0章ー15
森の仮設基地にあるテントでは剣聖と副長は二人で報告書に目を通していた。
「隊長。コール逃げましたけど上になんて報告します?」
「戦死でいい。いずれそうなる」
二人とも目を合わすことなく報告書に目を通すと一区切りついたのか二人はため息をついて書類を置いた。
「いつまでここにいるんでしょうね。こんな森で待機っていうのもいい加減うんざりしますね」
「英雄王の指示だ。待機と言うなら待機だ」
副長は椅子から立つと端に置いてある酒瓶を手に取り置いてあるコップ二つに注いだ。
「英雄王ねぇ。言っておきますけど隊長いい加減この国を出ませんか?傭兵時代の俺や部下たちはあんたが残ってるからいるんであって王や国には忠誠なんてありませんよ。昔みたいに傭兵として一からやりましょう」
そう言ってコップを渡した副長は自身のコップの中身を一気に傾けた。
「そう言うことはあまり大きな声を出すな。誰が聞いてるか分からない」
「告げ口なんて誰もしませんよ。誰もあの英雄王なんて慕ってませんし唯一しそうな召喚者たちもここにはもういません」
「それはどうでしょう」
そう言ってテントに入ってきたタキシードの男に副長は口の中身を吹いた。
「ごほっ、ごほっ…ぐふっ…なんでここにいるんだ?クラスター」
せき込みながら聞く副長にクラスターは愉快そうに笑った。
「落ち着いて報告なんてしませんから。いえ、もうそれどころでありませんから」
クラスターはそう言うと姿勢を正し二人の前に立った。
「英雄王の命を伝える。砦攻略のために早朝進軍せよとのことです」
「作戦は?詳細を教えろ」
「作戦はありますが我々は砦前で待機しタイミングに合わせ砦を攻めるだけでいいのです。幸いにもダーマと本堂のおかげで門は破壊され向こうは守りを固めるために兵を砦に集結させています。途中での邪魔はまずないでしょう」
「負傷者は王国に移送し人員補充が済んだとはいえ、この状況で進軍するのは無謀すぎる」
「そうは言ってられませんよ。英雄王はダーマの件で怒り狂ってます。もしこの作戦に異議の一つであげたら私もあなたもタダではすみませんよ」
「だとしてもだ。部下たちに無謀な真似はさせられん」
睨むクラスターだったが剣聖の視線に気圧され横を向いた。
「分かりましたよ。ですが英雄王は危惧しています。王国のどこかに内通者がいるかと。そのための処置なんです。ですが今回の作戦である同時攻撃には成功率は高いかと思われます」
「同時攻撃…召喚者たちか。……分かった、そこまで聞けるならいい。副長、部隊に明日の出撃を伝えろ」
「はっ!直ちに!」
急ぎ足で出ていこうとする副長にクラスターは素早く前に立った。
「おっと、動かないでいただきたい。先ほど話した通り内通者の疑いがある以上、情報漏洩の可能性を潰さなければならない。すみませんが貴方がたは作戦決行まで我々の監視下で動いてもらいます」
その言葉とともにテントに複数の者たちが入ってきた。フードによって顔を隠した者たちは訓練された動きで整列し姿勢を正した。
「密使どもか」
「プライベートは可能な限り守りますが多少の不都合はご了承を」
剣聖と副長は見るからに嫌そうに顔を顰めるもは拒否権がないと理解し二人はテントに出るため歩き出した。
「まずいことになった」
誰にも聞こえないよう小さく呟いた剣聖の声に誰も気づくことはなかった。




