おっ!」

 態勢を崩す剣聖にその隙を見逃さず前蹴りを放った。鎧すら凹ませるその蹴りに剣聖は後ろに下がった。

 蹴りの衝撃になんとか踏みとどまる剣聖だったが耐え切れずその場に膝をついて俯いた。

「ぐおっ…おっ…見事」

 荒い息で苦悶の顔を浮かべる剣聖にジョンは手の中に現れる徹甲弾を込めていった。

「終わりか。…弾丸を叩き落とすとはな。あれも魔法か?」

「ふぅ…いや、見切っただけだ。いくら速くとも直線だからな。タイミングさえ合えばそう難しくもない」

 ……どこの達人だよ。いや、剣聖なんて呼ばれてるから達人か。

「しかし王家の至宝の一つである王家の剣が砕けるとは。魔法に対処できるだけで重いうえにバランスも悪く切れ味なんてないこの剣が。…正直清々した」

 未練などなく折れた大剣を放り捨てる剣聖はその場に倒れるように横になった。

「ままならないな。王を裏切り…部下も裏切り…偽の王を裏切り…国と友も裏切った末にこの末路。……まるで道化だ」

 力なく笑う剣聖は自分の額を指で叩いた。

「哀れに思うなら一思いに頼む」

「哀れに思わないし怪我がないなら立て」

 手を貸そうと伸ばすジョンに剣聖は怪訝な顔をするも素直にその手をとった。

「…意外だ。容赦なく殺すかと思ったが」

「お前はコニーの仲間なら俺には味方だ。なによりお前には使い道がある」

「…使い道か。自分にさらに道化として踊れというわけか」

「いや、道化が嫌なら逃げればいい。無責任に全てを捨てて遠くでやり直せばいい」

 ジョンの言葉に目を見開く剣聖は怒りのこもった目で睨んだ。

「道化の次は全てを放り捨てて逃げろというのか?腰抜け、臆病者の誹りを受けて」

「自分を裏切り者とか言って今更そこを気にするのか?ならこれはどうだ。お前はここで死んだ。俺にやられたことにして」

 信じられないものを見るような目で見てくる剣聖は呆れたように鼻で笑った。

「ふざけた奴だ。自分になにを望む?」

「この国を出て遠くに行く。道案内を頼む」

「……殺そうとした男に道案内か。とことんふざけてる。……だが貴様には借りがあるな…応じよう」

 真剣な顔で答えるとジョンの力を借りて立ちあがる剣聖はそのまま力強い熱い握手をした。

「言っておくが自分の考えは変わらない。貴様の力は危険すぎる」

「好きにしろ。俺も好きにする…かと言って案内が終わった後にしろ」

「本当に…ふざけた奴だ」

「ならば似た者同士ではないか剣聖よ」

 第三者の声に二人は手を離すと各々構えた。しかし周囲には人の姿はなく次に響いた声に二人は空を見上げた。

「……英雄王。生きて…いたのか」

「ちっ、しくじったか」

 驚きに固まる剣聖と舌打ちするジョンの前には体の半分近くが焼け、片腕のない上半身裸の英雄王が背中に翼を生やして飛んでいた。

 一応当たったみたいだが、あれを食らってまだ生きてるとはな。

 ゆっくりと地上へ降りていく英雄王は辛そうに腕を押さえると直ぐに愉快そうに笑った。

「貴様の腕は買っていたというのに。まさかここまで愚かとはな。そこら辺にいる凡夫と組んで自身の国を亡ぼす手助けをするとはな。語るに落ちたな」

 嘲るように笑う英雄王に剣聖は黙って話を聞くと深くため息を吐いた。

「言いたいことはそれだけか。自分も愚かではあるが貴様はそれ以上に愚かだ。こうなったのも貴様の責任であると知れ…この恥知らずが」

 そう言い放つと剣聖は深く息を吐き気持ちよさそうに鼻で笑った。

「終わりだ英雄王」

「言いたいことはそれだけか」

 血管を浮かせ睨む英雄王は片腕を上げた。腕は変形し竜を思わせるような鋭く分厚い爪が伸びた。

 バカな奴だ。俺が準備するために注意を向けてることに気付いてないのか。

 端末の操作を終えたジョンは新たに出した焼夷手榴弾を腰に引っ掛け、腕を振り上げる英雄王の手に向けてショットガンを撃った。

「ぬあっ!」

 徹甲弾は手を貫通しなかったが英雄王は撃たれた衝撃に態勢を崩した。

 ジョンに注意を向ける英雄王だがその時にはジョンは膝を撃っていた。

 膝を撃ち抜かれ悲鳴をあげて倒れる英雄王は頭は竜の頭部へと変化させた。

 膝に弾丸は通ったが手は通らなかった。このまま変化させる前に仕留めるのも手だがこいつを試すとしよう。

 起きあがって威嚇するように咆哮をあげる英雄王にジョンは前蹴りを繰り出した。敵を倒すための蹴りに英雄王はバランスを崩し背中から倒れた。直ぐにまた起きあがろうとするがジョンは胸を踏みつけて上に乗った。

 再び威嚇するように大口を開けて咆哮をあげる英雄王にジョンは腰からある物を取りだした。

「バカなっ!俺の咆哮が聞かぬだと!」

「何度も吠えるな。耳障りだ」

 大口を開ける英雄王にジョンは取り出した焼夷手榴弾を口に押し込むと安全ピンを抜いて素早く後ろに下がり直後に分厚い爪が振るわれた。

 炎を吐けるんだから熱には強いんだろうが金庫すら溶かすこれには耐えられるか?

 口の奥に放り込まれた手榴弾を取り出そうとしたが、その直後に閃光と火花があがった。

「ごがっ!ごっ!ごっおおおおおおおおおおおおお!」

 口内どころか頭全体がランタンのように光りだした。もがき苦しむ英雄王は暴れるも顔の一部が溶け出したところで動かなくなった。

 拍子抜けだな。たしかに徹甲弾が通じないほど硬かったが、それだけでしかなかったな。

「……信じられん。不意打ちからとはいえ英雄王をああも容易く」

 驚く剣聖にジョンは訳が分からず首を傾げた。

「言うほど強いか?」

「竜化した時の硬さもそうだが奴の繰り出す数種類のブレスは脅威だった。現に先ほどの咆哮で体が動かない」

 そういう剣聖は体を動かそうとするもまるで縫い付けられたようにその場から動けないでいた。

「よく分からんが…まさかそれで負けたのか?」

「……情けない話だが、奴の咆哮と黄色のブレスを使われたら城内全体が無力化された」

 やっと動けるようになったのか倒れるように座り込む剣聖は直ぐに立ち上がり体の調子を確かめた。

「丁度いい、こいつにお前の死体役をやってもらおう。こいつがここにいることは誰も知らないし幸い小道具はある」

 そう言ってジョンは折れた大剣を蹴ると剣聖は鼻で笑った。

「まさかこんな形で役立つとはな」

「それじゃ終わらせるぞ」

 上半身が焼け残った肉と骨にジョンはそれっぽく見えるように細工を始めた。

 その日、王城は大破し城壁は破壊されその周辺の建物にも被害が出した。死傷者は不明ではあるが最低でも二千を超える被害が出たとされる。

 それは後にデストロイヤーの悪夢と言われ、後の歴史に語り継がれた。

 後に行方不明となった剣聖の捜索が行われたが遺体は発見されなかったものの激しい戦闘の跡と折られた王家の剣から死亡した判断された。

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