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ようこそ吹き溜まりの世界へ  作者: ジャッカス
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0章ー01

 そこはどこか違う別の世界。剣と魔法の世界であり人間以外にも幾つもの種族が住んでいた。

 数が一番多いとされる人間はその数と高い応用力から文明としてどの種族よりも進み、多くの国や町をつくり領土を広げた。

 ただその歴史は血生臭く文明が進むにつれて多くの争いが生まれた。

 世代から受け継がれる終わりのない戦い。その長い争いにより様々な種族が戦いのための魔法や技術を向上させ様々な能力を得ていった。

 そんな世界の端で今一人の狂気に取りつかれた魔法使いが魔法陣を描いていた。

「はっはっはー!なにが私にはできないだ!これを見よ!この偉業を!私の才能に嫉妬し魔法学院を追放した愚か者共め!これこそ真の魔法だ!」

 口から泡を吐きながら誰もいない洞窟で叫ぶ男の両手は血で染まっていた。

 血は男のものではなく男に騙され連れて来られた村人たちの死体の山からだ。

 半径十メートルに達する魔法陣を描いた男は迷いなく完成させるために描き続けた。その手の動きに迷いはなく村人たちの血で数時間かけて完成させた。

「準備はできた…これより異世界の勇者を召喚する!」

 誰もいない中で宣言する男は先ほどとは違い冷静に呪文を唱えだした。それは男が長い年月をかけて研究していたものであり男だけが知っているオリジナルの召喚魔法であった。

 長い呪文を唱えていくと徐々に魔法陣は赤く光り出した。それに手ごたえを感じたのか男は力強く呪文の最後の言葉を唱えた。直後魔法陣の中心から生えるように地面から鉄の門が現れた。その門は血錆びによって所々赤く染まっていた。

「せ…成功だ。成功したぞ!私は遂に魔法の極致の一つ!英雄召喚魔法を成功させた!」

 感情のままに泣き叫ぶ男はその門に近づこうとした。だがたどり着くよりも前に門が勢いよく開いた。

「おおっ…これが私の…異世界から召喚された戦士…英雄」

 男は驚きのあまり声をあげるも直ぐにその場に頭を垂れた。自分が召喚したとはいえ得体のしれない相手に強く出れる気がしなかったからだ。

 一瞬だけ見えた異世界の戦士は鎧を着ていた。しかしその形は男の知る形状とは明らかに違い、素材も質も見たこともないものだ。

「ここは?」

 頭上から聞こえてきた声に男は大声をあげた。

「おおっ偉大なる勇者様!この度は私の呼び声に反応していただき感謝いたします!」

 男の叫びに異世界の戦士は男に向けて何かを向けた。それに気づき男は顔をゆっくり上げるとその手に持っていたのは見慣れない武器であったが、直ぐに魔筒の一種だと予想し内心ニヤリと笑った。

 魔筒は魔法使いの持つ武器の一種であり、筒に魔力を込めることで通常の魔法よりも高威力の魔力球を放つことができる。ただ扱いが難しく魔法使いとして腕がなければ暴発してしまう危険なものだ。

「異世界の勇者様!唐突で申し訳ありませんがこの世界の危機を救っていただけないでしょうか!今この世界は貴方様の力を必要とされているのです!」

 そう言う男は昔学院で貰った召喚が成功した時の交渉術の手引き書通りの説得を行った。

 召喚された者は魔法がない世界や文明として進んでいる者たちと様々だが、その全てが平和な世界から来ている。そのため皆戦闘経験はないに等しく即戦力はほとんどいない。だが召喚された者たちは個々の特性にあった特殊能力を授かる。

 その能力は体を動かす者が得意であればそれに特化した能力、頭の良い者は知識系の能力となる。専門知識を持つ者はそれに特化した能力など人によって千差万別である。それらは使いようによっては戦況を覆すことがあり大抵の者は数ヶ月で召喚された者たちは最前線で戦力なる者がほとんどだ。

「……クスリでハイになってるのか」

「クスリ?ハイ?そこのところは分かりませんがこの話は真面目な話!決してふざけているわけではありません!」

「なおのこと質が悪い。世界を救うなんてできるわけないだろ」

 その言葉に男は笑った。

「いえいえ!貴方様はこの世界を救うための力をお持ちです!もし良ければその能力をご説明させてください!」

 異世界の勇者はジッと男を見ると少しして頷いた。

「変な真似はするな。ゆっくり動け」

「はい!懐に手を伸ばしますがお気になさらず」

 そう言って男は懐から革の巻物を取り出し小さく唱えた。男が使ったのは分析の魔法。本来であれば同じ種族である人間に対して使えるものではないが世界でも有数の実力を持つこの男にとっては造作もないことだった。

「こちらに能力の詳細が書かれております。どうぞこちらをお納めください」

 そう言って近づこうとする男に異世界の勇者は手で制した。

「近づくな。投げろ」

 その言葉に男は一瞬躊躇った。持っているのは金貨数枚に価値がする上等な羊皮紙の巻物。それを投げることに躊躇したが諦めて投げた。

 投げられた巻物は届かずに地面を転がると外側は血に染まった。それを異世界の戦士は躊躇いもせず拾いゆっくりと内容を見た。

「知らない文字だが…読めるんだな」

 興味深く呟く異世界の戦士は内容を読むと鼻で笑った。

「能力は…ワンマンアーミー?…漫画かアニメだな。ふざけてるな」

 言葉が笑いから怒りに変わるのを感じ男は慌てて口を開けた。

「これは決してふざけてなどないのです!一度!一度試してください!その後で私を煮るなり焼くなり好きにして構いません!」

 男の声に異世界の戦士は観察するように見ると武器を収め、代わりに懐から手のひらほどの道具を取り出した。

「…端末の機能が変わってる。武器選択?ポイント?さっきの巻物通りか」

 驚きの声をあげる異世界の戦士に男は胸をなで下ろした。

「信じていた…だけ…え?」

 男は突然の胸の痛みに下を向くと服に二つの穴が開き、そこから自分の血によって赤く染まっていた。

「分かった。だからもういい」

 異世界の戦士はそう言いながらいつの間にか武器である小さな魔筒を抜いていた。その先端からは僅かに白煙があがりそこから出たことに気づいた。

「一体…なにが」

 男は異世界の勇者を見ていた。なのにその動きを察知することは全くできなかった。男は魔法の使い手としてそれなりの戦闘を経験していた。だから相手が攻撃してきても対応できる自信はあった。なにより魔筒を使うにはどんなに速く使おうと準備に時間がかかる。

「…魔筒…じゃ…ない…のか」

 倒れそうになるもなんとか堪える男に異世界の戦士は武器を収め、再び持っていた道具を操作し始めた。

「予備の三十八口径じゃそう直ぐには死なないか。ならこれを試すか」

 楽しそうに言う異世界の戦士は端末を操作すると先ほどまで持っていなかった新しい大型の武器を手にしていた。

「な…なぜ…わ、わたしが…なにか」

 なにを失敗したのか分からず聞く男に異世界の勇者は首を傾げた。

「試した後は煮るなり焼くなり好きにしろと言っただろ。…冗談だ」

 そう言いながら道具を懐に収めた異世界の勇者は新たに出した武器を構えた。その先端から小さな炎が吹き出している。

「お前が俺を召喚した。そしてこの場に誰もいない。ならお前を殺せば俺が召喚されたという事を知る者はいない。特にこの能力とやらがは少ない方が良い。…なにより」

 そこまで言ったところで異世界の勇者の持つ武器は炎を吹いた。その火力は竜の息吹のように勢いが強く一瞬で男の全身が炎に包まれた。それだけでなくその周囲にある死体の山も焼いていった。

「こんな真似した野郎を俺が見逃すと思うか。外道は消えろ」

 そう言い放ち男は火炎で洞窟内を火の海に変えると唯一ある出入り口から一人出て行った。

 そうして異端なれど世界でも指折りの魔法の使い手は多くの犠牲と努力が報われることなく一人炎の中で悶え死んだ。

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