0章ー12
朝日がのぼるうす暗い森の中、一人の男が森の中を走っていた。何時間も走ったその体はへとへと足取りもおぼつかなく息も絶え絶えで頭も朦朧していた。だがそれでも男は走るしかなかった。追いつかれれば殺されると分かっていたから。
「なんで…こんあ…こんなことに」
男にとってこの世界は天国だった。うだつの上がらなかった人生が一変し、一部のクズたちの言うとおりにさえすれば金も女も思うがままなにをしようと罰せられることはなかった。
召喚者の能力も他と比べて大差ないものだったが、それでもこの世界では十分通用した。通用していた。
「うっあっっ」
石に躓き派手に転ぶと前歯が折れ、頭を強くぶつけた。
意識が朦朧する男はどうにか立ち上がろうとするも、目の前の革靴に気付き動きを止めた。
「……あっ」
恐怖のあまり固まる男に革靴の主はなにもせず背を向けて歩き出した。
男はなにが起きたか分からないまでも、その隙を見逃すほどバカではなかった。
無防備に背を向ける革靴の主に武器である投げナイフを投げた。
投げられたナイフは手から離れるとナイフは透明化した。
革靴の主はゆっくりと振り向くと直剣を振るい透明化したナイフを弾いた。
「なっ、俺の見えない武器が」
驚きながらも起きあがる男は腰のナイフを一斉に抜くと連続で投げ続けた。
男のナイフは能力によって透明化し様々な軌道を加えて投げた。それに対し革靴の主はその場から動かず持っていた直剣一つで飛んでくるナイフ一つ一つを弾いていった。
十を超えるナイフ全てを弾かれ武器をなくした男は力なくその場に座り込みただ笑うことしかできなかった。
「…うそだろ」
その言葉を最後に男の頭にはボウガンの矢が深々と刺さりそのまま地面に倒れた。
一人立つ革靴の主は背を向けると後ろで待つ青い鎧の騎士に話かけた。
「終わったか」
「滞りなく。予定通り矢で終わらせました」
「分かった。お前たちは撤収しろ。近々荷物を回収する」
「かしこまりました。しかしあの者はどうしますか?もし共に来るようであれば、なんらかの対処の必要があるかと」
「必要ない。自分がいれば充分だ」
「了解しました」
その言葉に青い騎士は敬礼すると革靴の主はため息をついた。
「潜入中だ。ここではよせ。…しかしあのダーマを倒すとはな。情報での能力は…」
「モンスターです。人間に対してのみ必殺効果と再生能力、致命傷の無効化。情報ではあらゆる処刑でも効果はなかったそうです。そのうえ無痛症と独自の歩行術もあって危険な存在という話でした」
「…奴の人柄を知る必要がある。可能であれば引き込む」
「分かりました。彼の素性について戻り次第調べてみます」
青い騎士はそう言うと森の中へと姿を消した。一人残った革靴の主は砦の方を見つめた。
「…情報が流れてるとはいえ二度も撃退するとはな。だがそう長くはもたないな」




