0章ー14
うす暗い地下へと続く階段をジョンは下りていた。
湿った空気とかび臭さ、ぬめった石の階段に転ばないよう下りるとその先には牢屋があった。大きな鉄格子の先には数人の男女が寄り添うにして小さくなって一か所に集まっていた。
夜は冷えたか?上の連中に言って毛布でも用意してもらうか。
昨日の戦いで捕虜になった召喚者はまるで借りてきた猫のように大人しく、言われるがままに牢屋へ入っていった。
「ひぃ、こ、殺さないで」
「俺たち言われてやっただけなんだ。悪いのはダーマと英雄王なんだ。だから見逃してくれよ」
悲痛な声で助けを求める声にジョンは端末から用意した大口径のハンドガンを出した。それに恐怖したのか一瞬で静かになった。
ジョンは目当ての人物を探すとその男は直ぐに見つかった。
「そこのへ…えーと…ござる?」
考えた末にそう呼ぶと三角座りしてたセーラー服の中年は緊張した面持ちで立ち上がった。
「…ござるでござる」
…本当にそんな名前だったのか。そういえば名前を聞いたか?昔から名前を覚えるのは苦手だからな。
「ござるは出ろ。他は下がれ」
わざとらしくハンドガンをちらつかせると、言われるがまま召喚者たちは従いござるは両手を挙げて扉の前で止まった。
「出ないのか?」
「?……ずっと開いてるでござるか」
驚きながらも扉を開けるござるは素早く両手を突き出した。その動きにジョンは迷わず撃つと銃弾はその手の前で止まり地面へと落ちた。
「や、やっぱり吾輩を、殺す気ござるか!?」
慌てるござるにジョンは続けて撃とうとしたがその言葉にジョンはハンドガンを下ろした。
「殺す気はない。話があったから呼んだだけだ」
「ならなぜ撃つでござっる!」
「急に動くからだ。次同じことをすれば…分かるな」
弾数の減ったマガジンを捨てて手の中に現れた新しいマガジンを込めるジョンにござるは両手を元気よく挙げた。
「分かったでござる。だから撃たないでござる」
「撃つ気はない。ちなみにカギは常に開いている。出たければ出ろ」
牢屋にいる者たちにそう言うと彼らは希望を見つけたように目を輝かせた。
「ただしその時は全員吹き飛ぶ覚悟をしろ。運が良ければ爆弾に引っかからずに出れるはずだ」
その言葉に皆青い顔をして俯いた。
歩き出すジョンにござるは慌てて後に続いていった。
「爆弾はどこでござるか?」
「気にするな。あんなものウソだ」
唖然とした顔をするござるに気にせず階段を上がっていった。その先ではコニー・ボードと部下たちが立っていた。
「すまないなジョン・ドゥ殿。誰も入りたがらないものでな」
「別にいい。それより用事は終わったのか」
コニーの顔は寝不足と疲労のせいか疲れ切った様子だった。
「一段落がついたところだ。本堂少し落ち着いたか?」
本堂…ござるじゃなかったか。
「ボード親衛隊長。この度のことは誠に申し訳なく…」
「謝罪はいい。合わせたい奴がいる。ついてこい」
頭を下げようとした本堂にコニーは気にせず背を向けて歩き出した。本堂は戸惑いながらもその後に続きジョンと部下たちも続いた。
丁度いい。こいつには聞いてみたいことが幾つかあった。
「一つ聞きたい」
「ひぃっ!な、なんでしょうか…ござる」
完全に怯えてる本堂に誰も気にすることはなくジョンも気にせず質問した。
「なんでお前はセーラー服を着てる?」
「この格好でござるか?これは吾輩の能力、魔法戦士によるものでござる」
「そうか。よく分からんな」
「我輩のイメージする魔法戦士に変身することで、この世界のあらゆる魔法が使えるでござる。とは言っても凡才の吾輩ではそう難しいことはできぬでござるが」
…余計に分からん。まぁ能力を使うための条件ということで納得しておこう。
興味を失うと砦内の一室へとたどり着いた。
「ここだ」
そう言ってコニーはドアを叩くと若い女の声が返ってきた。
「どうぞ」
コニーと部下たちはドアを開けるとそこは簡素な部屋で机と椅子だけしかなった。その部屋に一人の若い女が立っていた。
「コール殿!」
「本堂殿!よくぞご無事…貴方は」
声をあげる二人は今にも抱き合いそうな雰囲気であったが、コールは横にいるジョンに気付くと警戒したように身構えた。
「俺のことは気にするな。それじゃ俺はもういいか?」
「いや、もう少しいてほしい。約束通り本堂の無事だったろう」
「分かりました。預かった情報をお話しします」
「ちょっと待つでござる。なぜここにコール殿が?森の仮設基地にいたはずでござる」
混乱したように見る本堂にコールは言いにくそうに下を向いた。
「彼女は我々に情報提供してくれていた内通者の一人だ。先の戦いで処刑の危険が出てきたため他の内通者の協力で転移してもらった」
そうだったのか。あの時仕留めなくて良かった。
「そ、そうなのかコール殿」
「すみません。先生へ言うべきだったのですがバレた時のことを考えると危険で」
「そんな!水臭いでござる!言ってくれれば例え火の中水の中!…コニー・ボード殿、今更ではありますが協力させてもらえないかでござる」
頭を下げる本堂にコニーは近づきその肩を叩いた。
「そう言ってくれると思ってた。なら地下に閉じ込めている召喚者たちを纏めてほしい。そして今後の身の振り方について考えてもらいたい。詳しいことは後ほどだ。ではコール教えてくれ」
「ここでいいのですか?」
そう言ってジョンを見るコールドの問いにコニーは頷いた。
「彼にはいてもらう」
「分かりました。森にはまだ剣聖の率いる部隊はいますが、英雄王の命令によって召喚者たちは城へと戻りました。具体的な作戦については聞いてませんが次の攻撃で確実にここを落とすつもりのようです」
次で確実か。いつ、どう仕掛けてくるか分かれば対処もできるんだが…いや、俺には関係のないことか。
「分かった報告ご苦労。…ジョン・ドゥ殿この砦の状況は理解してくれたか。これまでの尽力には感謝する。実はアクア王国の使者と連絡がとれて秘密裏に訪問している。近日中にアクア王国へユアンさまの護衛を任せたいんだが」
「分かった」
「それはよかった。ジョン・ドゥ殿のことを先方に話したら大変興味をもっていた。好待遇で受け入れてくるそうだ」
…ん?好待遇?…まさかそのまま向こうに行けと言いたいのか。
疑問に顔を顰めるジョンに気付かずコニーは本堂と話をしはじめた。
面倒なことになったか。
「ジョン・ドゥ…殿。先の件は申し訳ないと思います」
楽な姿勢で待つジョンにコールは申し訳なさそうに声をかけてきた。
「気にしなくていい」
俺の方が酷いことしたからな。そんなことよりもどうするか考えないとな。
「それじゃまた後で」
コニーは話を終え部屋を出ていくとジョンとその部下たちも共に出ていった。
「俺が付いてくる必要はあったのか?」
「彼らと戦闘をしたと聞いたからな。今後のことを考えて顔合わせさせておきたかった。それにこの砦の状況を知ってもらいたい」
「そうか。俺が邪魔になってきたか?」
「そういうことじゃない。森に潜伏させ警備をさせていた者たちを戻し守りを固めているが、砦の守りの要である門は大破している。もし攻撃が来るようなら耐え切れないだろう」
足を止めるコニーはゆっくりと振り返った。
「貴方は部外者だ。これ以上命を懸けて戦ってもらう必要はない。我々と運命を共にする必要はないんだ」
運命…そういうことか。それほどまでに状況はひっ迫してるのか。
「そうだな。だがどうするかは俺が決める」
「…そうか。感謝する」
握手を求めるように手を出すコニーにジョンはそれに応じた。
「俺はもう行く。護衛の件は話が纏まったら教えてくれ」
ジョンはそう言って一人砦を出ていった。
さてどうしたものか。昨日の戦いで死者はそういなかったが負傷者多数なうえに守りの要であった門は大破し砦の連中の士気は低い。増援が来る前に向こうが攻めてくれば持ちこたえられるかどうか。
「聞きたいことは聞けたがこのまま黙ってさよならも後味が悪いな。世話にもなったことだしユアンの護衛はするが、その後はユアンと共にアクア王国かそれともここに戻って戦うか。はたまた逃げるか」
一人呟いて歩き続けるジョンはそのまま見張り塔へと向かうとノックもせずドアを開けた。
「おっと、ノックはしてもらいたいね」
ドアを開けるとそこには下着姿のリーンがそこにいた。ジョンはなるべく見ないように気をつけながら椅子へと座った。
「話を聞いておきたい。お前は今後どうするつもりだ?」
「ああ、その話かい。大破した門と下がった士気…ここはそう長くはないんだろうね」
服を着ながら言うリーンにジョンは近くに置いてある本に手を伸ばした。
言葉は分かっても文字は読めないか。困ったな…こういう問題もあるのか。
小さく唸るジョンは本を閉じると服を着たリーンはゆっくりと歩いてきた。
「僕のことは心配してくれるのかい?嬉しいよ本当に」
ジョンの目線を合わせるリーンは嬉しそうに笑った。
「いいや。今後どうするか参考にしたい」
「ならお生憎さま、僕はどこにも行く気はないよ。先代から賢者の称号を頂いたからには最後まで、いやこの戦いの決着を見守らないと」
「よく分からんな。まぁいい今日も授業を頼む」
「おや、君を生徒にした覚えはないけどね。それじゃ何を知りたい?」
「文字と…そうだな。この世界で役立つ知識を頼む」
離れるリーンはお茶の用意を始めた。
「役立つ知識か。僕が思うに薬学かな。この世界には魔法で傷や病気を癒すことはできるけど専門的な知識がいることから使い手は少ない。だから主流は薬さ。だからこれさえ学んでおけばどこにいようと役立つはずさ」
薬か。一応救急キットはあるがそれも限りがある。最悪に備え選択肢は多い方がいい。
「分かった。なら薬について教えてくれ」
「残念、僕は薬に詳しくはないんだ。僕の親友は専門なんだけどね。あの子なら君と気が合うだろうね」
「そいつを紹介してくれるのか?」
「またも残念。彼女は根なし草でね。一時期ここにいたけど今は旅に出たんだ。今はどこにいるんだか」
懐かしむように言うリーンはお茶を用意を終えて一つをジョンに手渡した。
「そうか、残念だ」
「薬の調合はできないけど、薬草の種類を教えることはできるけどそれでいいかい?」
「分かった。なら頼む」
その言葉にリーンは本棚から本を一冊出すとそれをジョンに手渡した。
「これが図鑑。これを使って文字の勉強もしようか」
そう言って椅子を隣に移動させるリーンに一から説明を受けた。楽しそうに教えるその姿にジョンは時間に気にせず聞き続けた。
……ふぅ、まさか暗くなるまでやるとはな。朝から晩まで…昼を食べ損ねた。
腹を空かせて歩くジョンは陽の沈んだ道を一人歩いてた。
それにしてもあれだけのことがあったっていうのに屋敷にまだ住むとはな。あれだけのものをどう片づけたんだか。
屋敷に転がっている二つの死体と飛び散った肉片と血がどうなったのか興味本位で屋敷へと歩いていった。
「…ん?」
屋敷の前で足を止めるジョンは端末を出すと手早くサブマシンガンを手にした。
あれは誰だ?
屋敷から出ていくローブを着た男に銃口を向けるも相手はジョンに興味を示さず暗闇の中へと隠れるように移動した。
「待て!動くな!」
ローブの男を追って駆けるジョンだがそこに男の姿はなかった。
「……おいおい」
端末を出すジョンは飛ばしている偵察機からの映像を確認するも、それらしき姿はどこにもない。
今の奴…ヤバいな。中は大丈夫なのか?
警戒を解かずサブマシンガンを構えてジョンは屋敷のドアの横に引っ付いた。音を立てず慎重にドアノブを握ると勢いよく開け素早く中へと入った。
「!」
突入してきたジョンはサブマシンガンを構えると、そこには驚きながらもユアンの盾になるフライドとホリーの三人が立っていた。
「ジョ、ジョン殿!一体何が」
剣を抜こうとしていた二人は素早く両手を挙げるとジョンも銃口を下した。
「怪しい男がいた。全員無事か?」
「無事です。その方は大丈夫です」
二人の壁から顔を出すユアンの答えにジョンは顔を顰めた。
あれが大丈夫?あれは人間じゃないだろ。
「そうか。ならいい」
納得しないまでもジョンは答えるとユアンは空気を変えるように手を大きく叩いた。
「それよりもジョンさん。お腹空いていませんか?今日は変わった食べ物を頂きました」
明るく言うユアンは奥へ行くとそれに続いてホリーも後を追いかけていった。残ったフライドは申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません。先ほどのお客さまはアクア王国のお客人です」
「そうか。詳しく聞いてもいいか」
「申し訳ありません。これ以上は」
冷や汗を流しながらそういうフライドにジョンはそれ以上は聞くのを止めておいた。
あのヤバい男のことは気にはなるがこれ以上面倒ごとに関わるのは止めておこう。というかあんなヤバそうな奴のいるアクア王国に関わるのは止めておいた方が良さそうだ。
「分かった。移動の件は決まったのか?」
「それについてはユアンさまがお話になります」
「見てくださいジョンさん。頂いた山の幸です」
そう言ってカゴ一杯に入った山菜の山をホリーとユアンで持ってきた。そのほとんどはジョンの前の世界にもあったが食べたことのない高級品ばかりであった。
……テレビで見たものばかりだ。以前はミリタリーフードばかりだったからな。
「待っていてください。教えてもらった山菜の天ぷらを作りますね」
「いいね」
思わず呟くジョンにユアンは目を輝かせると二人でカゴを持って調理場に歩いていった。
てんぷら…一度は食べてみたかったんだよな。
これから出てくるであろうてんぷらを想像しながらジョンはフライドと共に歩きだした。
「てんぷらはこの世界のものか?」
「いえ、聞いた話では料理人をしていた召喚者から伝わったものだと。一部の貴族しか食べることのできない高級料理として人気があります」
「そいつはいいな。ちなみに酒はあるか?」
「お酒ですか。それはさすがに」
その言葉に見るからに肩を落とすジョンにフライドは笑った。
「分かりました。こちらでどうにか用意してみます。今日は無理でも近日中には」
「よろしく頼む」
ジョンは椅子に座り食事を待つとユアンとホリーは天ぷらの乗った皿を持ってやってきた。
「お待たせしました。こちらが料理です」
そう言って置かれた皿にジョンは黙ってマスクを外した。
…この世界に来てからロクなことはなかったが…こういうことは大歓迎だ。
目の前に置かれた黄金に輝くてんぷらの数々ににジョンは目を離せなかった。
「それでいつここを出るんだ?」
食事を終えて口周りを拭くとジョンはそう聞いた。いまだ食事を続ける三人はその問いに手を止めた。
「もう聞いてましたか。今日から三日後の早朝に出発予定です。破壊された反対側の門から半日かけた先にアクアの国境があります」
「俺はそれまでの護衛をすればいいんだな。分かった」
半日か。偵察機が使えることも分かったし危険は低いはずだ。
「それだけではありません」
真剣な顔で言うユアンはフォークとナイフを置くと姿勢を正した。
「ジョン・ドゥさん…できればこのまま私の護衛を続けていただけませんか?私と共に国を救うために戦ってください」
ジッとジョンを見つめるその目にジョンはしっかり見つめ返した。
「もし応じてくれましたらお礼として私の全てを…この体も心も捧げ…」
「断る」
「え…あ」
はっきりとした拒絶の言葉にユアンは絶句したように言葉を止めると、一瞬泣きそうな顔をするもそれを我慢し笑顔で頷いた。
「すいません変なお願いをしてしまって。ではアクア王国到着後は…」
「はっきり言っておく。俺はアクア王国には行かない。国境まで送っていくが向こうの連中に引き渡したら俺はそこまでだ」
「え?あの…どうしてですか」
ショックだったのか戸惑うユアンにジョンは気にすることなく答えた。
「アクア王国とやらは安全なんだろう。なら俺は必要はない」
「そんな。そんなことはありません」
「そうです。私たちがこうして無事でいるのはジョンさまのおかげです」
「必要あるなしではなく、共に来てほしいんです」
三人の真摯な言葉にジョンは頷いた。
本当はこれ以上厄介に巻き込まれたくないだけなんだけどな。仕方ないここははっきり言っておこう。
「俺は意見を変える気はない。てんぷらは美味しかった」
それじゃ二階の様子を見てくるか。昨日の惨状だとさすがに臭いはとれてないだろう。
楽し気に二階へ向かうジョンは聞こえてきた泣き声に気にせず二階に上がっていった。




