焦り
"好きになってはいけない人" そう思えば思うほど、どんどん好きになってしまう。そんな経験ありませんか? 友達や、友達の恋人。時には先生だったり、兄弟だったりもする。 人の気持ちって難しいですよね(*> <*) 抑えようとすると、全く逆の方に向いていったりして。そんな自分に自己嫌悪したり…。 この「真昼の月」は殆どが主人公の瑞樹をメインにいろんな人物の視点から見た「思いや感情」を随筆していきたいと思っています。 読んで頂ける皆様に、少しでも彼らと同じ気持ちを感じてもらえたら嬉しいです。
「ねぇ。まだ起きてる?」
深夜――。
ちょうど日付が変る頃、その突然の声に焦る俺。
ベッドで横になって読んでた雑誌を、急いで後ろ手に枕の下へ押し込み、
声のする方へ顔を向ける。
視線の先には、開けたドアの隙間から少女がちょこんっと顔だけ覗かせていた。
「ち、ちぃっ!」
「いま~何か隠したでしょー?なんか慌ててたー。」
俺が慌てて隠した雑誌がどんなものなのか分かったのだろう。
彼女は悪戯っ子のようにクスクスと笑いながら部屋に入って来たかと思うと、
何のためらいもなく俺の横に腰をかけた。
「ちぃ~。
お前なぁ。ノックくらいしろっていつも言ってるだろ?」
気づかれてしまった恥ずかしさと焦りを紛らわすように、わざと深いため息をついてみせる。
だけどそんな俺に彼女はまったくお構いなしだ。
「だってぇ~。もう勉強飽きちゃったんだも~ん。」
唇を尖らせ言う。
でも、答えになっていない。
「あのなぁ~・・・。受験生が何言ってんだよ。」
「だってぇ~。」
そう言って彼女は少し不服そうな顔をした後、
ひらめいたように両手の指をポンッと顔の前で合わせる。
「でも、まぁ大丈夫だよっ!
あたしがピンチの時はいつでもお兄ちゃん助けてくれたでしょ~?」
「はぁっ?」
「小学生の頃、友達にいじめられた時も~、
お隣の玲くんにチビだ~ってからかわれた時だって。昨日も~…」
「…おいおい。
今更だけどさ、お前って…相~当っ、バカ。だよなぁ。
勉強はお前がやらなきゃ意味ね~のっ。
そんなんじゃ俺と同じ高校なんか受かんねーぞ」
ツンッ、と人差し指で彼女の頭を小突くと、彼女に負けないくらいの悪戯っぽい笑みを作って言った。
「じゃぁ、なんだ?
成績の悪いお前に代わって、女装した俺が試験受けるかぁ?」
わざとらしく嫌味なセリフ。
そんな言葉にも、
「そっかぁ!そうだねっ!
…でもぉ、お兄ちゃんでかいから、すぐばれちゃうかも…。
あっ!でもでも」
嬉しそうにいろんな案を考え出し、彼女はおしゃべりを続けるのだ。
そんな無邪気に笑う彼女に俺は…
返す言葉が・・・見つからない。
あんぐりと口を開けたまま、暫く彼女の馬鹿な妄想に付き合った。
「はぁ。これだからお前は…」
俺の呆れたという一言に、彼女のおしゃべりは止まった。
やっぱりちょっと不服そうに、こちらを見つめている。
ふと、さっきの彼女のおしゃべりと、自分がセーラー服を着て試験を受ける姿を想像してしまった俺は
ぶはっ!と吹き出してしまった。
「うはははっ。ありえねぇ、キ…キモッ!ふはははっ」
「ちょっとぉ!人の顔みて『キモッ』ってなによぉ~。ひどいよぉ、お兄ちゃんっ」
相変わらず会話が噛み合わない。
彼女の頭を、俺は笑いながらポンッと撫でるように叩き
「…勉強しなさい。」
と少し真面目に言ってみた。
が、やっぱり抑えることが出来ない。
また吹き出してしまう俺に向かって、彼女はプク~ッと頬を膨らませて見せた。
「だって、数学わけ分かんないんだもんっ。
連立方程式?とか、普通に生きてくのに必要ないよ~。そうでしょ~?」
不意に同意を求められる。
――――むむむ。
確かに、もっともだ。
自慢じゃないが、俺は中学の時も、高校2年の今でもトップクラスを保持する成績だ。
そんな俺でも学校の勉強以外じゃそんなの使ったこともない。
せいぜいたし算・ひき算、んでもってかけ算とわり算くらいが出来ればなんとかなるもんだよな~。
買い物だって、足し引きできれば大丈夫だし…
思考回路が別の方へ向いたおかげで、さっきの笑いはどこかに消えてしまった。
パタパタと床から少し浮かせた両足を交互に揺らしてみせる彼女。
俺はそんな姿を横目にぼんやり眺める。
いたずらっぽい笑顔と、小さな体、ツインテールの長い髪が
15の年齢よりももっと幼く見える。
彼女は"高階千尋"
小さいからか《ちい》とか《チビ》とか呼ばれている。
二つ年下の・・
俺の――――――――― 妹だ。
いや…本当は、ちいを妹だなんて思ってなんて
……ないんだ。
俺はどこかおかしいのだろうか。
同じ血を分け合った実の妹にこんな感情を向けている―――なんて。
みんなが知ったら…、両親が知ったら…、ちいに知られたら、どう思うだろう。
―――拒絶されるに違いない。
サラサラと甘い香りのする艶やかな髪
長い睫毛に、ピンク色の唇
細い手足にちいさな爪…
"少女"が抜けきらない可愛い声も、その口調も…
何を考えているんだか分からないけど、そこがまた可愛いと思ってしまう。
確かに馬鹿だけど…。
年をかさねる毎に、どにんどん女の子になっていく身体も・・・
「…ちゃん?…ねぇ~っ、お兄ちゃ~ん?
もぉ~!瑞樹お兄ちゃんっ!」
「え・・・えっ!?」
我に返ると、上目遣いのちいが少し怒ったような表情をしている。
さらに、まるで俺の体の上に乗っかるような格好で顔を覗き込んでいた。
その体制のせいで、キャミソールの胸元から素肌がのぞく。
柔らかそうだな・・・。
思わず手を伸ばしかけた俺ははっとした。
「ぅわっ!!」
ドンッ!と、その伸ばしかけた手で、彼女の肩を押した。
「きゃっ」
後ろに倒れ込んだ彼女をそのままに、俺は左手で自分の鼻と口を覆った。
や、やばいっ。
俺は今何しようとしたんだ!!
バカは俺じゃないかっ!
俺、絶対変な顔してた!
絶対エロい顔してたっ!
は…鼻の下伸びてたかもっ。
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
ベッドの上に…ふたりきり…。
しばらくの沈黙の中、時計の音と俺の鼓動が部屋に響いていた。
第2話を読んで頂き、ありがとうございます。 主人公《瑞樹》の登場です。さらにシリアスな話しから一変、お馬鹿キャラも登場! プロローグを読んで頂けた方はお気づきかも知れませんが、1話と2話では一人称も変っています^^ 男性の方は話す相手によって「僕」や「オレ」など使いわけをすると思いますが… この場合は?? その謎はまだ先のお話し^^; ところで、瑞樹の容姿や性格なのですが、私の力不足でいろんな事がまだまだ描写できていません(;-;)く、悔しいっ!簡単に言えば、「兄ってこうであって欲しい」という私の偏った見方による「勝手な妄想」と「企み」により生まれた人物で… 実際こんな人が近くに存在すれば、間違いなくついて行ってしまうだろうな(笑) ――――――― そして私は今日も、悶々と瑞樹の妄想に夢を膨らませるのです…^^;